機動戦士ガンダムEXT. 〜偽りのニュータイプ〜 作:西宮 凜
荒地、僻地、コロニーの残骸。
北米各地に点在している、忘れ去られたような連邦軍基地としては、なにも珍しい光景ではなかった。HLVでも使わない限り、田舎の内地などは侵攻を受けず、尚且つ奪うような価値もない。
多少沿岸地域に近い、北米東部に位置するこの「ハミルトン基地」が残っているのは、一大都市ニューヤークに近いが故か。はたまた自分のような厄介者、あるいは軍規違反者を収容する、最終処分場のような実態故か──。
前者だった場合にしても、当基地はその役目を果たせなかった訳だが。
「おォい、ジム。模擬戦の時間だぜ?」
区外への外出禁止令を出され、やることもなく木陰に寝転んでいた。しかし、束の間の休息だったようだ。歯も顔も黄色がこびり着いたような、同類とも同僚とも取りたくない、そんなような男に叩き起こされる。
だがまだ今は、休んでいたい。
仰向けだった身を横向きに捩り、軍帽を目深に被り直す──その寸前、ジェイムスはフェンス越しの彼方を見て、耽った。
今は遥かなる地、オーガスタか、と。
◇◇◇
神か、死神の気まぐれか。
あの夜──ニューホンコン上空戦を経て、五体満足に生き延びたパイロットは、結局ジェイムス一人だけであった。
街の炎が燃え尽きて、その焼き焦げた様が照らされる頃。日も高い昼ごろになって機は回収された。しかし二隻が飛んだ後だ。迎えたのは当然ウッダー大尉でも、ニタ研
マフィアのような出で立ちをした、ホンコン特務機関の面々であった。
『という事はつまり……今回の惨事は全て、ムラサメ研究所の送り込んだ強化人間の暴走が原因だと⁉︎』
『ベン・ウッダー大尉の考案した作戦も、ホンコン市民の安全を第一としたクリーンなものとなるはずだったのですが……』
『我々ムラサメ研究所は、全責任を負う覚悟で対応にあたる所存で……』
モニターにでかでかと表示され、フラッシュとテロップが当てられる、女。そのボリューミーな髪型には見覚えがった。
青い髪色の強化人間、そしてサイコと共にスードリへ来た、ピョンヤンとは異なるニタ研の増援──そう、ムラサメ研の
自身を連行した尋問官から、説明を受けるまでもなく理解できた。
ウッダーは、ティターンズはあの事変を隠蔽する気なのだと。
あくまでも最初から強化人間によって、その暴走によって引き起こされた「悲劇」であり「事故」であった、と。
途端に自身の中にあった、義憤と正義のヒビが大きくなった。
旧地球連邦軍本部、ジャブローに対する核攻撃。アレは本当に──エゥーゴがやったものなのか?
『相変わらず緩慢だなァ、ジム‼︎』
気づけば意識はコックピットに、機体は
リングといえば聞こえはいいが、実態はコロニーの残骸であり、基地司令黙認の賭博場であった。今日も曇天の空の下、白昼堂々と〝訓練〟が始まる。
ジム、元いジェイムスはレバーを倒し、自機「ジム改」を二歩ほど後退させる。赤熱化こそしていないが、当たれば即死という設定だ。
訓練用に作られた、木製の斧のような形の獲物──擬似ヒート・ホークを間一髪で避け、それ以降は後方へとジャンプした。
やはり、軽い。かつて慣れ親しんだ訓練機や、乗機のどれとも反応が違う。
ジオンとは関係ない身の上だが、
『逃げンじゃねーよ‼︎』
『格闘戦をやれ、格闘戦をーッ‼︎』
やかましい博徒元い同僚たちの中に、とりわけ落ち着いた男を見とめる。黒っぽいあの服は見る影もないが、いくらガワや所属を変えても、雰囲気まで変わる訳はない。
ガラの悪い他の前科持ちでさえ、彼に近づくことはなかった。特務を受けた者のなりは、なんとなく匂いで分かるのだろう。
たとえ不衛生な檻の中でも、監視の目は常にあった。
『いい加減に、くたばれぇッ』
古い三面鏡のようなモニターのうち、正面のメイン・カメラには、こちらを唐竹割りせんとする「ⅡF2」が見えた。
ある意味、正確な攻撃だが──ジェイムスはジム改を右横に傾け、右の──ではない──グリップの左を握り直し、背部ランドセルから獲物を引き抜く。
これだから、連邦系MSは慣れないのだ。
振り下ろした後が
ジム改は左上から下に掛けて、懐に入ったザクを袈裟斬りにした。
『ク、ソぉ……』
ゾッとする断末魔のような呻き声の後、ザクのモノアイから光が消える。どっとリングに膝を突く。
もちろん、ビームサーベルは訓練を加味した、専用の超低出力品だ。機体はおろか、氷に当てたとて何も起こらないだろう。
しかして訓練機、そのセンサーに吹き付けるだけで、途端に機能を止める魔法の杖だ。
『あーあ、商売上がったりだよ』『低オッズでチビチビなんて、誰がやるんだか』『八百長ならいつでも歓迎だぞォ』
ジムの特性は未だ受けつけないが、勝って非難を受けるのには慣れた。尤も基地司令官を含む、背広組もあの体たらくだ。兵士らしいことをして褒められもしない。
ただ──ハミルトン基地ではない。連邦軍上層部が決めた停戦であっても、それに酔いしれることはしたくなかった。
ティターンズとして、ではない。元オーガスタ基地テストパイロットとしての意地であり、僅かながらの誇りであった。