塩の錬金術師 ~死んだはずの幼馴染の手によって異世界に錬成された俺は、最弱錬金術『三原質』で世界を統べて究極の力を手に入れます~   作:クワガタ信者

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第65話 Absolute Duo

「ふう゛っ!」

 

 士降の腹部に、ジンの拳が炸裂する。その衝撃波だけで山の一角を一文字に切り崩した。

 

「グア゛ッ!」

 

 ジンの顔面を、士降の拳が殴り抜く。反対側の山も切断され、地形が変わってしまった。

 

 相手の攻撃をガードするだけで大地が大きく割け、いなす為に触れるだけでも嵐のような突風が巻き起こり自然が破壊される。

 今までの戦いとは比較にならないレベルの必殺威力。幹部級如きなら、撫でられただけでその身が跡形もなく、粉々に消し飛んでしまうだろう。

 

凄まじい打撃の応酬。彼らを中心に、近づくだけでその身が跡形もなく滅びる『死の空間』が広がっている。もはや何人たりとも、彼らに近づくことはできない。

 

 そんな格闘を、かれこれ十数時間は続けている。

 受ける度にダメージはあれど、互いに必殺の一撃を耐えうるだけの防御力を持ち合わせているのだ。

 

 戦闘は膠着状態に陥り、混沌を極めていた。

 

「今日は雨が降りそうだな」

 

 それを打ち破ったのはジンだった。ジンは両の手を地中へと突っ込み、二振りの長剣を取り出した。その剣はジンと同じように、ダイヤモンドのような輝きを放っていた。

 

「ウルァ!!」

 

 ジンの袈裟斬りを士降は飛び退くように避ける。避けざるを得なかったのだ。

 

 士降の直感が告げている。この剣は危険だと。斬られれば、タダでは済まないと。

 

 ジンの剣、金剛剣の切っ先が地面にカツンと当たる。その瞬間、地面が真っ二つに裂け、巨大な地割れが起こったかのように大地が切り裂かれた。

 

 士降の直感は正しかったのだ。

 

 三度、剣が振るわれる。二撃目まではかろうじて避けられたが、三撃目はどうしても避けられない。士降は肘の真っ白なブレードで、金剛剣を受け止めるが――

 

「なにっ!?」

 

 今まで数々の怪人たちを、成すがままになます斬りにしていた純白のブレードが、ジンの金剛剣によって斬り落とされていた。

 

「ぐぅっ!?」

 

 続いてジンは士降の胴体を斬りつける。傷一つ付くことの無かった清廉なる身体に傷がついた。

 

 矢継ぎ早に剣が振るわれる。斬られるたびに傷の数は増えていき、戦況は一気に変わった。こちらの拳はリーチが短く、かつジンの攻撃はカード不可。士降は防戦一方を強いられてしまった。

 

 士降はパラディオーディナーを取り出し、ジンの袈裟斬りを受けようとするも、棍ごと真っ正面から叩き斬られた。

 

「く゛っ…う゛っ……ぐぁああっ……!」

 

 切り刻まれたダメージにより、士降はとうとう膝から崩れ落ちてしまう。

 

「うう゛あ゛っ……!?」

 

 その隙を見逃さず、ジンは背後に回って士降の背中を一閃した。

 

(もっと……もっと強い武器があれば……!)

 

 後ずさる士降を追い詰めるジン。これで終わりだとばかりに、右剣を振りかぶった。

 

(このままじゃ負ける……死ぬ……!)  

 

 ジンはトドメの一撃を振るう。金剛剣が士降の首を刎ねるその直前――

 

 

 

 ガギィィィン 

 

 

 

「なに……?」

 

 咄嗟に身を守ろうと左手を上げた。

 先程叩き切られた左腕のブレードの根本、そこから石英のように透明な、一メートルほどのロングブレードが新たに生え変わっていた。

 

「はあああ゛っ!」

 

 必死に右腕を振るう。右肘にも同じような透明なブレードが備えられており、ジンの不意をついて腹部を切り裂いた。

 

「ガアッ!?」

 

思わず後ずさるジン。斬り付けられた腹部は、一文字に傷ついていた。

 

「伸びた……!?」

 

 窮地を脱した士降は、新たに得た驚異的な切れ味を持つ武器を、戦慄しながら見つめていた。

 

「この俺に傷をつけるか。ハハハ! 面白い!!」

 

 ジンが再び金剛剣を構えて襲いかかる。迎え打つように士降のクリアブレードを打ち付ける。

 

 互いの豪剣が物凄い音を立ててぶつかり合う。生じた衝撃波は、周囲の物全てを切り裂いた。

 

「ハアッ!!」

 

 ジンは足下に剣を差し込んだ。金剛剣から発せられるエネルギーが、この惑星の内核にまで到達し、マントルをドロドロに溶かして地上に噴出させる。

 

 士降の立っていた場所からマグマが突き上げるように噴火した。士降は次々と噴き上がるマグマを、華麗に避けていく。時にはマグマそのものを切り裂いた。

 

 地中から金剛剣を勢いよく引き抜いたジンは、双剣にマグマを纏わせ、噴火を避ける士降へとその熱剣を食らわせた。士降は勢いよく地面へと着弾する。

 

