塩の錬金術師 ~死んだはずの幼馴染の手によって異世界に錬成された俺は、最弱錬金術『三原質』で世界を統べて究極の力を手に入れます~   作:クワガタ信者

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第47話 五人の始祖

 暗闇の中に一人佇む者がいる。

 

 その男は上半身裸でイスに座っていた。

 彫刻のような肉体美に黒と金の長髪、前髪は後ろに流してオールバックにしている。

 

 男の名前はジンバック・アルファウルブズ。

 

 ジンは葉巻をふかしながら、錬金器具で何者かと話していた。

 その器具は何者かの影を映し、ジンもまた自分の姿を相手に見せていた。

 影の主は三人。

 

『で? どうだったのよ。その士降って奴は』

 

 その声は幼い少女の声色をしていた。

 

「どうもこうもねえよ。お前らには関係ない」

 

 ジンはぶっきらぼうにそう答える。

 

「あいつは俺の獲物だ。お前らには渡さねえ」

『はあ? 何よあんた独り占めするわけ? ざっけんじゃないわよ! アタシを差し置いて一人で楽しむなんて何様のつもり!? エゴイスティック! エゴイスティックだわ!!』

『まあまあ落ち着いてベル』

 

 それは妙齢な色気のある男の声だった。

 

『ジンバック、君が何をしようが勝手さ。でも士降については別だ。彼から言われているだろう? 士降の錬金術師の動向はできる限り共有しろと』

「彼、ねえ……」

 

 ジンバックはつまらなさそうに呟いた。色気のある声の主が言う『彼』をジンは毛嫌いしていた。

 

 その男は理由も明かさずに一方的に自分達を蘇らせた張本人。他人から指図を受けることを何よりも嫌うジンにとっては気に入らないの一言に尽きる。

 

『そうよそうよ! オジサマの言うことに背くつもりなら私がアンタを殺してやるんだから!』

「ほう、随分とあいつに懐いてるじゃないか。最初の頃はあんなに噛みついていた癖に。案外ちょろいもんだねお姫サマ。緩いのはオツムだけじゃなくてあっちの方もか?」

『なんですって!? 犬っコロの癖にアタシを侮辱するつもり!? ぶっ殺されたいのかしら!!』

「誰が犬っコロだコラ」

 

 ジンと幼い少女の声の主はどうやら犬猿の仲らしい。

 

『あら、違ったかしら。それとも自分の名前の意味知らないの? 知能も犬並なのかしらね?』

「……アルファウルブズのこと言ってんなら間違いだぜ姫サンよ。ウルフは狼って意味だ。世間知らずのお姫サマは見たこともねえか」

『おんなじようなものじゃない。どっちも畜生でしょ? あなたにピッタリな』

「そうだな。確かにピッタリだ。でも知ってるか? あの野郎、終わりの錬金術師のいる世界には『犬猿の仲』っつー言葉がある」

『はあ? なによそ――』

「犬と猿のように仲が悪いことだってよ。ピッタリだろ? 俺達には」

『……なんですって!?』

 

 少女は激昂する。

 

『アタシを猿呼ばわりするつもり!? 殺す! 今すぐ水の国に来い! アタシ直々にその首刎ねて――』

『落ち着いてベル。ジンバックも話を逸らさない。君には報告の義務がある。まずは責務を果たしたまえ』

 

 色気の男はどうやら少女と共にいるらしい。男は少女を宥めた。

 

「いいけどよ。風の女はどうした?」

『彼女が来ると思うかい?』

「……それもそうか。逆にあんたはいるんだな」

 

 ジンはもう一人の影に声をかける。影の主は静かに口を開いた。

 

『……貴様が士降に接触したと聞いた』

「ああ、あんたもそれ目当てか。人気者だねあいつも」

 

 ククッとジンは口元を引き攣らせて笑う。

 

「いいぜ。ソーイチ・オトギリ。錬金連合軍第七師団、弔葬部隊所属。情に厚くて絆されやすい。好きな食べ物は唐揚げで好みの女のタイプは――」

『んなことどうでもいいわよ! アタシ達が知りたいのは士降の力!! そいつがどんな奴とかなんて誰も聞いてないのよ!!』

「はいはい。士降の力は絶大だな。シンプルに膂力が桁違いだ。俺と同等かそれ以上の力を持っている。ただ、士降の力を使っている時は、硫黄や水銀の力は使えないらしい。なんなら、そもそも四元素自体使えないってな。だから単体で物理攻撃以外の攻撃はできないと考えていい」

『はん! ならアタシ達の敵じゃないわね』

『まあまあベル。ジン、それは作為的な発現だね。意図的にそんな言い回しにしてるのかい?』

 

 色気のある男は問う。

 

「ご明察だ。錬術兵器の類を使えば四元素を用いた攻撃は可能だ」

『はあ? 人間どもが作った錬術兵器なんてたかが知れてるでしょう? やっぱりアタシ達の敵じゃないわ!』

「どうやらあちらさんにもそれなりの技術を持った奴がいるらしい。痺れたぜ? まさかロッドが三節になるなんてな。どの時代にも天才って奴は現れるモンだな」

『はあ?』

 

 疑問を示す少女に構わず、ジンは続ける。

 

「ま、甘く見てると足下救われるかもな」

『ふむ、弱点はあるのかい?』

 

 色気のある男は顎に手を当てるような仕草をして問う。

 

「強いて言うなら精神面だな。戦士としてはまだまだ未熟だ。言ったろ? 絆されやすいって。俺への攻撃を躊躇うときがある」

『致命的だね。つけ入るならそこだ』

「……まあ、そんなところだな。そこがよくなりゃあいつはもっと強くなるだろうよ」

『……随分と入れ込んでるね。余程彼のことが気に入ったのかい?』

「はっ、まさか」

 

 ジンは不敵に笑う。

 

「暇つぶしには丁度いいだけだ。もういいか? 用が済んだなら切るぜ」

 

 そう言ってジンは端末を閉じた。

 

(どうせこの会話もあいつには筒抜けてんだろ)

 

 通信にすら現れない終わりの錬金術師にイラつきながら端末を投げた。

 

「ぐっ……ああっ……!」

 

 頭の中で声が鳴り響く。

 人を殺せ。一人でも多くの人間を殺せと。

 

「があっ!!」

 

 ジンは自らのこめかみを殴りつけて忌々しい声を黙らせた。

 終わりの錬金術師からの手向けられた呪詛のような声。

 

 何人殺しても定期的に浮かび上がる気に入らない命令。

 その間隔が徐々に短くなっていることを明確に感じられた。

 

「やらせるかよ……あいつらにっ……!」

 

 ジンは頭を押さえながら不敵に笑う。

 

「あいつと戦るのは……俺だ……」




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