10月20日 キュゥべえが見える見えないの件について書いている自分が回収出来ないと感じたので『光実はもともと見えなかったがマミが無理を言って見えるようにした』という仕様に変更しました。
その為2、3、4話の文章が少々変更している部分もあるので、お時間あればご確認下さい。
「ねぇ、まどか。願い事、考えた?」
説明会の翌日の昼休み。屋上でさやかとまどかは弁当を食べていた。周りには誰も居らず、まどかとさやかだけだ。……まぁ、まどかの膝の上にキュゥべえも一応居るが。
まどかはさやかの質問に首を横に振った。漠然としすぎて思いつきそうで思いつかない。それに『魔女と戦う事は命懸けの事』だと言われれば迷いもする。
「さやかちゃんは?」
「あたしも全然。なんだかなー、いっくらでも思いついて迷う物かと思ってたけど全然思いつかなくて。欲しいものもしたい事も幾らでもあるけどさ」
さやかは伸びをして空を見上げる。
今日は晴れだった。雲こそあるが、それが寧ろ空の美しさを引き立ててている。吸い込まれるような、青空。空を見ていると自分の願い一つ如き迷う自分が馬鹿らしくなって笑えてくる……けれども、
「やっぱ『命懸け』って所に引っかかっちゃうのよね。願い一つでそうまでするもんじゃねーよなって」
それにはまどかも頷いて同意する。最初は納得しても後で後悔してしまえば本末転倒だ。
――自分の一生を掛ける価値のある願いってあるのかな。後悔をしない願い事ってあるのかな?
さやかと一緒にまどかも空を見上げる。
――思いつかない……
まどかは思わず溜息を吐く。やはり、自分という人間は恵まれているのかも知れない。気が強くて頼れるキャリアウーマンな母親が居て、優しくて気配り上手で家事をしっかりやる父親が居て、可愛い弟が居て、さやかや仁美という親友が居る。
『意外だなー、大抵の娘は二つ返事なんだけど』
キュゥべえによると即答が多いらしい。何を思ったかさやかは立ち上がって、表情がまどかに見えないように背を向けて、フェンスに手を掛けた。
「きっと、あたしたちが馬鹿なんだよ。『幸せ馬鹿』ってやつ」
幸せ馬鹿。
「別に珍しくなんか無い筈だよ。命を引き換えにしてでも叶えたい願いって。そういうの抱えている人って、世の中に大勢居るんじゃないのかな」
さやかの言葉は尤もだった。両親が仲悪くて離婚して片方が居なくなったり、もしくは両方がいなかったり。お金が無くてご飯すらまともに手に入らない人もこの世の中には居る。そして生き甲斐を奪われたり……とか。
「だから……それが見つからないあたし達って、『その程度の不幸しか知らない』って事じゃん」
だが、思い浮かんだ不幸は自分たちには降りかかっておらず、そんな実感も絶望も知らない。それが、さやかの言う『幸せ馬鹿』という奴なのだろう。まどかは思わず、下を向きどうすれば良いのか分からなくて眼を閉じて考える。
今はそれほど契約する願いが思い浮かばない。でも、魔女は人に害を成し人を不幸にする。それをやっつけて皆を助ける。何のとりえもない自分が誰かの役にたつチャンスでもあるのではないかともまどかは思う。そしてそれ自体が願いにも繋がってしまう。
「なんで……あたし達なのかな?」
「え?」
さやかの問いにまどかは眼を丸くする。さやかはまどかの方に向き直って続けた。
「不公平だと、思わない? こういうチャンス、本当に欲しいと思っている人は他に居る筈なのにね」
「……さやかちゃん」
彼女は優しい、とまどかは思う。人の痛みや苦しみが理解できる優しい人間なのだ。自分の事ばかり考えていたまどかは己を恥じた。
「っ!?」
お互いが沈黙して暫くたったその時、さやかがまどかの近くに走り寄った。
何事かと、まどかは驚き、立ち上がる。さやかの視線を恐る恐る追うとその先は屋上の出入口だった。……そこから出て来たのは転校生の暁美ほむらだった。
さやかは、暁美ほむらを睨みつける。彼女はキュゥべえを襲った無愛想で利己的な人物というのがさやかの彼女に対する見解だ。キュゥべえを狙いに来たのか、それとも契約前に威嚇と脅しに自分たちを叩き潰しに来たのか。
『大丈夫』
ふと、頭の中に直接マミの声が流れ込んできた。半ば勘で見つけたのだが、時計台にマミがソウルジェムを輝かせて立っていた。
それにほむらも気づいたらしい。一瞥した後、直ぐにまどかたちの方を向いた。ほむらの動きを警戒しながらさやかは口を開いた。
