贖罪少年くれしま☆ミツザネェ!   作:ヌオー来訪者

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第09話 分かってるよ

 飛んできたドンカチに反応し、龍玄天斬はそれを避けてソニックアローを構えつつ順から離れた。激昂したグリドンSを相手にしていたら背後から襲われかねない。危険度の高い相手に気を配った方がいいと光実は考えて、龍玄天斬はソニックアローの刃をグリドンSに向けた。

 グリドンSが龍玄天斬にブーメランの如く戻って来たドンカチを振り上げて潰しに掛るのだが、龍玄天斬はそれを避けつつ斬撃を確実に当てていく。だが、防御力と相手の向こう見ずさもあってか全然怯む事なく容赦なく重い一撃が飛んでくる。

 

 光実の技量とゲネシスドライバーの相性を以てしても総て避けられるわけでは無かった。脇腹にハンマーの直撃を喰らい、全身に強烈な痛みが奔る。

 

「がはっ……!?」

 

 あまりの衝撃にふらつき、光実は脇腹を抑える。痛みを堪えながらソニックアローを構え直すと、何だか全身が重い感覚を覚えた。

 

――これは一体?

 

 まるで地面に引っ張られるような、感覚。最早歩く事すら一苦労だ。打たれた脇腹を押さえながら、光実は仮面の下で苦悶の表情を浮かべる。

 影武の動きが凄まじく鈍かったのはこれが原因か。だが、当たらなければどうという事は無いと言わんばかりにアウトレンジからの攻撃をしても、ハンマーが飛んできたり、装甲が固かったりする所為で戦いづらい。

 

 それどころか、このグリドンS。動きが先ほどよりやけに軽い。眼中から外れていた順がドライバーを取り戻すべく襲い掛かるが、マミがマスケット銃の銃身での格闘戦に持ち込んでくれている為に今の所は1対1の戦闘となっている。

 

 動きが鈍った龍玄天斬は追い打ちとして滅多打ちを喰らわされて、膝が地に着く。

 

 

 グリドンSはこちらに向かって走り寄る。

 

――トドメでも刺すつもりなのか!?

 

 光実の頬に冷や汗が流れる。こんな所で終わると言うのか。

 グリドンSはスーパードンカチを以て大きく振りかぶって龍玄天斬に殴りかかった。

 

「くぅっ……!」

【メロンエナジースカッシュ!】

 

 回避不可能と判断した龍玄天斬は重力に引かれる重い身体を無理矢理動かし、コンプレッサーに手を掛け一回動かす。そして――龍玄天斬が放ったソニックアローの強化斬撃とグリドンSの渾身の一撃が同時に炸裂した。

 

 スーパードンカチで胸部を殴り飛ばされた龍玄天斬のアームズユニットに大きな亀裂が発生し、強烈な衝撃を受け龍玄天斬は空高く空中に放り出された。重力が強いというのにここまで飛ばされるとは流石魔法少女とアーマードライダーのハイブリッドなだけはある。純粋な力押しでの勝利は実質不可能であるのも納得だと、宙を舞いながら龍玄天斬は思った。

 一方でグリドンSは、これまでの蓄積ダメージが祟ったか装甲がスパークしておりこれ以上の戦闘続行は不可能だった。……先にやられた影武の置き土産のようなものであった。

 

 

 クナイで龍玄天斬に斬りかかる順に対し、マミはマスケット銃の銃身で防ぎ火花が散る。恐怖心と正義感と押し合い圧し合いしているが為に力は碌に出せなかったが、光実が対応できるようになるまでの時間稼ぎくらいはしておきたかった。

 

「……弱くなっても正義感は健在ってわけっすか」

 

 マミと対峙している順は顔は笑っていた。……眼は全然笑っていなかったが。順からすれば挑発のつもりらしかったのだが、今のマミにはそれを耳にする余裕は無かった。マスケット銃の銃身を両手で持ち、バットのように扱う。銃弾はあてにならないので接近戦に頼るしかないのだ。……と言ってもマミが及び腰な為に、圧倒的に不利なのには変わりがない。

 マミが大きく銃を横に振るった所で、順が一旦少し距離を取るべく後方に跳びさがった所で、マミは時間稼ぎに右手を順の居る場所に向けて突きだして拘束魔法を発動。順の足元から四肢を縛り付ける為に現れるリボンだが――触れた途端に拘束魔法のリボンは色を失い、光と共に弾けて消えた。

 

「どうして……!?」

 

 これまでは拘束魔法も弱体化したとはいえ、触れる前に消滅する事は無かった。だと言うのに何故こうも……その謎は順自らが種明かしをする。

 

「こちとら魔法は効かんのですわ。時止められようが、遅くされようが幻覚見せられようが意味が無いんですよ」

 

 その言葉の要所だけを頭に入れて、マスケット銃を構える。打撃は順には一撃も決めていない為まだ分からないのだが、彼女の言っている事が本当ならば攻撃もやり様によっては防がれるか無効化されるしかないという事を悟り、マミは歯ぎしりした。

