塩の錬金術師 ~死んだはずの幼馴染の手によって異世界に錬成された俺は、最弱錬金術『三原質』で世界を統べて究極の力を手に入れます~   作:クワガタ信者

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第43話 砕ける

「トニックさん……それ――」

「ああ、見覚えがあるんじゃないかな。ほら、あの時君を傷つけようとしていた奴らだよ」

 

 改めて吊り上げられている人を見る。ぐちゃぐちゃにされた四肢に目を奪われて気が付かなかったけど、俺の顔を焼こうとした奴で間違いない。

 ガチガチと奥歯を震わせながら目に涙を溜めて震えている。

 

「た、助け――」

「彼ら、僕を捕まえた後、僕と関わりのあった君まで処刑しようと画策していたんだ。酷いもんだろ? とても仲間のすることとは思えない」

「トニックさん」

「それどころか、ミラ師団長も信用まで地に落とそうと企んでいたんだ。許せないよね。君たちはとても立派な錬金術師だというのに」

「トニックさん!!」

 

 俺がそう叫ぶとトニックさんは「なにかな?」って疑問に思うような目を向ける。

 まるで自分が何も間違ったことをしていないかのような澄んだ目を。

 

「トニックさん、俺のことを思ってくれてるのは嬉しいよ。うん、すっごく嬉しい。……でもそれは明らかにやり過ぎだって。そんなことしたら痛いよ……トニックさんだって罰っせられちゃうって。今トニックさん大変なことになってるんだよ。ジンバックとかいう悪い奴の間者だって思われてるんだ。そんなことをしたら疑いが晴れないじゃないか」

 

 俺は一歩前に踏み出す。ここで後ずさっちゃだめだ。俺はトニックさんに歩み寄るんだ。

 

「だからさ、降ろしてあげなよ……今ならまだ間に合うかもしれない。ほら、うちの隊のシオン。あの子ならきっとそいつを治せるからさ。とにかく一緒に――」

「彼らも治してくれるかい?」

 

 トニックさんは身体を少しずらして、奥にあるなにかを俺に見せようとしている。

 

 そこには――

 

 

 

 

 

 人が死んでいた。

 

 

 

 

 一人は身体をバラバラに千切られていた。

 

「トニックさん」

 

 一人は涙で顔をぐしゃぐしゃに濡らしながら石化し、首だけが砕け落ちていた

 

「トニックさん!」

 

 一人は白骨化していた。

 

「トニックさん!!」

 

 一人は工業用のプレスで潰されたかのように臓腑を撒き散らせていた。

 

「なんで――」

「はははははははははははははははははははははははははははははは!!」

 

 不協和音のような笑い声が森を支配する。視界がぐにゃりと揺れる。

 いつの間にか俺の腕から降りていたミラさんが俺の肩を揺さぶる。

 

「ソーイチ君、構えるんだ。奴はもう、君の知るトニック・クォーツァーじゃない! ……いや、君の知るトニックさんは最初からいなかった……!」

「ご明察だなミラ師団長」

 

 トニックさんは片手でモノクルをはずし、握り潰す。

 

「とっくに気付いているだろう?」

 

 目元まで伸びた前髪を一気にかきあげて、オールバックになる。

 あらわになった双眸は獣のように鋭く、見るものを射殺すような眼光を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺がアルファウルブズだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トニックさんのつま先から頭まで岩石に覆われていく。

 そのまま岩石は砕け散り、あの時戦った岩の戦士が現れた。

 

「ぁぁ……」

「やはり……貴様が……!」

「そういうことだ。蓋を開けてみれば別に意外性もなかっただろ?」

 

 岩の男は軽口を叩きながらおもしろおかしく笑った。

 

「覚えてるか? 出会った時、女の団員が熱出してたろ。あれ仕組んだの俺だ。彼女が独りで巡回してる時、人体に溶けると発熱作用が出る金属の粒子を撃ち込んだ。信用を得るにはやっぱ命を助けるのが一番だよなあ?」

「外道が……」

 

 ミラさんは怒りをあらわにして睨みつけていた。

 

「さて、サプライズも済んだことだし、こいつはもう用済みかな?」

 

 磔台に立たされたように吊り下げられている第十一師団の輩団員が怯えるように身体を震わす。

 

「いやっだっ……だっ……だずげでっ――」

「おいおい男が泣くもんじゃねえよ。お前も覚悟してたんだろ? 戦いの中で死ぬかもしれないって。もしかして自分だけは殺されないとでも思ってたのか?」

 

 岩の男の一歩先の地面が水のように融ける。

 輩は恐怖で失禁する。残された一本の足をつたって地面に水たまりができる。

 

「これが戦いってもんだ。授業料はいらねえよ」

 

 そう言うと岩の男は液状化した地面に輩を放り込んだ。

 

「ッダメだッッッ!!」

 

 風の力を使って超速で駆け出す。

 輩団員はすがるように俺に手を伸ばす。俺も助ける為に手を伸ばす。

 

 後少し。あと一歩。

 

 

 

 

 

 

 すんでのところで手は届かず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 団員は絶望の顔で地の底に沈んで行った。

 液体になった地面はもう元に戻っている。

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

 まだだ。まだ間に合う。士降に錬金して地面を砕き、掘り進めばその先で必ず団員まで辿り着くはずだ。

 右手に亀裂が入る。俺は右手を振りかぶり、地面に打ち下ろ――

「無駄だ」

 

 顎を蹴り飛ばされる。身体がサッカーボールよりも軽く宙に浮き、頭から地面に激突した。

 

「ソーイチ君!」

「もう地面は固められちまったろ? とっくのとうに圧死してるよ」

 

 ミラさんが俺に駆け寄り、肩を貸してくれる。

 大したダメージはない。すぐに起き上がれる。でも――

 

「全部っ……嘘だったのか」

 

 ジンは「ん?」と首をかしげて俺の言葉を待っている。

 

「『胸を張りな』って、『君たちは立派』だって、『君たちだって戦ってる』って、全部! 全部! 全部! 嘘だったのかよお!!」

 

 涙があふれて前が見えない。三半規管がいかれたのか耳がキーンとなる。

  

 信じてた。信じていたんだ。

 ミラさんから指名手配の話を聞いた時、状況証拠があまりにもそろい過ぎて俺はもしかしたらそうなんじゃないかって思ってしまった。

 それでも本当はいい人のはずだって。何か事情があって悪いことに加担してるんじゃないかって。

 

 でも、あんたがジンバックなら、もう悪人じゃないか……!

 

「嘘、ねえ」

 

 ジンはこめかみに指をトントンと叩きながら考えるような仕草を見せた。

 

「忘れちまった」

 

 パキィンと俺の中で何かが砕けるような音がした。

 瞳が血走る。毛細血管が眼球を駆け巡ると同時に顔から全身にかけて亀裂が走った。

 

 もう、全部がどうでもいい。

 

 今はただ、

 

 

 

 

「錬金……」

 

 

 

 今はただ、




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