機動戦士ガンダムEXT. 〜偽りのニュータイプ〜 作:西宮 凜
「……お前は‼︎」
AE社による差金と思しき、エゥーゴ元い新・基地守備隊。アクシズパイロットが不用意に漏らした、基地内捜索任務とやら。
そんなきな臭い情勢に加えて、サイコガンダムと来た。
そこにこの女が出たとなれば、途端に結論が見えた気になる。
忘れもしない。ホンコン特務の取調室で──スードリ隊に居た頃に見た、ムラサメ研究所の女。ナミカー・コーネルに他ならない。
「今度はなんだッ、何をするつもりなんだッ⁉︎」
「ちょっとっ、いきなりなんなのよアナタは⁉︎」
暴力への抵抗、拒絶の色には、素直な困惑も混じっていた。
しかし、それは単なる想像力の欠如であったと、最悪の──いや、ある種予想通りの形で裏切られた。
「スードリで一緒だったのは調べたわっ、でも私とアナタの面識なんて、ほぼ無いに等しかったじゃない……ッ」
言うだけ言わせて、ほぼ突き飛ばす形で彼女を放す。胸元を掴まれていたからか、地面に跪いた後は咳き込んでいた。
これだから、強化人間などと平気で抜かせるんだ。
そう心中で毒付くと同時に、ロザミア少尉のことを思い出して、さらに顔を顰める。
あんな場所、戻りたいと思う方がおかしかったんだ、と。
「で、今度は何の用だ。前みたく独り生き残った訳だが、今度は俺を地獄の底にでも幽閉しに来たか?」
「違うわ、むしろ栄転と言えるかもしれないわ、ジェイムス・リドル
もう一度掴み掛かりたかったが、それよりも驚きの方が勝った。
これは単なる昇進なのか。それとも正規軍兵士に対する、二階級上の扱いなのか。
「また俺をティターンズに戻すつもりか」
コーネルはメガネのズレを直し、その場に立ち直しつつも首を振る。しかし、目はこちらに向いていないようにも見えた。
「残念だけど、それも違う。アナタには……」
──サイコ・ガンダムの支援をしてもらう。
いつだかの夜に聞いた台詞。いつだか夜に
ジェイムスの記憶が確かなら、その場には「黙認」という形を取るため、コーネルも混ざっていたはずだ。
「それは、彼女も周知しているのか」
しかし、作戦を告げたスードリ艦橋には、正規パイロットの姿はなかった。門外漢であるウッダーが独断で動かし、結果としてあの惨事である。
既に地獄の釜にも慣れた。遥かなる地への望郷の念も、何もかも。
拒否して左遷、はたまた収監となったとしても、何ら後悔はしないだろう。
既に自らを待つような肉親は、故郷と共に海に沈んでいた。
「で、どうなんだ」
彼女は一瞬だけ目を逸らし、しかし真っ直ぐにこちらを見据えた。
「彼女のことが気になるのなら、彼女自身に聞けばどうかしら」
◇◇◇
十数分といったお預けを食らい、小人族のように暫く待った。
あの華奢な文官らしい体つきだ。MSに標準で搭載されている、昇降用ワイヤーで乗り降りなどとはいかないのだろう。
やがて「汚れ」や空らしき食料、その他諸々を持ってコーネルが降りてきた。行きに持っていた新品のそれらが、どこに消えたかなどは聞かずとも明白だった。
「流石に、昇っては来なかったのね」
「銃殺刑だけはゴメンだからな」
コーネルはデパートのエレベータ嬢のような手振りをすると、その濃い口紅を静かに綻ばせた。
そうして一旦に荷物を置いて、ジェイムスに着けていたインカム手渡す。
「ごゆっくり。彼女にとっては良い刺激だから」
こうして塔の上に閉じ込めた魔女が、何を言うのだろうか。
昇降用クレーンに自らは乗らず、過保護といった概念を超えた、汚れた衣服やその他を抱えて、コーネルはサイコから離れていく。
色々と思いを巡らせるうちに、例のインカムからは声が漏れ出た。
声も無しに接近を察知するとは。これも人造のニュータイプ故か。
「ねね、多分さっきのお兄さんでしょ』
恐らくにさっきの少女の声だ。しかし先より上擦った声色で、機嫌もそこそこ良さそうに聞こえる。
