まだフォーゼとウィザード推しだし鎧武勢がコンパチに出るのは来年以降だろうか……
不幸中の幸い。と言うべきだったのだろうか?
あのアーマードライダー強襲の次の日は土曜日。つまり休日だった。更に言うならば、美樹家の両親は仕事が忙しくて帰って来ない事がざらであったのも幸いだった。……要するに今の所は他に知られておらず大事になっていないという事だ。
だが、圧倒的戦力差を見せつけられた挙句二人も人質を誘拐されたのは最悪だった。一人威嚇として殺しても状況は変わらないというふざけた状況に早乙女和哉は昨日碌に眠れなかったし今、朝食にて左手に持った箸が動かなかった。
「どうしたの? 浮かない顔して」
和哉が座っている自宅のリビングの席の向かいで和哉と一緒に朝食をとっていた姉の早乙女和子は怪訝な顔で和哉の顔を覗きこんだ。和子も腐っても教師だ。自分の教え子一人誘拐されて命の危険に晒されているなんて言える訳が無かった。
「いや、何でもない」
沈黙が続き、お通夜(朝なのに)に近い状態の朝食が続く。食事開始から5分後漸く和哉がだし巻き卵を箸で割ろうと動き出した時、和子はポツリと口を開いた。
「まさか恋だなんて言うんじゃないんですよね?」
若干和子が殺気立ち、凄まじい形相で和哉を見据える。何度お見合い破談させたのだろうか? もう数えきれないぐらいだろう。黙っていれば童顔で可愛らしいのに。因みに嘗て本人に童顔で可愛いと言ったら色気が無いと言われたように思ったのか無言でコブラツイストをかまされたのでもう言わない。全く30代で10代にプロレス技など歳を考えて欲しいものだ。
「んなわけ無いよ」
否定しながら、だし巻き卵を頬張ってみる。……悔しかった。圧倒的な力で一方的に叩き潰され、さやかを痛めつけた奴らに完全敗北を喫する事が。
――畜生
涙が、出そうになる。今の自分には泣く資格などない。ご飯を口に詰め込んで無理矢理堪える。
「どうしたの? 失恋?」
「まだしてねーよ」
だが、この「まだしていない」という言葉が和子の心に引っかかって再び殺気立ち和哉を睨みつけた。
「まさか……ウチの教え子じゃないでしょうね? 中沢君と親しいし他の娘とまさか」
卓袱台に手を付いて和哉に詰め寄り、和哉は思わず上半身を後ろにそらした。
「…………」
答える訳には行かなかった。答えたらきっと墓穴を掘る。飽くまでもしらばっくれる和哉に和子は「むむ……」と唸って、一方的に和哉を睨み、和哉は色々な意味で気まずい思いをしながら、朝食を済ませるのだった。
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気が付けばひんやりとした床の上で寝かされていた。
光実は眼を開き周囲を見る。狭いがどうやらここは何かの事務所のようだ。だがデスクの上には何もないし、蜘蛛の巣が張っているので大分前に人が居なくなった跡であろう。手足はロープできつく縛られており身動きは取れない。この状況からして誘拐されたようだ。考えるならばあの銀武一派の仕業か。窓には朝日が差しておりどうやら夜はずっと気絶していたままだったらしい。近くには光実と同じ状態で縛られたさやかも居た。彼女はまだ眠っている。他には誰も居ないらしい。
インべスを利用して脱出を試みようと考えたものの、肝心のロックシードが無かった。没収されたらしい。それに人質が二人居る以上どちらか殺されてもおかしくは無い状況下、迂闊に動けない。
――チャンスを伺うしかないという事か。
光実は大きく溜息を吐いた。状況は良くならないどころか、悪化しているような気がする。暁美ほむらの話した『キュゥべえ』の事については完全に信用こそしていないが、念の為にさやかには契約しないようにと言い聞かせて置こう。契約さえしてしまえば簡単に脱出できるのかも知れないが後が怖すぎる。
まどかが、己の無力さに嘆いて契約しない事を祈りながら……今後の策を練る事にした。
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情報交換という事でまどか、ほむら、和哉は近所のハンバーガー屋で集合。和哉はほむらの隣に座り、まどかは向かいの席に座った。
ほむらはいつも通り無表情で、まどかを見据えている。
和哉は、ほむらが何故まどかにここまで拘るのか知らない。昔馴染みだったのだろうか? 和哉自身、まどかとさやかを契約させない為に戦っているようなものだが、ほむらもそうなのだろうか?