 

 順がクナイを両手に3本ずつ精製し、其々をマミに向かって投げつけて来る。回避とマスケット銃での打撃による迎撃をする事でダメージを抑えようと試みるが、一発掠り頬に一筋の傷を作った。

 その傷は間もなくして再生するので痛くもかゆくもないのだが、マミとしてはあまり受けたくは無かった。魔力消費効率も落ちている現状、グリーフシードの数も殆ど無い。魔力は時間経過で回復する代物ではないのでグリーフシードにはどうしても依存せざるを得ない。それ故に魔女撃破数が現状ガタ落ちしている今では死活問題であった。

 

 嘗て一緒に戦っていた、グリーフシードを得る為に手段を択ばないが為に喧嘩別れした少女の姿がふとマミの脳裏を過る。そんな中でも容赦なく順の攻撃が飛んでくる。背中に×の字に背負った小太刀二刀を抜刀して、マミに斬りかかる。

 それをマミはもう一本マスケット銃を精製してこちらも二刀流(?)で挑み、銃身と刀身がぶつかり合い、火花を散らす。その瞬間、マスケット銃は掻き消えた。……まるで元から何も無かったかのように。銃を握っていた手だけが残る。

 

 マミは大きく後方へと飛び下がった。

 

 このままでは確実にやられるという恐れが強かったが故に、動きに迷いは無い。その後退で龍玄天斬とグリドンSの居る場所まで立ちふさがる者はいなくなった。

 これを好機と思った順がそのままマミを素通りし、龍玄天斬のもとまで走り寄ろうとしたその時――一人、長い黒髪をたなびかせた少女が立ちふさがった。

 

 

 その少女は暁美ほむらだった。

 

 

 

「ここから先は通さないわ」

 

 ほむらはバックラーからナイフを取り出し、構える。

 

 付け入る隙が無く、迂闊に時間停止を使えなかったのでタイミングを見計らっていたが、これで戦える。そして先ほどまで見ていた戦闘で大体順の能力を察した為にほむらの中で対処法が確立されていた。……魔力を使わない武器で戦ってしまえば良いという極めて単純な方法。

 ほむらは専用武器と言えるものを持って居なかった。マミのようにマスケット銃を持って居なければ、順のように忍者じみた武器も持って居ない。

 その為、ほむらは人間の武器を活用するしかなかったが故に幾つか銃器や爆弾、ナイフを事前に持ってきている。

 魔力を使わない武器ならば、魔法少女殺しだろうと対処は難しい筈だ。だが、飽くまで通常兵器<魔法武器という図式が成り立っている為、扱いを間違えれば簡単にナイフは圧し折れてしまうだろう。……アーマードライダー級の兵器は別として。

 

 培ってきた動体視力と反射神経を生かして、クナイを避けてナイフで斬りかかる。だがそれは小太刀であっさりと防がれ、ほむらは最低限の距離へと位置確認をしながら後退する。

 ヒットアンドアウェイ。時間停止を使ったり遠距離から鉛玉を浴びせる事が多かったために、こういう風な戦闘には慣れて居ない。殴り合うのは危険だ。

 こうなるのならば、サイレンサー付きの銃ぐらい拵えておけば良かったのかもしれないと、ほむらは軽く後悔した。

 

「消せない? どうして……」

 

 まさか魔法少女が普通のナイフを使っているとは想像も出来なかったのだろう。順は怪訝な表情で、距離を取っているほむらのナイフを見る。

 

――一々種明かししてやる必要は無い。

 

 ほむらは順の疑問に答えず、無言で順に飛び掛かり、ナイフを振るう。順はそれを避けつつ反撃に出る。ほむらは攻撃を途中でやめて回避行動に専念。

 隙が出来た所で、ほむらは攻撃を再開。

 

 ほむらの放った一閃が順の髪を掠め切れる。

 

 順も負けじと小太刀による斬撃を放つが、バックラーで防ぐ事で事無きを得て反撃。

 

 

 厄介極まりない無効化能力持ちさえ無力化してしまえば、時間停止でどうとでもなる。ここで叩き潰してしまいたいのがほむらの本音であった。それに今はゲネシスドライバーを持って居ない。今が好機だった。

 ほむらの攻めがどんどん多くなる。だが、順も負けておらず、距離を取ってクナイを投げつける。

 

「ッ!?」

 

 数発はバックラーで防ぎ跳ね除け、他は最低限の動きで回避。次の一手を考えようと開いた距離を保ちつつ、次の一手をほむらは考え始めた……その時――

 

 龍玄天斬が宙を舞い、ほむらの近くまでどさりと音を、土煙を立てて墜落した。ほむらは何事かと龍玄天斬が吹き飛んできた背後を向くと、装甲に電撃を上げているグリドンSの姿が。スーパードンカチを落とし、膝をつく。もう彼女にはまともな戦闘続行は不可能だろう。そして龍玄天斬もまた――

 

