塩の錬金術師 ~死んだはずの幼馴染の手によって異世界に錬成された俺は、最弱錬金術『三原質』で世界を統べて究極の力を手に入れます~   作:クワガタ信者

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第49話 追放

「……え?」

 

 なんだって? 今、ミラさんはなんて言った?

 

「ちょ、ちょっとシダンチョー、何? どゆこと? なんでソーイチ君を師団から追放なんて――」

「彼はトニック・クォーツァー、ジンバック・アルファウルブズを我が師団に引き込んだ。その結果、この国に多大なる損失を与え大きな脅威をもたらした。その責任を取ってもらわねばならない」

 

 確かにジンを、トニックさんを最初に師団に引き入れたのは俺だ。

 でも、だからってそんな急に……

 

「ちょっと待ってって! それを言うならトニックさんを護衛しようって言ったのシダンチョーじゃん! トニックさんを受け入れたのはソーイチクンだけじゃないって! 私だってトニックさんと仲良くしてたし。ソーイチクンだけに責任負わせるっておかしーし!」

「これはもう決定事項だ。異論は認めない。……お願いします」

 

 ミラさんがそう言うと、後ろから看守のような服装をした人達が現れ、俺を拘束する。

 

「ソーイチ・オトギリ、貴様の処遇はこれから決まる。それまで自室で待機、謹慎してもらう。……くれぐれも逃げようなどと考えないことだ」

 

 そう言ってミラさんは屋上から姿を消した。

 遅れてバンビが「ちょっと! ダンチョー!」と叫んでミラさんを追いかけて行った。

 

「来い」

 

 看守の人達に連れられて俺も屋上を後にした。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「ダンチョー! ねえ! ミラさん!!」

 

 ツカツカと早歩きで進むミラをバンビは小走りで追いついた。

 

「おかしいよ。おかしいって! なんでそんなことになっちゃったの? まるでトカゲの尻尾切りじゃん! ミラさん言ってたよね!? 私はどんなことがあっても仲間を見捨てないって! ソーイチクンは第七師団の仲間じゃないの!?」

 

 バンビの問いにミラは答えない。まっすぐ前を向いて歩き続ける。

 

「ねえミラさ――」

「言動に気をつけるんだバンビ副隊長! 言っただろう、これは決定事項だと! 覆ることは断じてない!!」

 

 ミラは振り返ってバンビをぴしゃりと叱りつける。

 目を見開いて驚いた後、バンビはワナワナと震えながら拳を握ってミラを睨みつけた。

 

「……私、ミラさんはもっと優しい人だと思ってた」

 

 バンビは涙を浮かべてミラを見つめる。

 奇しくもその目は、想一がジンを見据えた目によく似ていた。

 信じていた者に裏切られた者の目だ。

 

「……でも、違ったみたい」

 

 そう言ってバンビはミラを追い越し走り去っていった。

 

「…………」

 

 しばしの沈黙の後、ミラは再び歩みを進めた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「えー、そんなわけで、今日から貴殿の見張り役を務めさせて頂きまする、ケイト・カンタレアであります。よろしくであります」

 

 ケイトと名乗るピンク色のふわっとしたボブカットの若い女看守さんはそう言って、ビシッと敬礼した。

 

「わたくしめは看守見習いの身なれど、アルケミストアカデミーを次席で卒業した、将来有望なエリート見習いなのであります。くれぐれもわたくしめの目を欺いて脱出できるなどとお考えならないように」

「はあ……主席じゃないんですね……」

「う、うるさいであります! 次席の何が悪いでありますか! そもそもわたくしめと主席のあやつにそれほどの差はないはずであります! ……ないよね?」

 

 自信なさげに小首をかしげるウサギっぽい看守さん。いや、俺に言われてもさ……

 

「ゲフンゲフン、とにもかくにも! 貴殿の処遇が決まるまでここを出てはいけないでありますよ! 食料や日用必需品は我々の仲間が定期的に運んでくるでありますからご心配なく」

 

 フンス! と鼻から大きく息を吐いたケイトさんは出入口の前に置かれているイスに座った。

 

「…………」

「…………」

「あの……」

「なんでありますか」

「その、おトイレに……」

「同行するであります」

 

 そう言ってケイトさんは俺と共にトイレの中に入った。

 

「さ、どうぞごゆっくり」

「いやいやいや! できるわけないって! もう目の前にいるじゃん! こんな状態じゃ出るもんも出ないって!」

「自分の立場をわかっているでありますか! 貴殿は敵性生命体の親玉らしき存在を不用心にもこの都市に招いた罪人でありますよ? 外患誘致もいいところであります! 本来なら豚箱にぶちこまれてもおかしくない立場であります。そんな咎人を個室に一人で放置なんてもっての外! さあ、ご遠慮なく、見ていてあげるから」

