塩の錬金術師 ~死んだはずの幼馴染の手によって異世界に錬成された俺は、最弱錬金術『三原質』で世界を統べて究極の力を手に入れます~   作:クワガタ信者

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第8話 月下顕現、戦士降誕

 想一、――塩の戦士は常闇にそびえる三日月を反射させた水たまりにその身を映した。

 

 無機質な装甲で覆われた肉体。肘には短いが鋭い刃のようなものが取り付けられている。

 

 三本の突起を誂えた王冠のようなものを取り付けた頭部。中央の一本だけが少しだけ長い。

 目に当たる部分には甲殻が層のように折り重なり、口に当たる部分はクラッシャーのように噛みあわされていた。

 

 

 

 そしてその全てが雪のように白く

 

 

 

 ――美しかった。

 

 

 

(なんだよこれ……俺の身体、なのか?)

 

 戸惑う想一が見据える先には、虎の怪人がバキンと建物を壊しながらこちらに向かってくる姿が。

 

 「……やれ」

 

 怪物が手を掲げると、地面から岩の獣が這い出てきた。

 そのすべてが一斉に塩の戦士に襲い掛かった。

 

(まずい……!)

 

 戦士は咄嗟(とっさ)にシオンの前に陣取り、彼女を護るようにその身を振るった。

 

 それは、ただ腕を払う行為。

 文字通り降りかかる火の粉を手で振り払うような所作。

 

 たったそれだけの動作で岩の獣たちは粉砕され、血肉と岩石をまき散らしながら荼毘《だび》に伏していった。

 

 中にはそれを潜り抜け、戦士に噛みつく個体もいたが、その刃歯(じんば)は砂糖菓子のように砕け――

 

 否! 上あご、頭蓋を通して頭部全体が粉々に砕けて絶命していった。

 

 「な、なんだ……貴様は……!」

 

 虎の怪人が大剣を振り下ろしてくる。戦士はその無垢なる両腕で防いだ。

 

 ゴウッッッと地面が陥没し、辺り一面に亀裂が走る。

 それでも尚、戦士の肉体は健在。砕けることもなく、逆に大剣を押し上げる。

 

「ッ…はあっ!!」

 

 前蹴りで虎の怪人を再び吹き飛ばす。怪人の腹部に纏わりついた岩石の装甲が砕き割れ、腹筋に当たる部位が露出していた。

 

 戦士の手元に残された大剣は、そのまま堅靭(きょうじん)なる怪腕(かいわん)にて破砕された。

 

「はっ……!」

 

 戦士は後を振り返る。戦士を見据えるのは、怯えるような、恐怖に彩られて光を失ったシオンの瞳だった。

 

 それは、虎の化け物に向ける視線とまるで変わらなかった。

 

(……今は……!)

 

 戦士は再び前を向き、怪人に向き直った。

 

「貴様……なにも――」

「お前たちこそなんだ!!」

 

 怒りの鉄槌が、怪人の鼻先を打ち据える。

 

「この人たちが何をした!」

 

 怪人の右脇腹に拳が突き刺さった。

 

「どうして殺されなきゃいけないんだ!!」

 

 拳骨にはメリケンサックのように尖った棘があしらわれていた。

 削岩(さくがん)の果てにある筋肉に届き、赤く染まる。

 

「ガアッ……この!!」

 

 苦し紛れに反撃の一発を放つ。渾身の一撃も虚しく、清廉(せいれん)の肉体には傷一つつかず、むしろ放った側の拳がひしゃげてしまう。

 

「くぅわっ!?……俺のっ……! 俺の拳があ゛あ゛あ゛!!」

 

 怪人は拳を抑え、痛みにもだえ苦しむ。

 

 戦士は何事もなかったかのように、咆える。

 

「なんなんだ! お前たちは!!」

 

 怒りのまま両腕でのコンビネーションが怪人を乱れ打つ。

 

 怪人の装甲はほとんどが剝げ落ち、見るも無残な姿へと変貌していく。

 もはや先ほどのような雄々しい猛虎の面影はない。

 

「ばっ……馬鹿な……こんな……」

 

 自らの敗北を察する。巨大な得物も、自慢の肉体も一切通じぬ。

 ひたすらに下される圧倒的な暴力。一方的な裁き。

 誇り高い猛虎の怪人には辱め以外の何物でもなかった。

 

 ――だが、そんな物は関係ない。

 大切な家族、村人が受けた無念は、痛みは、恐怖はこんなものではないと、戦士は烈火のごとく燃え盛る。

 

「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

 戦士は怒りのあまり、右手の指を痙攣《けいれん》させて咆哮する。

 震えをねじ伏せるかのように硬く握りしめ、怪人の喉元に撃滅の肘鉄を食らわせる。

 

 肘に備えられた刃が怪人の喉笛を貫いた。

 

「がっ……がぼっ……ごえっ……!」

 

 ――月夜を反射して閃光が迸る。

 

 貫いた刃をそのまま振り抜き、そっ首を落とす。

 

 

 

 ――勝負は決した。

 

 真白な御身(おんみ)に、屈辱の赤い花びらを散らばせて。




第8話、いかがだったでしょうか。



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