12月30日追記。07話のデータ消失。このやるせない気持ちの行き場を教えて……(渡並感)
正治に色々脅迫しておいて撤退したほむらは帰り道、時計を見るべく携帯を取り出すと和哉からメッセージが一通届いていたのに気付いた。
『ねんがんの Aランクロックシードを てにいれた!』
内容が明らかに狙っている内容にほむらは溜息を吐く。殺してでも奪い取るとでも書けばいいのか。ずっと無視しているのも可哀想なので少しぐらいは相手ぐらいしてやろうかと考えたが、直ぐに止め、いつも通りのノリで返信した。
『ならば、魔女狩りには付き合えるわね』
何はともあれ戦力の強化でグリーフシードの消費が少なくなるのは御の字だ。ロックシード出自は恐らく光実からだろう。救出の際にごちゃごちゃ物を懐に収めていたのを思い出す。
実は自分もつられてエナジー系列の物を一つ手に入れたが……和哉曰く「それは使えない」との事だった。確か『メロンエナジー』だったか。使い道が無く今は埃を被っている状態だ。
せめて――ゲネシスドライバーさえ有れば。
再度盗みに行く事も考えたがあの黒影・真の変身者の所為で不可能だ。美樹さやかや巴マミ、佐倉杏子や呉島光実を利用しなければ、月末に来るであろう
月末に来る災厄……ワルプルギスの夜襲来まで2週間+数日。時間は思う程残されては居なかった。
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翌日、早乙女和哉はばったりと出くわした中沢からある事を聴いてげんなりとした。
「また出たのかよ犠牲者……」
「そ、何か薄気味悪くないですか?」
また行方不明になった女性が現れたという話が入ったのだ。今回で50件目なのだと言う。
和哉はそれを魔女の仕業を疑ったが、魔女は基本見境が無いのでそれはない。比較的美人の部類に入る女性ばかりが狙われているらしいのは和哉も知っている。そして……被害者の髪は若干長めだとかという事も。
「死体の一つ二つも出てこないのは変だよな……ホント」
だが、魔女にしては若干ピンポイントで有りながら、死体が一つも見つからないという事実。ファントムかウィザードならできなくも無い事に考えが至るが、ウィザードはそれじゃないと信じたい所だ。
ファントムは目的も抽象的で、一体何が目的で動いているのか検討が付かないが、今の所犯人はファントムである可能性が高い。
得体が知れない存在であるから色々言いたい放題だが、さやかたち罪の無い一般人に害を成したという実績があるので疑うには充分だ。
「……あれ?」
暫く歩いていると、さやかが道端で立って居た。何時ものまどかと仁美は居ない。さやか一人だけだ。それに思わず中沢も和哉もさやかの近くで足を止める。
さやかが何故通学路に居たのか、その疑問は直ぐに解消された。
「早乙女先輩。昼休み、時間ありますか?」
ただ事でない雰囲気を察した中沢は「お先に失礼」とそそくさと去り、二人だけとなった。これで1対1となり、両者とも話しやすくなった。察しの良い中沢に感謝だ。
さやかの表情は真剣そのものだった。何時もの和哉なら茶化すが、呼ばれる理由に心当たりがあったので和哉は「あるよ」と至って真面目に答えた。
「では、その時に訊きたい事があるので」
「暁美の件か」
「それなら話は早いですよね」
「……判った。昼休みだな」
約束を取り付けてから、さやかは走って学校を去った。ギスギスした状態で一緒に登校するなどと言うのは無理な話なのは分かっている。和哉は歩いて学校へと向かって行った。
さやかの指定した先は……学校の屋上だった。周囲には誰も居らず、告白でもするのかと事情を知らない下世話な第三者なら言いそうな光景だが、生憎そうではない。さやかは和哉より先に屋上に着きフェンスの近くで待っていた。
和哉はさやかの前まで歩み寄る。
「悪い、授業が長引いた」
「別に良いです。……幾つか訊きたい事があります」
「何だ」
「どうして転校生と一緒に居るんです。アイツは……まどかに脅迫をしたんですよ?」
さやかは和哉に今にも掴み掛るのではないかというぐらいの勢いと語調で和哉に問い詰める。和哉はさやかの脅迫という言葉に興味を持ち、逆に問う。
「脅迫?」
「転校生は、まどかが魔法少女になったら総てを失うって……」
それは誤解だ。そう言い返したかったが、それは出来なかった。先ず、さやかを納得させるには魔法少女の事に付いて述べる必要がある。だがそれをさやかが信用するとは到底思えない。証拠を見せるには誰か魔法少女一人を犠牲にしなければならないが、そんなことしていい訳が無い。最早堂々巡りだった。
きっとボタンの掛け違いがこのような状況を招いているのだろう。だが、そのボタンを掛け直す事は至難の業であった。
……答えられなかった。伝えたい事も恐らく無駄に終わる。
