塩の錬金術師 ~死んだはずの幼馴染の手によって異世界に錬成された俺は、最弱錬金術『三原質』で世界を統べて究極の力を手に入れます~   作:クワガタ信者

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第24話 それぞれの戦場

「容態はどうだ」

 

 ミラさんがこちらに歩いてくる。

 誰かがミラさんに連絡してくれたのだろう。

 医長がミラさんに結果を報告する。

 

「バイタルは安定しております。じきに良くなるかと」

「それはなによりだ。……ところでこちらの方は?」

 

 ミラさんはトニックさんに視線を向ける。

 

「これはこれは、その腕の紋章、錬金連合軍所属師団の長とお見受けします」

「いかにも。私が師団長のミラ・ミカエリスです」

「僕はトニック・クォーツァー。しがない旅の薬師でございます」

「彼が治療を施してくださりました。なんでもアルファウルブズの傍系(ぼうけい)の方だそうで」

 

 医長がミラさんに補足をしてくれる。

 

「アルファウルブズの……そうでしたか! 部下が大変お世話になったようで」

「いえいえ! 元々は私が助けられたのです。彼に!」

 

 そう言ってトニックさんは俺を指差した。

 

「道に迷って行き倒れていたところを彼に救われたのです。いやあ、全く命の恩人ですよ。下手をしたらあそこで命を落としていたかもしれない」

 

 頭をかきながらトニックさんは陽気に笑っていた。でもそれは笑い事じゃないよ? トニックさん。

 

「そうか。お手柄だったなソーイチ君。しかし、素性のわからない者を招き入れるのは感心しないな。私に一報入れるべきだった」

 

 た、確かにその通りだ。報連相ができてなかった。反省。

 

「すみません、ミラさん」

「トニックさんも、こんなところで一人で歩くのは危ない。いつどこで敵性生命体が襲ってくるのかわからないのですから」

 

 た、確かにその通りだ。

 漫画やアニメだとこういうファンタジーの世界に旅人はつきものだと思っていた。

 

 よくよく考えたら一人で敵性生命体の群れに遭遇したら絶対に助からない。危なすぎる。

 

「そうだよトニックさん! 旅なんてしてたら危ないって!」

「ハハハハハ! 心配には及ばないよ。僕は腐ってもアルファウルブズの家系の者だ。戦闘の心得は多少あるつもりだよ」

 

 多少って……この人、奴らを甘く見過ぎなんじゃないか?

 

「これからどちらに?」

「そうですね、とりあえず久しぶりにグラニデに帰ろうかと思っております。故郷なもので」

「奇遇ですね。我々もグラニデに帰還しようとしていたところです。よろしければ同行しましょう。仲間を救ってくれたお礼と思っていただければ」

「これはこれは、心強いです。ありがたく同行させていただきます」

 

 ミラさんがトントン拍子で話を進ませ、トニックさんを護衛することになった。

 そうさ、絶対に俺たちと一緒にいたほうがいい。

 

「ソーイチ君、彼の世話を頼めるか?」

「はい! 任せてください!」

「よろしく頼むねソーイチ君」

 

 トニックさんは、弔葬部隊が固まっているところの一角、俺のキャンプで寝泊まりすることになった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 男子は俺一人だから、必然的に俺はキャンプを独り占めしていた。

 広くて快適だけど、少し寂しさを感じていたからちょっと嬉しい。

 なんだか修学旅行みたいでワクワクする。

 

 消灯の時間となり、眠る人とあたりを警戒する人とで別れる。今回俺は寝る組だ。

 

 トニックさんの分の寝袋も錬成して二人並んで横になる。

 

「ソーイチ君はここに入って長いのかい?」

「いえ、むしろついこの間入ったばかりなんですよ。まだ仮入隊というか」

「そうだったのか! なんだかみんなと仲良さそうだから、そこそこ年期の入った隊員かと思ったよ」

「よくしてもらっています。みんなとても優しくていい人です。トニックさんはずっと旅を?」

「うん、そうだね。僕の医療技術は陽の光が当たらない古びた技術だけど、効果は確かにある。今の医療では治療が困難な症状だって治せるかもしれないポテンシャルがあるんだ。だからこの大国を巡って病で苦しんでる人たちを一人でも多く助けている。それがきっと僕のやれることであり、やるべきことなんだと思う」

 

 凄く立派な人だ。自分のできること、やるべきことを一生懸命に取り組んでる。

 危なっかしい人かと思ったけど芯がちゃんと一本通ってる強い人だ。

 

 こういう人はもう凄く尊敬しちゃう。

 かっこいいよ、トニックさん。

 

「かっこいいよ、トニックさん」

「はは、照れるなぁ。そういう君はどうだい? ソーイチ君」

 

 暗がりの中、トニックさんが首を倒してこちらを向くのを感じる。

 

「君は何のためにここにいる? 話を聞く限り、君は戦闘ができるわけじゃない。いざ襲われでもしたらひとたまりもない立場だ。それなのにどうしてここにいようと決めたんだい?」

 

 ……違うんだトニックさん。俺は戦える力を持っている。それを隠した上でここにいるんだ。

 

 そう考えてみれば他の弔葬部隊の人たちは、俺と違って戦える力がないのに師団について行ってる。

 なす術もなく殺されてしまうリスクを背負ってここにいるんだ。

 なんだか負い目を感じる。俺とみんなの意識は違う。確かな隔たりを感じた。

 

「ソーイチ君?」

 

 トニックさんが心配そうに声をかけた。

 いけない。考え込んでしまった。

 

「……俺も同じです。やれることを、やるべきことをやりたくてここにいる。戦えないけど、怪我を癒すこともできないけど、それでも亡くなった人たちが少しでも安らかに逝けるように、遺された人たちが少しでも前を向けるように、できることをしたいんです」

 

 それだけです、と頭をかいて笑って見せた。

 

「嘘ばっかだ」

 

 トニックさんはそう呟いた。

 

「え?」

「戦えないなんて嘘だよ」

 

 トニックさんは低い声でそう言った。

 

 背筋がざわつく。バレた? 俺が戦えることが。

 どうしてバレた? あの姿をどこかで見られた?

 

 いや、そもそも戦えるってどの程度だ?

 士降になれることか? それともある程度戦える三元質の錬金術を扱えることか?

 

 この人の真意がわからない! 下手な受け答えはかえって墓穴を掘るかもしれない。

 

 そう逡巡《しゅんじゅん》しているうちにトニックさんは口を開いた。

 

「君たちの戦場は敵の眼前じゃない。(いくさ)の後処理だって立派な戦いだよ? 目の前の死者に向き合う、それこそが君たちの戦いさ。誰にでもできることじゃない。胸を張りなよ。君達は立派さ」

 

 ……そういうニュアンスか。脅かさないでよトニックさん。

 

「お互いできることで戦っていこうじゃないか」

 

 さ、夜も更けてきた、とトニックさんは話を切り上げて眠りにつこうとする。

 

 俺は嬉しかった。自分のことだけじゃなくて、弔葬部隊のみんなが褒められたことを。

 こんな立派な人に褒められたことが誇らしかった。 

 

 いい気分だ。この体になってからはあまり眠たくはならなかったけど、今日は気持ちよく寝れそうだ。

 

 次の日はほんの少しだけ寝坊した。




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