12月21日にて パラディン→シュバリエ マミに倣ってイタリア語のカヴァリエ―レにすると何か長い気がしてならない。
「このォ!」
先陣を切ったのはシュバリエだった。バナスピア―で護衛を蹴散らし、チェスのクイーンの駒のような形状をした魔女の足(?)元で薙ぎ払うように斬り付ける。
だが、魔女は思いの外硬かった。固い、兎に角固い。先端が魔女の表皮を抉る事無く、火花を小さく出しながらもさやかは仮面の下で顔を顰めつつ非常に慌てた。
――まじっすか!?
しかも、魔女は地面を滑るように前方のシュバリエの居る方向へ動き出した。
「げっ!?」
さやかは思わず潰れた蛙のような声を出す。しかも地味にこちらに向かう魔女の動きが地味に速いので顔が引きつる。それに避けられる訳も無くシュバリエは圧倒的な質量に敵う訳も無く跳ね飛ばされ、後方の床を転がり、マミの近くで止まった。
マミが慌ててマスケット銃を魔女に向けて発砲するが、礼の如く通用しておらず、弾かれる。弾丸を物ともしない魔女だが、シュバリエを吹き飛ばした後再びぴたりと停止した。
「あたた……」
後頭部を片手で押さえつつシュバリエは立ち上がる。先程まで必死だったが、この魔女も使い魔も防御力が高い事をさやかは考えた。今回マミが不調という事もあって、マミと、今回の魔女『駒の魔女』との相性は
実際はマミが恐怖心に取り憑かれている所為なのだが、それを知るのはまどかだけでさやかは知らないが故にその答えに至ったのだ。
そして、見ての通りシュバリエの武器である斬撃及び刺突系の武器も相性が悪い。状況は極めて不利だ。光実に助けを呼びたかったが、それは現状不可能だ。
そして無機質に襲い来る魔女が怖くて、このままでは死ぬのではないかと諦めかけるが――それは出来なかった。その考えを振り払うかのように首を強く横に振ってから、バナスピア―を構え直しシュバリエは戦極ドライバーのカッティングブレードを2連続で倒した。
【バナナ・オーレ!】
音声と共に、バナスピア―から巨大なエネルギーが発生しそれを大きく上へと掲げてから、力一杯に、魔女の頭をかち割る勢いで振り下ろした。
「せりゃぁ!」
ごん、と鈍い音がした。そしてバナスピア―の位置取りを変えて、薙ぎ払うように壁に傷を付けながら投球を打つバッターの如く振るい魔女の横顔(?)を全力でぶん殴って、力一杯に押した。
「どぅぶれあ!!」
年頃の少女らしからぬ掛け声を出しつつ、駒の魔女を横転させた。壁に頭部分がめり込み斜めに傾いた状態となり、崩れる壁が生み出す凄まじい轟音が二人の耳を突き刺し、シュバリエはバナスピア―を取り落し思わず耳あたりを塞いだ。
――やった?
壁にぶつけただけで魔女が死ぬ訳が無いのはさやか自身も知っていたが、期待せずには居られなかった。だが、魔女は健在。それを証拠に床に横たわっている魔女の付近に騎士と馬の形をしている使い魔二種が数体現れた――チェスのつもりか。
さやかは仮面の下で、どうすれば良いのか考えていると使い魔が魔女を守るように陣形を組む。相手は超硬度+雑魚無限湧き。このままジリ貧という可能性は高い。そう思うとさやかは歯ぎしりした。
――何とかしてマミさんを守らないと……!
