贖罪少年くれしま☆ミツザネェ!   作:ヌオー来訪者

45 / 47
 身体が重い。こんな重々しい気持ちで書くのは初めてだ。

 昼休みの食堂にてプランを練っていた所で、応援していた人が亡くなるとか……悲しい。この気持ちが作品を引っ張らないように努めたい。もとから碌でも無い(昼ドラ的な意味で)ものを書いている癖に何を言うかと言われるやも知れませんが。


#11 龍の咆哮Ⅺ/円陣だッ!

 何もかもが終わった。

 少年はロックシードを紳士風の男に返却し、両親の安全を約束してくれた。

 

 残ったのは虚無感だけだ。両親を守ったと言う実感も無く、自分がやった事の大きさが後になって圧し掛かる。強盗傷害……これだけでも圧し掛かる罪は重い。

 少年法という存在こそあるが、それは少年の知らぬ事である。

 

 ふと、父親が運転している車を見かけた。車は信号機が赤になった事で他の車と一緒に止まる。車間はしっかりと開けて。

 きっと父は市長としていつも通りに働いているのだろう。そして忙しく町中を動き回っている。息子が強盗をやらかしている事なんて知る事も無く。

 

 少年はぼんやりと、止まっている父の車を見ていると車の真上に何か歪みが出来ていた。何もない場所から歪みが出来上がりそこから―――鉄骨が一本落ちて来た。

 

 

「!?」

 

 それを止める事が出来る者などおらず、それは真っ逆さまに落ちてゆき、ぐしゃりと車をへしゃげさせた。

 それを皮切りに誰かの悲鳴が上がる。

 

―――一体何が。

 

 少年の疑問の答えは間もなくして出る事となる。

 

 

 幸い、運転していた父親は死ぬ事無く車から脱したのだが、額を切ったのか額から血が流れ出ていた。周囲の車の運転手は一目散に車から出て行って逃げ惑う。

 

「父さん!」

 

 そして―――大混乱の最中、一つの『悪魔』のような異形が父親に向かって歩み寄っていた。インべスにしては異質な風貌で、手には剣を持っている。それが父親を掴み上げて一度地面に力強く叩きつけた。

 

 余りの衝撃で父親の意識が飛び、糸の切れた人形のように動かなくなる。それを確認した『悪魔』はその異形を人の姿へと変えて父親を担ぎ上げて少年のもとへと歩み寄っていく。

 

 本来ならば逃げるべきだろうが、少年には出来なかった。父親が殺され掛っているのもあるし、その『悪魔』だったものが少年にとって見覚えのある者だったのだから……

 

「な、なんで……」

 

「約束なんて、守るとお思いでしたか?」

 

 悪魔だった男は黒スーツにシルクハットそして片手には杖を持っている。そう、曽野村に協力していたあの『紳士風の男』だったのだ。

 紳士風の男は邪悪に微笑み、父親を地面に降ろした。

 

「少し社会のお勉強と行きましょうか」

 

 男は少年に詰め寄る。逃げようとしようにも思いの外男の動きは速かった。そして少年の肩を掴み、人のモノとは思えないほどの歪んだ笑みを見せつけつつ続けた。

 

「世の中は悪意で出来てるんですよ。タダより高い物は無い。真っ先に自分の都合のよい事があったら真っ先に疑いましょうねぇ~。次が有れば、ですが」

 

 紳士風の男から逃げようとするも、肩を掴んだ手は尋常でなく強く身動きは碌に取れない。そんな少年を嘲笑うように、再び『悪魔』のような姿へと変えた。

 

「あ……あぁ……」

 

「君のやった事はとてもけなげでッ! 感動的でッ! そして無意味だったんですよッ!」

 

 ねっとりとした語調でそう言うと、少年を容赦なく殴り飛ばした。

 

「そうですその顔です。自分がやって来た事は無意味だと思い知らされた挙句父の死の危機、自身の死の危機が待ち構えている! 罪悪感で身が引き裂かれそうですか!? 引き裂かれそうですよねぇ! たぁくさんの人を傷つけた挙句誰も守れないなんて悔しいでしょう!? もっとその絶望に歪んだそのお顔を見せて下さい! もっと、もっと!」

 

 『悪魔』……否、ベルゼバブは殴り飛ばされた少年の絶望感と怒りを煽るように言葉を紡ぐ。少年は少し怒りはしたのだが、ベルゼバブは圧倒的な力を以て少年を一蹴し、力の差を見せつけ、定期的に父親を見せつけるように足蹴りにする。

 

 極限にまで追い込まれた少年の顔を見たベルゼバブはご満悦か愉しそうに嗤っていた―――そして。

 

