ハルトの過去が若干えげつない(個人差有り)事になっております。
本作を真面目なタイトルに変えようかなと思っているこの頃。とは言っても代わりのタイトルなんて思いつきませんがorz
#1 信頼/龍の咆哮Ⅰ
夢を見た。
夢には紘汰さんが居た。舞さんが居た。裕也さんが居た。そして皆が居た。
インべスゲームや黄金の果実とかヘルへイム何てものも無く、僕は勉強をしながら皆とダンスを踊っていた。兄さんはそれに少し顔を顰めながらも、門限を守り、成績を維持していれば何も言う事は無かった。
優しい世界だった。時々いざこざがあっても僕たち皆で考え、解決して、乗り越える。誰も傷ついたり、死んだり、辛い思いをする事の無いそんな世界。
そして目を覚ました瞬間、僕は思うのだ。
このまま歪みを残して大人になるという未来を。そして歪みを振り払った(と信じたい)今の僕は――――無数の『あまりにも理不尽な犠牲』の上で生きているのだと。
罪は消えない。何をしようとも間接的とはいえ正治の言葉の通り人殺しという事実には変わりは無い。
だが、喩え死より生きる事が辛くとも僕は今日も生き続ける。
もう、あの日には二度と戻れない。
僕はあの時無知であるとは言え運命を選んで突き進んだ。そのツケの払う事を……償いを、しなきゃいけないんだ。
/
嘗て新興都市と呼ばれた『沢芽市』。大企業ユグドラシルコーポレーションの計画都市として大きくなり、殆どの社会人がユグドラシルの笠下や系列の企業に就職し、その高い就職率は明日をも知れぬ不況である昨今、沢山の人の憧れの的と一時期はなっていた。
だがそれは世界を震撼させたとある事件により人口が減ってしまう。それにより、現在は新しい住民を増やすべく躍起になっている街だ。
そんなこの街では宣伝を兼ねた祭りが近い内に行われる予定がある。高司神社で行われたお祭りを復活させたいという考えのもとで行われるそうで、神社こそ立て直しはされないが、舞いを高司舞(ちょっと紛らわしいかな)の親族が踊るのだという。
そして、ビートライダーズの合同チームによるステージを行ったりと、ダンス尽くしである。無論、それだけでは無く著名な芸能人などと言ったゲストを招いたりと、本腰を入れて行っている事が伺える。
「……所で、お前ほぼ毎日街から出てるけれど何してんだ?」
そんなお祭りムードが少しずつ高まっているある日。そろそろ、見滝原市に出発しようと考えた時だった。ザックにばったりと出くわしてしまった。それでもって、そんな質問を受けた。
「ちょっと、やる事が見つかったんです」
光実はそれに濁して答えて、ザックは何を思ったかそれ以上は訊かなかった。
暫く無言が続き、渡ろうとした交差点の横断歩道の信号が赤になり、光実とザックは足を止めた。待たされる時間が少し暇だったので暇潰しに光実は話題を振った。
「ザックはこれから何を?」
「ん? 俺はアルバイトの面接だ。賞金で荒稼ぎしていた俺たちの影響力はもう少ないし、ダンスに金があまり入らなくなっちまったからなぁ。俺たちの拠点も長い間野放しだったし、色々ガタが来ちまってて。新しい機材とか道具を買おうと思ってんだ。それに――――」
ザックは少し寂しげに、赤信号を見ながら話を続けた。
「いずれ皆で集まってダンスしている日々も何時か終わりが来る。その予行練習も兼ねている……かな。ちと湿っぽいか。俺とした事が柄じゃねぇな」
そう言って女性人気の高さの秘訣であろう笑顔を光実に見せる。ずっと子供のままでは居られないという事。それにザックは向き合っていた。
――果たして僕はどうだろうか?
