塩の錬金術師 ~死んだはずの幼馴染の手によって異世界に錬成された俺は、最弱錬金術『三原質』で世界を統べて究極の力を手に入れます~   作:クワガタ信者

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第23話 トニック・クォーツァー

 俺たちはハサの町を後にし、再び中央の都市へ向かう。

 

 途中、野営の為にテントを張る。

 

 俺はトイレに行きたくなり、近場の森の中で用を足していた。

 

「うー寒い寒い」

 

 この地域、昼間は暖かいが夜はそれなりに冷える。

 この体の耐熱、耐寒はどれほどのものかまだわからないが、少なくとも人間の姿だと、肌寒さなどは人並みに感じるようだ。皮膚があるからかな?

 

 水を作り出し手を洗う。やっぱ便利だよな錬金術。どこでも水を出せちゃうなんて。いつでも砂漠に行けちゃうな。

 

「さて、戻りますかと」

 

 体をさすりながら来た道を辿ろうとすると、後ろからガサカサと物音がする。

 

 この辺りは月の光が届かず、音の主が目視で捉えられない。

 

 まさか、化け物どもか?

 

「誰だ!」

 

 警戒し、構えをとる。

 今なら周りに誰もいない。

 即座に『()()』して奴らを仕留めることができる。

 

 物音が近づいてくる。その姿を眼前に捉える直前――

 

「み、水をくれ……」

 

 ドサッと倒れる音がする。

 草葉にうつ伏せに転がっているのは、大きな荷物を背負っている黒と金の長身長髪の男だった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「いやあ、助かったよ。まさか行き倒れるなんて思いもしなかった」

 

 三十代頃くらいの男性は頭をかきながらタハハと笑う。

 波巻きパーマの長い前髪で目元が隠れていて表情はよく見えないが、気さくで陽気な人だと感じた。

 ワンポイントおしゃれとしてかけているモノクル眼鏡が、人の好さを出している。

 

 あの後、見捨てるわけにもいかなかったので、水を錬成して飲ませた。命は繋げたが、今度は空腹で死にそうだと言ったのでとりあえず野営地に連れてきて適当に食べさせた。

 

「僕はトニック・クォーツァー。薬師さ。気軽にトニックとでも呼んでくれよ」

「じゃあ、トニックさん。どうしてあんなところで行き倒れ出たんですか?」

「ゆきずりの病人を助けながら旅をしていてね。土の国はずいぶん久しぶりだったもんで道に迷ってしまったのさ。いやあ、やっぱ広いね土の国。水の国とはわけが違う」

 

 土の国は他の三国と比べて土地が広い。栄えているところから、この辺のように田舎っぽいところまで、まぁ格差があるらしい。

 

「助かった。君は命の恩人だ。何かお礼をさせて欲しい」

「お礼なんてそんな。困った時はお互い様ですよ」

 

 気にしないでくださいと俺が言うと、なんだか向こうの方が騒がしいことに気づいた。

 

 近くのテントに医療部隊の数人が、一人を囲むように陣取っている。

 なんだか深刻そうな雰囲気だ。

 

「どうかしたんですか?」

 

 近くにいた戦闘部隊の女性に尋ねる。

 

「あの子、私の同期の子なんだけど、巡回から帰ってきた途端、急に熱を出し始めちゃって……」

 

 医療部隊が囲む中にいる女性が、顔を赤くして苦しそうにうなされている。

 

「体温、上がり続けています。このままじゃ危険です」

「どの解熱剤も効かない……その割には錬脈回路は安定している……こんな症状、見たことがない」

 

 状況はかなり(かんば)しくないらしい。なにやら未知の病に仲間が苦しめられている。

 

 俺は、医学薬学には全くと言っていいほど精通していない。

 いくら錬金術でいろんなものが作れても、何を作ればいいのかわからないんじゃ何も力になれない。

 

 俺に何かできることはないのか……

 

「失礼、恐らくそれは薬の類では治せない。彼女の症状は錬脈回路に繋がっている神経から直接来ている」

 

