塩の錬金術師 ~死んだはずの幼馴染の手によって異世界に錬成された俺は、最弱錬金術『三原質』で世界を統べて究極の力を手に入れます~   作:クワガタ信者

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第57話 不完全燃焼

 ジンが吹っ飛ばされたすぐ近くには、先ほどの衝突で弾き飛ばされたアルケスが倒れていた。ジンは即座にアルケスを起こし、跨った。

 

 アルケスには、ウリコによって士降以外起動できないようにセキュリティプログラムが仕組まれていたのだが、ジンは即座にそれを解析、解除した。

 ジンはアルケスのエンジンを蒸かし、士降を轢き殺そうと突き進んだ。

 

 士降は紙一重でジンの突撃を躱し続け、すれ違いざまに薙刀モードのパラディオーディナーで斬りつけた。

 

「チィッ! 来い! ゴライアス!!」

 

 主人の命令に反応してジンのモンスターバイク、ゴライアスが木々を薙ぎ倒しながら現れた。ゴライアスはジンの命令通りに動き、無人でも敵に突撃することができるのだ。

 

 ジンの突進を避けた先でゴライアスの突撃をモロに喰らう士降は、火花を散らしながらノックバックした。

 

「くっ……!」

 

 アルケスの跨ったジンとゴライアスの連携攻撃が士降を翻弄する。

 次々と繰り出される連続攻撃に、士降は手を焼いていた。

 

「だったら!」

 

 ジンの突進を跳躍して躱し、そのままゴライアスに跨るように着地した。当然、ゴライアスは嫌がるように士降を振り落そうとするが、士降の圧倒的膂力によってハンドルのコントロールを制されてしまった。

 

 再びアルケスとゴライアスが衝突し合う。お互いの前輪が、後輪がぶつかり合い、鈍い音を鳴らす。

 狭い林の中、木々を潜り抜け、マシンは唸りを上げる。

 

「っらあ!」

「ダァラッ!」

 

 士降とジンは、お互いのバイクをブーメランのように投げ合う。アルケスとゴライアスはフリスビーのように宙を舞い、ぶつかるスレスレですれ違った。

 そのまま木々を切り倒しながら元の持ち主を挽き刻もうと、回転しながら両者に襲い掛かる。

 

「ふっ!」

「ん゛ん゛!」 

 

 士降とジンは、互いのバイクのハンドルを真正面から受け止め、回転する流れを利用して飛び乗った。

 

 ドガン、とゴライアス周りの地面が隆起した。天高くそびえ立つ岩壁から、ジンはゴライアスと共に飛び降りる。

 ハンドルを強く握り、ジンは一回転する。すると、ゴライアスの車輪が変形し、大きな棘のようなものが出来上がった。

 

「ラアッ!!」

 

 もはやバイクとして扱ってはいない。ジンは変形させたゴライアスをまるで鈍器のように士降に叩きつけた。

 

 士降もアルケスから降り、ハンドルを握ったままアルケスに生命力を送る。

 するとアルケスのホイールも変形し、チェンソーの様に火花を散らしながら敵を切り刻もうと回転する。降りかかるジンを下から迎撃した。

 

 凶器と化したホイールがぶつかり合う。ギャリギャリギャリとお互いを削り壊さんとばかりに回転数を上げ、飛び散る火花は周りの木々に引火し、やがて辺り一面が火の海と化した。

 

「だああっ!!」

 

 削り合いを僅差で制したのは士降。思い切りフルスイングをしてジンとアルケスを弾き飛ばした。

 

「ぬうっっっ!!」

 

 ジンはアルケスと共に空中でバランスを取り、見事に着地した。

 

「はあっ!」

「あ゛あ゛っ!」

 

 士降とジンはお互いに飛び上がり、空中でマシンをすれ違い様にぶつけ合った。

 

 着地したと同時に振り返り、再びバイクで斬り合う。まるでヌンチャクを扱うがごとく重量級のマシンを振り回して攻撃する。

 

 ギャギィンギャギィン! と金属音が鳴り響き、衝撃波で木々が薙ぎ倒され、爆風で炎がかき消された。

 

 長い攻防の中、先に限界が来たのはジンのゴライアスだった。

 ブスン! と煙を立ててクラッシュする。

 