光実はふと、そんな事を思っていると、この場に誰かの悲鳴が木霊した。
「「!?」」
光実とザックは何事かと周囲を見回すと、人が群れを成してこちらへ向かって走って来た。
それに肝が相当据わっていたザックと光実は逆らうように人の波を掻き分けて進み、漸く人混みから解放されると、宝石店の入り口前に行き着いた。そしてそこから――――
「インべス……!?」
光実は信じられない物を目にしたかのように目を見開いた。ザックはそれ程でないにせよ驚いた表情を見せる。二人の眼に映っているもの。それは宝石店から出ていく商品を(間違いなく無断で持った)下級インべスの集団だった。
それにこの光景は見覚えがある。……これは――――
何故インべスがそこに居るのか気にはなったが、ここで放っておくわけには行かない。ゲネシスドライバーで殲滅しようと上着の中に手を掛けたが、直ぐに取りやめて戦極ドライバーを取り出した。
別に舐めて掛っているつもりでは無い。だが、この街では誰が見ているか分かったものでは無い。既に知られている戦極ドライバーなら兎も角ゲネシスドライバーという出自が分かったものではない物を持って居る事が貴虎に知られでもしたら面倒だ。それに目の前にはザックが居るではないか。ザックを信用していない訳では無いが――――
【ブドウ】
戦極ドライバーを腰に巻き付けて、ブドウロックシードを開錠した。
「変身」
そして逃げ出すインべスへと向かって走りつつ、戦極ドライバーにブドウロックシードをセットし、カッティングブレードを倒す。
光実は龍玄へと変身し、そのままインべスを止めようと駆けつけていた警備員を殴り倒していた下級インべスに飛び掛かった。
【ハイィ~ッ! ブドウアームズ! 龍・砲・ハッハッハッ!】
飛び掛かられた下級インべスは商品をバラバラと地面にばら撒き、地面に倒れる。突然の乱入者に驚いたのか、周囲のインべスたちの動きが一瞬だけ止まるが、状況を察すると大挙して龍玄に襲い掛かった。
飛び掛かかり倒したインべスに泣きっ面に蜂のゼロ距離射撃を叩き込み、大挙して襲い来るインべスを避けるべく大きくジャンプし、上空から弾丸の雨を降らせる。
上空からの弾丸の雨を叩き込まれたインべスは大きく怯み、少し距離を取った場所で着地した龍玄はカッティングブレードを一回倒した。
【ハイィ~ッ! ブドウスカッシュ!】
龍玄は助走を付けて、前方で集合しているインべス目掛けて必殺の蹴り、『龍玄脚』を放った。龍玄がボーリング玉に例えるならば、インべスたちはピンというべきか。一番前に居たインべスが蹴り倒され、まるでドミノ倒しの如く後方に居る者も倒れて、爆散していく。
決着は直ぐに付いた。
光実自身がインべス相手に戦い慣れしている事と、魔女などとの戦いで経験を積んでいた光実には下級インべス程度敵では無かった。
残りはもう居ないかと周囲を確認していると、電柱に隠れていた10歳前後の少年を見かけた。彼の手にはロックシードが数個。……まさか。
「君……」
言葉が思いつかないながらも何か咎めようと物を言おうとした矢先、少年は一目散に建物の間の狭い道へと向かって走り出した。
「アレは……まさか」
ザックもそれに気づいたらしく、顔を顰め、二人は少年を追うべく駆け出したものの少年は思いの外、すばしっこく少年の姿は直ぐに見えなくなってしまった。
「くそっ……どうしてあんな子供がインべスなんかを……アレもあの子供がやったのか……!」
ザックは子供がインべスを使って強盗していた事実に耐え切れず近くにあった電柱を殴りつけた。あんな10歳前半の子供がインべスを操り、嘗ての悪質なビートライダーズと同じような事をしていたのが余程堪えたのだろう。しかし『アレ』とは一体何だろうか? 光実の疑問はザックの呟きで答えが出る事となる。
「昨日も……インべスの襲撃で店をやられていた」
「……えっ」
光実はザックの言葉に眼を丸くした。
流石の光実でも沢芽市を全て把握している訳では無い。土地の面積は結構広いし、情報が遅れて入って来る事などざらだ。それに、見滝原の件で疲労が溜まり沢芽市の事にあまり気にも留めていなかった。
「実の所俺がバイトに出てたりしていたのは練習場が使えなくなったんだ。ビートライダーズは活動を自粛しろって。……祭りも最悪潰される可能性もあるんだそうだ」
