塩の錬金術師 ~死んだはずの幼馴染の手によって異世界に錬成された俺は、最弱錬金術『三原質』で世界を統べて究極の力を手に入れます~   作:クワガタ信者

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第22話 アーヴェイル

「じゃあ次はソーイチクンの本領発揮かな? 死化粧だよ」 

 

 だよね。このタイミングだよね、やるなら

 

 第七師団では、ヒスイ村のことをきっかけに火葬前に死化粧の文化を取り入れることになった。

 

 俺監修のもと、弔葬部隊で死化粧の訓練を取り行っている。 

 

 俺は前と同じように化粧道具を錬成する。

 

「はいこれ」

「くれるの?」

「興味あったんだろ? 使ってみなよ」

 

 バンビはギャルっぽい見た目の通り、化粧がうまく、呑み込みが早い。

 俺と一緒に死化粧を遺体に施せるようになるまで成長していた。

 

「ありがとー。でも今はやめとく。ホトケさんで練習はできないからね」

 

 確かに。ぶっつけ本番はちょっと失礼か。いつも使ってる道具の方が慣れてるもんな。

 

 慣れた手つきで俺は次々と死化粧を施していく。

 第三師団の弔葬部隊の面々も物珍しいのか、興味深く俺達を見ていた。

 

「いやー、やっぱソーイチクンの化粧きれーだわ。私も死んだらこんな風にされたい」

「縁起でもないこと言うなよなー」

「はい! これで全員ね。それじゃあ火葬に入るわよー」

 

 マリアさんの号令だ。今回は第三師団の弔葬部隊との合同作業だったからとてもサクサク進んだ。

 

「こっからは私が説明するね? まず、簡単な棺を錬成してみんなを中に入れていくの。そしたらこのハミリアの花とミリキリの草を敷き詰めていくの」

 

 献花(けんか)みたいなものか。それだと結構な数の草花が必要なんじゃないか?

 パッと見それほどの量を持ってきているようには見えないけど……。

 

 マリアさんは、第三師団の弔葬部隊隊長と共に、何かを地面に埋めていく。

 

「はーい、それじゃあ増やしまーす」

 

 マリアさん達は地面に手を付ける。

 

「「地に眠る儚き全ての生命よ、我らに安らぎの恵みをあたえよ、静かなる眠りを授けよ」」

 

 詠唱の後、大地がほんの少し小さく揺れる。

 すると、地面から大量の芽が出てきた。

 

 芽はみるみる成長していき、最終的には辺り一面に草花が広がった。

 

 「はい! お花摘みの時間です!」

 

 全員で草花を収穫する。植えて育てて摘み取るを数回繰り返した後、棺に均等に入れていった。

 

 棺を一箇所に集め、儀式が始まる。弔葬部隊全員で祈りのポーズを取る。

 この世界の祈りの所作はミラさんが言ってたように指を絡めて手を組むようなポーズだが、弔葬部隊のような聖職者は特殊な形を取る。

 

 両手で中指、薬指、小指の先端をお互いにくっつけ、人差し指と親指で輪っかを作るのだ。

 

「「聖ナル魂ノ篝火(かがりび)ヨ 灰燼(かいじん)トナリテ天ヘト昇レ 魂ヲ満タス清ラカナル泉ヨ 母ナル大地ヘト葬ラレン」」

 

 おおっ、なんだか宗教感の強い詠唱らしきものが出てきたぞ。

 

 マリアさんは一輪の花を取り出し、着火させる。捧げるように棺に落とすと、一気に燃え広がり、たちまち死者の揺かごの群れが炎に包まれた。

 

「「アーヴェイル」」

 

「アーヴェイル」

「アーヴェイル」

「アーヴェイル」

 

 部隊長二人がそう告げると、他の隊員達も口々に呟いた。

 

 隣をチラリと見ると、普段はおちゃらけているバンビも神妙な顔で祈っている。

 

 どうやら『アーヴェイル』という言葉は、こっちの世界でいうアーメンにあたる言葉らしい。

 

 俺もみんなに習ってアーヴェイルと呟き、祈りを捧げた。

 

 村のみんなもこうやって送られたんだろうな。

 今度は俺が誰かに祈りを捧げ、送り届ける番だ。

 

 燦々と燃え上がる炎が消えるまで、俺たちは祈り続けた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 直葬の儀式が終わり、俺たちはハサに戻った。

 

 第三師団も一度こちらに立ち寄るらしい。

 中にはこっくりこっくりと船を漕ぐ術師達も見受けられた。俺たちがかけつけるまで相当の激戦を繰り広げていたのだろう。

 

 士降の戦士の話をする者もいた。

 恐ろしい不気味な存在だったと言う声が多かった。中には怪人達よりも(おぞま)ましいと言ってる人もいた。

 

 俺はみんなの味方のつもりなんだけどなぁ。

 

 馬車から降りて大きく伸びをする。

 

 ふと、服の袖を引っ張られる。

 シオンだ。

 

「どうした? シオン」

 

 シオンはある方向を指差す。

 

 そこにはチルちゃんの姿があった。

 目に涙を浮かべて走っていた。

 

 その先に一人の若い男の錬金術師がいた。第三師団の人だ。

 

 その人は向かってくるチルちゃんを全身で受け止め、抱き抱えた。

 

 二人は泣きながら再会を喜んでいた。

 

「お兄ちゃん! 私ね! また錬金術が使えるようになったんだよ!」

 

 チルちゃんは両手で鉱石を錬成した。

 嬉しそうな顔だ。あの時の涙でぐしゃぐしゃになった顔じゃない。幸せいっぱいの希望溢れる顔だ

 

「本当か!? よかった、よかったなあ! 兄ちゃんもすごい人に助けてもらったんだ。体が真っ白でさあ! みんなは怖がってるけど、俺には悪い人には見えなかった。こうしてチルにまた会えたんだから!」

 

 …そうか! どこかで見覚えがあると思っていたら、あの人さっき俺が助けた人だったのか。

 

「あの人は俺の恩人だ。一生忘れない。俺だけでも彼の味方でありたいと思うよ」

 

 ……みんながみんな俺のことを怖がってるわけじゃない。

 

 それでいいんだ。

 それだけで十分だ。

 

 誰かに褒められたいからやってるわけじゃない。俺が心の底からそうしたいと願った。

 

 だから、これでいいんだ。

 

 ふと、シオンと目が合う。シオンは無表情で俺と視線を交わしたあと、ぷいっと顔を背けてどこかに行ってしまう。

 

 それでも俺はシオンが何を言いたいのか、なんとなくわかってしまった。

 

 シオンはきっとこう言いたいのだ

 

 「間違ってないよ」と。

 




第22話、いかがだったでしょうか。



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