「よく分かったな。カン、ってヤツか?」
『ううん。サイコの中で静かにしてると、他の機械の音が聞こえるから』
意外と世の中のニュータイプも、このようなタネをしているのだろうか。
それを彼女へと問うよりも早く、クレーンの昇降が停止する。
『ナミカーさん以外と喋ったのは初めてだったから。多分、後でお話しできるんじゃないかなーって‼︎』
サイコガンダムは頭部にしても、厚い装甲で覆われている。当然、パイロットを保護するためだが、逆に言えば鉄壁の監獄にも等しい。
インカムを耳元から外してしまえば、声は途端に聞こえなくなる。装甲の層が防音の役割をも果たしているのだろう。
「会うことは、できないんだな」
『うん。研究所の事故の後から、私ここから出たことないんだ』
そのための汚れと、食物の供給か。
しかし、そこまでの徹底した秘密主義を聞くと、一つ気になる要素が浮かぶ。
「コーネル、いや。ナミカーは、君と他人に会わせないようにしてるみたいだが、なんであの時は「良かった」んだ?」
苦笑いするような息遣いが飛び、彼女は照れるようにインカムに語った。
『ずっとコックピットの中だから、暇で暇で……』
「暇で、なんだ?」
『コードを何となくで弄ってたら、スピーカーの配線を直しちゃったみたいで……』
呆れた訳ではない。が、思わず溜め息を漏らしてしまった。
間違いない。コイツの中にいるのは
しかし彼女からしてみれば、呆れられたように聞こえたのだろう。それはそうだ、彼女の世界はナミカー以外、全てが音であるのだから。
『でもねっ、直したのはずっと黙ってたの。言っても怒られて直されるだけだし……』
──だから、チャンスは一度切りだった。
──でも、良かった‼︎
弾けるように言葉を連ねて、彼女はジェイムスに言い放つ。
その爛漫とした、期待に満ち満ちた息遣いはまるで、空想に夢見る姫のようだった。
【宇宙世紀〇〇八八年十一月十七日・月面「フォン・ブラウン市郊外】
「そうか。ハミルトンにあるEXAMの残り香は無事だったか」
『ハッ、同様にオーガスタも攻撃を受けたようですが、既に展開済みであった別働隊によって対処されました』
通信機のモニターには特務部隊長と、自らの弛んだ顔の皺、後退した前髪がうっすらと写っていた。老いには勝てないものだ。
「ムラサメ研の問題児も足取りは未だ掴めてはおらん。襲撃を受けた際の防衛は勿論、ヤツの確保も任務のうちだ。その時は、頼むよ」
青みがかり、長距離通信によって歪んでいた顔が、さらに少し歪んだ気がした。
言葉が一瞬途切れた辺り、部隊長も恐れてはいるのだろう。
『
「そうだ。ヤツはアクシズと同じように、あの事故からニタ研を荒らし続けておる。薬の持ち合わせも少ないはずだ、どこかで必ず尻尾を見せよるだろう」
残ったニュータイプ研究所は、彼の機を撃退したピョンヤン以外、
──アクシズ攻略が失敗したとはいえ、ネオジオンは地上を捨てた。
──あくまで残党としてではなく、公国を継ぐ国家としてなら。
──地上に存在する鉱山資源無くして、繁栄はあり得ないだろう。
確かに、別荘を失ったのは残念であった。連邦宇宙軍の地球軌道艦隊を黙らせる戦力で、コロニー落としを敢行したこともまた、脅威であった。
しかし、それこそスポンサー以外、基盤という基盤を持たなかったエゥーゴのように。その天下は長くは続かないだろう。
──これは、戦後を見据えた椅子取りゲームだ。
──その空席に、古き強化人間の分はあるのか。
ジオン側の始祖を元にして生まれた、連邦側、記憶操作型強化人間の
メラニー・ヒュー・カーバインは、純然たる企業の利益だけに限らず、彼そのものにも興味を示しては止まなかった。
次回分掲載は12/19(木)となります。
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