「ッ!」

 

 身体に纏わり付いたマグマが冷え固まり、一瞬動きが鈍る。その隙をついてジンはもう片方の熱剣を士降に浴びせた。

 

 士降は(すんで)の所で拘束を免れ、灼熱の刃を避けた。着撃と同時に、辺り一面が大噴火により、マグマで溢れかえる。そのマグマも一瞬で冷え固まり、地形の一種となった。

 

「さて、そろそろかな?」

 

 不意にジンは攻撃をやめて空を仰ぐ。何かを待ち望むように高揚した様子を見受けられた。

 

「なにを――」

「言ったろ? 今日は雨が降りそうだって。もっとも――」

 

 ジンがそう発した直後、空にうっすらと巨大な何かが映る。真っ黒な物質が、赤いエネルギーのような何かで覆われていた。

 

「なっ……!?」

 

 士降はそれを見たことがある。それもついさっきだ。だが、それは士降が見たものより遥かに――

 

「雨にしてはちと大きすぎたか?」

 

 直径1キロメートルを超える巨大な隕石が3つ、この星に墜落しようとしている。

 

 ジンは、レオの隕石を呼び寄せる錬金術からインスピレーションを受け、地上から引力を操ってより巨大で、より多くの隕石を落としたのだ。 

 真の姿になり、錬金術の出力と精度を大幅に高めた今のジンにしか成せない大技。彼らが地上に落ちれば、国一つが傾くほどの甚大な被害が出てしまう。

 

「くそっ!」

 

 士降はギリギリと右腕を矢を放つように振り絞り、地面に向かって拳を放つ。

 

 無数の大地の破片が、天へと穿ち上がる。一瞬で数千メートル上空まで浮かび上がった。

 

 その破片を足場に、士降は遥か空の向こうまで駆け上がり、隕石から数百メートル前までたどり着く。

 

 士降が力を込めると、腕のブレードが急激に伸び始め、千メートルを超える長さに達した。

 

「ん゛ん゛ん゛ん゛う゛う゛お゛お゛お゛お゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

 士降は、ブレードを振り回し、一瞬のうちに隕石の一つを細かく切り砕いた。その破片を伝って再び空を駆け上がる。二つ、三つと迫り来る隕石を切り裂いてみせた。

 

 億を超える破片が大地へと降り注ぐ。それらは細かく小さいが、紛れもなく宇宙から大気圏を超えて飛来した隕石。まともに当たれば即死は免れない万死の流星。

 

 その中をジンは楽しそうに踊っていた。

 避けるわけでもなく防ぐわけでもない。ただ恵みの雨に喜ぶカエルの如く、灼熱の岩石がその身を灼こうとも歯牙にもかけず、ただ楽しそうに踊り狂っていた。

 

 ブレードを縮小させた士降は、上空数千メートルから落下する。士降が地面に着弾する瞬間、ジンは金剛剣の切っ先を地面に叩きつけた。

 

 刹那、一瞬のうちに地面が縦一文字に消え失せ、士降はその狭間に落ちていく。

 ジンが軽く地面を蹴ると、地割れは音を立てて閉じていき、士降を挟み潰した。

 

 数秒後、士降の落下地点を中心に、いくつもの巨大な裂け目が発生し、地中から士降が飛び出してくる。再びブレードを成長させて、大地を切り刻んで脱出したのだ。

 

「らあっ!」

 

 伸ばしたままの巨大なブレードを、遠くからジンに叩き込む。二刀を交差させてそれを受け止めるジンだったが、遠心力の分押し負けてしまい、数百メートル程吹っ飛ばされてしまう。

 

 士降の狙いはこれだ。ジンから距離を取り、遠距離から一方的に伸ばしたブレードで斬り刻もうとする。

 

「あめぇな」

 

 だが、ジンは歴戦の戦士。遠方から襲いかかるブレードを金剛剣でギリギリいなし、最短距離で詰めてくる。

 巨大故の大振りな太刀筋では、ジンの見切りを欺く事は叶わない。

 あっという間に距離を詰めてジンは金剛剣で斬りかかる。

 

「くっ……!」

 

 咄嗟に対抗しようとするも、この長さのブレードではコンパクトに立ち回ることができず、ジンの一太刀を凌ぐことはできない。縮小も間に合わない。

 

であれば――

 

「なに!?」

 

 士降は、伸び切ったブレードをパージしてジンの一撃を避ける。からぶったジンの隙をついて脇腹に拳をお見舞いした。

 

「グゥッ!」

 

 ジンがノックバックしている内に、士降は再びクリアブレードを扱いやすい1メートル程の長さに伸ばす。

 

「ハハハハハハ!! 楽しいなあ!? ソーイチィィィィ!!」

 

 己の腹部がひび割れることなど、ジンにとっては刺激的な出来事でしかなかった。狂ったかのような高笑いを上げてジンは再び襲い掛かる。

 

 戦いは終わらない。体を斬りつけられても再生し、傷が癒えてもまた傷つけ合う。

 無限の再生力と必鏖(ひつおう)の破壊力の応酬は、永遠に尽きることがなかった。




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