まだビートライダーズを疑って掛る者が居るのかと、光実は心底うんざりした。元々沢芽市もあの一件で人が離れ、土地が安くなっていたのに拘わらず人は来なかった。何故ならば、沢芽市を閉鎖しろと今でも喚く人間は少なからず存在しているのだ。もう既にヘルへイム植物は消滅しているというのに。彼ら曰く住民は感染していて病原菌をまき散らしているそうだ。
一体何のために紘汰は戦ったのだ。と、時々光実は思う。
賞賛されるどころか、後ろ指さされ続け、待っている未来はお世辞にも明るいと言えないのに。
「紘汰さんはどうしてこれまで戦ってこれたんだろう……こうにまで待っている未来が暗いと分かっていてもどうして……」
光実は思わずそう、口にした。ザックはそれに少し考えながら、答えた。
「あの日、戒斗から戦極ドライバーを託され、戦うようになってから誰かを護る誇りを俺は知った。アイツと同じかどうかは知らないが、義務とか責任とかそういうのじゃなくて、自然と何かを守りたいと思えるようになってくる。俺の勝手な推測だけれども、『誰かを護る誇らしさ』が有ったんじゃないか?」
「誇り……」
光実はザックの言葉を反芻するように繰り返す。
誰かを護る誇らしさ。それは以前持って居たような気がする。紘汰と舞が笑っていられるそんな未来を護ろうとした嘗ての自分。そしてそれが結果として――――
「でも誇りは時として傲慢に変わる事がある。特に嘗ての僕は、そして今の僕も――――」
同じ過ちを繰り返す事になるかも知れない事が、怖い。あの事件で自分が信用出来ないように光実はなってしまっていた。
光実の言葉にザックは首を横に振って答えた。
「以前やって来た事に負い目感じているならそれで充分だ。それにまた間違っちまった時は少なくとも俺や城乃内が絶対にお前をぶん殴ってでも止めに行ってやる。仲間としてな」
「けど……!」
それ以上は皆に迷惑を掛ける訳には行かない。それにああにまで迷惑を掛け続けたというのに、大量の犠牲のトリガーとなっても、それでも『仲間』だとでも言うのか。
紘汰の事はもう少々諦めは付いていたし、付き合いの深さと彼の性格上仕方ないとも言える。もう割り切ってしまったというのが本音であるが、彼らはそうでは無い。
長い付き合いでも無い上に敵対してしまっているのだ。
だが、ザックは引き下がらなかった。
「頼る時は頼って間違った時は止めに掛る。仲間というのはそういうものだろ。昔やった事は確かに悪い事なのかも知れないけどさ、訳の分からない黒いアーマードライダーとインべスが襲って来た時、お前は一人で街を守る為に戦ったのも事実だ。人は変われるんだよ、俺がそうだったように。だから、今のお前を俺たちは信じる。お前はお前で変わろうとした気持ちに従ってやればいいさ。あ、だが文句の一つ二つは覚悟しとけよ?」
最後の所でザックは少しおどけた口調で言った。それに光実は俯いた。
「…………僕は」
もし、多くの人間を傷付けた自分に、自分の思うように行動する資格があるのならば。どうすれば良いのだろうか? マミたちを助けるのか、それともこの事件を解決するべく動くのか。
―――僕ならば…………
「…………ザック、少し頼みと話が有ります」
「おう、どうした?」
味方を最大限に活かす。巻き込みたくは無かったが、一人で何もかも隠してやって行くには最早限界があった。但し、以前とは違って極力隠し事はしない方向だ。以前の自分なら一人で何とかしようとしていただろうが、この状況ではそうも言ってはいられない。
到底想像もつかないし話が凄まじく拗れる魔法少女や魔女の事は少々ぼかしつつ、ファントムの存在について、光実はザックに話そうと、決心した。
ザックは少し驚きはしたのだが、最後まで黙って聞いてくれた。ファントムについてはザックは一体を目撃している為、話は円滑に進んだ。そして話の終わりにザックは
「この街は俺たちに任せろよ。あの子供見つけたら連絡する。その間お前はファントムを頼む。どっちも放っておけないからな」
と、力強くそう言ってくれた。
/
魔法世界と呼ばれる世界は、魔法が使える事が前提の世界だった。何故、魔法が使えるのかと言うと、魂にファントムと呼ばれる魔力の塊のような幻獣を抱えている事から来る。それを持たぬ例外は『殆ど』存在しない。
何故、魔法世界にはファントム持ちが多いのであろうか?
