「ここ何処……何処ォ!?」
早乙女和哉の叫びは、この深い森の中で意味も無く木霊した。同行していた美樹さやかはげんなりとした表情で叫ぶ和哉を他所に溜息を深く吐いた。
「あぁお腹空いた……シャワー浴びたい……」
もう本編で割を食っているさやかだが、外伝でも相変わらず割を食っていた。丸一日ずっと歩きっぱなしだ。空腹とシャワー浴びれないストレスに耐えながら街を目指して歩く歩く。
「休むか……」
歩きっぱなしでは体力の消耗も半端では無く、和哉とさやかは木に凭れて一服する事にした。手元におにぎりでもあれば完璧なのだが……
「先輩……あたしたち何時間歩きました?」
「あーわかんね」
さやかの問いに投げやりに返しながらも、ポケットの中に入れた携帯電話を取り出して時計を確認する。約……5時間は歩いたようだ。5時間歩いてずっと森の中というのは酷い話だ。通り道川が有ったので水分補給は出来たのだが、食べ物に関してはからっきしだ。あぁ、何か食べたい。
だったら警察なりレスキューなりに電話して助けを求めれば良いだろうと言われるかも知れないが、こっちは最初の段階から不可能である事が確定している。幾ら歩いてもアンテナ一本も立たない圏外なのだ。
さやかの携帯もてんで駄目だ。最初調べたのはさやかで壊れているのではないかと疑い「お前の携帯が旧いんだよ新しいのを買いたまえ」と最近最新機種を手に入れて調子こいてた和哉は笑っていたが、自分の携帯も圏外だったのでさやかを笑えなくなったのが現状だ。尚、和哉の携帯も圏外である事を知ったさやかは「ざまぁ無いぜ」と言わんばかりにほくそ笑んだのは余談である。
何ともまぁ性格の悪い張り合いである。
「5時間だ5時間」
「うへぇ……」
5時間も歩いた事に驚きと諦めを感じながらさやかは一気に脱力した。もうこのまま死んでしまうのだろうか? 餓死で? 絶望して自分が魔女化するより笑えない。
「帰れるんですかねぇ……」
「知らないよ」
さやかの答えが分かり切った質問を空腹の苛立ちのままに和哉は一蹴し、意味も無く空を見上げる。
―――空が目に染みやがる……綺麗な空だ……
どうせ死ぬなら最終回でベンチに座って友人の結婚式後に笑顔で死にたい。だがよく考えればその死に方はその前に強盗に刺されなければならない。痛いのは嫌なのでその死に方に憧れるのは止めて置いた。
暫く休もうと肩の力を抜こうとしたその時、新しい影が和哉の視界を覆った。
「美樹か…………っ!?!?」
美樹かと思ったのだが、実際は違った上に和哉は意外過ぎる者に目を見開き唖然とした。和哉の視界に居るのは……
それは人と言うにはあまりにもかけ離れたものだった。黒くぬめるように鈍く光る肢体に血の色のように染まったボディ。そして鬼か悪魔か、紅く鈍く光る瞳に頭に左右非対称の角を生やしている。背中には翼のように細い木が何本も生えている。
まさに異形と言うべき存在だった。
「……何だコイツ」
そんな和哉の疑問に答えず、異形は問答無用で和哉の胸倉をつかんだ。
凄まじい力に一瞬たじろいだが、さやかがいつの間にかシュバリエに変身して文字通りの横槍をかました。
「先輩ッ!」
「あいよ!」
異形の拘束から解放され、シュバリエの叫びに不機嫌気味に応えて和哉は上着の内ポケットから戦極ドライバーとメロンロックシードを取り出し、影武へと変身した。
「変身」
【メロンアームズ! 天・下・御・免!】
影武とシュバリエは両者並び立ち、各々影武は無双セイバーとメロンディフェンダーを、シュバリエはバナスピア―を構えた。一体何者かは知らないが、殺しにかかる化け物だと言うのであれば容赦する必要は無い。そう考えた二人は迷うことなく武器を以て異形のもとへと走り出した。
