塩の錬金術師 ~死んだはずの幼馴染の手によって異世界に錬成された俺は、最弱錬金術『三原質』で世界を統べて究極の力を手に入れます~   作:クワガタ信者

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第7話 強襲

「あっ……ぎっ! ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

 

 群れを成した獣は、四肢に噛みつき、そのまま男を貪り食ってしまった。

 

「なんっ……だよ……これっ!」

 

 獣の群れは全部で四体。暗くて全貌は見えないが、イヌ科の哺乳類のような見た目をしていた。

 

 男にとどめを刺した獣たちは一斉にこちらを睨みつけてきやがる。

 

 ……次は俺か!?

 

 獣の一匹がこちらに飛び掛かってきた。

 

「っ! ……冗談じゃない!」

 

 咄嗟(とっさ)に地面に手を着き、地盤を隆起させて壁を作る。

 獣の一匹は壁に思い切り体を打ち付けたが、別の獣が岩盤を乗り越えてこちらに飛び降りてきた。

 

 ――空中じゃあ、避けらんないだろ!!

 

 氷と氷を結合、起爆させて雷撃を放つ!

 真正面から雷を食らった獣は、体中に亀裂が入り、そのまま爆散した。

 血肉に混じって岩石がぱらぱらと落ちてくる。

 

 続いて二体の獣が岩盤のサイドからこちらを挟み撃ちにしてくる。

 

 風の力を使い、体を後方にスウェーさせて挟撃を(かわ)した。

 二体の獣は互いに体を強く打ち、隙が出来る。

 

 再び地面から、巨大な岩石の球体を錬成、硫黄の力で起爆させて撃ち出す。

 ボキャアッと鈍い音を立てて、二匹の獣は体液をまき散らしながら絶命した。

 

 ――あと一体!

 

 どこから攻撃が来るか待ち構えていると、背筋に氷をつめられたような感覚が走った。

 

「後ろか!」

 

 ――攻撃!? いや、間に合わない。ここは防御だ

 

 両腕を硬質化させ、噛みつきを封じるが、獣にマウントを取られてしまう。

 

 「くっ! ……ぐぅっ!!」

 

 すかさず短剣を錬成し、獣の首に突き立てるが、弾かれてしまった。

 

 ――硬い! 刃物が通らない! それなら!!

 

 水を凝縮させ、ウォーターカッターの要領で指先から噴射。その首を切り落とす!!

 

 目論見《もくろみ》は成功し、獣の首は血しぶきを上げて草葉の上に転がった。

 

「はあっ……はあっ……はあっ……!」

 

 なんなんだ、この化け物どもは……!

 駐屯の錬金術師を一人殺してしまったぞ……!

 

 嫌な予感がする。全身の産毛が逆立つ。すぐに村に戻らないと!!

 

 息つく暇もなく、空気、風の力を使いながら村まで走った。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 嫌な予感ってのはいつだって当たる。

 薄々わかっていた。あの駐屯術師があのザマじゃ、無事なはずがない。

 

 それでも……これはあまりにも……

 

 目の前に広がる光景は一面の炎。 

 民家は燃え、道端には血まみれで倒れている人の形をした、生きていたはずだった命がころがっている。

 

 この人、見覚えがある。

 肉屋のおっさんだ。シオンに甘く、彼女と買い物に来ればいつだっておまけしてくれた豪快に笑うおっさんだ。

 

 見覚えがある、というのはその人の顔のパーツと身なりでしか判断できない。

 

 なぜなら、普段なら絶対に見ることのない顔で絶命しているのだ。

 

 恐怖に歪み、絶望に彩られた相貌(そうぼう)

 目は見開かれ、舌はだらりと口元から零れている。

 

 今までたくさんの死体を見てきた。

 

 その中にはきっと苦しんで死んだ人や、死に怯えながら亡くなった人だってきっといるはずだ。

 

 でも、こんな表情は見たことがなかった。

 

 俺の所に来る頃には、皆等しく目をつぶり、穏やかな表情にされていた。

 

 俺が見てきたものは全て、見る者に配慮された、綺麗に整備されたものでしかなかった。

 

 これが、本当の死に顔なのか。

 こんなものが本当に人の死であっていいのか。

 

 ………………………………

 

 そうだ、シオン。

 

 シオンを探さなきゃ。

 

 おじさんも、おばさんも。

 

 震える膝をぶっ叩きながらピカール宅に向かった。

 途中、何体かの先ほどの獣に遭遇したが、殺した。

 

 さっきは暗い森の中だったからわからなかったけど、獣は体中を岩石なものに覆われていた。どおりで刃物が立たなかったわけだ。

 

 でもそんなことはどうでもいい。

 早く……早くあの家へ……!

