( #゚Д゚)ノ ガンバルゾー モエルゾー ヤッチャルゾー
ドライブ最終回が思いの外切ない終わり方だった。さらば、ハート様……
久々に涙腺に来たよ(´・ω・`)
「……っぐ」
「おいどうした?」
走っている途中で、光実の身体はがくんとバランスを崩し、走る速度を落としていった。それに気づいたザックは足を止める。
「……大丈夫です」
実際問題大丈夫な訳が無かった。Wアームズの負担は思いの外凄まじく、全身に激痛が走っている。あのアームズは連続で使えるようなものでは無かった。
ふと、武神鎧武との戦いの後もかなりの疲労に襲われた事があったのを思い出す。
切り札としては申し分ない力だが、乱用は不可能。世の中上手くいかないものである。まぁ、ヨモツヘグリのバックファイアに比べたらまだ幾分優しいのだが。
心配している内に爆音と悲鳴が耳朶を二人の耳朶を打つ。
光実は痛みを頭に考えないまま再び走り出し、それを止める事は叶わないと考えたザックはそれを追った。
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光実が曽野村のもとへと殴り込みに向かった頃の事。杏子は少年と紳士風の男を追って倉庫から離れていた。
杏子の見立てでは、紳士風の男の狙いはあの少年だ。
ファントムは希望から絶望へと変化する瞬間を糧としているタイプが割と多い。ファントムは仲間を増やすのが最大の目的だが、他者の絶望を見る事が彼らにとって最大の娯楽であった。
尤もタチの悪いタイプだと絶望の中で希望を突き付けて置いて叩き落とすタイプなのだが。恐らく今回のファントムがソレだった。
この状況で何が適切な判断かは杏子には分からなかった。
少年を追って止めたとしても少年の両親がやられたら元も子もない。あの手の集団は割とねちっこく監視の目も割と鋭いので少年を止める事だけを考えていたら約束の反故とみなされ両親が襲われる。曽野村の取り巻きが全て倉庫に居るとは限らないのだ。
それだけは少年にとっては避けたい事だろう。
だからと言って悠長に様子見していれば、手遅れになってしまう。
あの呉島光実という男は
ファントムが居るならきっとハルトかワイズマンが何時か現れるに違いないと思っていた。
迂闊な感情が自分を含め家族を不幸におとしめたと言うのに。
ハルトや麻弓、御影堂なんて忘れて、また一人で盗みを働いて自業自得に無気力に生きていけば良い。あんな見も知らぬガキなんて放って置けば良い。
そう思っても感情がそれを許さない。我ながら甘ちゃんだと己を嘲笑するも、それでも尚、放って置けない。
昔の友達と同じ顔をした者を殺さねばならないハルトの苦悩、自分が強盗犯と言う汚名を被ってでも家族を守ろうとする少年。若干、口うるさい麻弓や、自分やハルトを受け入れてくれた家主である律人。嘗て相棒だった巴マミ。そして曽野村に対する反感。
それがあるから、感情のままに動いてしまう。杏子が嫌う感情のままに。
だが、迂闊に出て強盗を邪魔すればやられたか分からない曽野村や仲間に連絡されて少年の親を襲撃されかねない。あまり証拠を残さずそれだけの事を出来る手段が彼らにはあると光実には教えられた。
くそったれ。
杏子は歯噛みする。甘ちゃんな自分と、幾ら足掻いても八方ふさがりな現実に。
世界は優しく無いと知っているのに優しさを求めてしまう。知らないふりしてしまえばそれで良いのに。
忘れてしまえばいいのに。
傷つくだけだ。
割りを食うだけだ。
余計な良心モラルはくそくらえだ。
あれだけ痛い目にあっても分からないのか。
感情はいつだって理不尽だ。時として理性を喰らい尽くし支配する。
根本的に杏子には足りていなかった。『悪人』となる資質が。口では憎まれ口を叩いても気づけば誰かにお節介を焼いている。中途半端だ。
行く当てが無かった時はATMを破壊したり店の果物を盗んだりした。けれどもそれを己が心は永遠に正当化出来なかった。仕方が無い、そんな諦観の籠った自棄めいた思いだけだ。それに
これで最後だ。善人面すんのもこれが最後なんだ。そう自分に言い聞かせながら、杏子は行く。少年と紳士風の男を追っていく。これが終われば、無気力に自業自得の生き方をするのだと。己に刺しても意味の無い釘を刺しながら―――
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「さて、お仕事を始めましょうかねぇ」
紳士風の男がそう言うと少年はこくと頷く。
これで最後だ。これで両親は救われる。そんな想いを込めて手元のロックシードを開錠した。すると少し離れた空中から突如としてクラックが出現し、初級インべスたちがクラックから降り注いでいく。
