機動戦士ガンダムEXT. 〜偽りのニュータイプ〜   作:西宮 凜

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再演と爆煙

 既に市街地(ニューヤーク)南西の方角には、ビームの光や爆発が見えた。ジェイムスは交信が途絶える前、ヒッカムとの会話内容を思い起こす。

 

『連邦軍、元いカラバの本隊は、あくまで東部から侵攻する。いくらサイコガンダムとはいえ、敵の砲火が集中しても不味いだろうからな』

『ジオンのゲタと航空戦力は、ニューバーンとノーフォークを迂回して現在攻撃任務中(ケープカナベラル)だ。ビル陰だけを気にすりゃあ良い』

 

 ビル街の入り口に到達し、彼女(フレイヤ)も戦闘体制を取る──冷蔵庫のような出で立ちは崩れ、ガンダムとなった巨体が街へと降り立った。

 その際の激震があろうとなかろうと、結果は恐らくに同じだっただろう。

 ネオ・ジオン軍らしきその機影、ハミルトン基地でも覚えのある緑色が数機、早速路地から飛び出してくる。

 

『効っかないよーだ』

 

 しかし件の隊長機ほど、彼らの練度は高くないらしい。

 まるっと肥えた緑色達は、ライフルを撃つこと以外頭にない。教本通りといった姿勢のまま、微動だにせず連射するだけだ。

 尤も、銃身付属のミサイル程度なら、サイコには致命打足り得ないことなど確認済みだ。事実、ハミルトンでアレだけの弾幕に晒されておきながら、フレイヤは今日も元気である。ただし──。

 ジェイムスは視野を広げるためにも、ド・ダイ改の高度を上げた。

 あの夜のように、メガ粒子砲で援護射とは行かないが、戦術と視野の幅を三次元に出来る意義はあまりにも大きい。

 

「フレイヤ、正面右側のビルの陰」

 

 伸ばした指先が壁ごと射抜く。

 

「機体後方、偽装網を解いたMSが二機」

 

 上半身をぐるりと捻り、胸部メガ砲が夜に瞬く。

 流星にも等しい光線の後には、例外なく爆光の華が咲いては散った。

 

『次はどこかなあ?』

 

 噂によるとサイコ・マシーンは、自機のレーダー機能以外に、敵機の「殺気」をも読み取ると聞く。あの夜に遭遇した赤い機体を鑑みれば、あり得ない話でもないだろう。

 ただ──彼女のそれはあくまでも常識の範囲内であり、人間らしい見落としもする。こうして無線での会話も嗜む。

 確かに少々、彼女には子供染みたきらいはあった。

 現に逃げ遅れたうちの一機を捕まえて、蜻蛉の羽を捥ぐように「撃破」している。

 

「作戦行動中だ、敵地のど真ん中なんだぞっ」

『あんまり使い過ぎても焼けついちゃうよ……』

 

 しかし、声を聞いているからだろうか。

 かつては同じ部隊に所属した彼女ら──同郷(オーガスタ)の出であったロザミア少尉や、以前のサイコの操縦者とは違い、不安定なようには見えなかった。

 あくまで「強化人間」でないように見える、そういった希望的観測ではない。

 何かこうニュアンスの違う、近縁種を思わせる些細な違いで──。

 

《CAUTION!!》《CAUTION!!》

   《CAUTION!!》

 

 物思いに更けている時間ではない。また、こうした高みの見物だけが、このジムⅢ改に課せられた役割でもなかった。

 ジェイムスは、サイコから離れた地点に沸いた、熱源──たった今緊急起動させられたと思しき、黄色い機体へと機首を向ける。

 ジム改の頃より感度は鋭く、有効範囲も桁違いだ。

 尤もサイコの近くともなると、ミノフスキークラフトに伴う散布の影響か、多少センサーやら通信機器やらが悪化するが。それでも多少耳障りが悪くなる程度だ、使用には何ら問題はない。

 ジェイムスは副兵装のトリガーを引く。下駄(SFS)のミサイルやメガ砲ではない。機体自身(ジムⅢ)の腰部対艦ミサイルである。

 そうして両腰のランチャーのうち、右に搭載された三本が弾き出された。通信傍受の懸念があるため、移動司令部(ブラッドハウンド)との連絡は切っている。が、ミノフスキー粒子濃度が濃い訳ではなかった。

 立ち上がり直後ということもあってか、黄色い機体はほぼ身動きできず、誘導の掛かった弾頭をもろに受けた。先日のドムや緑色に比べれば小柄ではあるが、アレも恐らくに新型なのだろう。しかし不意不測の攻撃ともなれば、そこに新型も旧型もありはしない。

 ジェネレータを突いたにしても異様な、極大の爆炎の中に新型は消えた。これが対艦ミサイルの成す、圧倒的な攻撃力だとでも言うのか。いや、違う。

 これは他弾頭の誘爆が起こした、連鎖的な爆発の()だ。

 

