塩の錬金術師 ~死んだはずの幼馴染の手によって異世界に錬成された俺は、最弱錬金術『三原質』で世界を統べて究極の力を手に入れます~   作:クワガタ信者

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第55話 Chase

 美しい湖の見える峠道。

 士降は再び亜音速の世界に突入し、豹を追っていた。

 

 映るもの全てが一瞬のうちに過去のものになる感覚。その中を巧みなハンドルさばきで何事もなく駆け抜ける。士降の動体視力があってこその芸当だ。

 

 触手に巻きつかれたミラを背負った標的が目に入り、減速して並走する。

 

 士降はパラディオーディナーを胸部の甲殻から取り出した。

 

「はあっ!」

 

 士降は三節棍を振るい、ミラにまとわりつく触手を引き裂いた。

 

 高速の世界の中、ミラは宙を舞う。車体を傾けて、士降はミラを受け止めた。

 そのままミラを前側に座らせる。

 

(た、対面座位……!!)

 

 ミラと士降の体勢は若干いかがわしさが見受けられるが、戦闘中にそんなことを気にしている場合ではない。

 なのにも関わらず、士降がこの体勢に緊張感を走らせているのは、ある種の余裕の表れだろう。

 

 士降はパラディオーディナーの連結部分を、繋ぎ止める塩の錬金術の応用で鎖部分を増築し、豹に振るう。

 

 豹の首に鎖が巻きつき、そのまま引き寄せる。

 

「ギャ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 

 豹は時速600kmの中引き摺り回され、通った地面から火花散り、肉片が撒き散らされる。

 

 

 

 ヴロロロロロロロロ……

 

 

 

「ッ!!」

 

 士降は背後から気配を感じて振り返る。けたたましいエンジン音と共に背後から迫り来るのは、鉱石で作られたハーレーのような姿のバイクに乗ったジンだった。

 

 ジャラッという音と共に、豹は鎖から解放され地べたを転がる。グシャア!と後続のハーレーが豹を轢き砕いた。

 

「ハハハハハ! 見様見真似で作ってみたが、中々楽しいおもちゃだなあ!!」

 

 流石は土の錬金術で文字通り頂点に立つ男、アルケスを一目見ただけで類似品を錬成してしまう本物の天才である。

 

「そおら!!」

 

 ジンは大型バイクをウィリーアクションで前輪を上げ、アルケスに打ち下ろす

 

「くっ!」

 

 士降はハンドルを鋭く切り、ギリギリのところでそれをかわす。

 

「おお、いいねぇ。それならこれはどうかな!」

 

 ジンは石製のショットガンを錬成し、士降に打ち込む。士降がつい一瞬前まで走っていたところが粉々に抉れ弾け飛ぶ。

 

「ミラさん、しっかり捕まってください!」

 

 次々と散弾を乱れ打つジンの乱射を右へ左へと躱していく。

 躱した先に再びジンの前輪が襲いかかる。

 

「はあっ!」

 

 士降はジャックナイフの要領で後輪を持ち上げ、相手の前輪に打ち付けて迎撃する。

 

「やるな……だったら!」

 

 ジンはアクセルを全力で蒸し、一気に士降を追い抜く。

 

「こんなのはどうだ!?」

 

 ジンは岩石でできたグレネードランチャーのような武器を錬成し、ナパーム弾を後続の士降に打ち出した。

 

 ドガァン、ドガァンと辺り一面が吹っ飛び、爆炎が舞って士降達の姿が見えなくなる。

 

 土煙を突き抜けてアルケスに乗った士降が現れた。ミラがケホッとむせ返る。

 

「なるほど、いいマシンだ」

 

 無傷のアルケスを気に入ったジンは急ブレーキをかける。

 

「!」

 

 それを見た士降も急ブレーキで止まる。

 ハーレーとアルケスの車体がぶつかるスレスレまで接近した。

 

「腕の競い合いもいいが、どうだ? ここらでマシンの力比べをしよう」

 

 ジンは両手をあげてヘラヘラとした様子で笑っていた。

 

「力比べ?」

「単純さ。ぶつけ合おうぜってことだ」

「ソーイチ君乗るな! わざわざこんな提案をしてくる以上、何があるに違いない!」

 

 自信満々で一騎討ちの提案をしてくるジンに、ミラは何かを感じ取ったのか士降に警告する。

 

「……わかった」 

「ソーイチ君!?」

「だが条件がある。ミラさんを安全なところに送り届けてからだ。それが条件」

「ほう…」

 

 お互いのモンスターマシンの衝突は、周囲に大きな被害をもたらすだろう。アルケスに搭乗しているミラもそれは例外ではないはずだ。

 

「俺は逃げたりしない。必ずここに戻ってくる」

「いいぜ。待っててやる」

 