それに紳士風の男はニタリと笑ってから何かを人混みの中に放り投げた。するとそれは黒い霧を噴出しながら人の形へと変えて何処かゾンビめいた姿に変わっていた。
「これって……」
少年にはこれに些か見覚えがあった。突如現れて強盗のサポートを時々してくれていた。インべスの仲間かと思って何とも思っては居なかったのだが紳士風の男の物だったとは。少年は少し驚いたような顔で男を見る。
すると男は人差し指を口元で立てて言った。
「この事は内密に。君のような未来ある少年には希望を与えないといけませんからねぇ」
少年は顔をほころばせる。この人は味方だったのかと。まだ更なる残酷さを知らぬ少年はそう思わずには居られなかった。
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現場に居合わせた城乃内はある人物と共にインべスから人々の避難誘導を行っていた。その際に近くには派手な柄の大柄な男性、凰蓮・ピエール・アルフォンゾの姿もあった。彼は城乃内のパティシエの師匠であり、元軍人という変わった経歴を持つパティシエだ。以前光実がマミの家に持ち込んだケーキは彼が持つ店『シャルモン』から買ったものだ。
凰蓮は近くに居たグールを蹴り飛ばして避難する為の道を作りつつ、怯んだグールを見る。
「コイツ……インべスじゃないわね!」
インべスにしては何処か人間的過ぎる。強いて言うならばゾンビとかそのような類のものだ。幾ら殴っても持ち直す辺りがゾンビと思える所以だろう。
凰蓮がCQCでねじ伏せてもしつこく起き上がるその姿に城乃内も冷静ではいられない。
「インべスじゃ無かったら何なんですこの化け物っ!」
グールが手持ちの長槍で城乃内に突きを放つも、城乃内はそれをひょいと躱し、槍を奪って突き刺す。城乃内がここまで戦えるのは凰蓮直々の特訓を受けたのが大きい。
「もしかしてミッチが沢芽市からしょっちゅう出ていたのはコイツらの所為か!?」
突如としてビートライダーズの一人が異形からの襲撃を喰らったという話は元インヴィットのメンバーから聞かされている。これまでは曽野村とか碌でも無い奴がインべスを操っていたのではないのかと思っていたのだが、どうやら違うらしい。
一方グールと別行動で動いているインべスは、ATMを破壊してありったけの金を奪ってクラックの向こう側へと逃走していく。それを止める事は今の凰蓮と城乃内には出来なかった。
迂闊に近寄って傷をつけられたらヘルへイム症を発症して暫く身動きが取れなくなってしまう。以前の突如として現れたオーバーロード事件は単体で来たから良かったものの、今回は数で来られている。しかもヘルへイム症への防衛手段である戦極ドライバーが手元にない以上迂闊に手出しできない。
……まぁそれ以前に立ちふさがり無差別に暴れまわっているグールの対処で手一杯だ。現在インべス達は人命を奪っていないので二の次とする。命あっての物種と凰蓮は語り、城乃内もそれに同意した。
それを見ていた杏子は陰で拳に力を込めていた。下手すれば血が滲み出てしまう程に。ここで自分の力を使えばグールとインべス程度撃退は簡単だ。だが、事情を知っていると何も出来ないし、この状況下で魔法少女になると騒ぎが大きくなるだけだ。
だが―――
ファントムの陰湿なやり口はストレートに気に食わなかった。
申し訳程度に邪魔をしてやると、杏子は魔法少女にならず、武器である槍だけを発現させて、グールの群れに向かって走り出した。
―――ファントムの野郎に眼にモノを見せてやる。
そして、城乃内に襲い掛かったグールに向かって走り寄り手持ちの長槍を閃かせた。
「……えっ」
「逃げろよそこの眼鏡とオッサン。コイツらはあたしの獲物だ」
杏子は軽く後方に居る城乃内の前に立ち、槍を構えながら言うものの、思いのほか城乃内は我が強かった。まぁ、杏子の城乃内に対する印象はひょろい眼鏡君でしか無いのだから当然か。城乃内は引き下がる事無く、グールにタックルを叩き込み退路を確保する。
「眼鏡ってなんだよ……助けてくれたのは有り難いけれどそうは行くかよ。被害を抑えるのが俺たちの仕事何だからさァ」
「誰がオッサンよッ! 失礼ねッ! ……途中で仕事を投げ出すなんてプロ失格よ。このまま一人に、ましてや子供一人に任せて大人が引き下がるなんてみっともないわ。それに当店の……シャルモンのお客様が巻き込まれているかも知れないの、この街の問題はシャルモンにとっても問題なのよ」
凰蓮もまた、引き下がらず、オッサン呼ばわりされた事でキレ気味に返した。
こいつらは馬鹿なのか!?
