何やってんだ私は……orz
これも総て、乾巧って奴の仕業なんだ(責任転嫁)
翌日。鹿目まどかはぼんやりと通学路を歩いていると突然背中にどん、と衝撃が奔った。何事かと慌てて後ろを見ると実行犯は美樹さやかだった。彼女の背後には二人の友人である志筑仁美が何時もの麗しい笑顔で二人を見ていた。
「まどかー、おっはよ! 早いじゃん」
「うぇっ!? さ、さやかちゃん……」
驚いたような顔で言うまどかに先程の元気はどこ行ったかまどかは言いにくそうに返した。
「あ、いや……昨日あんな事があったから」
……契約だの魔法少女だのアーマードライダーだの、コスプレした転校生だの、魔女だの。正直普通に生きている自負があるまどかには無縁で、受け入れるのには少々時間を要した。
だから何時もならまどかは、仁美やさやかの後に現れるのだが、今回は逆のパターンとなった。眠りが浅かったか早めに起きてしまい、今日は瞼が重い。昼休みあけの授業に居眠りしてしまいそうだ。いや、絶対にする。そして先生に怒られる。
「何を話しているのですか?」
第三者からすれば謎会話であろう。仁美は疑問符を浮かべる。
「いや、こっちの話。いやー最近さー……」
慌ててさやかは話を逸らした。仁美は不思議そうな顔をしていたが、これ以上言及することは無く、さやかはホッと胸を撫で下ろした。まぁ大体昨日の話を信じてくれるとは思えないし、そんなことを話してみるがいい。可哀想な子を見る目で見られてしまう。
「あはは、それはちょっと……あれ? 中沢くんに早乙女先輩?」
まどかの視線の先には、同級生の中沢と元見滝原中学校生徒で現見滝原高校生徒の早乙女和哉が歩いている姿があった。
「今回のお見合いの失敗の原因の卵焼きの焼き加減云々ってさー。姉ちゃんの卵焼き暗黒物質なんだからそれ以前の問題なんだよ。多分相手の人やんわりと遠回しに言ってくれたんだろうけどそれが仇になって……」
「うはー。それは……」
和哉の説明に口を引き攣らせる中沢。話題となっていたのはまどか達の担任である早乙女和子教諭の事だった。和哉の話や、苗字から分かる通り和子は和哉の姉である。
昨日、和子はお見合い失敗の腹癒せに朝のHRで愚痴っていて『卵焼きの焼き加減』について中沢が当てられ問われたのは記憶に新しい。結果、中沢は正解である『どちらでもいい』という答えをだしたのだが、いつもお見合い関連で愚痴の相手をさせられる中沢たち生徒はたまったものではない。
「ん? 後ろ、美樹たちじゃないっすか?」
「あ、ホントだ」
中沢は背後の声で察したらしい。和哉は分からないので後ろを見た。
「あ、中沢に早乙女先輩じゃないっすか!」
ちょっとふざけ風味にさやかが二人を呼ぶ。丁度いい。卵焼きについて女子の意見を聞きたい。そう思いながら、和哉は中沢と一緒にさやかたちと登校することにした。
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……さて、夕方。光実は魔法少女説明会の集合場所に早めに辿り着いた。場所はマンションのエントランス。どうやらそこにマミの家があるらしい。暫く待っていると、制服姿のマミ、さやか、まどかがそこにやって来た。
「あ、呉島さん来てたんですね」
さやかの発言に「まぁね」と答える。だが次にさやかは「うーん」と首を傾げ言いにくそうに口を開いた。
「あの……言いにくいんですが、学校は……?」
「無くなったよ。訳の分からない植物が沢芽市に沢山出たってニュース無かったっけ? それで僕の居た所が駄目になって」
「あ……スミマセン」
謝るさやかに光実は「いいよ」と返す。一応今も大学へ行くための勉強はしているのだが、もう学校には行っていない。光実が通っていた学校自体ユグドラシルが運営していたものだし、それが現在解体状態となってしまったが故に廃校となってしまったのだ。まぁ嘘は言っていない。嘘は。
「立ち話もなんだし、家に上がって」
マミに促されるまま、3人はマンションに入り、マミの家に上がる事となった。
3人が家に上がって見た物はまさに「女の子の部屋」を絵にかいたような光景だった。
「うわぁ……」
「素敵なお部屋……」
まどかとさやかが感嘆の声を上げる。光実も顔や声に出していないが迷いなく見事だと言えるものだった。観葉植物にタペストリー、色とりどりの肌触りの良さそうなクッションに絵画。非常に整理整頓されている上に見栄えが良い。成程、同性である二人が感心するわけだ。
「独り暮らしだから遠慮しないで。碌におもてなしの準備もないんだけど……」
ちょっと照れくさそうにマミは言い、ガラス造りの三角形机の下に敷いた座布団に3人を座らせる。
独り暮らしという事はきっと自分と同じように両親が忙しいのだろう、と光実は思った。
因みに光実は両親の顔を碌に覚えていない。兄が親のようなものだった。
だが、マミは中学生でありながら一人で頑張っている。
――僕もまだまだかな……