「仕上げと行きましょうかねぇ」

 

 一頻り遊んだあと精神世界を内側から食い破ろうと、少年の精神世界にダイブする。

 

 

 

 筈だった。

 

 

 

 右方から一条の光が奔る。それは弓矢のような形をしていた。

 

 左方からは銀色の弾丸が数発。

 

 それらがほぼ同時にベルゼバブに突き刺さり火花を派手に散らした。

 

「何ッ―――」

 

 ベルゼバブが困惑する中、少年は左右をせわしくなく目くばせする。そこには―――右方には弓を持った緑のアーマードライダー。そして付近にはチームバロンのユニフォームを纏った背の高い黒髪の青年と、紅く長い髪をポニーテールに結った少女が立っている。左方には黒いロングコートを纏った黒髪の青年が大型の銃剣を片手に立っていた。

 

 

 

「ハルト!」

 

 杏子は騒ぎを聞きつけて光実とザックと共に駆けつけてみたら、そこにはハルトが居た。彼の姿を見て咄嗟に叫ぶと、「ういっす」と軽いノリで会釈した。

 

「心配かけさせやがって……!」

 

 杏子は舌打ちしながら呟く。

 あのワイズマンとやらに何かやられなかったのかと心配したのだが、何も無かったみたいだ。自分の考えていた可能性が消える。御影堂に自分が二度と戻らない可能性も、一つ消える。

 

「あれがファントムか……!」

 

 ザックは手に持ったゲネシスドライバーとクルミエナジーを取り出し、ドライバーを腰に巻き付け、クルミエナジーを開錠する。

 

【クルミエナジー】

 

「変身!」

 

 クルミエナジーをゲネシスドライバーにセットしてコンプレッサーを押し込んだ。

 

【リキッド! クルミエナジーアームズ!】

 

 頭上からクラックが発生し、クルミ型の機械がザックの頭に被さると素体(ライドウェア)がザックの身体を包み、クルミ型の機械は変形して

鎧の形を成す。それと同時に両腕は大型の手甲型アームズウェポンが形成され―――

 アーマードライダーナックルⅡへと変身を遂げた。

 

「じゃ俺も―――変身」

 

 ハルトもまた、ウィザードライバーを起動させてフレイムリングを付けた手を近付けた、

 

【FLAME】

 

 魔力を吸収したフレイムリングから真紅の魔法陣が現れてハルトの身体を通り抜けてウィザードへと姿を変える。そのウィザードの姿は細部が変わっているように、杏子には見えた。

 そしてウィザーソードガンを―――魔法を発動させる事無(・・・・・・・・・・・)魔法陣を出現させてそこから引き抜いた。

 

「さぁ、お掃除再開と行こうか!」

 

 ウィザードは【COPY】を発動させて、ソードガンをもう一本増やし、構えを取った。

 

 

「成程―――これは面白い事になりましたねぇ……」

 

 それにベルゼバブは焦る事無くウィザードを一瞥する。そして―――

 

 龍玄天斬がソニックアローを引いた。それと同時に少年とその父親の安全を確保する為に杏子とザックが走り出した。それをベルゼバブは焦ることなく「ヒーローという救いも叩き潰すのも一興かな」と余裕な声色で呟いてから、ベルゼバブの姿は紫色のワームホールを形成するや否やその姿を消した。

 

「危なッ!」

 

 標的を失ったソニックアローはウィザードのもとへと飛んでいく。それをソードによる一閃で明後日の方向へと弾いて難を逃れたかと思ったら、背後から殺気を感じた。

 

「何ッ!?」

 

 ウィザードの背後にベルゼバブは突如としてワームホールから現れて精製した魔剣を振るってウィザードの背中に数撃斬撃を叩き込んだ。

 だが、ウィザードはそれで初撃こそ怯みはしたが、それ以上怯む事無く振り向きざまにソードを振るう。ベルゼバブはそれを魔剣一本でいなし、再びワームホールと共に消えた。

 

 

 今度のベルゼバブの標的は―――ナックルⅡだった。側面からベルゼバブの斬撃が炸裂し、火花を派手に散らす。

 

「なんなんだコイツは!」

 

 ナックルⅡも困惑しながらクルミボンバーⅡでパンチを放つも、直ぐにベルゼバブの姿は消えてから空ぶってしまう。

 瞬間移動にも等しいそれは、今度誰を狙うか分かった物では無い。今度は―――

 

「させるかッ!」

 

 少年の父親を安全な所に運ぼうとした杏子だった。それを龍玄天斬は辛うじて割って入る事に成功してその身にベルゼバブの斬撃を浴びた。

 