 ジンはどこからか取り出したタバコに火をつけ口に咥える。楽しみの前の一服である。

 

 士降はその場でアクセルターンを決め、先程の戦場の方向へ走り去った。

 

「……」

「……」

 

 士降とミラはお互い口を交わさず、トルマリンのような湖の見える峠を走っていた。

 先ほどのような音速に近い速度は出していない。過ぎた加速はミラに大きな負荷をもたらすからだ。

 

 その沈黙を破ったのはミラだった。

 

「ソーイチ君…私は……」

「いいんです。わかってますから」

 

 士降は前を向いたまま答える。

 

「ウリコさんとクリスさんから聞きました。ミラさんは俺の為に泥を被ったんだって」

「…そうか…彼女達が……」

「俺、この力を得たことを後悔してません。誰に忌み嫌われても、俺は俺のできることを果たします」

「君は……本当に強いな……」

「はい。俺、舞い降りる戦士ですから!」

「ああ……そうだったな……」

 

 これ以上の会話は不要だった。

 言葉にせずとも、伝わっている。

 互いの思いやり、覚悟が。

 

 

 

 

 

 

 先程幹部達を叩きのめした地にミラを下ろした。

 

「じゃあ、俺、行ってきます。今度こそジンと決着をつけます」

「大丈夫なのか? その……君にとって彼は……」

「はい! ようやく俺の中で考えがまとまったので、前みたいに動けなくなることはないと思います」

「そうか」

 

 これ以上は必要なかった。

 

「じゃあ!」

 

 モンスターマシン、アルケスを駆って士降は向かう。恩師であり宿敵、ジンバックを討つ為に。

 

 

 

                 ◇◇◇◇◇

 

 

 

 カチッと葉巻の吸い口を爪でカットして火をつける。通常、葉巻というものは煙を肺まで吸い込まず、口の中でふかすだけに済ませる。が、ジンは常人離れした生命力で肺を強化することで、煙を肺まで吸い込むことができていた。

 

「フゥー……」

 

 人の姿に戻り、葉巻を嗜むジン。

 何を考えているのか、その表情はどこか憂うように陰をさしていた。

 

「ん」

 

 どデカい排気音がフェードインしてくる。

 地平線の向こうから白と黒のコントラストがこちらに向かってくる。

 

「信じてたぜ?」

 

 待ち侘びたお楽しみのエントリーだ。

 士降はジンから数十メートル離れた位置で静止する。

 

「まぁ待てよ。火ィつけたばっかなんだ」

 

 手のひらを相手に向けてジンは静かに吸い続ける。

 

「少し話でもするか。確か前に宿題出したっけな」

「宿題?」

「自分が何のために戦ってんのかって話。ちゃんと答えは出たのか?」

「……さあね。あんたには教えない」

 

 士降は挑発するようにそう言った。そこには前回の戦いと違って余裕すら感じさせた。

 

「ハッ! 言うようになったじゃねぇか。その分だと心配いらねえようだな」

 

 ジンは大きく深呼吸をすると、葉巻は先端からみるみる灰化していき、根元まで到達した。大量の煙がジンの口から一気に吐き出される。

 

「ガッカリさせんなよ?」

 

 ジンの身体が岩石に包まれる。バギィンと弾けて鉱石の戦士が姿を現した。

 

「始めようぜ」

 

 ジンは愛馬、ゴライアスに跨り、空ぶかしを行った。

 それに呼応するように士降もアルケスを蒸す。

 

 ブォン! と、どちらかのバイクの大きな音を皮切りに、両者発進する。

 

 すれ違いざまにお互いの車体を強くぶつけ合う。

 ガギィィィンと金属音と共に火花が飛び交った。

 

 お互い距離をある程度離すと、ギュラララとターンを決め、また相手に向かって突き進んだ。

 

 二者は前輪を上げ、ウィリー走行のまま前輪をぶつけ合った。

 衝撃で砂煙が舞い上がり、地表にヒビが入る。

 

 すれ違うように再び距離を取り、大きく助走をつけて同時に車体ごと飛び上がる。

 

 空中でバチバチと火花を散らしながらぶつかり合う両車。お互い一キロメートルほど離れたところで再び振り返って駆り出す。

 

「ハアァッ!!」

 

 士降は車体ごと浮遊し、空中で錐揉み回転させながら凄まじいスピードで突撃する。

 

 応じるようにジンも絶妙な加減でブレーキをかけ、車体を横回転にスリップさせる。巨大な竜巻を起こすように回転数を上げ、そのまま士降とアルケスに衝突した。

 

 瞬間、凄まじい爆発と衝撃波が半径数キロメートルを破壊しながら広がり、辺り一面が焦土と化した。




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