「今は答えられない。何時か……必ず話すから。ゴメン」
和哉の謝罪に、さやかは違うと、訊きたい言葉はそれじゃないと言わんばかりに顔を顰めてから――
「そんなことを言って。何も言わないから全く分からないんですよ! 先輩が何を考えているのか!」
苛立ちを吐き出すように食って掛かるさやかに負けじと和哉は返した。
「お前らを死なせたくないから動いている……それぐらいしか言えないんだよ……」
「それだけで納得すると思っているんですか!?」
「俺だって思っていないさ!」
「じゃぁどうして教えてくれないんですか!」
話は完全に平行線だった。お互いが納得できる言葉をお互い思いつかないまま両者は睨みあう。和哉は伝えたい事を伝えられずに、さやかは釈然としないもやもやとした感覚を拭えずに。
睨みあっている内に昼休みの終わりを告げる5分前のチャイムが鳴り響いた。
「……すまん」
「時間ですね。それでは」
和哉の謝罪を聞くこと無く明らかに怒っているであろう口調での言葉を残してさやかは去っていく。それをただ和哉は見送る事しか出来なかった。
キュゥべえさえ居なければ。……などと今更どうしようもない仮定に想いを馳せる。けれどそれは意味を成さない事ぐらい知っている。知っているけれど、あまりのままならなさに和哉はそう思わずには居られなかった。
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放課後。
和哉との口論の続きをやっても不毛と考えたさやかは、和哉に恭介のお見舞いへ向かう事にした。何度も訊いても返って来る答えは同じで、最早時間の無駄だと思ったからだ。
時間を置いてから訊いてみた方が良いかもしれないと思いつつ、いつも通りCDを居れた紙袋を持って病院へ向かった。
「恭介?」
恭介の病室に来てみたのは良かったものの、当の恭介はぼんやりとしてさやかがやって来た事を気にも留めていない。まるで世界が終わったかのような。そんな表情。そんな顔をされるのはさやかにとって嫌だった。恭介は笑顔が一番だと、そう思っていた。
それにさやかはベッドの横に椅子を置き、紙袋からCDを取り出し、恭介のCDプレーヤーにCDをセットする。恭介はまるで能面のような顔でイヤホンを受け取り耳に付け、適当に選曲してから窓に身体を向けた。
恭介は聴いている曲の内容が耳に碌に入らなかった。どんな曲かは知っては居る筈なのに、まるで初めて聞く曲のように聴こえてしまう。
「何を聴いているの?」
「亜麻色の髪の乙女」
さやかの問いに恭介はふてぶてしいような無感情のような感じで答える。恭介の目は、まるで死人の目だった。当然だ。生き甲斐に等しいものを事故で奪われたのだから。
恭介はいつも通り……いや少しやけに明るいさやかがうざったくて仕方が無かった。無論、恭介は不満を声に出さないが為さやかは話し続ける。
「あぁ! ドビュッシーだっけ。素敵な曲だよね」
恭介はまるでさやかの言葉を聞いてはいないようで窓の方を見たまま目を瞑った。その沈黙に耐えられず、恭介を元気づけたいがためにさやかは喋る事を再開した。
「ほら、あたしってこんなんだからさ、クラシックなんて聴く柄じゃないだろって皆が思うみたいでさ。偶に曲とか言い当てたら驚かれちゃったり、意外過ぎて尊敬されちゃったりさ~。恭介が、教えてくれたから……。でなきゃ、あたし、多分こういう音楽をちゃんと聴くきっかけなんて……多分一生無かっただろうし」
思いつくだけの話題を振りまいている内に、恭介は口を開いた。
「さやかはさ……僕を苛めているのかい?」
それは、怒気と絶望を含んだ言葉だった。思わずさやかは返す言葉に困り、呆気に取られてしまう。恭介はイヤホンを外し、顔と死んだ目をさやかに向ける。
「何で僕に今でも音楽なんて聴かせるんだ? 嫌がらせの積りなのか?」
違う。さやかは否定するも、恭介はさやかの言葉に耳を貸す事は無く……
「もう聴きたくなんてないんだよッ! 自分で弾けもしない曲なんかッ! ただ聴いているだけなんて……僕は、僕はっ!」
まるで血を吐くかのように叫び、頬に涙を伝わせながら、左の拳をCDプレーヤーに乱暴に叩き付けた。再生中だったプレーヤーは砕け、破片などが恭介の拳に突き刺さる。一発だけでなく何度も何度も拳を叩き付けた。拳の傷から出た血が白いシーツに飛び散り赤く染めていく。
「動かないんだ……もう、痛みさえも感じない……こんな手なんて……」
壊れた機械の如くCDプレーヤーだったものに叩き付ける拳をさやかは必至に止めるも、己を傷付ける事に躊躇いを感じていない恭介を止めるのは非常に苦労するものだった。必死に押さえつけている内に恭介は自傷を止めて、さやかもゆっくりと押さえつけている手を離す。
「大丈夫だよ……きっと何とかなるよ! 諦めなかったら……きっと!」