「がッ!」

 

 杏子はこの展開を欠片も期待して等居なかったので呆気に取られた。

 

「―――お前ッ!?」

 

「早く!」

 

 龍玄天斬はベルゼバブの持っている剣と腕を掴み、身動きを封じていた。だが、光実自身非力な事もあって大した時間拘束する事は出来ない。龍玄天斬は早く杏子に離脱するように促すと、一瞬杏子は苦々し気な顔をしてから頷いた。

 

 

―――くそったれ。

 

 ここまでこの少年を助ける理由なんてあるのか。光実の様子からしてこの少年とは知り合いでも何でもない。それなのに何故ここまで助けようとするのだ。市長の息子だから見返りを期待しているのか。それとも本当に馬鹿なのか。

 あの見るからにいいトコのお坊ちゃんなあの男がか?

 

 マミを助けるのも、マミは相当な美人に相当するから色目でも使っているからに違いないのだ。そう言い聞かせても、彼の周囲に居た者達の存在がそれを否定する。先ほどのインべスとグールからの防衛戦を終えた後に光実とその仲間たちらしきものと会ったのだが、その光実の仲間と思しき者たちが「ミッチ」と呼ぶその声は暖かかった。その温かさはずっと前に杏子にもあったものだ。

 それでも尚、光実は彼らからある程度距離を取ろうとしているのは―――何故かは知らないが。

 

 光実は信頼は出来ない所はある。どこか腹の探り合いに近いものを時々感じるし、狡猾さを何処かで持っているのには違いないだろう。だが―――命を賭けた事は事実だ。

 曽野村に喧嘩を売り、そして倒して来た事は既に耳にしている。

 

 信用はしてもいい筈だ。あの男はどういう人物かはまだ不透明な所はあるが。杏子の性格的に光実は苦手なタイプだが。今は潰すべき人間と言う訳じゃない。

 

「父さん、父さん!?」

 

 漸く物陰まで運んだ所で同行していた少年が意識を失い倒れている父親に声を掛けて揺さぶる。だが、返事は無い。

 

「揺さぶんな。息は有るみたいだし怪我も見てくれは派手だけどそこまで酷くねぇよ。暫くしたら目ぇ覚ますだろうさ」

 

「…………」

 

 杏子の返答に少年の顔色は一瞬明るくなったが、直ぐに暗くなった。

 事情は既に光実から聞かされている。

 

「……間違っちゃいねぇよ。手段はアレだったが親父を、家族を大事に思う気持ちはな」

 

 

「…………」

 

 杏子は少年の頭をくしゃっと少し乱暴に撫でてから、外に出た。

 

 

 光実を疑うより先にあのクソ野郎は絶対に潰さなければならない。家族を大事に思う気持ちを利用してあまつさえ約束も破ったあの悪意の塊のようなファントムを。

 

「―――ぶッ殺す」

 

 杏子の胸の内にあったものは最早理屈で懲り固めた偽悪的な『打算』ではなかった。ただ純粋にあのファントムをぶちのめそうと思った『感情』だった。

 

 

 

 

 ベルゼバブによる一方的な攻撃は数分経っても続いていた。まぐれで、防御したり回避したりでダメージを辛うじて抑えているが、龍玄天斬とナックルⅡ、ウィザードのダメージは着実に蓄積している。

 

「おいおい……復帰戦で一方的に潰されるなんて真っ平御免被るよ?」

 

 ウィザードはぼやきつつ、とあるホルスターにセットしたリングに手を伸ばした。

 

―――使うか。

 

 それはきっと―――諸刃の希望。絶望と隣り合わせの、力。

 

 躊躇っている内にベルゼバブの攻撃がウィザードに飛んできた。頭上から発生したワームホールから現れたベルゼバブが剣を落下の勢いに任せて振り下ろす。

 

「何ぼんやりとしているんですか死にぞこないの魔法使い君!」

 

 その声を耳にして漸くベルゼバブの攻撃に気付くなんて何たる失態か。ウィザードが―――ハルトが歯噛みしたと同時に影が割って入った。

 

「おい、何ぼさっとしてるんだハルト! あれからメシでも食ってないのかよ!?」

 

「杏子ちゃん!?」

 

 杏子が呼び出した槍でベルゼバブの斬撃を受け止めたのだ。杏子は鍔迫り合いを行いながら14歳という幼さの残る年齢とは思えない凄まじいまでの殺気の籠った瞳でベルゼバブを睨みつけた。

 

「ここでぶっ潰してやるよ……!」

 

 だが、ファントムからすればそれは一種の愉悦でしかない。所詮ファントムからすれば下等生物が一丁前に虚勢を張っているようにしか見えないのだから。

 押し合いは体格差で杏子が些か不利だ。ウィザードがガンモードによる射撃を放つと、再びベルゼバブは離れ、距離を取り、ホーミングして来る弾丸をワームホールで転移させた。

 そして、龍玄天斬の背後に弾丸が飛んできて敢え無く命中する。

 

「!?」

 

 驚いた龍玄天斬は背後を見るもそこには何もなく、足元にはウィザードの放った銀弾が落ちているだけ。

 

―――弾丸の方向すら変えるのか!