 振り返ると、トニックさんが神妙な顔で苦しむ女性を観察していた。

 

「あなたは……?」

「旅の薬師さ。すまないが、僕に任せてくれるかな」

 

 医療部隊の人たちは困惑している。部外者であるトニックさんに任せてよいものか迷っているのだ。

 

「いや、そうだね。急に僕のような者がでしゃばっても困るよね。すまない。でも、まずは患者の痛みを和らげてあげたい。この石を回路に沿ってなぞるように当ててあげて欲しい」

 

 トニックさんは荷物から黄色い石を取り出して医療部隊の副隊長に渡した。

 医長の許可が降り、副隊長はトニックさんの言う通りに石を当てる。

 

「バイタル、少しだけ安定しました」

 

 心なしか、患者の顔から苦しみが抜けているように見えた。

 

「鉱石医学……ですね?」

 

 医長がトニックさんにそう尋ねる。

 

「おや、流石は錬金連合軍お抱え医療部隊の長だ。こんな古い技術まで知っているとは」

「聞いたことがあります……錬金術黎明の頃、土の元素を最初に発見した男、アルファウルブズの姓を持った者が生み出した古の医療技術と」

 

 ミラさんが言ってたっけな。四元素錬金術を生み出した最初の四人を四始祖と呼ぶって。

 

「しかし、修得難易度の高い鉱石医学は医療の発展とともに淘汰されていった。投薬や注射の方がはるかに簡単に効果が現れるから」

「ご明察。手間も時間もかかるんだなこれが」

「あなた、いったい何者ですか?」

「言ったでしょう? ただの旅人だって」

 

 医長とトニックさんの視線がぶつかる。

 おいおいおい、なんかバチバチしてるよ。

 

 すると、トニックさんは大きくため息をつき、語り出した。

 

「どうやら僕はアルファウルブズの傍系(ぼうけい)、ってことらしい」

 

 指先から黄色の鉱石を細い針のように作り出してへらっと笑った。

 

 傍系(ぼうけい)、兄弟や従妹といった、同じ祖先から分かれ出た血族のことだ。

 

「直系の子孫とか言えばもっと格好がついたんだろうけど、あくまで血が繋がっているだけさ。クウォーツァー家は土の錬金術を医療に特化させた家系だ。もういいかい? そろそろ治療を始めても」

 

 医長は少し考える素振りを見せると、諦めたようにため息をついた。

 

「みなさん、彼の施術のサポートを」

「ありがたい。医療のエキスパート達に手伝っていただけるとは心強いよ。まず、患者の背中を出してくれ。うつ伏せに寝かせて。回路師がいたら回路を繋げて浮き上がらせてくれ」

 

 隊員が患者の服を即座に脱がしていく。

 おっと、見ちゃいけない。慌てて背中を向ける。

 

「よし、うつ伏せになったね。回路を繋げて」

 

 ……もう見ても大丈夫かな?

 近くにいた女性術師に目を向けると、向こうも頷いてくれた。察しが良くて助かるよほんと。

 

 医長の手と患者の手から回路が繋がり、身体中の回路が浮かび上がる。

 

「……よし。施術を始めるよ」

 

 トニックさんは浮き出た回路に沿って、黄色い鉱石で作られた針を刺していく。

 刺した針をクルクルと回していた。

 

 これって針治療に似てるな。東洋医学ってやつ。

 

 患者の顔色がずいぶん良くなってきている。先程までの険しい表情が嘘みたいに和らぎ、すうすうと寝息を立てられるほどに。

 

「熱も下がったかな?」

 

 トニックさんの呟きに応じて隊員が患者の熱を測る。

 

「体温、安定してます」

 

 トニックさんはふう、と一息ついた。

 

「ひとまずこれで大丈夫かな。あとは栄養価の高い食べ物と十分な睡眠を取れば万全に戻るだろう」

 

 トニックさんが処置完了と口に出すと、周りの緊張が解ける。

 同期の女性は心底安堵した表情を見せていた。




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