杏子は思う。顔も知らないが恐らく人を助けて賞賛を得るよりリスクの方が大きい筈だ。それなのに人を助けようとする二人が、苛立たしくも思えた。
それと序でにガタイの良いおっさんがオネエ言葉で喋っている事に衝撃を覚えた。
杏子は彼らの周囲に起こった出来事を知らない、知る訳が無い。杏子からしたら沢芽市を起点にして起こった事件はかなり後になって……正確には杏子が家族を失ってから知った事だ。
世界中にクラックが発生した案件も黙殺されており、諸外国が沢芽市に放ったミサイルの件も諸外国の圧力で碌に公開されていない。
その時の杏子自身、世界の終焉には一切の興味を示さなかったのも大きいだろう。
「諦めるかよ……あの時はもっと酷かったんだ、絶対に諦めるものかよッ!!」
吠えながらグールから槍を奪い突きを別のグールに撃ち込む城乃内。
グールと互角以上に戦う杏子を前にしても城乃内はどうしても引き下がれなかった。
嘗て友人が居た。そいつは厚かましくて図々しく、短期な男だったが愉快な奴で城乃内にとってはかけがえのない友人だった。名は初瀬亮二。当時同盟を組んでいたダンスチーム『チームレイドワイルド』のリーダーだ。
……と言うのは、同じダンスチームの仲間たちが女性ばかりだった事が大きいだろう。それで多少の息苦しさも感じていた。序でに言うならどうも歩くATM扱いされていた気がしなくも無い。
初瀬はそこら辺の打算もあれど、関係ない所でも接してくれた。まぁ色々彼に理不尽な目に合わされた事も少なくなかったが。それでも同盟関係なくプライベートでの交流もあったので悪くは無かった。
だが―――一度利用価値が無いと断じて見捨ててしまった。
その時の城乃内は強い人間に縋る事に必死で、同盟理由であった力を失った彼を不要だと切り捨て見捨ててしまった。それから暫くして初瀬は城乃内の前に姿を見せなくなった。そして彼がどうなったかについて知ったのは1年近く後の事だ。
初瀬はヘルへイムの果実を喰らい、インべスへと姿を変えてユグドラシルに始末された。そんな事実を、光実の兄である貴虎から聞かされた。
初瀬が行方不明になり捜索願を出されていた事を知った時点で薄々勘付いていた。自分が初瀬を追い詰めた事に。そしてヘルへイムの果実の正体を知ってから城乃内の脳裏に浮かぶパズルのピースが繋がっていく。だが、その完成したパズルを城乃内は見ようとしなかった。そして、恐る恐る貴虎に訊く事で漸く初瀬を追い詰めた事実に直面する事となる。
もう逃げない、諦めない。
図らずもあの時より強くなる訓練を鬼軍曹の如きパティシエに鍛えられたのだ。あの時、謎の黒いアーマードライダー事件で誓ったのだ。もう逃げない、と。自分のやってしまった事実からも。
何かにすり寄り虎の威を借りる狐の如く生きていくのは―――止めた。
「パティシエ……舐めんなよッ!」
杏子は苛立つ。嘗ての自分を思い出すようで、苛立つ。
ハルトのファントム狩りは何かしらの利がハルトにあるようだから、杏子は何も言わないのだが、嘗ての先輩であり相棒であったマミや、城乃内の行動は嘗て馬鹿みたいに正義に燃えていた自分を思い出させる。
その苛立ちは、グールに力一杯にぶつける事で晴らしていく。
一種の八つ当たりであるという自覚は少なからず、あった。
それから暫くして―――長きに渡る攻防はインべスが撤退し、グールが突如黒い霧と化して四散した事で集結した。
誰もが大なり小なり自分なりの後悔と罪と向き合っている。光実に限らず、城乃内や杏子、ザックも貴虎も、和哉もほむらも。そして多分、さやかとまどかも。
城乃内&杏子回でした。
光実が見た騒ぎはもう少し後です。
余談ですがメガへクスとQBって性質は似てますけれど間違いなく相容れないと思う。