「……あの時の続きかよ」
だが、返って来たのは意外な返答だった。
「いいえ、そのつもりは無いわ」
ほむらは無表情で否定する。さやかには彼女が恐ろしく冷徹な殺し屋のように見えた。無表情でキュゥべえを殺そうとでもしていたのかと思うと背筋が凍る。
「そいつが鹿目まどかと接触する前にケリを付けたかったのだけれども。今更それも手遅れだし」
――つまりキュゥべえをもう狙わないというのか。信用できない。
さやかは睨みつける目を強める。それに構わずほむらは続けた。もうまるで睨まれ憎まれる事は慣れているかのように。
「で、どうするの? 貴女も魔法少女になるつもり?」
……まどかには答えられなかった。さやかが気炎を上げ、代わりに言い返す。
「アンタにとやかく言われる筋合いは無いわよ!」
「……一昨日の話、覚えてる?」
さやかの言葉はまるで無視しているようで、さやかの怒りは募るばかり。一方でまどかは一昨日、ほむらに言われた事を思い出しながら答えた。
「家族や友達を大事にしているのならば、これまでの自分と違う存在になろうとは思ったらダメ。そうしなきゃ総てを失うっていう話?」
転校初日、突如保健室を案内させられて言われたその言葉。まどかが朝に見た夢に出て来た少女と瓜二つの人に言われたのだから忘れない筈がない。
「そう。覚えているのなら、それでいいわ。忠告が無駄にならないよう、祈ってる」
……彼女はどんな願いを以て魔法少女になったのか。まどかは気になって問うものの、彼女は答える事無く、踵を返して歩き去ってしまった。
「何よアイツ、魔法少女になったら殺すって話?」
さやかは後ろから全力でほむらをグーでどついてやりたい衝動に駆られるも、多分そんな事をしたら返り討ちにされ、蜂の巣にされるか暴行事件で問題になるのでその怒りを呑み込んで堪える事にした。
/
「それじゃぁ、魔法少女体験コース第一弾。張り切って行ってみましょうか。準備は良い?」
駅前の喫茶店にて。マミと光実、さやかとまどかが集まって『魔法少女体験コース』と称した所謂見学を始める事となった。因みに、居るのはボックス席で光実の隣の席にマミ。向かいにさやかとまどかいう構図だ。
光実は準備万端だった。魔女相手だと苦戦必至なので手持ちのロックシードは総て持ってきてベルトに付属しているロックシードホルスターに固定させた。ご存じブドウにローズアタッカー。キウイにブラッドオレンジ。そして未だに起動不可のWロックシードだ。Wは手持ちのロックシード中最も強力で、何時か起動してくれるのではないかという期待を込めて持ってきた。
起動してくれれば、並のインべスならば簡単に撃破出来る程のパワーを持ち合わせている。武装も出力もブドウの完全な上位互換の為大きな力を発揮する筈なのだが……如何せん起動しないという致命的欠陥をもっているので現状お守りにしかならない。
「準備になっているがどうかわかりませんが……武器を持ってきました!」
さやかが勢いよく、ドンと床に叩き付けるように立てた。棒状のものを布で巻き付けている。バットだろうか。光実は思うも、中身は意外なものだった。巻き付けていた布を外すと、中身が露わになる。
「え……木刀?」
まどかが圧倒されたようにさやかの持っている木刀を眺める。流石に柄に洞爺湖とは彫られては居ない。唯の白樫の木刀だった。剣道部の中沢や和哉曰く、赤樫より白樫(白い木刀)の方が丈夫なのだとさやかがどや顔で説明を入れる。
「それ、何処で?」
「剣道部から拝借して参りました!」
光実の質問に得意げに語るさやか。そして暫くの沈黙が入った。
「え……あれ、どうしたんすか呉島さん」
「……美樹さん、相手は化け物なのに、折れたらどうするの?」
「うっ」
さやかは声を詰まらせて、頬に一筋の冷や汗を流した。……安いので一本約1600円也。序でに無断で持って行ったのが丸分かりだ。中学生にとっては弁償する場合は痛い出費では無いだろうか。
「お、お、折らせませんもん! 無事にこっそり返しますもん!」
必死に弁解するさやかが痛々しくて見て居られない。お小遣いも少な目と見た。
「まぁ、そういう覚悟で居てくれるのは助かるわね……」
フォローするマミにさやかは威勢を取り戻し、えっへんと胸を張る。切り替えの早い娘だ。
「で、まどかは何か金属バットとか持ってきた?」
