塩の錬金術師 ~死んだはずの幼馴染の手によって異世界に錬成された俺は、最弱錬金術『三原質』で世界を統べて究極の力を手に入れます~   作:クワガタ信者

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第58話 雨降って地固まる

 ジンとの戦闘を終えた俺は、一足早くAWDCに戻っていた。

 アルケスには無理させちゃったな。帰りは最高速度100kmくらいしか出なくなっちゃっていた。んで、ウリコさんにボロボロになったアルケスを見せたら滅茶苦茶怒られた。

 

「どんな使い方したらこんなにダメージ受けるんだよ! ええ!?」

「すみません。あっちもバイク……似たような兵器を使ってきたので、ぶつかり合いになってこう……」

「ぶつかり合うってお前……ジンバックか」

「はい。口ぶりからすると、これを見て見様見真似で作ったんだと思います」

「俺が莫大な費用と時間をかけた最高傑作を見様見真似で……っざけやがって! 何が四始祖だおらあああ!!」

 

 あ、荒れてる……目に見えてわかるくらいに怒り狂っているよこの人。

 

「んで? どうなったんだよ」

「え? ああ、勝ちましたよ。最後は向こうの機体を真っ二つにしてドッカーン――」

「当たり前だ馬鹿野郎! この俺のアルケスが即興で作ったパチモンなんかに負けてたまるか! そうじゃなくて、ミラには会えたのか?」

 

 あ、そっちか。心配してたもんなこの人。

 

「ええ。間一髪助け出しました! 他の人に正体ばれると不味いんで、俺先に戻ってきちゃいましたけど、もう少ししたら帰ってくると思います」

 

 そう言うと、ウリコさんは深く「ふー」と息を吐いた。

 

「そうか……よし、よくやった。褒めてやる」

 

 ウリコさんは俺にヘッドロックをキメながら、頭を雑にガシガシと撫でてくる。いたた、雑! 雑過ぎる! 髪の毛抜けちゃうじゃんか!

 

「こら! やめなさい。ソーイチ君が可哀そうでしょ」

 

 後ろから、ウリコさんの頭を書類を丸めてスパンと叩く人がいた。クリスさんだ。

 

「ってーな! あにすんだよクリス!」

「あんたねえ、戦いの功労者に対する扱いじゃないわよ全く。そのガサツさ、いい加減直したら?」

「バッカオメー、発明ってのは時に大胆な発想が必要なんだよ。女々しくしおらしくやってなに産まれんだ。凡夫は黙って俺様の活躍拝んでな」

「あんたって人はほんと……」

 

 クリスさんは呆れた様にこめかみを押さえている。

 ……なんていうか、仲いいんだなこの二人も。

 ミラさんと三人つるんで無茶やってるイメージがあるよ。

 

「とにかく、一旦こいつは預からせてもらう。修理やら改良が必要だ。今後とも四始祖と戦ってくんならそれに耐えられるくらいの性能にしなきゃな」

 

 今日は徹夜だぜー、とウリコさんは大きく伸びをして研究室に戻って行った。

 

「ま、ミラが帰ってくるまでゆっくりしていって頂戴。いずれにしろ部屋には戻れないから」

 

 そう、俺は今、ウリコさんがでっちあげたジンの石の毒に脅かされている、という名目でここにいるのだ。しばらくケイトさん達がいた俺の部屋に戻ることはできない。

 

「じゃあ、ゆっくりついでにしばらくあなたの体を調べさせてもらいましょうか」

 

 クリスさんがうっとり蕩ける様な表情でそう言った。

 あっ……この人優しい人かと思ったけど、根っこはウリコさんに近いモノを感じる。やっぱり類は友を呼ぶんだ……。

 

「ゆっくりと、じっくりと、ね?」

「お、お手柔らかにお願いします……」

 

 顔を引き攣らせながら俺は、クリスさんのモルモット、もとい被験体となった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 数日後、ミラ達第七師団第一班はグラニデに帰還した。