マミの前に立ち、シュバリエはバナスピア―を構え直して走り出す。今の魔女は倒れていて動けない筈だと考えた。攻撃が全然効いていなかったが、今はそれは後回しとして攻撃のチャンスを作る為に護衛を倒す事を優先とした。
バナナアームズの一点突破に役立つ特性は、素人同然のさやかの戦法には合っていた。長い得物で振り回し、力ずくで吹っ飛ばし、貫き、叩き割る。馬型の使い魔が大きく跳ね上がって踏みつけに掛るが、シュバリエはそれをヤケクソでバナスピア―を突き刺す事で迎撃。意識外から騎士型使い魔に斬り付けられるが、痛み、衝撃を考えずに力押しで反撃して倒す。途中でマミが乱入してマスケット銃を発砲して注意を引き付けてくれた事で多少の装甲の損傷は減ったがやはり、素人は素人でダメージを防ぐ術をあまり持たずに攻撃を受ける。それを根性で何とか耐えて力ずくで倒す。
気が付けばシュバリエは装甲に相当な傷を作りながらも増援を殲滅していた。
「はぁっ……はぁっ……」
今のさやかはバナスピア―を杖替わりに肩で息をしている状態だった。帰宅部の弊害という奴である。こんな事ならば運動部にでも入部して運動でもしておくべきであったかも知れないと軽く後悔した。……恭介のお見舞いに行けないと気付いてその後悔を直ぐに打ち消したが。
前方には、念力でも使ったか傾いていた筈の魔女が立っている。これで状況は振りだしか。シュバリエが両手でバナスピア―を持って魔女を見上げていると、カンッと渇いた音が魔女の頭の側面から聞こえて来た。跳ね返っているのは……弾丸。誰が撃っているのかは直ぐに分かった。マミだ。
マミが予めマスケット銃を幾つか出現させ、一発撃っては放り投げている。何故彼女はそんな所を狙っているのかと視線をマミの狙いの先に送る。そこにはヒビが発生していた。シュバリエに無理矢理倒されて壁に強打した部位だ。
硬いが故に衝撃に弱いという事と、ダイヤモンドだって一撃強烈な衝撃を与えれば脆くなる事。その二つを思い出したさやかは後方で狙撃しているマミに向かって口を開く。
「あの傷、あたしがつけ込みます!」
「……っ」
さやかの言葉に何を思ったか、マミは優れない顔で銃を降ろす。それに少し引っ掛かりはしたが、今はマミの厚意に甘える事にした。
魔女が使い魔を再び召喚して来る。今度はさやかたちぐらいの大きさの塔と僧らしき形の使い魔が現れ本格的にチェスになっていた。駒はリアルな形状の金属像の癖して魔女本体はチェスの駒というのはいかがな物かと思ったが、あまり気にしない事にした。魔女に整合性もくそもないし人間の理解の範疇を超えているという事でいいだろう。
ポーン(騎士)が8体。ルーク(塔)が2体。ナイト(馬)が2体。ビショップ(僧正)が2体。――キングは何処へ行った。
そう思いながらシュバリエはバナスピア―を持って走り出した。二体の馬型使い魔が高く跳ね上がり、騎士型使い魔が剣や槍を持ってシュバリエに向かって滑るように動き出す。
馬型が着地して、再度飛ぼうとしたその時、シュバリエは――塔型と騎士型を上手い具合に踏み台にして馬型の背中に乗り上げた。そして、馬型の背中から魔女の頭まで飛び移って、亀裂に向かってバナスピア―を勢いよく突き刺した。
勿論、魔女はそれを振りほどくべく左右に小刻みに揺れるが、シュバリエの放ったバナスピア―は深々と突き刺さり、シュバリエはそれに掴まっているものだから振りほどけはしない。
「うわわわわわわわわっ!?」
だが、シュバリエ本人は結構必死だった。中身のさやかは絶叫を上げながら兎に角耐える。馬型がジャンプしてシュバリエに飛び掛かろうとするがマミが非力ながらも妨害に入るがために実質邪魔は入らない。激しく揺られながら右手をバナスピア―から恐る恐る離しドライバーのカッティングブレードに手を伸ばし……倒した。
【カモン! バナナスカッシュ!】
カッティングブレードを倒したシュバリエは慌ててバナスピア―の柄を掴み直して、暫く揺られた。効果が無かったのか。落胆しつつ何度もやれば効くのではと思いまたもう一度発動させようとして何度も、何度も、何度も倒した。