「チィッ!」

 

 ゴライアスに見切りをつけたジンは、自爆装置を発動させてその場から飛び去るように距離を取った。

 

 士降はそのままアルケスを振り下ろし、ゴライアスを真っ二つにした。ジジ……ジジジ……と音を立てた。その直後、カッと強烈な閃光が辺りを照らし、程なくして大爆発した。

 爆炎は大きな火柱を上げ、林を包み込んだ。

 

 広がる火炎の外でジンは燃え盛る木々を眺めていた。

 

「マシンの性能では上を行かれたが、勝負は俺の勝ちだな」

 

 勝ち誇るようにそう呟くジン。踵を返して去ろうとするその背中はどこか寂しそうだった。

 

 しかし――

 

 

 

 ヴヴン

 

 

 

 後方からエンジンの音。だんだんと近づいてくる駆動音に、ジンの胸の高鳴りは抑えられなかった。

 

 そして――

 

 

 

「はあっ!」 

 

 

 渦巻く炎の中からアルケスを駆る士降が飛び出してきた。ジンの数メートル先で着地する。

 

「ははは! お前も大概不死身だな!!」

「言っただろ。あんたを倒すって」

 

 士降はアルケスからゆっくりと降り、ジンと対峙した。

 

「決着を着けよう。ジン」

 

 腰を低く構え左手を前に、右手を引き絞るように掲げる士降。

 

「いいぜ……死ぬまでやろう」

 

 ゆったりと両手を横に上げ、受け入れるような体勢を取るジン。

 体中の岩石が少しずつひび割れていく。

 

 ――この戦いで恐らくどちらかが命を落とす。

 

 そう士降が確信したその刹那――

 

「がっ……あ゛あ゛っ……!」

 

 突然ジンは頭を抱えて苦しみ始めた。

 

「ぐっ……があっ……ん゛ん゛っ……ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 膝をつき、地面に顔面を擦りつけながらジンはのたうち回る。まるで耐え難い頭痛に悶えるかのように唸り声を上げる。

 

「なっ……なんだ……?」

 

 目の前の光景に士降は戸惑う。さっきまで余裕綽々と楽しそうに戦っていたジンが、自分の攻撃を受けてもそのダメージを喜ぶかの如く昂るジンが、こんなにも苦痛を露わにしてもがき苦しんでいる。

 

(なんだ……!? 一体何が起こっているんだ……?)

 

 困惑していると、ジンはよろよろと立ち上がり、おぼつかない足取りで士降に近づいた。

 

「おい……ソーイチ……」

 

 士降は我に返り、再び構え直す。何を仕掛けてくるかと警戒していると、再びジンは口を開いた。

 

「俺を殴れ」

「……は?」

 

 無論、何か妙な挙動をすれば即座に鋼の拳を叩きつける気でいた。

 だが、その相手からそれを乞われるとは露とも思っておらず、間の抜けた声が出てしまった。

 

「いいから殴れ!! 俺を待たせるな!!」

 

 激昂するジン。先ほどとはまた違った気迫を感じた。いつも軽薄そうなジンから発せられるとは思えない迫真の叫び。士降は気圧されながらも、拳を握りこんだ。

 

 無防備なジンの顔面。思い切り助走をつけ、大地を踏みしめてぶん殴り抜いた。

 

 バギャアッと砕けるような音と同時にジンは派手に吹っ飛ぶ。

 木々をへし折り、岩盤を砕きながら数百メートル先までその身は投げ飛ばされた。

 先ほど戦っていた砂浜をゴロゴロと転がり、やがて止まった。

 

「がっ……あっ……はぁっ……」

 

 ジンはうつぶせの状態から仰向けに転がり、空を見上げた。

 

「効く……ぜ……」

 

 そのまま地面に沈み込み、ジンはこの場から姿を消した。

 

 

 

 吹っ飛ばしたジンを追って、士降は砂浜に降り立った。

 ジンの痕跡はそこで途切れている。完全に見失ってしまった。

 

「あいつ……一体どうしたんだ……」

 

 煮え切らない勝利を得た士降は、不完全燃焼感を握らされながらその場に立ち尽くしていた。




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