 ミラは帰ってきて早々、本部に戻り対策会議に出席した。

 

「――この件での報告は以上です」

 

 ミラはジン達に敗北したこと、その後士降に救出されたことを包み隠さず話した。

 

「無様に敗北し、果てには討伐対象に助けらるとは、よくもまあおめおめと帰ってきたものですね」

 

 ブリジラはミラを嘲るように罵った。

 

「申し開きもできません。私の失態です」

「士降め……また現れたか……」

 

 ガルドスは相も変わらず士降に対して、畏怖のような感情を抱いていた。

 

「報告、確かに受け取った。絶望的な状況でよく戻ってきた。まずは君たちの生還を心から祝福しよう」

 

 ドルクスの労いの言葉により、ブリジラはこれ以上ミラを非難することが出来なかった。

 

「ドルクス総団長、別件で嘆願したいことがございます」

「なにかな?」

「先日除名したソーイチ・オトギリを第七師団に復員させたいのです」

「なんですって!?」

 

 ブリジラが憤慨して立ち上がる。

 

「何を馬鹿な! ジンバックを引き入れた張本人として追放したオトギリを復員させると言ったのですか!?」

「その通りでございます」

「ふざけるのも大概にしないさい! それでは責任を取らせた意味がないではありませんか! 無惨に殺された私の隊員達はどうなるのです!?」

「最終的にジンバックの同行を提案したのは私です。責任は彼にではなく、私にあります」

「っ!……だったらあなたが責任を取るべきだ! のうのうと師団長としてふんぞり帰りなさって! だから女性の師団長など私は反対したのですよ!」

 

 ブリジラはこめかみに青筋を浮かべて捲し立てる。

 

「もちろんそのつもりです。ソーイチ・オトギリの復員の代償として、今日付で私は師団長を降りる所存でございます」

 

 周囲がどよめく。ガルドスも慌ててミラに考え直すように促す。

 

「ミラ師団長、さすがにそれは早計ではないか? 確かにあなたに非が全くないとは言えないが、たかだか非戦闘員一人の為にあなたが更迭される必要はないはずだ」

「誇り高き錬金連合軍の師団長として果たすべき責任を果たすだけですよ、ガルドス師団長。私は平隊員として一から励みます」

「は、はは」

 

 ブリジラは自ら更迭を望むミラに対して、思わず笑みを零してしまった。

「いい心がけですねミラ師団長。それでは第七師団は解散という形になりますかな?」

「いえ、私の後任としてリノ・クノケロスを推薦します。彼女は十四歳という若さでありながら私以上の戦闘力を身に着けました。現に副師団長として現場の統制も申し分なく熟せている。彼女なら問題なく第七師団を導いていけるでしょう。つきましては、副団長として――」

「いいや! 解散するべきだ!! あなたのように女性を師団長にしたのがそもそもの間違いだった! 女性であるリノ・クノケロスを師団長として挿げ替えたとて、また同じ過ちを繰り返すだけ! やはり神聖なる師団を率いるのは男でなければ務まらない!!」

 

 ブリジラは机をバンッ! と叩いてドルクスに申し上げる。

 

「総団長殿! 一刻も早く第七師団解散のご命令を――」

「ミラ師団長」

 

 ドルクスはブリジラを一瞥もせず、ミラと向き合う。

 

「私は功罪というものは平等に考えるべきだと考えている。どのような事情があっても裁くべき罪は裁かねばならない」

「おっしゃる通りです」

 

 ブリジラはパアッと表情を輝かせ、期待に満ちた目でドルクスの次の言葉を待っている。

 しかし、その期待は易々と砕かれることになる。

 

「だが私は、功の部分を決して疎かにしてはいけないと思っている。貴殿がこれまでに上げた功績、培った信頼、それはたった一度の失態で崩れるものでは決してない」

「へぇっ……?」

 