さやかの問いに、光実は「金属バットは無い」と思った。バットで撲殺出来そうな少女に見えないのだ。昨日の説明会での会話からして、人並みよりちょっとぽわぽわしている天然系の女の子だ。
……で、当の彼女が持ってきたものは、ノートだった。
一瞬、光実は相手を死に至らしめる黒いノートを連想するも、中身はそんな殺伐したものでは無く、
「ナニコレ」
「珍百景」
非常にメルヘン極まりないもしも魔法少女になったらのイメージイラストだった。光実のツッコミにボケに近い言葉が錯乱でもしたかさやかの口から放たれる。
まどか自身のイメージイラストに留まらず、キュゥべえや魔法少女姿のマミに、ほむらの姿まで。更に驚いたのが、龍玄を三頭身にしたイラストもあった。ブドウ龍砲を構えている。
光実がその龍玄がちょっと可愛いと思ったのは内緒である。
「取り敢えず、衣装だけでも考えて置こうかと思って……」
照れながら言うまどかに、三人が絵をまじまじと見て呆然とした後、水風船が弾けるように笑い出してしまった。光実も例外で無かった。こんな天然というかぽわぽわしている人間を見るのは初めてだったし、無駄に細かい絵のディティールな所為で思わず笑ってしまう。
尚、当のまどかは何故三人が笑っていたのか分からず困惑して、項垂れた。
「え……え? はぅう……」
だが、笑いながらも光実はまどかが戦いに向かない人種だという事に薄々気付いていた。出来れば契約して欲しくない所だと、思う一つの切欠でもあった……
/
4人が向かった先は光実とマミが初めて出遭った薄暗い閉鎖区域だった。どうやらそこから逃げた魔女の痕跡を辿るのだという。まるで犯人を追う警察犬か何かだ。
基本魔女結界は不可視で、ソウルジェムがダウジングマシンの役割を務めるようだ。後は……足頼み。
「光……あんまり変わってないですね」
ソウルジェムは魔女に近づけば近づく程強く光るようになるらしいが、光は歩いても変わりはせず、薄く光っているだけ。もう1キロぐらい歩いたのではないだろうか。出発時にまだ地を照らしていた太陽は既に沈みかけて、空は茜色に染まっていた。
「2日経っているからね……足跡が大分薄くなっているわ」
「あの時、直ぐ追いかけていたら……」
まどかが申し訳なさそうに言うが、マミは首を横に振った。
「仕留められたかも知れなかったけれど、アナタたちを放っておいてまで優先する事じゃなかったわ」
「……ごめんなさい」
「いいのよ」
マミの一言が光実の心に深く突き刺さった。あの時、怪我をしたチームメンバーを放って怪人を追った自分にも言える事だった。自分のミスを取り返すために怪人を倒す事に躍起になってしまっていた。傷を負った守るべき存在を放置して……
「うん! マミさんはやっぱり正義の味方だ! それに引き換えあの転校生……修正でもしてマミさんの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわ!」
更にさやかのどこか某アニメを思い出させる言葉が光実の心に追撃としてぐさりと刺さる。
――反省だ、反省……
取り敢えず悔やむより後に生かした方が建設的だと自分に言い聞かせて、折れそうな心を保たせた。そして昼の事を思い出してわなわなと拳を振るわせるさやかを他所に、まどかが疑問に思っていた事は、光実もさやかも、マミも知る由もない。
「本当に悪い娘なのかな……?」
まどかの疑問の籠った呟きは吹きすさぶ風に流され、誰の耳に届くことなく消えていった……
魔女探しは魔女の呪いが影響して起こりやすい事件であるのは交通事故や傷害事件だ。だから人の集まる歓楽街、大きな道路などを優先的に探す。そして、自殺しやすい人気のない場所とか。
そして、病院あたりに現れると厄介だ。唯でさえ弱っている人間の生命力を吸い上げて、目も当てられない大惨事となるであろう。
「間違いない……ここよ」
マミが指し示した場所は、廃ビルだった。蔦が生い茂り、光実はヘルへイムに侵食された沢芽市を思い出したが、蔦は唯の日本でよく見る植物だった。マミの手にあるソウルジェムが、出発時と比べものにならないくらいに強く光っている。マミの説明が本当ならば、そこに魔女は潜伏している。
光実は予め腰に装着した戦極ドライバーにブドウロックシードをセットする準備を行おうとしたその時、さやかが声を上げた。
「マミさん! アレ!」
さやかが指を指した方向は廃ビルの屋上だ。そこにはOLであろう女性が力なく下に向かって飛び降りた。
――投身自殺……!