「待って待って! ほら、トイレに窓なんてないでしょ!? 逃げようにも逃げられないって! それにほら、俺って四元素を使った錬金術とか使えませんから。三原質しか使えない錬金術師が個室の中で一人放置したって何にもできないって!」

「いいから脱ぐっ! わたくしめはこう見えても介護士の資格を持っているであります!祖父上殿の排泄を何度介助したことか! 上手におしっこさせられたいでありますか!」

「だー! もう勘弁してくれよ!」

 

 この世界にも介護士ってあるんだなぁ。そりゃそっか。人は老いるもんね。

 ケイトさんとの問答は一時間にも渡った。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 深夜零時。

 

 あの後、結局俺は一人で出すもん出すことができた。

 結局、俺の腕に縄を巻いてトイレの扉の下の隙間からそれを通し、外で待ってるケイトさんに繋げることで話はまとまった。

 

 んで、そのケイトさんはというと。

 

「スピー……スピー……スピー……」

 

 イスに座りながらはなちょうちん出して眠りこけている。

 

 ……この人大丈夫か?

 

 そう思っていると、コンコンと扉をたたく音が響く。

 

「zzzzzz」

 

 ケイトさんは一向に起きる気配がない。おいおい本当に大丈夫か? この人。

 

 無視されたノックの主はしびれを切らしたのか、ひと際扉を強く叩いた。ゴンゴンゴンと大きな音が響く。

 

「……はっ!」

 

 ようやく起きたケイトさんは慌てて扉を開けた。

 

「……あなた寝てたでしょ」

「なっ、そんなバカな! 何を根拠にそんなことを!!」

「よだれ垂らしながらよく言うわよ。ほら、もう交代の時間。戻って仮眠でも取ることね」

「なっ! ばっ、バカにするなであります! 貴様の指図などうけなーい!」

「わかったからとっとと戻る」

 

 そんな会話を繰り広げながら訪問者はケイトさんを追い出し、部屋の中に入ってきた。

 

「あら、起きてたの」

 

 その女性はケイトさんと同じ看守の服を身に纏い、栗色の髪の毛を真っ直ぐに降ろした姿をしていた。赤いリップが窓から差し込む月の光に照らされて艶やかに光っている。

 

「看守のモカ・モンブランよ。彼女、ケイトと交代であなたを見張ります。逃げようとしてもいいけど……高くつくわよ?」

 

 モカさんは不敵な笑みで微笑む。逃げてもいいなんて、この人余程自信があるのだろうか。そしてさっきのケイトさんとのやり取りから察すると……

 

「もしかして主席さんですか?」

「あら、よくわかったわね? ケイトが何か言ってた?」

「あやつとわたくしめにそれほどの差なんてない、とかなんとか」

「……あの子らしいわね」

 

 そう言ってモカさんはケイトさんが座っていたイスに腰を下ろした。

 

「……あの、俺どうなっちゃうんでしょうか……」

「心配しないで。悪いようにはならないと思うから」

 

 モカさんはあっさりとそう言ってアロマを焚き出した。

 

「外患誘致、なんて仰々しい罪名つけられたみたいだけど、正直あなたを責められないのが現状なのよね。敵性生命体が蘇った四始祖と繋がっていたとか、その張本人が身分を隠して近づいてきた、なんて誰にも予想できないじゃない。そんなの誰にも回避のしようがない。偶々あなたが貧乏くじひいただけ。そんなことで独房入りなんて酷でしょ?」

「……だったら――」

「そもそも追放するなって話でしょ? そうもいかないのよ。こうなっちゃった以上、何かしらの責任を誰かが取らないといけない。なら、引き入れた張本人が取るのが筋ってもんじゃない? そうすることで溜飲の下がる人はいるのよ」

「…………」

「ま、だからと言って本当に首を刎ねられるわけじゃない。名前を変えてどこか遠い地で隠遁するのがいい落としどころでしょうね。だからそんなに心配する必要ないわよ」

 

 そう言ってモカさんは懐から文庫本サイズの小説を取り出して読書に耽り始めた。

 

「…………」

 

 ミラさん、俺、やっぱあなたに切り捨てられちゃったのかな。

 

 これからだってところで、俺はみんなを守るどころか、戦うことすら許されないのかな。

 

 

 

 

 

 数日後、モカさんから俺の元にある情報が入った。

 

 第三師団の団員一名が街の酒場で男性一名を殺害、その後投獄されたという。

 

 『お前が助けた人間の中に、誰かを平気で殺せる怪物が紛れているかもな』

 

 ジンの言葉が頭の中でリフレインする。

 

 ハサの村から救援に向かったあの日、自分が助けたかもしれない誰かが人を殺したとしたら。

 

 俺は間接的に誰かの命を奪ったことになるんじゃないか。

 

 俺が戦い、人を助けたせいで誰かが死ぬかもしれない。

 

 その疑惑は俺の戦う理由をどうしようもなく鈍らせる。

 

 ひより、俺は一体どうすればいいんだろうか。何を為せば……




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