塩の錬金術師 ~死んだはずの幼馴染の手によって異世界に錬成された俺は、最弱錬金術『三原質』で世界を統べて究極の力を手に入れます~   作:クワガタ信者

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第25話 私鉄百股列車

 北上してしばらく、かなり都会的なところまで出てきた。

 ここからは馬車から降りて馬や荷物ごと大きな汽車での移動になる。

 

 この世界の馬は錬金術により武装、強化されており、元いた世界の馬よりも格段に早かったが、汽車となるとやはり馬よりも遥かに速い。

 

 新幹線とまではいかないが、元いた世界の鉄道に近い速度を出していた。

 だいたい時速200kmくらいかな?

 

「ソーイチクン汽車ははじめてっしょ。どう? 初体験! やっぱ快適だよね!!」

「え? ……ああ、そうそう、俺こんなん初めてでさあ! 馬車の時よりすげー快適っていうか」

  

 前に座っているバンビがそう話しかけてきたので、取り繕ったように答える。 

 

 国の端っこの田舎であるヒスイから来たことをみんなに話しているため、汽車が初見という反応をするべきだよな。

 

 元の世界だと毎日満員電車に揺られていたから慣れちゃっていて忘れていたよ。

 

 ちなみにこの汽車の座席は右の列と左の列とで別れていて、一つの区画に四人向かい合って座れるようになっている。

 

 例えば俺の隣にはトニックさんが座り、前にはバンビ、バンビの隣には弔葬部隊の女の子が座っている。

 

「おべんと食べよ! おべんと!」

 

 バンビが元気よく駅弁を広げた。俺も腹減ったから食べよう。

 

 ……おっ、でかい唐揚げが入ってる。

 ラッキー。からあげに関して俺は一家言持っている。

 

 からあげの味にはうるさいと両親からお墨付きをもらっているこの俺をうならせることができるかな? 異世界の唐揚げ、お手並み拝見と行かせてもらう。

 

 ふと、俺達の反対、右の列に座っていたシオンを見やる。

 

 周りの三人は楽しそうに談笑しているが、シオンは静かに座っていた。

 

 ミラさんはうまくやっていると言っていたが、やっぱり言葉を発せられない以上、コミュニケーションに難が出てアウェーな感じになってしまっているのだろう。

 

 どうにかしてシオンから言葉を取り戻すことはできないだろうか……

 

「ソーイチ君、ソーイチ君」

 

 隣からトニックさんが内緒話のように小声で俺に声をかけてきた。

 

「医療部隊のあの黒白の子、もしかして君の思い人かな?」

「ちょっ、違いますよ。シオンと俺は家族で――」

「わかる、わかるぞ。ここは女の子が多い。年頃の君には嬉しいことや大変なことがたくさんあるだろう」

「いや、俺はそういう目でみんなのことを見てるわけじゃ――」

「――女の子を落とすコツ、知りたくないかい?」

「――!」

 

 なん……だと……?

 

「これでも僕は若い頃は結構無茶をやってね。同時に複数の女性を相手したことがあったのさ」

「なん……だと……?」

 

 こ、このオッサン、こう見えてプレイボーイなのか……?

 

 思えば二十八年も生きてきたが、まともに恋愛経験を送っていなかった。

 

 高校、大学の頃は女性を見るたびに例のひよりの顔がチラついてまとも見ることができなかったし、社会人になってからは仕事漬けの毎日だったからそんな余裕はなかった。

 

 もしかして、今の俺なら青春を取り戻すことができるんじゃないのか?

 

 女の子と付き合うことができるんじゃないのか? それどころか百人の彼女とか作れるんじゃないのか!? 異世界だしそういうのもありなんじゃないか!?

 

「トニックさん、お話、お聞きしましょうか」

「そうだ、それでいい。男の子とはそういうものだ」

 

 トニックさんはニヤリと怪しげな顔で笑う。悪い顔だぜトニックさん!

 

「よし、まず絶対バレない浮気術だが――」

「てえええええええええええええええええええい!!」

 

 トニックさんの脳天に強烈な手刀がおみまいされる。

 

 ぐほぁ! と呻きながら撃沈した。

 

「話は聞かせてもらった! トニックさん! ソーイチクンに変なこと吹き込むのはこのあたしが許さないよ!」

 

 バンビが腕を組みながら仁王立ちでトニックさんを見下ろす。

 

「ソーイチクンも! ソーイチクンはソーイチクンだからいいの! こざかしい小細工なんていらないからソーイチクンの魅力で戦いなさい!」

「は、はい……」

 

 プンスコと怒るいつものバンビとは違う気迫に圧されて素直に謝る俺。

 

 よく考えたら俺、嘘とか顔に出るタイプだから二股とか絶対にばれる気しかしない。

 

 やっぱああいうのは頭がいい人しかやっちゃいけないんだと思う。

 バカな俺は悪いこととか考えない方がいいな。

 

 隣から、楽しそうな笑い声が耳に入った。

 

 医療部隊の女の子がシオンに餌付けをしていた。

 ポッキーのような細いスティック状の菓子をシオンに食べさせていた。

 もっもっ、と頬張り続けるシオンを三人はとてもかわいがってくれていた。

 

 ……よかった。そうさ。シオンがいい子だってことは、言葉なんてなくても伝わるはずだ。

 

 隣に座っているトニックさんは一向に起き上がる気配を見せないが、俺の心はとても晴れやかだった。




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