【ブドウ】
光実は落ちる女性を受け止めようと焦って、ブドウロックシードを開錠。ベルトにセットしようとするも、冷静さを失い巧くベルトに嵌らない。
――間に合わない……
光実が己の至らなさに苛立ち、まどかが悲鳴を上げたその時……マミが走り出した。一瞬にして、マミの姿が見滝原中学校の制服から魔法少女の姿に書き換わる。
そして魔法で出現させた黄色く光るリボンで女性を受け止め、地面へと優しく下ろした。
4人が女性のもとへ駆け寄り、彼女の首筋を見てみると何か血の色をした紋章のようなものが浮かび上がっていた。
「魔女の口づけ……やっぱりね」
女性の首に現れた紋章は『魔女の口づけ』と呼ばれ、魔女の呪いを受けて操られた人間に現れる現象だという。
「この人は……生きているのか?」
光実の問いにマミは肯定する。そして……
「準備はいい? 行くわよ」
先ほどまでの優しげな表情は何処行ったか、3人に問うマミの顔は凛々しい戦士の顔だった。その顔は、何処か紘汰を思い出させる。まぁそれは置いておいて、落ち着きを取り戻した光実はロックシードをしっかりとベルトにはめ込んだ。そしてロックシードを再び閉錠させる。
【ロック・オン】
中華風の待機音声が鳴り響く。そしてカッティングブレードを一回倒す事で、ロックシードの力は解放され、上空に発生したクラックから巨大なブドウが光実に被さった。
【ハイィ~ッ! ブドウアームズ! 龍・砲 ハッハッハッ!!】
一瞬にして光実の体は
「か、変わった! ……日曜朝にやってる変身ヒーローみたい」
驚くさやか。当然か、変身自体この面子に見せるのは初めてだ。まどかに限っては「ほぇ~……」と唖然としている。マミもさやか程でないが少し驚いている。
「『ヒーロー』には、まだ成れていないけれどね」
龍玄の仮面の下で光実は自虐的に笑う。謎のアーマードライダーによる沢芽市襲撃事件は紘汰の力を借りて、勝てたようなものだし、前回はマミに助けられた。己が思う『ヒーロー』には、まだ成れて居ない。
気を取り直し4人が照明がとうの昔に消えている薄暗い廃ビル内部に入り込むと、エントランス奥に魔女の口づけと同じ紋章のついた丸い門のようなものが突如出現した。
――アレが結界への……入り口?
