カントー地方の田舎町、マサラタウン。ポケモン学の権威、オーキド博士の研究所がある事ぐらいしか特徴の無いこの町の近くを流れる川辺で、一人の少女がつまらなそうに座っていた。
彼女の名はカレン。マサラタウンに住む五歳の少女である。
「またお兄ちゃん達だけで森に遊びに行っちゃうし……。つまんない」
二歳上の兄とその幼馴染達を思い出し、一人残された事に拗ねて頬を膨らませる。と、
「ん?なにあれ」
川から何か黄色いものが打ち上げられているのを見つけ、興味本位で近寄ると、
「……っ!?」
ボロボロのピチューがグッタリと倒れていた。
「急いでポケモンセンターに……!いや、マサラタウンには無かったし……。ああもう、博士のところでいいや!!」
ピチューを抱え上げると、カレンは急いでオーキド研究所へ向けて駆け出すのだった。
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(なんだこれ……。気持ちいい……?)
森の中では味わったことのない柔らかな感触を頬に感じる。次に、意識を失う前まではあった痛みを感じなくなっている。
どういう事だと目を開けてみると、そこには人工的な天井があった。
驚き、咄嗟に跳ね起きて周囲を見渡し警戒する。と、
「おお、目覚めたようじゃの」
と、お爺さんがやってくる。
以前までなら野生に有るまじき勢いで近寄っていただろうが、
「ピッ、ピチュッ……!?(に、にんげん……!?)」
あのポケモンハンターのせいで、不信感をどうしても抱いてしまう。
状況的に、このお爺さんが俺を治療してくれたのだろうが、人間が怖い。
「むっ、大丈夫かの?」
「ピッ、ピッチュウウウウウッ!!(さ、触るなあああああっ!!)」
「しびびびびっ!?」
こちらに近寄って来たお爺さんに、思わず『でんきショック』を浴びせてしまう。
「ピッ……(あっ……)」
慌てて放電を止めると、お爺さんは黒焦げになりながらも「どうやら元気になったようじゃのう」とピンピンとしていた。いや、凄えな!?
思わずびっくりして動きを止めると、部屋の外から「はかせー?」と幼い少女の声と共に、茶色がかった黒のボブカットの女の子がひょこりと扉の影から顔を出した。
「って、ああっ!!ピチュー起きてる!!」
そう言って女の子は俺へと駆け寄ってくる。が、
「おっと、待ちなさい」
「え、なんで!?」
静止させたお爺さんに、女の子は不満そうに頬を膨らませる。
「どうやらこの子は臆病な性格のようだからの。下手に近寄りすぎて怖がらせたらかわいそうじゃろ?」
「そっか……」
そう言って、納得しつつもションボリと引き下がる女の子。その姿を見ると、少しかわいそうに思えて、
「ピチュ……(大丈夫か……)」
「むっ?」
「へっ?」
ゆっくりと女の子の足下へと近付くと、お爺さんと女の子は驚いた声を上げる。
「大丈夫なの……?」
「ピチュ、ピッピチュピッチュー(おう、大丈夫だぞー)」
恐る恐るとしゃがみ視線を近づける女の子に返事をする。ポケモンになったからか、直感というか本能というか、そういった物でなんとなくこの女の子は安全な相手だと思った。
「……どうやら、そのピチューはカレン。君になついたようじゃの」
「そうなの?」
「ピチュ?(さあ?)」
女の子と見合ったまま同時に首を傾げる。と、それを見ていたお爺さんが声をかけてくる。
「どうじゃ?ピチューも傷は癒えたし、カレンが連れて帰るか?」
その言葉を聞いた女の子は俺を見ると、俺を見つめてくる。
「……あなたはどう?私と一緒に来る?」
その言葉に俺は自然と頷いていた。「そう……!」と、嬉しそうに俺を抱え上げると笑った。
「私はカレンっていうの。これからよろしくね、ピチュー!」