/
光実は杏子とハルト、3人で甘味処にて情報交換を行う事にした。その際得られた情報と言うのは、ハルトたちは光実がこの村に来るより先に来ていた事。そしてこの世界の状況であった。
先ず、この世界は武神ライダーを引き連れた国同士が争っていたという光実にとっては知っていた事実だ。問題はこの後である。
武神ライダーを武神鎧武軍との戦いで失い、当の武神鎧武が居なくなった後イエヤスが天下を治めたものの、ヒデヨシの部下であるミツナリが反旗を翻したのだ。
イエヤスの天下を良しとしなかったミツナリは他の国を集めて西軍を結成した。ミツナリの傍らには新しい武神も居たのだと言う。その名は武神ドライブ。
それだけでは無い。武神鎧武軍の残党が各地で暴れまわり出しており、どうやら武神鎧武軍はミツナリ軍と手を組んでいると言われているのだ。
ミツナリ軍は、ヒデヨシの意志を継ぐべく蜂起。
一方で戦以外の新しい道を模索するイエヤスとは対立しているのだという。
イエヤス軍とヒデヨシ軍は同盟関係にあったが、所詮一時期対立をしのぐだけの同盟だったようだ。
さて、この事について一つ光実には解せない事がある。
先ず、ミツナリ軍が武神鎧武軍残党と手を組んでいるという事だ。ヒデヨシ軍にとって仇敵である筈の存在にミツナリ軍が手を貸すのか?
普通ならそれはNOだ。史実でも石田三成は秀吉の死後も豊臣の名を立てようとしていた人間だ。仇敵同然な相手と手を組んでヒデヨシの名を汚すような事は考えられない。
それ故に、武神鎧武軍と西軍が真っ当に組んでいる可能性は無い、誤解ではないかと光実は考えた。
それに武神鎧武軍が同盟なんてものを組む訳が無いのだ。連中がやって来た事が破壊と制圧。天下を取る為に敵を全て排除して力を取り込む。脅されている可能性もあり得る。
まぁ、何はともあれイエヤスに早く会いに行かねばならない。動くにはもっと情報が欲しい。慎重すぎるに越した事は無いのだ。
……で更に問題がある。武神鎧武軍の蜂起で世界が大いに荒れたのだ。魑魅魍魎が好き放題に跋扈し、不届き者が突如として武神鎧武と似た力を手に入れたのだという。
力におぼれた不届き者は好き放題略奪と破壊を繰り返し、世界を大混乱に陥れた。
あまりにも世紀末な状況に絶望したか、最近終末論が流行っているらしく、金持ちが終末を乗り越えるべく不死の命を欲して盗賊ども雇いこの村に迫っているのだという。
「佐倉さんは変身しない方が良いかも知れませんね」
「だろうね」
光実の言葉とそれに同意するハルトに、杏子は苦々しい顔をしていた。魔法少女と言う存在はどの世界に行っても異端でしかない。そして杏子自身実の父親に魔女と言われて拒絶された経験もあってかなり気を悪くしていた。しかも実家が一時的に乗っ取られたこともあって、不機嫌さ全開である。
報酬として貰ったお金で和菓子を食べているのだが、杏子のやけ食いで直ぐに底が尽きそうである。
「この世界には僕は一度来た事があります。その際に知り合いになった人が居るので彼に会いに行きましょう。武神鎧武軍。彼らは危険な相手です」
「知り合いがどうとかは良いけどこの村どうすんの? 盗賊に眼ぇ付けられてんのを放っておくのかい?」
ハルトのいう事は尤もだった。イエヤスに会いに行くより前にこの村を何とか守らなければならない。ここに居る魔法少女も、だ。
だから一つ、光実は可能性に賭けてみる事にした。
「一つ、提案があります」
/
「ほう。お前たちを雇う代わりにイエヤスに会う手伝いをしろと?」