その答えは、魔法世界の伝承が知っている。
魔法世界を創世した女神と呼ばれる存在が大きい…………らしい。
元の世界は非常に理不尽で溢れていて地獄のような世界だったのだという。
実際は魔法世界が完全無欠で素晴らしい世界という訳では決してないが、実質魔法世界に於ける国教のような扱いなので多少誇張しているのであろう。
そして最大の『理不尽』が世界を襲った。
理不尽は何もかも吹き飛ばし、焼き尽くし、総てを廃墟へと変えてしまった。
それはおかしいと、叫ぶ者が居た。女神さまだ。女神さまは理不尽に抗うべく立ち上がった。そして立ち上がった結果――――
理不尽を消し飛ばして、世界を作り変えた。
作り変えられた世界で生まれた人間は総て魔法を持っていた。
その魔法を以て人々は繁栄し、社会や都市、法律を造り、そして国家を造った。
それから何百年の時が流れてから一つの
彼は魔法が使えなかった。魔法を使えるのが当然な人々にとってハルトは異形のもの同然だった。一部の熱心な女神の信者はハルトを『叛逆者』と呼んだのだ。
当然、ハルトの両親も彼を『人の出来そこない』と詰り、蔑んだ。
「何故、国王に認められる程に弟は優秀なのに、お前は魔法を使えないのか」
「何故、女神さまの救済を拒んだのだ」
「背教者め」
幼い頃のハルトは責め立てる周囲に恐怖しつつも、魔法が使えない己を責めた。
逆に弟は非常に優秀だった。10にも満たない年齢で国王に認められ、稀代の天才とすら呼ばれていた。それ故にハルトの存在は両親にとって汚点そのものであった。
だからハルトを――――表向き死亡扱いにした。
弟の優秀さに耐えられなくて身投げした、と動機としては変ではないだろう。寝ている間に遠い場所まで連れて行かれて放置。魔力探知が出来ない事を良い事にハルトを失踪扱いにさせてしまったのだ。
この世界は科学世界のように丁寧に法整備されてはいなかった為、ハルトの事を詮索する者は当事者を除いて一人とていなかった。
朝起きるとハルトは山の中に居た。近くには果物など申し訳程度の食べ物と置手紙が置かれていた。それには『食べてもいい』と書かれていた。誰が書いたのかは分からなかったがその文に甘え、ハルトはそれを手にして彷徨った。見知らぬ道、見知らぬ街を。帰ろうと思っても自分が何処へと向かっているのか分かりはしなかった。
どうしてこんな所に居るのだろうか。両親に詰られたりと辛い事は沢山あるけれど家に帰りたいという気持ちで一杯で、泣きそうになった。
この頃ハルトは7歳。働く術も持っていなくて、体力も大人程持っては居ない。夜になると近くに置かれていた果物を齧り、飢えを凌いで一夜を明かした。
けれども直ぐに限界はやって来た。
パンが食べたいと何度思った事か。けれどもそんな事を何度も思っても食べられる訳も無く、ハルトは空腹に耐えきれず5日目の深夜の人気の少ない夜道で倒れてしまった。
盗みも考えたが、犯罪を犯して両親や弟の顔に泥は塗りたくなくて盗みは出来なかった。
ハルトは思った。死んだらどうなるのだろうかと。死後の世界とはあるのか。言い伝えの通りならば、女神さまが天国に連れて行ってくれるのだろうが、生憎ハルトは背教者。女神の救済を拒んだ『出来そこない』なのだ。―――だが死ね無かった。
目を覚ますと、白い天井が広がっていた。身を起こすと空腹で腹が痛くて直ぐに再び倒れてしまう。
身を起こした瞬間、誰かに助けられたのだと悟った。見た所誰かの書斎だろうか。周りには本棚が置かれ、難しそうな本が所せましと並べられている。