この和哉の疑問にほむらが答えた試しが無い。だから訊いても仕方がないと半ば諦めているがやっぱり気になるのには変わりがない。何時か喋ってくれるのではないかと期待していたりする。
「あの、これ……」
まどかが、恐る恐る鞄から可愛らしい柄のハンカチに包まれた何かを取り出して和哉に差し出す。和哉は何事かと恐る恐るハンカチを外すと、ブラッドオレンジロックシードが姿を現した。
「……コイツは」
「緑色のアーマードライダー、呉島光実のね」
ほむらの言葉に、和哉は「そうか……」と呟く。本来ならば使わず光実に返却しなければならないのだが、肝心の光実は敵に囚われてしまっているし、連中に対抗するには戦力が喉から手が出る程、和哉には欲しかった。
和哉の手持ちのロックシードはCランクのマツボックリのみ。あの赤色のドライバー持ちに対抗するにはもっとマシな装備が欲しいのだ。
「さやかちゃんと呉島さん、大丈夫かな……」
俯き気味にちょっと泣きそうな表情で話すまどかに和哉は少し居たたまれない気持ちになって、気を誤魔化す為にコーラを呷る。
「無事でなきゃ困る……」
コーラを呑み込み、序でに口に入った氷をかみ砕いてから漸く喉から出た言葉。それが総てだった。誰か一人でも死んだら恐らく二度と立ち上がれない自信があった。和哉はそんな弱い心を持つ己が嫌になりそうだった。
「絶対に美樹も、呉島光実も助けたいんだが……」
「貴方には無理よ」
和哉の希望を容易く打ち砕くように、ほむらは冷酷に現実を和哉に叩き付ける。
「つっても……!」
「無理なものは無理ね、戦力差を考えなさい。そして、私は魔法少女のテリトリー争いに興味は無いわ」
無表情で言い切るほむらに和哉は、内出血を起こしそうなくらいに右手を強く握る。確かにそうだ。一撃で龍玄は敗れ去り、マミは動けるかどうか怪しい。実質まともな戦力は一人だけ。だが、ほむらの言葉には続きがあった。
「でも、一つ約束してくれれば美樹さやかも呉島光実の救出に参加するわ」
その言葉にまどかの顔がパッと明るくなって、その約束が何なのか問いかける。ほむらは表情を変えずに口を開いた。和哉も拳に込めた力を緩め、隣のほむらの方を向いた。
「鹿目まどか。今後何があってもキュゥべえと契約しないで」
「……っ」
だが、そのほむらの言葉で少し口を噤んでしまった。実のところ、キュゥべえと契約して皆で二人を救出しようと言う考えだったのだが、これではご破算ではないか。……だが、素人に何が出来るのだろうか? 自分のような素人なんかより、マミのようなベテランの(ような雰囲気を纏っている)ほむらが戦った方が簡単に二人を救出できるのではないか? 自分が既に契約していれば、二人は攫われなかったかも知れない事も考えると頷く事も首を横に振る事も出来なかった。
「タダ程高いものは無ぇぞ。願い事が惜しいなら諦める事を全力で、いや、命懸けで推奨してやる」
和哉はまどかに向き直って言った時の目付きは真剣そのものだった。それはまどかの深層を貫くような鋭さを持って居て、少しまどかはたじろぐが言い返すべく口を開く。
「違うよ! わたしが契約していれば二人は……」
「忠告、忘れたの鹿目まどか」
相変わらず無表情でほむらはまどかの言葉を遮った。
「ぁ……」
家族や友達を大事にしているのならば、これまでの自分と違う存在になろうとは思ってはならない。そうしなければ総てを失う。
まどかはほむらが見滝原中学校に転入して初めて出遭ったその時に言われた言葉を思い出して、先ほどまで話していた己の言葉の続きが喉につっかえてしまい、膝に置いた両手を思わず強く押し付けた。
「貴女は自分を責めすぎている。貴女を非難出来る人間は誰も居やしない……居やさせはしない」
最後の「居やさせはしない」という所に明らかに力が籠っていた。ほむらは基本淡々と話すが偶にこのように語調を強めたりする事がある。ほむらとまどか。一体何があったのだろうか? 半ば置き去り状態にされている和哉は二人を交互に見る。まどかは困惑するばかりで、ほむらはいつも通りの無表情。