 ブリジラは素っ頓狂な声を上げる。

 ドルクスはそれを意に介さず静かに微笑み、ミラに命じた。

 

「ミラ師団長。貴殿に罪を償う気概があるのなら、これからも師団長として団員達を導き、一人でも多くの命を救うために前線で戦い続けてみせよ。これに勝る償いはなし!」

「総団長……」

「お、お待ちくださいませ! 総団長殿!」

 

 ブリジラは慌て上ずった声でドルクスに物言いを立てる。

 

「ミラ師団長の失態をお許しになるというのですか!?」

「許す、とは言っていない。その償いの為、今後も師団長として危険な最前線に立ち続けろと言っているのだ」

「そんな! それでは他の者に示しが付きませぬ! 罪はしっかりと裁くべきだ! ミラ師団長を更迭するべきです!」

「罪を裁け、か」

 

 ドルクスは冷めた目でブリジラを見据えた。

 

「功罪を平等に考える、というのは貴殿に対しても言っているのだがねブリジラ師団長?」

「な、何を……私に罪などが、どこにありましょうか!? 我々第十一師団は選りすぐりの戦闘のエリート、数多の敵性生命体を討伐した功績があります! 罪などどこにも――」

「貴殿の団員は他の隊の団員に随分と因縁をつけて回っているそうだな? 各方面から苦情が殺到している。それを放置していることに対して申し開きはあるかね」

「なっ……」

 

 第十一師団は、ジンバックに殺害された五名の他に、多くの団員が他師団に対して嫌がらせをしていた。

 

「将来有望な新人が貴殿の団員に潰され、自信を喪失して軍を抜けたという報告も上がっている。これは大変な利敵行為にも思わないか?」

「そ、それにつきましてはその……」

 

 先ほどまで扇風機のように回っていたブリジラの舌が、糸に絡まったように回らなくなっていく。

 

「それに貴殿が裏で行っている件について、私が気付いていないとでも思うか」

「ぐぃっ!?」

 

 裏で行っている件、ブリジラには心当たりがある。錬金連合国の地位の低い貴族と繋がって裏金を拝借していたことだ。バレないだろうと確信していたことが、あっさりと看破されていた。

 

「まだ何か言いたいことがあるかな? 功罪溢れるブリジラ師団長殿?」

「ア、アノ…イエ…ソノ……」

「今回限りは見逃そう。次はないと思え」

 

 そう言い渡し、ドルクスは周りを見渡した。

 

「彼の他に申し立てする者は?」

 

 ドルクスの問いに対して返す者は誰もいなかった。

 

「よろしい。それでは改めてミラ師団長、ソーイチ・オトギリの復員を許可する」

「はっ! ありがとうございます!」

 

 ミラは立ち上がってドルクスに敬礼し、深々とお辞儀した。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 AWDCに住みついて数日、相も変わらず俺はウリコさんとクリスさんの研究対象として過ごしていた。あの人たちの獲物を見る様な目にも慣れてきたところで、俺に来客が訪れる。

 

「ミラさん!!」

 

 ミラさん達第七師団が帰還したのだ。俺は体中の電極を取り外しながらミラさんに走り寄る。

 

「すみません。俺、ジンを逃がしちゃって」

「いいんだ。むしろ謝るのはこっちの方だ。色々とすまなかった。本当に」

 

 改めてミラさんが俺に頭を下げてくれた。

 

「君にこれを」

 

 ミラさんは俺に服を着させてくれる。第七師団の隊服だ。

 

「上からの許可が下りた。君を第七師団に復員させる。また私達と戦ってくれるかい?」

「もちろんです!」

 

 差し出された手を、俺は握る。二人して笑い合う。

 

「ったく、世話の焼ける奴らだぜ」

「ほんとよね」

 

 ウリコさんとクリスさんが優しそうに笑いながら、俺達を眺めていた。




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