《CAUTION!!》《CAUTION!!》《CAUTION!!》

 《CAUTION!!》《CAUTION!!》《CAUTION!!》

 

 ──不味い。

 先と同じような反応が、街のそこかしこから湧いて出てくる。

 あんな実弾兵器(ミサイル)を満載した、びっくり箱のような機体はサイコには不向きだ。あの誘爆の規模からして、例の緑の新型のような、生半可な爆装とも考えられない。

『フレイヤ、十二時の方向三つ‼︎』

 顎でこき使うだけではない。自らもド・ダイ改、ジムⅢ改両方のスラスターを吹かし、上空から援護射を試みる。

 だが、あの黄色い新型達にも勘付かれたらしい。三角陣営(アロー)の前衛を務めている機体、隊長機らしき一機がこちらを向くと、その身体の節々から()()が湧き出す。

 

《WARNING!!》《Missile-Alert》

   《WARNING!!》《Missile-Alert》

 

 バルカンやライフルで迎撃するにも、弾幕という規模で数が多すぎる。誘爆による一掃を試そうにも、約三機分の集中砲火(シャワー)が群れとなって襲う。安全性を考えないが故の手数であり、攻撃力なのだろう。

 早々に迎撃・対空防御の線を諦め、ジェイムスはド・ダイからフレアを撒く。しかしこれも同じ、圧倒的な弾幕の前にはまさしく「お守り」である。

 ──作戦には、宇宙軍がスポンサーになってる。

 ──ジムⅢ用の部品もそうだが、関連資料も送られて来ててな。

 

 こんな時に。いや、こんな時だからこそヒッカムの話した、この「ジムⅢ改」についての仔細が過ぎる。

 

 ──コンペイトウ鎮守府にあった、旧ティターンズの運用データらしい。

 ──連中は昔、ジム改を使ってジムⅡの評価試験をやってたらしくてな。ま、渡りに船ってヤツだ。だがな、ジェイムス。

 

 追い縋るミサイルを直前まで引き付け、機体に急激な旋回(ロール)を取らせる。

 途端、コックピットは警報で満たされ、加速度(G)と音量で全身が悶える。無論、それは機体(ジム)もであった。

 

 ──ジム改のフレームには限界がある。

 ──無茶のしすぎには気をつけろよ。

 

 ド・ダイ改のグリップを掴み、振り落とされないよう必死に堪える。マニピュレータ、腕が続け様に軋み、機内警報も激しさを増す。

 しかし、そこにはミサイルのアラートはない。

 着弾命中を目前にして、唐突な曲芸飛行(ムーンサルト)かまされた弾頭たちは、どれも明後日の方向へと散っていた。数秒後にあちこちで鳴り響いた、時限式の爆発音が何よりの証左だ。

 上下が入れ替わる感覚を自らの肌で、頭の血の流れで感じ取りながらも、ジェイムスは片手だけを下方へと向ける。

 アレだけのミサイルを撃ち切った後だ、もう攻勢に出る手札などあるまい──。

 

『甘いよっ』

 

 その言葉はこちらしか見ていなかった、黄色いあの敵小隊にか。

 それとも──高速機動中であり、射撃姿勢も安定しない格好をして、漠然と勝利を確信した此方(ジェイムス)にか。

 ともかく、そのサイコの奔流に飲まれる寸前。黄色い新型の股間部からは、ビームのシャワーが吐き出されんとしていた。

 アレが対空防御に適する、拡散メガ粒子砲だったなら。

 ドダイを安定飛行に戻しつつも、ジェイムスは顔が青くしていた。

 

『アクロバットはお見事だったケド。お兄さん、前職は教導隊?』

「当たらずとも遠からず、ってヤツだな」

 

 今のような凡ミスの後に、誇れるような出自ではなかった。

 先に彼女の言っていた通り、多少酷使の域に入っているのだろう。悠々と闊歩し合流するサイコは、両手の砲口から煙を上げていた。

 

「調子は?」

『……大丈夫。私は、まだ……』

 

 当面の敵を葬り去り、辺りは静けさを取り戻しつつあった。

 尤も、サイコやジムⅢの砲火をはじめ、両軍による交戦によってそこかしこが燃え、空に煙を吐き出している。ニューヤークが攻撃を受けた際の、カラバ守備隊が残した古傷の跡も濃い。

 いくら残党上がりの蛮族とはいえ、軍隊の体は成している連中だ。市街地はこんな状態でも、住民はどこかに収容済みなのだろう。今はなきカラバの連中も、を行っていたと信じたい。

 

『……私には、関係のない、ことだから……』

 

 かろうじてガラスが散らずに残った、オフィスビルの前で擱座する。ひび割れたビルに反射するサイコ──いや、フレイヤの姿は、どこか苦しげに映って見えた。

 しかし有事の問題というのは、いつだって対処する前に降り積もるもので──。

 

『ジェイムス大尉、聞こえるかっ』

『赤い所属不明機が一機、そっちに向かってるッ』




次回分掲載は12/25(水)となります。
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