塩の錬金術師 ~死んだはずの幼馴染の手によって異世界に錬成された俺は、最弱錬金術『三原質』で世界を統べて究極の力を手に入れます~   作:クワガタ信者

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第63話 俺の勝ちだ

「なぜ私を助けた」

 

 傷だらけの水銀階級の錬金術師はジンに問う。レオは、超硬質に作られた鉱石のドームによって、岩石の礫を免れた。

 それはジンによって、もたらされた物だった。

 

「言ったろ? 殺すのは最後だって」

 

 ジンは人間の姿に戻り、タバコに火をつけた。

 

「あんたは最後まで見届けるべきだ。この世界の行く末をな」

 

 天を仰ぐように空を見上げ、雲の裂け目に煙を通すかのように息を吐く。

 

「まぁ、最終的にあんたが死ぬかどうかはあいつ次第だがな」 

「彼……ですか」

 

 ジンは目を細めて薄く笑う。

 

「やはり、俺の願いを叶えるのはあいつしかいないらしい」

「不甲斐ない……若者に背負わせてしまうなんて」

「気にするなよ。あいつも柔じゃねぇ。覚悟の上さ。それに俺は――」

「ジン!!」

 

 ヴヴン! とエンジンを蒸す音と共に、大型の躯体が飛び出してきた。アルケスに跨った士降が、ジンとレオの前でブレーキをかけて静止する。

 

「……ッ!? マスター!」

 

 士降は傷だらけで岩にもたれかかっているレオを見て、叫んだ。

 

「そろそろ眠っとけよ」

 

 ジンはピンッと何かを指で弾く。弾かれた何かはレオの身体にスゥッと入り込み、レオの意識はストンと落ちた。

 

「マスターに何をした!」

「安心しろよ。少し眠ってもらっただけだ」

 

 鉱石医学の応用。以前、第七師団の団員が、ジンに熱を引き起こさせる粒子を植え付けたように、レオもジンによって眠らされた。

 

 ジンが足元をトンとつま先で叩くと、レオは地面へと沈み込むように消えていった。

 

「殺しちゃいない。今この場にあいつは相応しくなかったからな。離れたところに行ってもらっただけだ」

「……どうしてマスターがここにいるんだ? 何を話していた?」

「大人の話さ。お前にゃまだ早い」

 

 それよりも、とジンは一気にタバコを吸い尽くし、一際大きな煙の輪を飛ばした。

 

「決着、つけようぜ」

 

 牙を向いて立ち構える狼のような眼光を光らせ、ジンは士降を見据える。

 

「そんなこと言って、また前みたいに逃げるんじゃないか?」

「逃げないさ」

 

 ジンの体が岩石に包まれていく。

 

「今日で最後だよ。ソーイチ」

 

 バギンッと砕かれて岩の戦士へと変貌した。

 

「終わらせよう。俺とお前の戦いを」

 

 士降とジン、両者が睨み合い、構える。

 

 火蓋を切ったのはジンだ。

 

 足元をタンっと叩いて辺り一面を液状化させる。

 それを読んでたかのように、士降は飛び上がり、ジンへと拳を打ち下ろす。

 

 ジンは拳を受け流すように倒れ込み、士降と共に液状化した地面に沈み込んだ。

 揉み合う中、地中で自由に動けるジンが士降の背後に回り、首を絞める体勢に入る。

 同時に液状化した地面を一気に固まらせる。

 

「ぐっ……このっ……!」

 

 膂力は士降の方が上。普通なら引き剥がされてしまうが、密着した状況で周りの地を完全に固まらせることにより、身動きを取れなくした。これによって士降がジンを引き剥がすのは非常に困難となった。

 

 士降の頸動脈がジンによって、ギリギリと締め付けられる。

 

「ぐう゛っ……があ゛っ……!」

「フン゛ッ!……ん゛ん゛!!」

 

 士降は身体を振動させて地面を液状化させるが、ジンは即座にそれを固く戻す。

 こうなってしまっては詰みだ。頸動脈を締められ、息の根が止まるのを待つ他ない。

 

 そう、並の錬金術師なら。

 

「う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

 士降に使える錬金術は、塩に似た物質を作り出すこと。強靭な肉体を形成する他に、物質を直接体外に放出することも可能なのである。

 

 以前、豹の怪人をパラディオーディナーで殺害した時に、棍を繋ぐ鎖を増築したことがいい例だ。

 

 士降は全力でその物質を大概に放出した。

 

「なに!?」

 

 密閉された地面の中で、新たに物質を無理やり作り出す。すると周りの土や岩は、より強固な物質による圧力に耐え切れなくなり、やがて崩壊してく。

 

 ビキビキと士降とジンの周りの地面に亀裂が走る。その亀裂は地上まで達し、ボンッと地面が破裂した。地表から砂や岩が吹き荒れる。

 

 その分、士降には手足を動かすだけの余裕が生まれた。

 士降は藻掻きながらも、自分とジンの間に拳を潜り込ませる。

 

「スゥー……」

 