門を観察する龍玄を他所に、さやかは木刀を構えるが構えがぎこちない。
「今日こそ逃がさないわよ……」
そう言いながら、マミはさやかの木刀を握った。するとぐねぐねと粘土を捏ねるように形を変え始める。持っているさやかはぎょっとするが変形は止まらない。
「……うおっカッコいい剣」
最終的にはゲームに出てきそうな美しいフォルムをした
まどかも隣で凄いと言っている。一方で龍玄はもう、ありのままの光景を受け入れる事にした。
――……一々食い下がっても仕方ない。これが現実なんだ。そうだ……これが現実……現実なんだ。
まぁ、少々病み気味ではあるが気にしてはならない。
「気休めにしかならないけど……これで身は守れる程度には役には立つわ。……皆、絶対に私の傍を離れないでね」
「「「はい」」」
マミの指示に従い、結界の門へ4人は飛び込むように潜って行った。
……背後の廃ビル出入口に暁美ほむらが居る事を知らずに。
/
門を潜るとそこは雪国……な訳が無かった。夕日に照らされたような色の石造りの長い階段を駆け上がり、迷路のような道をマミは迷う事無く突破する。列はマミがトップで龍玄はしんがりだ。その間にさやかとまどかは居る。
道中背後に現れた使い魔は龍玄がブドウ龍砲で撃ち倒し、前方はマミがマスケット銃で撃ち倒す。使い魔自体は大した相手では無かった。団体で来られると少々厄介だが、マミも居るし、多少の自衛が出来るさやかが居るので今回は手こずる事無く、奥へ奥へと進んでゆく。
髭の生やした幽霊がさやか、まどか、マミ、龍玄見境なく襲い掛かるも、さやかの持っている白い剣は光の盾も作り出せるらしく、それで時間が出来た隙にマミと龍玄が倒す事となる。
「どう? 怖い? 3人とも……」
「な、なんでもねーって!」
やせ我慢に発言するさやかだが、一方で龍玄は落ち着いて居た。
「この程度……怖いと思ってたらやってられない……よ!」
龍玄に飛び掛かってきた髭幽霊を龍玄は飛び回し蹴りで明後日の方向へ吹っ飛ばし、吹っ飛んだ髭幽霊は壁にぶつかって潰れてしまった。
「っ!?」
使い魔が焦りを覚えたか集まってコラージュしたかのような不規則で毒々しい形状へと合体し、まどかとさやかの元に飛び掛かる。それに反応したのは……マミも龍玄も同タイミングだった。
【ブドウスカッシュ!】
龍玄はカッティングブレードでブドウロックシードを一度切り、必殺技である『龍玄脚』を発動。紫色のオーラを纏った片脚の跳び蹴りを放つ。一方でマミは勢いを付けてまるで己が弾丸になったかのような勢いで合成使い魔に両足蹴りを叩き込んだ。
両者のキックはほぼ同タイミングで合成使い魔に直撃。ばらばらに四散して消滅する。
だが、行く手を塞ぐ使い魔は居なくなったわけでは無い。蝶のように飛び回ったりする使い魔や、鋏が飛んできたりと忙しかったが、こちらもたいして手こずる事無く撃破。
無数の扉を潜ったその先には。
色々なものをコラージュしたかのような不気味な広場と、その中心に巨大な三日月に羽を生やして、頭に泥のような何かを被った名状しがたい巨大な怪物が居座っていた。
「見て、アレが魔女よ」
マミの指さした先はその巨大な怪物だった。
「……グロいっていうか……キモい」
「あんなのと戦うんですか……?」
さやかとまどかがそれぞれ感想を漏らす。正直、龍玄も同じような気持ちだった。
これまで戦ってきた相手は何かしらの法則性はあったし、怖いとは思えど、不気味だとは思わなかった。だが今回の相手、『魔女』は違う。分からないのだ。不定形でまるで出来そこないの作り物が生きているかのようで。ここまで恐怖心を覚えたのは初めてだ。思わず脚が、震える。
「呉島さん、怖い?」
「いや、君の手伝いをするって言ったからね。僕も戦うよ」
だが、逃げる訳には行かなかった。このような化け物が世界中に居るというのなら、沢芽市もきっと例外では無い。
――ヒーローに成らなくちゃ……いけないんだ!
龍玄はブドウ龍砲を構え、魔女を見据えた。
――怖いけれども、紘汰さんはもっと怖くて辛い思いをしてきた。それこそ、僕だって命を一度投げ出した事もある。だから……怖く、無い!