なんて光実は思いながら、行く前に買ってきたお菓子をマミに渡す事にした。沢芽市が誇る超人気洋菓子店『シャルモン』のシュークリームだ。
「おいしーっ! さっすがシャルモン味が違う!」
さやかは洋菓子のあまりの美味しさに歓声を上げた。
要するにシュークリームは好評だった。奇しくもマミが用意したケーキもシャルモン製という事らしく、中々美味しいお茶会(?)となっていた。シャルモンは超人気洋菓子店で名を馳せており、海外でもその味は評価されている。店主である凰蓮・ピエール・アルフォンゾは洋菓子界ではカリスマ的存在でスイーツ好きの間では知らぬ者は居ない。
「うん。マミさん、呉島さん。すっごく美味しいですっ」
――そういえば舞さんもシャルモンの洋菓子が好きだったっけ……
高司舞。昔、光実の想い人(但し片思い)だった彼女の事を思い出す。でもやはり好きだった彼女の笑顔は思い出せなくて。これはこれまでやって来た事の罰なのだろうと自己完結させながら、マミの話に耳を傾けた。
「キュゥべえに選ばれた以上、貴方たちも他人事じゃないものね。ある程度の説明は必要かと思って」
「うんうん。なんでも聞いてくれたまえ」
「さやかちゃん、それ逆……」
さやかのボケを他所にマミ&キュゥべえ主催の魔法少女説明会が、開始された。正直メモをしながら聞きたかったが、心証を悪くしそうな気がしたので頭で覚える事にした。そういうのには慣れている。
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自宅の門を開いた時にはもう日は完全に沈んで、空に星が瞬いていた。それが結構な長話であった事を物語っていた。光実は自分の部屋に向かっていると長い廊下で兄である呉島貴虎と鉢合わせした。
「光実」
「兄さん」
新しい脅威に出会った事を悟られるわけにはいかない。光実はいつも通りに接するように頭を落ち着かせる。不審な動きをしたら何かあったのではないかと思われる。明日もアメリカに飛ぶというので気兼ねなく飛んでもらいたい。
「今日は遅かったな」
「うん、ちょっとね。図書館で本に熱中してて」
光実は直ぐに話を切り上げさせようと話を上手く持っていこうとする。早く自分の部屋に戻り今後の方針を立てたかったし、正直今日の出来事は兄に知られるわけにはいかない。意識こそ全然していないが、異性の家に上がったのだから。
「大丈夫だよ兄さん。兄さんが思っているような悩みは特にないから。兄さんは今やってる事に集中して。明日早いんでしょ?」
「……そうか」
直ぐに去ろうと、光実は部屋に向かって歩き出す。だが……
「光実!」
貴虎に呼び止められて、光実は再び足を止めた。
「どうしたの、兄さん」
「何か困った事があるのなら、俺に話せ」
「……わかったよ。でも、大丈夫」
光実は笑顔で返して、自分の部屋へと入って行った。
兄がこんな事を言ってくれたのは何時以来だろうか。それは中学生の時以来だったような気がする。懐かしかったけれどもこれまでずっと忘れていた自分が嫌になりそうだった。
「光実の奴。妙な匂いがしたな。……いや、気のせいか」
因みに距離感は縮まってはいるも、己の鈍さは治っていない事は貴虎本人は知る由もない……
「疲れているんだ俺は……そうに違いない」
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――さて、どうしたものか。
光実は勉強机に着いてキャンパスノートを開き、シャープペンシルを手に取った。
――まずは状況整理だ。こういうごちゃごちゃした状況は図示、文章化するに限る。
マミ……フルネームは巴マミだそうだ。彼女と電話番号等は一応交換しておいた。貴女の人助けに協力したいから、味方の事について知っておきたい。と言うとあっさり信用してくれてアドレス交換をしてくれた。あっさり過ぎて不用心だと光実は思ったが、まぁこちらが気にすることではない。それで、幾つか疑問に思った事を差支えの無い範囲で教えてくれたので多少は情報を手にする事が出来た。
『魔法少女』
これはキュゥべえと契約して力を得た少女の総称だという。契約して何でも願い事を一つ叶えてもらう代わりに、魔女と呼ばれる異形の生物と戦う使命を背負う事になる。その際証としてソウルジェムと呼ばれる物を手に入れる。現れた際(第2話参照)に持っていた光る卵みたいな奴だ。人によって色は違うとか。この存在は見滝原に限らず様々な国や土地に存在するという。
因みに、契約出来るのは少女のみで、男とかは不可能。
『キュゥべえ』
魔法少女を生み出した張本人(と思われる)。上述の通り、何でも一つ願いを叶えてやるだけの力を持っているが……本当にマスコットキャラクターか何からしい。許可した人間以外見えないという光学迷彩じみた事をやっており、本来見えなかった自分をマミが無理を言って見えるようにしてくれたらしい。