 満身創痍のグリドンSを見ると、順は血相を変えて隙の出来たほむらをスルーしてグリドンSのもとへ走り寄る。最早両者共々疲弊しきっていた。龍玄天斬は墜落して起き上がる事もままならない状態で、マミは言うまでも無く弱体化している。こちらは時間停止が実質封じられているような状況で火薬すらも大騒ぎになりかねない為に迂闊に使えない。……実質引き分けであった。

 

 グリドンSと順が大きく雑木林までジャンプして去っていく。

 

 ほむらは彼女らを追う事はしなかった……というより出来なかった。まともに戦える者が一人しかいない時点で敗北する可能性は高いし、あちらにはゲネシスドライバーが一基ある。順が琉璃から借りてしまえば更に返り討ちに遭う可能性が高くなる。

 ゲネシスドライバーを一つ手に入れる事が出来ただけでも充分と思うしかない。

 

 

 

 光実は重い身体が軽くなるのを感じて、立ち上がるとふらりと身体が軽くよろけた。重力に身体が慣れてしまったらしい。変身を解除して、ふらふらしながらも順たちが去った跡を見やる。

 今回も戦闘はあまり振るわなかったが、相手の特性を知る事が出来た事と、ゲネシスドライバー一つ手に入った事は非常に幸運な事であった。ゲネシスドライバーがあれば行動の幅が広がるというもの。

 気絶した和哉は意識を取り戻したらしく、状況をまどかから聞いている。

 

 

 戦力が増えた今、これからどうしようと考えていると、隣に居たほむらが口を開いた。

 

「酔狂ね、貴方。追っていた目的の敵は潰したというのに巴マミと共に戦い、魔法少女の事についても知ろうとする。その上倒しても全くメリットの無いファントムを巴マミも誰も見ていないというのに倒している。貴方の目的は一体なんなのかしら?」

 

 自分が葛葉紘汰の行っていた事に沿っていて、他者から見れば葛葉紘汰のやって来た事は端からみれば酔狂にしか見えないのは承知の上だった。実際、ビートライダーズ排斥運動が沈静化していた後でも、ライダーによるインべス退治に対する評価はあまりよくない。売名だとか言われていたりする。

 唯でさえ人間世界の黒い所並にギクシャクしている魔法少女の世界からすれば光実や和哉の行為は特異に見えて仕方ないのだろう。

 

 だが……葛葉紘汰の代わりに戦う事とした光実は答える。

 

「人を助けられる力があるのに何もしないのは、今の僕には出来ないから」

「……傲慢ね」

「分かってるよ。それくらい僕自身がよく知っている」

 

 ほむらの指摘が光実の心に突き刺さるが、激する事は無かった。ほむらは「そう……」と何時もの様に抑揚の無い返事で返し――

 

「メロンエナジーは暫く貴方に預けておくわ」

 

 そう言い残してからほむらは歩き去って行った。

 信用の証と考えても良いのか、それとも戦力として利用できると考えたのか。それは光実には察する事は出来なかった。

 

 

 

 新しいロックシードが手に入っても、状況は変わる事は無かった。突きつけられる圧倒的戦力差という現実。今の自分は足を引っ張ってしかいない。まどかから気絶していた間の状況説明を聴きつつ和哉はそう思っていた。

 傷は軽い打撲程度で済んだ為に、ほむらから治療は受けずにグリーフシードを渡してから、まどかを家まで見送り、直ぐに帰宅した。

 

 身体を動かさずには居られず、打撲を打っているのに拘わらず自宅の庭で一人素振りを続けていた。己の弱さへの八つ当たりと、琉璃が魔法少女であり周子側に居たという事への現実逃避も込めて。時計は既に9時を回っており、庭で木刀を振るっている姿を見かけた姉の和子は訝しげに縁側から和哉の顔を見た。何時もならばこんな夜で素振りなんてしない筈だ。やるとしても三日坊主の腕立て伏せぐらいだというのに。

 

「……どうしたの。こんな夜に」

 

「…………」

 

 声に気付いた和哉は素振りを少し止めるが、直ぐに再開する。和子はその様子を不審に思って縁側に腰掛けて、和哉が素振りを終えるまで待ち続けた。和哉が疲れ果てて漸く終えると和子は口を開いた。

 

「何か悩み事?」

 

 流石教師なだけに洞察力は人並み以上にある。察しの良さに思わずぎょっとするが、何とか誤魔化そうと言葉を考える。

 

「あるんだったら、良かったら話してみなさい。これでも私、一応教師なんだから」

 

「……いや、大丈夫」

 

 上手い言葉が思いつかず、「ありますよ」と言っているのとほぼ同じな回答をしてしまう。和哉は己の頭の回転の良く無さに歯噛みしつつそのまま自分の部屋へと木刀を持って去っていく。

 和子は和哉を追う事はしなかったが、どうやって接すればいいのかと悩むばかりであった。

 




 魔法世界について色々掘り下げたい所ですね……一応科学世界と無関係な平行世界ではないですし。
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