 

 

 反撃を放とうにもワームホールで転移されてしまうようでは、迂闊に飛び道具は使えないでは無いか。だが、先ほどの不意打ちなどを考えると常時発動では無い筈だ。

 そんな無敵の存在が居ればさっさと邪魔者であるウィザードや自分たちにに嗾けて抹消に掛るのが普通だ。

 

―――隙は、ある。

 

 幸いベルゼバブはワームホールによる能力を過信しているのかこちらを舐めてかかっているのは目に見えて判る。隙を突くにはまずこちら側の隙を無くす必要がある。4体1と言う状況。

 

 ザックは以前ナックルとして戦っていた際は使用ロックシードのランクの低さを感じさせない戦闘センスを持つ。そして杏子はマミが認めるほどの実力を持つ。ハルトは言わずもがな、だ。

 皆信用のおける腕前を持っている。龍玄天斬はベルゼバブの攻撃を歯を食いしばって堪えながら、味方を集めて小声で作戦を伝えた。

 

「皆さん、円陣を組んで下さい。派手に動かず落ち着いて味方の背中を守ってください。幸い相手は能力に慢心している。落ち着いてお互いをカバーして時間を稼げば痺れを切らして冷静さを欠く筈です」

 

 そう言うと、ウィザードが真っ先に承諾した。

 

「ふむ。手数はそれなりにあるしそれは中々美味しいねぇ。乗るよ、その作戦、超いいね」

 

 それ以外方法は無いと考えたナックルⅡと杏子も承諾した。一方的に舐めた態度で一方的に殴られて、ストレスが溜まっていた所だ。今こそ逆襲の時間だ。

 最初は龍玄天斬の眼前に現れた。ベルゼバブが現れるワームホールが形成された瞬間、ソニックアローで矢を撃ち込んで、外に出す事すら阻む。

 

 次はナックルⅡだ。今度こそとベルゼバブがワームホールを介してナックルⅡの眼前に現れたが、着地した瞬間、クルミボンバーⅡで力強く殴られた。ザックの腕っぷしは相当なものだ。更にSランクのロックシードを併せれば鬼に金棒というレベルでは無い。

 

 咄嗟にベルゼバブはワームホールを形成させて、ナックルⅡの拳を杏子に逸らさせたが、身軽な杏子がそう簡単に当たりはしない。杏子の眼前に現れたワームホールから出て来たクルミボンバーⅡの上に、ひょいと飛び乗り、そのまま槍でベルゼバブに一閃を叩き込んだ。

 

「人間如きが小賢しいですねぇ!」

 

「ひょいひょい瞬間移動しているお前が言うなっての」

 

 ベルゼバブに突っ込むウィザードは【BIND】を発動させて、魔力鎖が四方の地面から現れてベルゼバブの四肢に絡みつき、身動きを封じた。

 

「こんなもので私の動きを……解除できない!?」

 

 何処がどう違うのか、龍玄天斬やナックルⅡには分からなかったが、何か違うらしい。違いの分かる男になりたいものだ。

 

「んじゃ、終わりだ」

 

 ウィザードの少々軽い口調を皮切りに飛び道具を持たない3人が各々必殺の一撃を放つべく準備する。序でに確実性を上げる為に拘束を更に杏子が掛け、槍を投げつける構えを取った。

 

【FLAME SHOOTING STRIKE】

【メロンエナジー!】

【クルミエナジースパーキング!】

 

 ウィザードはシューティングストライク。炎を纏った弾丸をソードガンから撃ち出し、龍玄天斬はメロンエナジーを装填したソニックアローが放つソニックボレーによる強力な光の矢を発生させる。

 ナックルⅡはロケットパンチの要領でエネルギーを纏ったクルミボンバーⅡをパンチに合せて射出し、トドメに杏子が力一杯に槍を投げつけた。

 

 これで倒れない方がおかしいというものだ。連続で大技を受けてベルゼバブの周辺は爆音とともに舞い上がる土煙に包まれ、晴れた時には既にベルゼバブの破片すら残らず消失していた。