 息を吐き、脱力したかと思えば、一気に力をジンに浸透させる。

 

 寸勁。

 

 空手や中国拳法で使われる打撃の一種だ。振りかぶらずに相手に全身の力を伝えるはっけいの一種である。

 

「ガッ、ハア゛ッ!!」

 

 ジンは咄嗟に士降から離れ、直撃を免れるも、狭い空間の中で威力を殺しきれず、口から血を吹き出す。寸勁の威力はジンだけではなく、地中の砂岩をも破裂させ、地上に吹き出させた。

 

 士降から距離を取るべく、ジンは地中を泳いで地上に出る。

 

「ゼエ……ゼエ……」

 

 地上で息を整えるも、地中から衝撃が走るのを感じて飛びのく。

 

 士降は地面を殴り砕いて移動し、ジンが立っていたところを爆ぜさせながら地上へ出た。

 

「ハハハ! マジで冴え渡ってるぜ! ソーイチィィィ!!」

 

 ジンは辺り一面の大地を操り、己の身に纏わせた。

 現れたのは百メートルの岩の巨人。巨人は腕を振るわせ、士降に襲い掛かる。

 

 士降は華麗に腕の薙ぎ払いをジャンプで避け続け、巨人の足下へと向かうが、巨人は後ろに飛びのき、右ストレートを繰り出してきた。

 

「だあっ!」

 

 士降は巨人の巨椀に己の拳をあわせ、空間がビリビリと歪む。

 

「ぐっ……うあああああ!!」

 

 少しの時間拮抗したが、余りにも巨大な質量攻撃。士降の身体は大きく吹っ飛ばされてしまった。

 

 吹っ飛ばされる士降を追うように駆け付けるは、剛脚の駆動兵器、アルケス。

 くるりと身体を翻し、士降はアルケスに跨る。

 

「はあっ!」

 

 アルケスを駆って再び巨人の元へと疾走する。巨人は地面を大きく叩き、浮かび上がった大岩が士降を襲う。アルケスを右へ左へと蛇行して巨岩を避けた。

 

 巨人のパンチをウィリージャンプで躱し、そのまま腕を伝って巨人の頭まで辿り着いた。

 

 身を乗り出し、巨人の顔面をパラディオーディナーで殴りつける。アルケスの加速も相まって、非常に強力な一撃が巨人を襲った。巨人は大きくのけ反るも、かろうじて体勢を立て直した。

 しかし、その隙を士降は見逃さない。

 巨人の足下に辿り着き、アルケスをジャンプさせる。更にアルケスからも飛び上がって、巨人の右ひざ関節に渾身の一撃を叩き込む。

 

(いくら超質量で頑丈でも、関節だけは脆いはずだ!)

 

 バギンッ、と巨人の膝の皿に当たる部分が砕け散り、直立を保てなくなった巨人は膝を付く。

 

 身体をつたって再び、顔面に重い一撃を食らわそうとするが、

 

「ぐうっ!?」

 

 死角から伸ばされた巨人の手が士降を掴む。そのまま両手でギリギリと締め上げられる。 

 ミシミシと軋むような音が立てられ、今にも砕け散りそうになる。

 

 だが、ここに存在するのは士降の錬金術。超規模の質量攻撃でも破壊することはかなわない。

 

「ぐううううううううがあああああああああああ!!!」

 

 全身に力を込めて巨椀をこじあける。次の瞬間、巨人の両手が音を立てて粉々に弾け飛び、破片が周囲にバラまかれる。

 

 士降は、パラディオーディナーの連結部分を数千増築し、巨人の首元へと伸ばす。巻き付いた三節棍を勢いよく引くと、作用反作用の原理で士降の身体は、巨人の顔面目掛けて勢いよく接近する。

 勢いのまま、巨人の眉間に膝蹴りをお見舞いした。

 

 両手、片足を失った巨人は、バランスを大きく崩し、背中から地面に土を付けた。

 

 士降はアルケスに跨るように着地し、後方へ加速して距離を取る。振り返り、助走を大きくつけて飛び上がった。

 

 アルケスはウリコの手によって修理だけではなく改修、改良がされてあり、新しい機能がつけられていた。

 

 後輪から、ブースターのようなものが出現し、一気に数百メートル上空まで飛び上がる。

 士降は、アルケスから飛び降り、空高くから急降下するように飛び蹴りを放った。

 

 巨人が起き上がると同時に、その胸元に必殺の蹴りを叩きこむ。

 

 胸元を貫通させ、士降は地面を滑るように着地する。摩擦熱により巨大な火柱を噴き上げながらも徐々にスピードを落とし、やがて静止した。

 

「終わりだ、ジン」

 

 巨人の胸元から、亀裂が身体全体に入った。

 

「ぐうっ!……ああ!!」

 

 巨人の中に入っていたジンの体にも亀裂が入り、眩い光が漏れ出ている。

 やがて巨人は瓦礫と化し、ガラガラと音を立てて砕け落ちていった。

 

「俺の……勝ちだ」




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