俺がピチューに転生してから数年。同時期に孵化した幼馴染達のうち、早熟な奴は既にピカチュウに進化した頃。俺は一匹、川辺の水浴び場で水浴びをしていた。
この水浴び場は俺がコツコツと石を並べたりして作った物で、群れのみんなもたまにだが使っている。
「ピッピチュ〜……(きっもちいい〜……)」
俺は元々が人間だったからか綺麗好きで、ちょくちょく体を洗わないと落ち着かないのだ。
ノンビリと水に体を浮かべて寝そべっていると、少し離れたところが騒がしくなった。確か、群れのみんなが居る場所だ……。
胸騒ぎがして、息を潜めつつも急いで向かう。辿り着き、茂みの影から覗くと、
「ピッ!?(なっ!?)」
檻の中に閉じ込められた仲間達の姿があった。
「はっ!こんなところでピカチュウにピチューを捕まえられるなんてな」
「とんだ臨時収入だな!はははははっ!!」
檻の近くでは、黒尽くめの男二人がそう言って笑っていた。
前世の知識から男達の正体に見当が付く。ポケモンハンターだ。
「ピッ、ピチュ〜……!(あ、あいつら〜……!!)」
怒りに震える俺は茂みから飛び出し、男の片方に『とっしん』する。
「ぐえっ!?」
「なっ!!まさかまだ居たのか!!」
吹き飛んだ仲間を見て、残った男がモンスターボールを取り出し、呼び出す。
「やれ!ドガース!!」
「ドガァ〜」
こちらを見下すドガース。初めてのバトルに冷や汗をかきつつも、
「ピッ……チューッ!!(やったらあっ!!)」
そう気合を入れて、『じゅうでん』をしてから『ボルテッカー』を使う。
「ドガッ!?」
「ピチュっ!?(ぐっ!?)」
しかし、ドガースに激突した際にドガースの口から漏れた『どくガス』を浴びてしまう。
「ピッピカッ!!」
「チューピッチュ!!」
檻の中の仲間達が俺に逃げろと叫んでくる。しかし、仲間を見捨てることなんて出来ない。
毒でフラつきながらもドガースを睨んでいると、横から何かが俺に『たいあたり』してきて、俺の体は吹き飛んだ。
「痛えじゃねぇかよ、なあっ!!」
「がるる……っ!!」
先程俺が『とっしん』した男が、痛そうに腹を擦りながらポチエナと共に俺を睨みつけていた。
「ピッピカピッ!!」
「チュ〜ピッチュウッ!」
「ピッ、ピチュ……(で、でも……)」
「ピッカチュ〜ッ!!」
群れの仲間達がまた逃げろと一斉に叫ぶ。それに口答えしようとした俺を、群れのボスで、俺の親代わりだったピカチュウが逃げろと命令した。
「ピッ……ピチュッ!!(くっ……くそおっ!!)」
「なっ!?」
悔しさを噛み締め、俺は逃げ出す。滲む視界の中、必死に走って走って、俺は友達を、親を、兄弟を、群れの仲間達を見捨てた。見捨ててしまった。
くそっ!くそくそくそっ……くそおおおおっ!!
俺の胸の中で怒り、悲しみ、悔しさ、憎しみ。それらの感情がぐちゃぐちゃに綯い交ぜになって、言語化出来ない。
ただ、一つ確かな事は。俺は、失ってしまったのだ。大切な物を、全て。