何度倒したのだろうか。下に居るマミは疲労で肩で息をしている。シュバリエも半ば諦め掛けていた。だが、突如としてシュバリエを振りほどこうと動き回っていた魔女の動きは止まった。何が起こったのか、シュバリエも、マミもぽかんとした表情で魔女を見る。そして数秒経って――
駒の魔女は、弾けた。
まるで水風船が床に落ちて弾けるように、無数の破片を飛ばして……
エネルギーを内部に撃ちこまれ恐らくはそのエネルギーに耐え切れず爆発でもしたのだろう。
足場を失ったシュバリエは床へ墜落していく。
「きゃぁッ!?」
だが、それはマミの拘束魔法の応用でクッションを造る事で事無きを得た。シュバリエは強烈な衝撃を身に受ける事なく、床に落ちてから立ち上がった。
「マミさん……有難うございます」
「いえ、気にしないで」
シュバリエは頭を下げて礼を言うも、マミの顔は浮かないままだった。……気が付けば結界は消滅し、廃ビルのエントランスに二人は立っていた。日はもう、殆ど沈んでおり、遠方の街灯から光が灯されるのが見えた。
マミは己の事は何も言わず、「ごめんなさい」という謝罪しか口にしなかった。一方的に下された魔法少女体験コースの強制修了を突き付けられたままで、変身を解いたさやかは同じく変身解除してこの場から去りゆくマミを見て茫然とするだけであった……
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正治は、まさかあの二人が生きて帰れるとは思わなかった。それどころかさやかが変身するとは。腹が立って仕方が無かった。理由は簡単。気に入らないからだ。それに本人は気付いていないが。
新しく貰ったロックシードの性能を彼女を潰す事でストレス解消と一緒に試してみたかったが、それは背後にいる少女の所為で出来なかった。
「あの時のクソ女か」
正治は震え声で言いながら、後ろが見えるように首を動かし目を向ける。そこにはほむらがハンドガンを構えて立っていた。
「動かないで、手を上げなさい」
銃口が正治の頭を向いている。正治は腹を立てながらも彼女の指示に従う事した。殺されるのは真っ平御免だった。それも年下の女に。まぁ従うのも嫌だったが。
「孵化寸前のグリーフシードを二人のもとへ投げ込むとは随分と卑怯なやり口を考えたものね」
ほむらは吐き捨てるように、そして呆れるように言った。それに正治は鼻で笑ってこれまでに考えて来た言葉で返す。
「卑怯? 一つの手段だよこれは。一々躍り出てやーやー我こそはーとでも言って欲しかったのか? 下らないな。頭に蛆が沸いた低能共がやる事さ」
「前回の戦闘で当り散らして獣の如く知性の欠片も無く暴れた事を忘れたのかしら?」
ほむらの返しに正治は返す言葉も無く歯ぎしりした。
――これだから女は……
他者を見下す事でしか己が保てない正治はそう思う事で、己の嘘と欺瞞で塗り固められて、破綻し切ったプライドを守る。そうする事しか、正治は己を守れなかった。
「貴方に警告よ。これ以上見滝原の魔法少女とアーマードライダーたちに関わらないで。これ以上関わろうと言うのなら――容赦なく殺すわ」
背筋が凍るようなほむらの冷徹なひと言で正治は思わず背筋が凍り付き、「ひっ」と声が出る。ほむらの放つ殺気は本物だった。コイツなら――やる。そう思わせるぐらいの殺気に圧倒され、恐怖の余り正治は呼吸の仕方も忘れていた。
ほむらが何故これだけの殺気を持てるのか正治には想像がつかなかった。何度もこけおどしだと心で言い聞かせるが収まる様子を見せない。
「は……はひ……」
癪だった。今にでも叩き潰してばらばらにしてやりたかった。それぐらいの殺意を抑えざるを得ないのは非常に癪だった。だが彼女の殺気には逆らえず、頷かざるを得なかった。
「本当かどうかは、行動で示してもらうわ」
そう言ってから、かちりと音がした。ふと後ろを見るとそこにはもうほむらは居ない。――クソッタレが。と正治は顔を歪ませ地団駄を踏む。
あの女はキチガイだ。生かしては置けない。訳の分からない憤りに駆られながら、正治は決意を新たにするのだった。
マミ「や っ て お し ま い」
さやか「合 点 承 知」
正治の行動に一貫性が見当たらないのは仕様です。正治の下種化はさらに加速する模様。さて、さやかは先輩にどう接するのか。光実はどう動くか……
一話一話が短くなりつつあるので次は長くしたい所です。