機動戦士ガンダムEXT. 〜偽りのニュータイプ〜 作:西宮 凜
両脚裏のスラスターを吹かせ、ドダイから蹴るように機体を離す。
通信封鎖を予告無しに切り、有無を言わさず告げた訳。そんなことは後回しであった。
『大丈夫……っ⁉︎』
ドダイの上辺はビームで抉られ、コントロールを失って落ちていく。
咄嗟の判断がなかった場合、抉り取られたのは
ジェイムスはアドリブで各部を吹かし、サイコが屈むビルの頂上へと着陸する。
『突如戦場に現れたと思えば、東の部隊を食い破って行きやがったヤツだ!』
幸いビルの高さよりも、敵機の方が高度は上だ。先の
ジェイムスは両腕でライフルを保持し、片膝を着いて狙撃に移る。
『ヤツの行動は全く読めないッ、注意しろよ‼︎』
みるみるうちに距離は詰められ、猶予は迫り続けていた。
動力炉を精密に狙うのを辞め、予測に任せてトリガーを引く──黄色い筋が夜空に走り、燃料に引火したか盛大に爆ぜた。
悠長に構えていた訳ではない。向こうの接近する速度、ベース・ジャバーに加算していた、MS側の出力が高すぎたのだ。現にビームを喰らったその時点で、彼我の距離は一キロを切っていた。
「フレイヤ、機体の調子は?」
『……うん、なんとか……』
兎も角狙撃の体制を解き、項垂れるサイコを屋上から見下す。高度や立ち位置の問題もあるが、今の彼女の巨体からは、まるで恐怖を感じなかった。これがサイコ・マシーンとでも言うのだろうか、先まで感じられていた威圧感、覇気といった印象は、霧のように失せて消えていた。
しかし──ジェイムスは、空中で派手に爆散して墜ちた、敵のゲタの爆煙を見とめ、耽る。
行動が全く読めない。確かにそうだ、アレは何かに喩えるのなら、動物のような猪突猛進だった。
むしろ「当ててください」と煽るような
下方から命を頂戴したが故、死に際の表情子そ伺えなかったが──。
《CAUTION!!》《CAUTION!!》
《CAUTION!!》
解き放たれた弾丸のような、元い弾頭のような直進ぶりは、まるでミサイルのそれである。何よりも機内の警報器が、その類似性を証明していた。
赤と白で彩られた、ジオン系の流線型。これ以上の情報を精査するには、あまりにも総てが唐突であった。
「なんだっ、コイツは⁉︎」
条件反射でサーベルを抜き、衝突した「赤」を受け止める。
敵はこちらに猛進する最中、大腿から二本を抜いていた。最早驚かなくもなっていたが、今回も相手が出力は上、しかも二刀流で斬り掛かったと来た。前回手合わせした歯ブラシ以上に、ジムの
ジェイムスは頭を働かせ、こめかみの六〇ミリを手元へとお見舞いした。
『ジムっ、無事っ……⁉︎』
無神経な彼女を他所に、これでは堪らぬと敵機が退く。サーベルを保持していた両手のうち、片方は撃ち漏らしたが十分だろう。先ほどの黄色の新型のような、内蔵式メガ粒子砲は見とめられなかった。
しかし──赤い頭部もそう思わせるのだろうか。その頭頂部に備えられた、二本の角のようなアンテナをして、出立ちは東洋の「鬼」を想起させる。一刀流に持ち替えたそのサーベルすらも、鬼が持つとされる棍棒のように見え始めていた。
いや。むしろ見惚れていたのかも分からなかった。
鬼を思わせる
無骨なパイプも腰にあるだけで、他は艶美な女性のような、スマートな曲線美を描いている。
だが、その格好は旧ジオン機「ケンプファー」のようでも、それこそ
『タダで帰れると思わないでよね……‼︎』
「フレイヤ、動けるのかっ」
ジムを戴くビルの下、サイコが唸りを上げていた。