「はい。貴方たちとしては盗賊団が鬱陶しいでしょうし、戦力は欲しい所。こちらが暫くの間戦力を提供する代わりにイエヤスさんに会いに行くための手伝いをして貰いたいんです」
場所は再び変わって村長宅の応接間。
光実の提案は、典型的なギブアンドテイクの取引だった。正直な所、光実は過ごした時間の半数が囚われていたという事もあってこの世界の地理はまるで知らない。それ故に協力者は必要だった。特にこの世界の地理を知り、イエヤスに自分たちの健在を知らせられるだけの権力か金を持って居る人間を頼るのが最良なのである。
「しかしお前たち、一体何者だ?」
訝しげに問う村長を相手に光実は答えた。
「イエヤスと共に戦ったもう一人の武神鎧武と共に戦った者です。証拠にこれを」
光実はブドウのロックシードを添えた手紙を差し出した。これであちら側は信じてくれるであろう。扱い慣れたものを手放すのは非常に気が引けるが致し方あるまい。ウィザードリングを添える手段もあったが、それは卑怯過ぎる気もするので止めて置いた。鍵真ハルトは操真晴人でも武神ウィザードでも無いのだから。
村長は少々難しい顔をしてしばし考えに耽るが、意を決した表情で光実が差し出したものを受け取った。
「良いだろう。……代償として暫くの間はこの村を守って貰う。いいな?」
「えぇ。そうさせて貰います」
取引は成立。あちらが約束を守らずにブドウロックシードを手に入れるような事があれば、ハルトのCONNECTを使って奪還する。致し方無いがその時は他者への協力を諦めて自力で探すしか無い。だがまぁ、そんな自滅行為に等しい事は余程の愚か者でもない限りしないだろうからこれは保険である。
暫くはキウイで頑張るしかない。数で迫るのならばキウイが丁度良いのでまぁ大丈夫だとは光実は思うのだが……
数で勝るゴロツキ共を如何にして完全に撃退するかが問題だった。
/
「何なのコイツ!?」
さやか……シュバリエはバナスピアーを構えながら眼前に居る異形を苦々しげに睨んだ。影武はその間にメロンディフェンダーで異形を殴打してから無双セイバーで確実に切り付けている。そして、トドメと言わんばかりに無双セイバーを異形の心臓があるで在ろう場所目掛けて突き刺した。
刺された異形は苦悶の名状し難いうめき声を上げ、影武は突き刺した無双セイバーを引き抜く。
それで異形は―――死ななかった。
異形の体中に出来た傷跡が目に見える速度で再生し、再び異形が影武とシュバリエに迫る。
「させるか!」
シュバリエは影武の前に躍り出て、カッティングブレードを素早く2回倒し、スピアビクトリーと呼ばれるバナスピアーを用いた大技を仕掛ける。
【バナナオーレ!】
「いっけぇぇぇぇ!」
スピアーから黄色いバナナのような形をしたエネルギーが放出され、そのエネルギーを纏ったスピアーを上方に掲げてから潰すように振り下ろした。
近くにあった木々をなぎ倒し、大きな砂煙を上げるもののこれだけでは終わらない。
【メロンスカッシュ!】
影武が自分の戦極ドライバーをカッティングブレードを一回倒して、メロンディフェンダーを異形の居場所目掛けて投げつけたのだ。更に無双セイバーを用いて銃弾も放つ。何処ぞの王子を思わせる戦法だが気にしてはいけない。
これでもかと言う程の弾丸及び武器を叩き込み、異形を中心にして派手に粉塵が舞う。攻撃が止み、砂煙が落ち着きを見せたその時―――粉塵を突っ切って異形がシュバリエ目掛けて飛び掛かって来た。
「美樹ッ!」
異形に殴り倒されて、マウントポジションに入る。だが、影武が横槍を入れるように蹴りで吹っ飛ばすものの、即座に反撃を喰らってしまった。
体勢を持ち直した影武とシュバリエは少し距離を取る。
