今日はアレットの初仕事の日です。
コッコーという鳴き声がそとから聞こえてくると、アレットはベッドの布団をぼふと荒々しく蹴り飛ばしてキッチンへかけこみます。キッチンの水瓶から鍋でひとすくいすると、髪を丁寧に整えます。
それから、愛用のライターのホイールを何度か回して、火花が小さな炎に変わったところで木片に火を移し、かまどへ投げ入れました。通気口を開いて、軽くふいごで吹いてやると炎はアレットの顔をオレンジに照らすことで応えました。
鍋を火にかけて、空いているスペースにフライパンを乗せ、少しオリーブオイルを垂らしてから鶏卵をそっと割り落とします。ポットに砕いた紅茶の葉を入れ、ビスケットを缶から取り出すとフライパンの様子を眺めながら、アレットは自慢の大きな翼の毛繕いを始めました。
程よく卵が焼けた頃、軽く温めたビスケットに目玉焼きを乗せ、塩をひとつまみ回します。それから、大きくかぶりつくと、あっという間になくなってしまいました。今日は少し焦がしてしまったと独りごちて、フライパンの汚れをかき落としました。
その頃にはすっかり熱くなっていたお湯を柄杓でポットに移し、かまどの通気口を閉じます。このかまどは優れモノで、通気口などを閉じると火が消えるようになっているのでした。
出来上がった紅茶を水筒に移すと、凹んでしまわないように蓋についている金具を少し緩めます。
動きやすい服装に着替え、郵便屋のポーチと帽子をかぶると、玄関口からも見える3階建ての大きな建物へ向かいます。そこが、郵便屋なのでした。怖いような、楽しいような、ソワソワした気持ちでつい小走りになって、早朝の街をかけていきます。
郵便屋へつくと、昼のような賑やかさがそこにありました。
「これはどこいきだ?」や「気をつけて!それは割れ物だよ!」と荷物と、人が入り乱れています。
あっけにとられているアレットの肩を、誰かが叩きました。
そこにいたのは、先輩のミデアです。身長はアレットよりも小さいですが、どことなくがっしりとしています。
「面談以来だね。改めて、ミデアだ。ここらはじゃまになる、あちらで話そう」
「は、はい!」
「元気でよろしい。どうだ、朝の様子はすごいだろう」
その背中の茶色い翼を追いかけて、アレットは奥のテーブルへと向かいました。
ミデアがテーブルに真新しい地図を広げます。空いた場所に、小さな包を置きました。
「私たちが、ここ」
指差された地図にはホームと書かれています。アレットが頷くのを見て、ミデアはそこから道順をたどるように指を滑らせて、隣街で止まりました。
「それで、ここが今回の目的地。途中の橋が先日の雨で落ちてね、そこで我々の出番というわけだ」
「はい!」
ミデアは満足げに頷くと、小包をアレットに渡しました。
「そして、この地図は我々の身分を証明するものでもある。仕事中は必ず持ち歩き、なくすことがあれば直ぐに相談するんだよ。さぁ、軽く魔力を通してみたまえ」
「はい!」
「このように、魔力を通している間は今の位置を大まかに知ることができる。一度通せば3日は保つよ。壊れにくくする効果もあるから、あまり切らさないように。なにか緊急で助けが必要なときは、魔力が通っている状態で強く願いなさい」
「はい」
「うむ、ではそれはしまって。これが荷物の依頼書だ」
アレットが差し出された紙を見ると、そこには誕生祝いに焼いた小皿を届けてほしいという事が書いてありました。
「では、行こうか。ただ、私も配達があってね、三日月湖は分かるね? あすこを抜けるところまでは一緒に行こう」
アレットとミデアは3階へと登り、広いベランダのような場所へと出ます。
今か今かと意気込むアレットをたしなめ、ミデアは空へとあがりました。
アレットもまたあとに続きます。爽やかな朝の風がひゅうと頬をなでました。