 

 

 

 事が終わり、ハルトは少年の精神世界に眠るファントムを始末し、少年の精神世界から出て来た。相変わらずの手際で、戦闘には然したる時間は掛っていない辺り流石と言うべきか。

 それからの事、市長は病院に運ばれ、曽野村たちは警察に突き出された。

 

 曽野村たちは少年が自分たちが持っていたロックシード(曽野村は使い方が分からないとシラを切っていた)を盗み、好き勝手を働いたのであって自分たちは何もしていないと容疑を否認。

 だが光実盗聴していた音声が曽野村の誤魔化しを破った事となる。

 

 警察は少年が犯罪に加担していた事を考慮に入れた事で少年は注意程度で済み、犯人も明かされず、市民の間では元からレッドホットへの評判が悪かったという補正も相まって『大体曽野村+αのせい』だと言う扱いとなっている。曽野村は最早刑務所から出ても沢芽市を大手を振って歩けはしないだろう。裁判自体も少々時間は掛るだろうが、そう簡単に刑務所から出られまい。

 ある種、少年にとって残酷なオチの付け方だっただろう。誰も咎め、裁く者は、居ないのだから。裁かれて責められた方がまだマシだったのかも知れない。特に少年の心境としては。やはり両親の為とは言えど強盗紛いの事をやった挙句怪我人を生んでいるのだ。

 

 結局グールは、インべスと同列扱いで処理されたらしく、曽野村の協力者であるベルゼバブの人間態は現在も捜索中。

 尚、警察に事情を話したのはザックを筆頭としたビートライダーズで、光実の事は殆ど話されていない。これはザックなりの気配りなのだろう。

 

 

 そして数日経ってから―――光実と杏子、ザックは沢芽市のとある病院を訪れていた。看護師曰く少年は父親の見舞いにほぼ毎日訪れているらしい。

 元凶を潰したとしても元に戻る訳じゃない。曽野村とベルゼバブが遺した爪痕は大きい。それでいて少年には両親を人質に取られてしまっているのだから責めようがない。

 

 両親が殺される可能性を提示された挙句体格差もある曽野村に向かって歯向かえと無責任に偉そうに説教するなど出来る訳がない。

 

「くそったれ……」

 

 杏子はぽつりとそう口にし、光に反射したリノリウムの床を睨みつけている。

 

「やりきれないが、俺たちに出来るのはもうあまりない」

 

 ザックは、事情聴取で代表を務めているが為かかなり体力を使ったらしく疲れた顔をしている。光実はそれを申し訳なく思った。

 

「済みません。後始末を殆ど押し付けてしまって」

 

「いや、これは俺たちの問題でもあったわけだしな。それに、祭りの俺たちのステージは一応、監視が強めとは言えど出来るようになったんだ。これぐらい安いもんだ。それにお前にもやる事はあるだろ?」

 

「……済みません」

 

「謝んな。今の所お前に手を貸す事は出来ないが―――頑張れよ」

 

「はい」

 

 ザックは光実への激励を、軽く背中を叩きつつしてから、どうやらこの後事情聴取があるらしく沢芽署に向かって行った。そして光実と杏子だけとなり、流れで病院から出て行く。

 そして門を通り抜けていつも通りの沢芽市の街の喧騒の中、杏子が口を開いた。

 

 

「この調子だとまた会う事になるだろうからこの際言って置く。お前の目的が何なのかわかりゃしないけれど、取り敢えず―――フェニックスとメデューサってファントムには気を付けな。それとワイズマン。アイツからは嫌な感じがしやがる」

 

「……気を付けておくよ」

 

「そうかい」

 

 杏子は踵を返し、再び病院の方向へと足を向けていく。光実は引き返す杏子に問うた。

 

「病院? 忘れものですか」

 

「ま、そんなとこさ」

 

 杏子はそう言って病院に向かって行く。そんな杏子の後ろ姿を、光実は見えなくなるまで見送り、少年とその父親である市長の居る病室の有る階に眼を向けた。

 

 

 あの少年をもし、駆紋戒斗が見たらどう言っただろうか。曽野村に屈した弱者と断じたか、それとも父親を助ける為に罪を背負った強者と認めるのか。

 それは駆紋戒斗と長い事一緒に居る訳でも無かったし、当時彼をただの邪魔者としか見ていなかった光実には分かる事では無かった……




 沢芽市篇、完。

 ガンダム新作のOP曲名でRise Up Your Flagを連想した人出てきなさい。怒らないから。


 今更Twitter始めました。作品に関するネタとか色々書いている時があるので興味がある方はどうぞ。
 @barrelsnake
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。