異形の身体に出来ていた傷は、直ぐに癒えて、めり込んだ無双セイバーの弾丸がばらばらと排出されて行く。
「魔女以上の再生力かもね、コイツ……」
シュバリエは苦々しげに言う。この尋常では無い再生力の前ではこちらの攻撃力は焼け石に水だとでも言うのか。
逃げる算段を立てようとしたその時、異形が凄まじい速度で影武たちに迫った。
「ッ!」
和哉かさやかか分からないが息を呑む。だが、このままではじり貧だとは二人はとうに悟っていた。異形が腕を振り上げて、影武を殴ろうとしたその時だった―――銃声が、響いた。それと同時に数発の赤い弾丸がどこからともなく飛んできて異形に命中して火花を散らせた。
「乱れ童子か……ワームと言いグロンギと言いドライブと言い随分とめちゃくちゃな世界だな。ライダー大戦でもやる気か?」
異形……乱れ童子が怯んでいると、影武とシュバリエの背後から一般男性より背の高い茶髪の青年がやれやれと言いながら現れた。首にはマゼンタカラーのカメラを提げており、片手には四角い変わった形の銃を持って居た。
「あんたは……」
和哉の問いに答える事無く、乱れ童子を恐れる事無く青年は二人より前に出て上着の内ポケットから機械造りの何かを取り出した。見た事の無いタイプのベルトだ。この男は一体何を成そうと言うのだろうか?
突然の登場に乱れ童子も戸惑っているようできょろきょろしている。その隙に青年は機械造りの何かを腰に近付けた。
「ベルトって、まさか……」
シュバリエは察したように呟く。そう、そのまさかだった。青年は銃をコンパクトな四角いケース状に変形させてベルトのホルダーに固定し、バックルのハンドルを引き、銃から一枚のカードを取り出した。どうやらあの銃はカードケースにもなっているようだ。
一枚のカードを取り出し、カードの表を乱れ童子に見せつけるように前方に突き出す、漸く和哉の質問に青年は答えた。
「通りすがりの仮面ライダーだ……覚えて置け」
青年はそう言うと、カードを裏返して無造作にベルトにセットし……
【KAMEN RIDE】
そしてベルトのハンドルを挟むように押し込んだ。
【DECADE】
モザイク状の影が青年の周囲に10体程現れ、青年と一体化。黒い装甲の戦士へと姿を変える。そして10枚のカード状のエネルギーが顔に突き刺さりマゼンタと白に身体の一部が染まった。
「ディケイド……」
目の前のマゼンタカラーの戦士の名前であろうものを影武は呟く。ディケイドは再度カードケースをベルトから外し、変形。今度は剣へと姿を変えた。
どうやらあの武器は無双セイバー並の万能武器らしい。
「さて、片付けるか」
ディケイドは不敵にそう呟いてから、刀身をさっと撫でてから乱れ童子目掛けて走り出した。その後ろ姿に何となく謎の安心感を影武たちは感じていた。
乱れ童子の凄まじい再生力という大きな壁があると言うのに……だ。
「ディケイド……貴様はこの戦極時代まで破壊しようと言うのか」
戦闘領域の片隅で誰にも気づかれる事無く怒りのままに震えるソフト帽を被ったコート姿の中年男に気付かないまま……
外伝の光実はゲネシスドライバーを『諸事情』で持って居ません。
当時、ウィザード最終回に士が出るのはきっとMOVIE大戦に出るからだと思っていた私。実際は平成対昭和でしたが。
武神鎧武に「消えろイレギュラー!」と言わせたいこの頃。……ただの中の人ネタなんですけどね。
本編では鎧武勢と異世界ウィザードだけでライダーは纏めます。その為ドライブ及びディケイド等と言った他ライダーは出ません。フルスロットル等の映画ネタは使いますが。
但し外伝は好き放題走らせてもらいます(`・ω・´)