光実は引っかかりを覚えた。これは余りにも至れり尽くせりでこちらに都合が良すぎる話だ。
願い事なら何でも一つ叶えられるという利点が大きすぎて不気味に感じずにはいられなかった。だが付き合いが長いと言っているマミは彼を全面的に信頼を置いているようで、これは少々反応に困る所だ。……兎に角彼について迂闊に立ち回れば情報源を失うだろう。慎重にせねば。
――まぁ、杞憂で終わるのが一番いいのだが。
『魔女』
魔法少女の戦うべき敵らしい。あの時巻き込まれた謎の空間は『結界』と呼ばれる巣みたいな物だ。光実が撃ちまくった相手は『使い魔』と呼ばれるもの……要するに雑兵だ。魔女を倒したり、撤退させれば結界は消滅する。前回の戦闘は魔女が撤退した事で終わったらしい。
願いから生まれたのが『魔法少女』だとしたら『魔女』は呪いから生まれた存在だという。魔女は呪いなどのマイナスのものを世界中にばら撒く厄介な存在で、理由の判明しない自殺や殺人事件は大方魔女が原因だそうだ。
魔女結界に呑まれた何も知らない人間は、普通ならば生きて帰れないらしいのでマミに助けられたのは運が良かったのかもしれない(実際危なかった)
『グリーフシード』
魔女を倒すと、『グリーフシード』と呼ばれる魔女の卵を落とす事がある。和訳すると嘆きの種とか別名魔女の卵とか名前は軽くおっかないが無害らしく、それは消費した魔力の回復に使えるそうだ。ちょっとロックシードやヘルへイムの果実の存在が脳裏にちらついたが恐らく関係ないだろう。
『暁美ほむら』
突如現れたバックラーを持った魔法少女。現場は見ていないがキュゥべえを狙って襲い掛かったらしい。魔法少女が増えるとグリーフシードの取り分が減るという事で契約主を増やさせたがらない魔法少女も少なからず存在し、その輩の一人だとマミは踏んでいるという。まどかたち曰く見滝原中学の転校生。マミの推測が当たっていれば恐らくマミの敵だ。
『影武』
こちらはマミが持っている情報は皆無に等しいのでこちらの推測を織り交ぜて記す。斬月に似た素体の黒いアーマードライダー。外見からして改良前の初期型のものを使用している。使用ロックシードはランクC。行動からして恐らくあれしかないと思われるので敵対してもパワー面は危険ではない。だがあの落ち着いた動きから剣道か何かをやっていると思われる。
推測だが、所有者は元沢芽市民だ。ヘルへイム植物が侵食した際に行われた疎開の際に持って行った可能性が大。暁美ほむらと同盟関係にあると思われる。
……ここから色々考えるには情報が断片的すぎるか。根拠のない推測程無駄なものはない。余計な先入観を持つと今後の行動に支障が出るのでこれ以上考えない事にした。
「はぁ……」
光実は一気に力を抜き、背もたれに凭れる。これ以上精神を摩耗させるわけにはいかない。そして謎の怪人についても、色々調べなくてはならない。
謎の怪人により負傷したチーム鎧武のメンバーだが、幸い怪我は軽いらしい。安堵こそしたが、今度こそは必ず守って見せなければならない。そうしなければ紘汰に合わせる顔が無い。
――やる事は山積みだ。
終わりの見えない仕事に少々憂鬱になっていると……ふと、机の上にずっと放置して使っていないロックシードが目に入った。異世界に行った際に貴虎から投げ渡された黒いUSBメモリとヘルへイムの果実が融合した正体不明の『Wロックシード』だ。
葛葉紘汰と袂を分かったとき以降から起動しなくなっているロックシードだ。まるで光実を拒絶しているかのように。ずっと起動しない。だから今日までこの机の上の隅に放置していて目にも留めていなかったからこうして意識して見るのは久しかった。
「さぁ、お前の罪を数えろ……か」
使用の際、発作的に言ってしまったあの言葉。未来の自分に向けて言ったのではないかと思い、自虐を込めて軽く笑う。
――僕の罪は幾つだろうか?
きっと数えられないくらいに重ねている。沢山の人を裏切り、傷つけた。
――償って許してもらおうとは思ってはいない。でも。
戦い続ける。紘汰さんに変わってヒーローになる。それが敬愛する人間、葛葉紘汰への恩返しと裏切った仲間たちへの償いなのだから……
決意を新たにして気合いを入れ直し、椅子に座り直して背筋をピンとを伸ばす。
――うん、今日はまだ頑張れる。
光実はWロックシードをポケットに仕舞い再び情報整理を再開し始めた。
どうでもいい追加設定『見滝原中学が中高一貫エスカレーター式』『中沢とさやかたちが友達』『早乙女先生に歳の離れた弟が居た』『卵焼きのくだり』
そしてWロックシード使用不能という事実。劇場版限定と揶揄されるキウイが本編で碌に使われない理由を触れてみたいです……ミッチにでかい得物は合わないというか苦手なイメージがあります。原作でキッチ化した際ソニックアローを上手に使ってましたし。槍とかも相性が良い気がする。
後正直、ニーサンは仕事が落ち着いたらもうちょっと弟と話す機会を増やすべきだと思う。