さやかは必死に言い聞かせるが恭介の絶望の前には焼石に水だった。
「もう演奏は諦めろって……先生から直々に言われたよ。余程の医療技術の進歩が無い限り治らないって。僕の手はもう二度と動きはしない。奇跡か、魔法でもない限り治らない……」
二度と治らない。その事実がさやかの心に再び深く突き刺さる。だが、さやかにはまだ希望があった。魔法も、あった。
「……あるよ。奇跡も、魔法もあるんだよ」
確信を持って恭介に向かって言った。恭介はきょとんとした顔でさやかの顔を見る。そのさやかの顔は何故か……自身に満ち溢れていた。恭介は何を根拠にそんな事を言っているのか分かるわけも無かった。
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光実は、マミの家に呼ばれていた。座って家の外の風景を見るともう既に夕方で、陽は沈みかけている。ぼんやりと外を眺めているとマミが紅茶と茶菓子を持ってきてそれらを配ると光実の向かいに座った。
「呉島さん、私……魔法少女体験コースを、辞めたんです」
マミから放たれた言葉は意外なものだった。光実は予想外の一言で言葉を失うが、これで良かったのかもしれないという想いも抱いた。何故ならこれでキュゥべえと契約する頻度や危険性も減ったのだから(一応また別の危険性も生まれたが今は触れないでおく)。
「それは……どうして?」
光実の問いにマミは己の分の紅茶も用意していたが、それに手を付けずに少し顔が俯いた状態で答える。
「政美さんたちの事もあるし、鹿目さんや美樹さんを巻き込みたくなくて……」
これで、まどかは魔法少女同士のいざこざに巻き込まれずには済むだろう。だが、彼女を単独で動かす事もある意味問題であった。一人だけの状態で魔女結界に呑まれでもしたら忽ち殺されてしまう。さやかだって連中に顔を完全に覚えられているので魔法少女たちとは別々にすると手の届かない所で何されるか分からない。
ネガティブな言い方をするなら状況が変わっただけだった。
「勿論、魔女と戦い続けるつもりですけど……今の私では二人を守れる自信が無いんです……」
マミにしては弱気なひと言に光実は驚きを隠せずには居られなかった。魔女に殺されかけた事を引きずっているのか、それともファントムに良いようにやられたからか。
「僕が居ます。僕が巴さんと一緒に戦います。二人居れば魔女だって何とか倒せる筈」
「……有難う」
「いえ、気にしないで下さい」
出来る限りの笑顔で光実は言った。
今はマミだろうとまどかだろうとさやかだろうと死なせない事が前提だ。その為には全力を尽くさなければならない。
終わりの見えない状況。何時終わるのか光実には分からなかったが、今はただ彼女らに手を伸ばし続ける事を光実は選んだ。自分にどこまで出来るか分からないけれども。
その時、携帯のチーム鎧武が良く使っているとある楽曲をアレンジした着メロが光実のポケットから鳴り響いた。……まどかからだ。光実はすみませんと断ってから廊下に出て電話に出た。
『呉島さん! 大変なんです……私の友達が魔女の口付けに……!』
尋常では無い焦り様に光実は焦って、まどかの居場所を訊く。場所は郊外の小さな廃工場。それを聞いた光実は立ち上がって携帯を切った。
「どうしたの?」
部屋に戻って来た光実の尋常でない焦り様に不安を覚えたマミが問う。光実は焦って余裕のない表情で答えた。
「鹿目さんの友達が……魔女に!」
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「……どう、して」
信じられない事を、耳にした。さやかは唖然とするあまり、バッグを取り落す。病院の近くにある公園にて、キュゥべえを呼んで契約して貰おうと思ったのだが……
「どうして契約出来ないの!? あたしには素質が有るんだよね!?」
さやかは、新しい絶望に直面していた。眼前に居るキュゥべえは首を横に振り、その可愛らしい顔で冷酷に事実を突き付けた。
『美樹さやか。君はもう、魔法少女にはなれない。君は素質を失ったんだ』
「う……そ」
『嘘じゃないよ』
さやかは事実に耐え切れず、崩れ落ちた。一体何故素質を失ったのか?
「どうして素質が無くなったの?」
『それは僕にも分からない。だが、君はもう契約するだけの資格を失っている』
さやかにも心当たりが無いわけでは無かった。救出されたときにファントムに襲われた時だ。まるで心の中に入って来るかのような気持ち悪さと得体のしれなさを覚えたものだ。恐らくはその時に……
気が付けば既にキュゥべえの姿は消え去っていた。さやかはキュゥべえの居た地面に視線を動かさないまま、ただ途方に暮れるのだった……
おい誰か刹那とダブルオー持って来い。そして、さやか詰む。な回でした。