ハルトはそんな部屋の片隅のベッドで寝かされていた。
一体ここは何処なのだろうと思いながら周囲を見回していると、部屋のドアががちゃりと音を立てて開いた。
「気が付いたか」
開いたドアから学者風の男が現れ、「ちょっと待ちたまえ」と言って再び何処かへと行ってしまった。暫くすると再びここへ、飲み物や食べ物を乗せたトレイを持ってやってきた。
「何処か痛い所は無いか? 朝に道端で倒れていたのだが……」
学者風の男に問われるも、ここは何処なのか。この学者風の男は何者なのか。警戒心で答える事はしなかった。
「…………答えられないか。まぁ、これでも食べると良い。寝ている間随分と腹を鳴らしていたようだからな」
そう言われるとハルトは少し慌てるも、大人しく食べる事にした。あまりにも腹が減り過ぎていて遠慮も出来はしなかったのだ。…………簡素だが美味しかった。何時ぐらい久々のまともな食事だろうか。
家に居た頃は弟たちとは別に粗悪なものぐらいが殆どだったというのに。まともと言っても食べられたのは残り物だったのだが。
不思議と涙が出た。落ち着くと自分は親に捨てられたのだと、ハルトは今更ながら察した。
これまでの親たちのハルトに見せる態度で動機としては充分だったし、自業自得だとハルトは思っていた。何せ、魔法が使えない自分が悪いのだから。
一日後、ハルトは男に全てを話した。自宅で寝ていた間に気付いたら知らない場所に居た事、暫く放浪していた事。学者風の男はハルトの頭を撫でた。
「よく頑張った」
言い聞かせるように男はそう言った。ハルトは耐え切れず、声を上げて泣きだした。
男、植野ソウは塾の講師と魔術学者をやっており、子供たちに魔法史などと言ったものを教えていた。魔法が使える事を第一とするであろう人間に思われたが、そうでも無く魔法が使えないハルトをすんなりと受け入れ、ハルトを住まわせた。
ハルトにとってそれは人生の転換期でもあった。ソウの授業や研究の手伝い、ソウの妻の家事手伝いを始めた。そんな中でもやはり魔法が使えないハルトは周囲から白い目で見られた。……だが、例外は存在していた。
千鳥トウゴというハルトと同い年の少年と、蛇島ミアという一つ年上の少女だ。
二人ともソウの教え子であった。
トウゴは非常にまじめで優秀な生徒で、他者との喧嘩は極力しないし、手も上げない心優しいながら、理不尽には毅然と異を唱える少年で、一方でミアは魔法が使えようが使えなかろうがそれがどうしたと言わんばかりのアバウトな性格だった。魔法が使えない事を知っても「ふーん、そうなんだ。それが何か問題?」と事も無げに言い返す男勝りで、ハルトを蔑んでいた生徒を物理的方法で撃退したりしていた。
ハルトにとって二人はかけがえのない親友だった。その逆も然りだ。
ハルトも魔法が使えない事に甘える事無く勉強を沢山し、身体を鍛えたりした。魔法が使えないならば別の事でアドバンテージ得ればいいのだ。
その結果、ハルトを蔑む者は殆どいなくなっていた。少しではあるが他にも友達も増え、魔法が使える人間からも次第に認められるようになっていった。
だが、突如としてその日々は終わりを告げる事となる。
サバトと呼ばれる謎の儀式がとある日食の日にて突如として始まったのだ。これにより魔法が使える人間は悉く砕け散り、ファントムを産みだした。生き延びた人間は、生まれようとしたファントムを無理矢理抑え込んだ人間、若しくはハルトのように魔法が使えない人間だけ。
見せつけられたのは地獄絵図といっても過言では無い光景であった。
無数の人間が全身に紫色のヒビを作って、悲鳴を、叫びを上げている。