良くわからないなぁ……と心の中でぼやきながら和哉はコーラを氷ごと呷った。氷を食べるのはよく姉の和子から行儀が悪いと忠告されるがどうも治らない癖である。
さやか達の居場所が分からないのではどうしようも無いので今は集まって情報交換をしているが、居場所さえ分かれば、ほむらの魔法を使えば人質奪還も造作も無いだろう。だが、問題はその後だ。見滝原はさして広い街では無いし、連中に因縁つけられて追い回される可能性が高い。撃退出来るだけの力が必要だ。無論、このブラッドオレンジでどうにかなるものとは到底思えない。
だが、逃げる訳には行かなかった。昔やってしまった見て見ぬふりから来た後悔がまだ、己を責め続けている限り。
もう、あんな後悔と悔しい思いをするのは嫌だった。
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数時間後に再びハンバーガー屋に集合すると約束し、一度解散してまどかはマミの家に向かった。マンションの部屋番号を確認しインターホンを押すとマミが応じ、部屋に上がらせてもらった。
いつも通り、ケーキとお茶を用意して貰ったのだが、所々行動にミスが目立ち紅茶も溢してしまった。らしくなさにまどかは驚いた。いつも優雅でスタイリッシュで余裕のあるベテランの魔法少女で先輩でもあったようにまどかには見えていた筈なのに。
「ごめんなさい」
落ち着いた所でマミは小さく頭を下げた。まどかは「頭を上げて下さい」と慌てるもマミは頭を下げ続けている。少し時間が経つとマミは漸く顔を上げたものの、下を向いたばかりである。
「昨日、私、情けない姿を見せた挙句に暁美さん達に助けられた……」
恐らくあの敵は一人で簡単に倒せる相手では無かった。あの異常な再生速度と今まで以上の使い魔の繁殖力。魔女の居場所まで大分時間を要したのだ。だが、マミにとっては「先輩」という面目は潰れたようなものなのかもしれない。
「それに油断していなければあのお菓子の魔女のトラップは即座に見破り、躱せた筈なのに……私はあんな分かりやすいトラップに引っ掛からなかった。先輩魔法少女失格ね」
「そんな事は……!」
自分が魔法少女になろうだなんて言わなければマミは油断せずに戦えた。死にかけたりしなかった筈だ。……だが、ほむらと連携が取れるようには到底思えなかったからもう分からない。何をどうすれば良かったのか。
マミの魔法少女失格発言を否定するまどかにマミは首を横に振った。
「マミさん……」
再びの、沈黙。こういう時、どうすれば良いのだろうか?
まどかは、俯いて何を言えば良いのか考え込むが一つも思いつかない。紅茶の水面に自分の顔が映り込む。今の顔は今日の天気のように曇り切っていた。今日の天気予報によると曇りのち雨。夜に記録的大雨が降る。
「彼女たちの要求、呑もうと思うの」
その時、沈黙を破ったマミの言葉にまどかは凍り付いた。グリーフシードの譲渡の事なのか、それとも彼女らに従うのか。思わずまどかは口を開いた。
「でも、ほむらちゃんやあの黒いアーマードライダーの人は、さやかちゃんや呉島さんを助けに行ってくれるって!」
まどかの言葉にマミは意外そうな顔をしていたが、それでも表情は直ぐに元に戻ってしまった。
「……それでも、戦力は圧倒的よ」
「ほむらさんが私に考えがあるって」
「そう……」
マミは俯き、悲しげに自分の食べかけのケーキを見やった。あれ程敵視していた人間に助けられた挙句、まどかは彼女を頼っている。昨日の魔法少女コンビ結成は有耶無耶になっているようだし、また一人ぼっちに戻ったような気がした。
……元に戻っただけだ。気にする事じゃない。そう自分に言い聞かせても、やはり寂しいものは寂しかった。
暫くの沈黙の後、まどかは手を差し出した。マミは顔を上げてまどかの差し出した手を見るとそこにはグリーフシードが乗っていた。見た所だと未使用のものだ。
「これはほむらちゃんからです。ずっと使い魔との戦い続きでグリーフシードも減っているでしょうって…… 私、ほむらちゃんが悪い人だとは思えないんです。悪い人だったらさやかちゃんや呉島さんを助けたりなんかしないと思うし、ほむらちゃんと協力して欲しいんです」
