機動戦士ガンダムEXT. 〜偽りのニュータイプ〜   作:西宮 凜

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悪魔の天使

【宇宙世紀〇〇八八年十一月十七日・北米「ハミルトン基地」】

 

 オブジェと化したドムタイプの奥は、混沌を地でいく有様であった。

 帰還に遅れた例の2F2などは、とっくに木の斧を墓標代わりだ。そこには花こそ供えられていないが、色の違うザクが呻いている辺り、奇襲には極力抗ったのだろう。

 

「すまない、遅くなった……」

 

 先の救援信号を思い返し、弔いがわりにビームを放った。途端、こちらを睨んでいた、そのザクのモノアイが色を失う。

 雲が流れ、雨も止み始めた基地上空から、TMS三機が降りてくる。レトロな未確認飛行物体(UFO)に足の生えた姿から、素早く人型へと姿は変わった。が、トドメのビーム砲を撃ってはこない。見ただけでも分かった。銃身が焼き付いてしまったのだろう。

 素人め。そう笑う気力すら残ってはいなかった。

 巡回部隊を撃破したのだろう、基地外苑からもMSが迫っていた。その二機も旧型(ザク)とは似ても似つかない、流線型をした緑の巨体である。

 不自然に被害のない基地建屋をバックに、銃口を向けられつつ呼び掛けられた。外部スピーカーの音は自分はおろか、基地全体に聞こえる喧しさをしていた。

 

『我々は基地内の捜索こそが本来の任務であり、無益な殺生は本意ではない。投降すれば命は助ける』

「投降、だと……?」

 原型を留めないジムとザクの骸に、襲撃時に際して逃げ遅れたのだろう、赤いペーストやちぎれ飛んだ四肢。

「南極条約に則った扱いをしてやる、そう言ってんだよ。連邦の()

 

 ネオ・ジオン。

 こいつらにとっての戦争は未だ、あの日から終わってはいないのだろう。

 自らが軍に憧れる、その要因となった戦勝パレードの日でさえ、ずっと。奴らにしてみれば屈辱に耐え、偽りの終戦だか何かに鉄槌を下さん、そう数年待ったと宣うのだろう。

 しかし、これはナンセンスだ。

 さらに後方から接近する影は、忘れたくても忘れられない。例の紫のTMSではない──アレの中には特大サイズの、本来であれば連邦正義の象徴たらしめる顔が収まっていて──。

 こちらの絶望の慟哭とも、兵としての意地とも取れない行動よりも。飛来したサイコ・ガンダムの方が早かった。

 ミノフスキー・クラフトによって浮かぶ塊から、地上に審判が降り注ぐ。

 

『なんだ、こいつはっ』

『援軍の予定なんて、聞いてないぞ⁉︎』

 

 恐れ慄いているのは友軍ではない。

 外部スピーカーを切り忘れたまま、機内の回線ごと悲鳴は漏れていた。

 紫の可変機は背中から伸びるメイン・フレームらしきものの頂点から、必死にビームで弾幕を張る。しかしサイコには無駄なことだ。たとえ中身が非強化人間《あのベン・ウッダー》でも、Iフィールドは機能する。

 かつてビグ・ザムが猛威を振るったことも、あの若い声に分かる筈もないのだろう。

 そうして「ガンダム」となったサイコが降り、可変機のうち一機を着地際に踏み潰した。……胸部は潰れている。どう見ても即死だ。

 スピーカーも機体ごと壊れ、基地一帯には静寂が戻る。

 そこに乗せられるのは再びにして、戦果の音色だけとなった。

 

 よくも仲間を──といった塩梅で、例のザクでもない緑色がライフルを向ける。だが、こちらは先よりもベテランなようで、すぐに両肩のシャッターを開いた。どうやらミサイルの射出口らしい。

 他の同列機もその機体──隊長機なのだろう──の手法に倣い、携帯式ビームガンのミサイルとともに、撃ち放す。

 サイコの陰はすぐに見えなくなり、辺りは着弾時の爆煙にまみれた。機動性は如何ともし難いのだ、避けられはしないだろう。

 それでも隊長機だけは油断せず、左手をまっすぐに煙へと向ける。見覚えのある、グフにも似た実弾の兵装らしい。四本の破線が指先から、容赦なく煙に消えていく。

 しかし、そのパイロットにも「見えてしまった」ようだ。

 

 フィンガー・バルカンの撃ち出した曳光弾の影には、黒光りしながら蠢く体躯が、先とは変わらず映っており──。

 他のネオ・ジオン機がまたぞろペンギンのように、左手を向けるより早かった。

 煙の中からは紫の瞳、そして光の筋が幾重にも渡って瞬いていた。

 

 その阿鼻叫喚の光景は、まるで怪獣映画か何かである。

 半端な実弾式副兵装などは、そもそもとして意にも介さない。(そもそもがバズーカを命中させても、的確に狙わなければ致命打足り得ないほどの重装甲である)しかし攻撃は徹底的に、指先の一本一本が確実かつ緻密に、敵対する意思を捉えては逃さない。

 計十本のメガ粒子の光線は、一瞬でネオ・ジオン機を壊滅させる。

 残ったのは例の隊長機だけであり、他の同型や残りの可変機などは全て、綺麗に胸部を貫かれていた。

 

『き、貴様ぁぁぁ……‼︎』

 

 回線が混ざり、隊長機の吶喊の声が耳に入った。

 先ほどジェイムスが取ろうとしていた、最後の意地のような衝動である。

 緑の機体は格闘武器すら手に取らず──装備されていないのだろうか──右手を深く引き込みつつも、サイコの頭を目指して跳んだ。

 つい先ほどまでは、屈辱と暴力を受ける身であったのに。ジェイムスは既に、彼の特攻に想いを馳せていた。

 しかし。現実はいつだって非情である。

 サイコは当然、防御行動を採り、隊長機をマニピュレータで鷲掴みにする。どこのスラスターを吹かせたとて、もう彼にはどうしようもない。如何に最新鋭の化け物といえども、その馬鹿力には敵うべくもなく。

 サイコは、両手で掴み上げた機体を高く掲げ、頭部の砲口からゆっくりと、絞るような嘶きの音を上げ──。

 自らの両手の位置する、コックピットだけを。撃ち抜いた。

 

「お前は……お前はァ……‼︎」

 

 骸と化した塊を捨て、なおも残敵へとメガ粒子を放っていたサイコを、気が付けば撃っていた。

 旧式のジオン機だけを狙い撃ち、明らかに基地を守っているその友軍機を。

 弾切れ、エネルギー切れをパイロットに知らせる、トリガーの乾いた音が鳴る頃になって、ようやくサイコはこちらを向いた。

 雨の上がった夕焼けの陰には、ブレードアンテナを備えた悪魔の顔──サイコ・ガンダムの表情は、神話の天使のように無慈悲であり、無邪気にすら見えた。

 

『全部片付けたよ、基地守備隊のお兄さん』

 

 二度目の外部スピーカーの声は、男が発する声色《おと》ではなかった。




ここからは3日毎の更新、次回分掲載は12/11(木)となります。
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