ある者は誰かに救いを求め、ある者は痛みに耐えられずに泣きだし、ある者は自分に構わず他者の安否を気遣う。
だが、何をしても待っている結末は殆ど同じ。この世のものとは思えない醜い異形の怪物が人間の身体を内側から現れ、人間という殻を食い破り、卵から産まれる動物のように産まれてゆく。
ただ、それだけ。
目の前で非情な現実を見せつけられているハルトはただ叫ぶ事しか出来なかった。
ソウはファントムを無理矢理抑え込んだ者の内に入っていた。ハルトやソウの他にも僅かな人間は生き残ったのだが、知り合いは全員ファントムへと姿を変えてしまっていた。
トウゴも、ミアも。
「ハルトは……無事なんだね。良かった」
砕け散る寸前でも他者を気遣うトウゴ。
「いや…………痛い、よ…………助けて……ハル……ト」
ハルトに触れようとした瞬間にファントムが生まれ砕け散ったミア。
ハルトはただ、泣き叫ぶしか出来なかった。目の前で無数の人々が成すすべも無く死んでいく光景を見せられて気が狂いそうだった。
何もかもが終わった時にはファントムが人々が築いた街の中を跳梁跋扈していた。
だが―――ごく一部の人間は生きていた。相当な精神力の持ち主か、宿していたファントムが弱かった人間だけは。生き残ったソウは宿していたファントムが弱かったのだ。
ハルトたちはファントムに襲われる可能性を危惧して、街から離れた。それからだろうか? ソウが何かに憑りつかれたように研究資料に没頭するようになったのは。まぁ当然だ。ソウには大切な家族が居た。妻が居た。妻はソウの目の前で砕け散り、醜悪な怪物と成り果てて真っ先にソウに襲い掛かったのだから。
1年間の逃亡生活の後、ソウはハルトに言った。
「ファントムを殲滅出来るだけの力と全てを元通りにする鍵が欲しくないか?」
と。
何もかも失ったハルトは迷うことなく、その力を欲した。我が物顔で自分たちが居た街を闊歩しているファントムが許せなかった。一人残らず叩き潰してしまいたかった。逃亡の中でも同行者が嬲り殺されたが為にハルトの憎しみは頂点に達していた。
ソウは遺跡に封印された伝説のファントム『ウィザードラゴン』の封印を解き、それをハルトの体内に封印させる。そうする事でハルトは魔法を手に入れた。
そしてソウはハルトに魔法とウィザードライバー、そしてリングを渡して、異世界たる科学世界へとハルトを送り込んだ。
同族を増やすべく異世界にまで魔手を伸ばしたファントムを倒すべく。そして、『鍵』の意味を知らぬまま。
ハルトが持つウィザードラゴン。それは、嘗て魔法世界を混乱に陥れた史上最悪のファントムと呼ばれている存在である。もし、その力をフルに解放しなければならない時が来たとしたら。
その果てにあるものは恐らく…………
「ひゃははははっ! どうした死にぞこないの魔法使い、いや、出来そこないだったか! どっちでもいいやか。このままでは全員死んじまうぜ! どうする、絶望でもするかぁ!?」
赤い不死鳥型のファントム、フェニックス。それが見滝原の地下駐車場を火の海に変えていた。その炎の中にウィザードと杏子、そして龍玄天斬とマミの姿があった。
煤で4人の身体は黒ずんでおり、服の一部が焼けている。
そんな灼熱地獄の中、悠々と歩くフェニックスは地に膝をついたウィザードの首を掴んで上に持ち上げてから笑いながら吠える。
「さぁ、絶望してドラゴン生み出しなァ!」
次回、光実とマミ視点でどうしてこのような状況になってしまったのかについて語ります。VSフェニックス戦、お楽しみに。