魔法少女になる事を諦める事を代償にさやかと光実を助けられるなら喜んで捨てよう。取り柄のない自分が変われるチャンスを失う事を意味するけれども、友達が居なくなるのはもっと嫌だった。大切な誰かが居なくなって二度と会えなくなる方がずっと……辛い。
「無理よ。私はもう一度あの時と同じように戦えない。共闘は出来ても脚を引っ張るだけよ。朝ね、使い魔を見つけて戦ったんだけれど銃を持つ手が震えて撃った弾が全然当たらないの」
マミは自分の掌を見ながら続ける。
「……臆病なのよ。普通の人ならばきっと失敗を糧に再び立ち上がる。でも、私はね弱いのよ。強くなんかないのよ。一度折れてしまえば立ち上がるだけの力も勇気もありはしない」
己の弱さを再実感して自分は先輩として相応しい人間では無い。それがマミの答えだった。だが、それでも、だとしても短い期間ながらも行動を共にしたまどかにとっては……あの時助けてくれた時のマミを鮮明に覚えていて。弱い人間だとは思えなくて。
「マミさんは、弱くなんかないです!」
ただただ、自分の想いをマミにぶつけた。……彼女が立ち直れるだけの言葉を持ち合わせてはいなくて口から出たのは陳腐な言葉。けれども、まどかにとってそれが言いたい事だった。
「本当に弱い人はこれまで私たちがマミさんに出会う前からずっと一人ぼっちで戦ったりはしないです……!」
そして、己の弱さに気付きもしない。
まどかの言葉を受けた後、マミはそれ以上口を開くことは無かった。携帯でほむらに呼び出され、まどかはお辞儀をしてマミの家から去る。
まどかが置いて行ったほむらからのグリーフシードが机の上にぽつりと寂しく置かれていた……
「私は弱くない……か」
まどかの言った言葉をぽつりと呟いてみる。後輩はこんな無様な姿を昨日見せつけられても見捨ててはいない。そんな彼女に応えられない己が嫌で嫌で堪らなかった。
/
何時間経ったのだろうか。外の状況はどうなっているのだろう?
さやかはふと締められている窓を見やった。まだ明るいままだが少し赤みが差している。携帯は手元にいつの間にか無くなっているし、時計も無い。恐らく電子機器は殆ど連中に持っていかれたのだろう。
昨日から風呂に入っていないし、年頃の少女であるさやかにとっては充分ストレスだった。光実の方は男子という事もあるし、1年程前の騒動もあってもう慣れっこだ。しかし、昨日の夕方から何も食べていないし水も飲んでいないので少し限界を迎えつつあった。
「私たち……どうなるんだろ」
さやかの呟きに、部屋の片隅で座り込んでいた光実は「大丈夫」と己を奮い起こすように返す。閉じ込められてから閉じ込めた本人は顔を見せていない。ここまで放置されては不安にもなる。
この状況でもまだ、光実はさやかが魔法少女になるのを拒んだ(序でに言えばこんな密室にキュゥべえが侵入の入り込む隙間が無い)。ほむらの言っていた事を完全に信用していた訳では無いが念の為だ。……この状況を打開するチャンスを幾つか光実は考えたが、相手も馬鹿じゃないし相手は武器持ちだ。半ば詰んでいる状況ではあったがさやかたちを『人の枠』から外させる事は断固としてさせたくなかった。
暫くするとガチャリとドアノブが動き、軋む音を立てながらゆっくりと開く。その音に反応して光実とさやかはドアの方を向いた。
――さぁ、どう出る?
光実の目はそのドアを開け放った者を見据えて、腹を括った。必ず脱出してさやかを助けなければならない。理不尽な犠牲など葛葉紘汰が許しはしないのだから。
久々の早乙女先生の出番、ブラッドオレンジを手に入れた早乙女弟(返却予定)、初期の橘さん(をマイルドにした)状態になったマミさん。若干厳しい状況下にあるさやかでした。
喩えほむらが時間停止魔法を使って簡単に救出した所でどっちにしろ連中との対立は避けられないもの。出来るなら手ぶらで持ち帰りたくは有りませんね(戒斗並感)
話の最後にミッチ、おめーは許さねーのかよ。と思った方に補足。別に本心では見捨てたいとか思っている訳では無く、紘汰の代わりになろうと必死なだけです。
次回『旋律の蒼』(仮) 尚、仮サブタイトルは都合により変更する場合がありますのでご了承下さい。