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 帰るべき家の中には誰もいなかった。

 窓はぶち破られ、家の中は荒らされていた。

 

 いつも座っていたソファーがズタズタに引き裂かれていた。

 おばさんの手料理を食べるときに座っていた木製のテーブルが、イスが、原型がわからないくらいに粉砕されていた。

 

「…………」

 

 おじさんとおばさんだったものが残置されていた。

 二人手を取り合って眠るように死んでいる。

 二人の首は爪のようなもので掻き切られていて、辺りのカーペットが真っ赤に染まっていた。

 

 肉屋のおっさんの時とは違って、とても穏やかな顔で眠っていた。

 

「……なんで」

 

 優しかった。

 

「なんでだよ……」

 

 優しかったんだ。

 

「なんでっ……こんなっ……」

 

 俺のことを本当の子供みたいに可愛がってくれたんだ。

 

「なんでっ……!」

 

 足に力が入らない。膝から崩れ落ちる。

 伝う涙が冷たくて仕方がない。氷を頬に押し付けられたような感覚が全身を凍りつかせる。

 寒くて寒くて体を震わす。

 

 そんな俺をあざ笑うかのように、時間は進んでいく。

 悲しみに打ちひしがれることなんて許さないかのように。

 

 きゃあっ、という女の子の小さな悲鳴が聞こえた。

 シオンの声だ。屋外からシオンの声が聞こえた。

 

 壊れた窓から外へ飛び出る。

 十数メートル先にシオンがうつ伏せで倒れていた。

 

 何かから逃げていたところを転んでしまったかのように。

 

「シオン!」

 

 俺の声はシオンには届かなかった。シオンは怯えたような顔で自分の背後を付け回す存在を凝視していた。

 

 現れたのは人型の怪物。

 

 岩石で出来た巨体に、どこかトラの意匠を組み込んだかのような化け物。

 

「手間をかけさせるなよ下等生物が」

 

 その怪人は右手に大きな剣を持っていた。

 

「やめろ……」

 

 怪人は、今にもシオンは両断しようと剣を振り上げてた。

 

「やめろおおおおおおあああ!!」

 

 咄嗟《とっさ》に風の力を最大限に引き出し、疾風のようなスピードで怪人とシオンの間に割り込んだ。

 

 怪人の剣が振り下ろされる。

 

 本来なら土の力で防御するのが正解なのだろう。

 

 だが、今の俺は全集中力を風の力に注いで、ここまで移動してきた。

 今更、土の力で体を固めても明らかに間に合わない。

 

 苦し紛れに腕をクロスさせて大剣を受け止めようとする。

 

 ……ああ、無理だ。

 

 視界の端に、以前俺を殴った駐屯術師のリーダー格が目に入った。

 

 斜めに袈裟斬りにされて真っ二つに絶命していた。

 口を大きく開き恐怖に目を見開いていた。

 恐らく、この怪物に斬られたのだろう。

 

 戦闘に特化したこの男がこの有り様なら、錬金術も使っていない俺の体などバターにも劣るだろう。

 

 ――ここで死ぬのか。

 

 

 

 ――ごめん、ひより。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガギィィィン

 

 金属と鉱石がぶつかり合うような音が聞こえた。

 

「……??」

 

 目の前の化け物は怪訝そうな反応を返した。

 

 それは、自慢の大剣がたかだかチンケな人間一人の両腕に防がれたことではなく、

 受け止めた俺の腕に亀裂が走り、骨のような白い塊が見えていたことだ。

 

「ぐっ! ……ッッッ……!」

 

 腕の亀裂はミシミシと音を立てて少しずつ両腕を侵食していた。

 

「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

 

 苦し紛れに放った一撃が、怪人のみぞおちに沈み込む。

 ガアァァン……と音を立てて、怪人は後方の民家まで吹っ飛ばされた。

 

 バリンッと右手の亀裂が砕けて、真っ白な拳があらわになる。

 そこを起点に体中に亀裂が入り、ついには俺の身体は砕け散った。

 

 ――俺の身体から蝶のように羽化したのは

 

 ――雪のように白く、塩のように清浄な、真っ白の体を携えた()()()使()()だった。




第7話、いかがだったでしょうか。



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