〝無理するな〟とも言いたいが、相手はビルから飛び降りた後だ。重力に機動を縛られる以上、敵機の動きは制限されている。追撃を仕掛けるには十分な状況だろう。
そうしてフレイヤのサイコの片手──まだ焼け付いてはいないのだろう、右の指指に灯が点る。僅かな秒単位のディレイを挟み、五重にも渡る光の筋が敵機を襲う──。
その僅かなディレイを「知っている」かのように。
鬼の花弁が満開に咲き、刹那の一閃を曳いて、駆けた。
「フレイヤッ‼︎」
叫びより早く飛び降りていた。下には片手を失った巨人、そして一つ目の赤い鬼。どちらも砲身を失って暴れた、光の影の下狂っていた。
ジェイムスは照準も定めないまま、再びバルカンを撃ち放す。不安を覚える程目論見通りに、緑のモノアイがこちらを捉える。
当然、着地が早いのは向こうの方だ。射撃姿勢や回避の択、全てにおいて遅れを取る。が、こちらも大人しく落ちはしない。
ヒッカムの言うにはR型──
「フレイヤ、無事か⁉︎」
『大丈夫っ、私は、まだっ……!!』
癇癪を起こすようにビルを殴り、その場に屈み込んだサイコガンダム。先からの不調が堰を切ったような、悲痛な喘ぎが響くたびに、漏れ出した
戦闘続行は不可能である上、無理をさせれば間違いなく、あの夜の二の舞にもなりかねないのだろう。
「じっとしてろ。コイツは、俺がカタを付ける」
一旦は退いた光の点が、轟音を立てて迫るのが分かる。この強化されたジム改をしても、到底届かないだろう推進力だ。力比べ、早さ比べといったやり方では勝てそうにもない。
ならば知恵を比べるまで、か。
ジェイムスは自らに残った
時間も勝算もありはしないが、思いつきでもやるしかないのだ。
ジェイムスはスラスターを最大にしつつ、あの鬼が通るだろう曲がり角へと駆け出した。何せ、あの動物的感性を持つパイロットのことだ。選択する機動は癇癪以外、ほとんど予測がついていた。
そうしてジェイムスの予測通り、殺意の赤色が躍り出てくる。
「……さァ、掛かってこいッ」
いくら機体が喚こうとも、決してペダルは離さない。たとえ銃身が焼けつこうとも、バルカンのトリガーを引き続ける。
計算通り、バラけて降り掛かる栄光弾の群れは、彼奴の野生的本能を刺激したようだ。目線は動けないフレイヤから、完全にこちらに固定された。機械製の鬼は急接近しつつ、腕の機銃をばら撒いてくる。
あとはこれに耐えれるかどうかだが──といったタイミングで、構えた片腕に六〇ミリが刺さる。こちらの頭部を掠めると同時に、もう片腕からも光が消える。
片方の弾切れは自明の理だが、それ以外は「ツキ」だろう。
かくして鬼が棍棒を握り、ギラギラとした刀身を形成する頃。相対する距離も詰まりに詰まり、避けようもないだろう瞬間を以て。
ジェイムスは左腰部に残された三発、対艦用ミサイルランチャーに手を掛けた。
『ジェイムスっ……‼︎』
声が聞こえるということは、まだ生きているという証左だった。
普通では避けられない至近距離の中、奴は跳ねるようにミサイルを躱した。しかしそれでも完全にではない、背中の花弁のようなスラスター群は、かろうじて
「殺す、殺すっ」
狂笑ともいうべき声と狂気が、混濁した回線に木霊する。
対艦ミサイルが巻き起こした、地獄の底のような赤黒さを陰に、鬼は再び光刃を灯す。宇宙用小型噴射器だろう全身の光、生き延びた背部のスラスターを爆ぜらせ、再びこちらに接近する。
今度は、間に合いそうにない──。
しかしジェイムスは諦めではなく、確固たる意志を持ってペダルを踏んだ。