ブドウ龍砲を持っていない拳に力が入る。足は床に強く踏み締められる。仮面の奥で光実は己を鼓舞し続けながら、龍玄は魔女に向けて一歩踏み出した。
「大丈夫、負けるもんですか。助っ人だって居る事だしね」
マミは笑顔を絶やさず、さやかから受け取った白い剣を回転させ、床に突き立てた。
すると、光の盾が出来上がりマミたちとまどかたち二人の間にバリアが出来上がった。
「二人とも、下がってて!」
そう言って、マミは魔女の居る広場に降り立った。
――強いな、この人は。
それが、マミに対する光実の評価だった。龍玄もマミを追う形でマミの近くへ降り立つ。すると小さな使い魔がひらひらと二人の周りに寄って来た。それをマミは踏みつぶし、龍玄は払いのける。
――戦闘開始だ!
手始めに龍玄がブドウ龍砲の銃口を魔女に向け、トリガーを力強く引く。銃口から紫色の弾丸が魔女の胴体(?)に命中。体の表面部分が抉られた。
……ものの、じわじわと傷跡が消え去って何事も無かったかのように元へ戻ってしまった。
「何っ!?」
使い魔と段違い過ぎる力に龍玄は愕然とする。距離による減衰もあるだろうが、火力が足りないのか。
『魔力をつかわない攻撃はすぐに再生されてしまうよ! もっと強大な火力か鋭い斬撃を魔女にぶつけないと!』
何処にいるのか分からないキュゥべえの声が直接脳に響く。それを早く言えと文句の一つ二つは言いたい所だったが、今はそんな場合じゃない。対策を考えねば。
思いつく最大の手段としてWロックシード。あの力ならば、再生を無視して叩き潰せるだろうが手に取ってみて起動スイッチを入れても、動かないし、反応が無いので論外。
次点はキウイロックシード。こちらは正直使いたくなかった。
両手は塞がるし、動ける範囲はブドウより大幅に限定されし、重いわと、散々である。高い攻撃力が必要だったりとやむを得ない理由以外で使った試しがない。それに、途中で手に入れた今は無きゲネシスドライバーの安定した火力を持つ標準装備であるソニックアローに頼っていた部分も大きい。
……最後はブラッドオレンジ。こちらは武神鎧武を倒した際に手に入れたロックシードだが、一度も使った事が無い。まぁ、恐らくオレンジロックシードの色違いでしかないであろう。だが少なくともブドウ以上の鋭さは期待出来る。
――これを使う!
意を決して、龍玄がブラッドオレンジロックシードをホルダーから取り外してアームズを切り替えようとしたその時、
魔女が投げ飛ばした巨大な椅子型モニュメントが龍玄に落ちて来た。マミがマスケット銃による射撃で倒れる勢いが弱まった隙に回避に成功するも、衝撃波でブラッドオレンジロックシードが手元から離れ、宙を舞い、地に落ちた。
「しまった!」
回収せねばと落ちたブラッドオレンジロックシードのもとへ走り寄るも、足元に小型の使い魔が寄ってたかり移動を妨げる。そして、使い魔は龍玄を捕縛するロープと化し、龍玄をてるてる坊主の如く吊り下げる。マミも同様の方法で捕縛されている。
どうにか脱出すべく、魔女に向かって両者は銃の引き金を引くも、大人の数倍も有る図体の癖に思いのほか魔女は俊敏だった。照準が定まらず、放たれた弾丸は空を切り床や壁を抉るだけ。
マミだけでもと、ブドウ龍砲でマミを捕縛した黒いロープを狙い撃つ。すると簡単に消滅してマミは地面へ落下。何とか着地するも、龍玄は振り回され壁に叩き付けられた。
「がっ……はっ……」
背中に強烈な衝撃が奔る。思わず胃の中のものを吐き出しかけるが、無理矢理抑え込み、嘔吐を回避した。
そして……
「礼を言うよ。魔女さん。好き勝手振り回してくれたお陰でコイツを回収できたよ!」
不敵に笑いだした龍玄の手にはブラッドオレンジロックシードがあった。振り回されている真っ最中に咄嗟に拾い上げたのだ。反射神経的に普通の人間には出来ない技だが、一度人間としてのリミッターを切ってしまっている光実にはこの程度造作でもなかった。不要となったブドウ龍砲を投げ捨て、戦極ドライバーのブドウロックシードを外す。
【ブラッドオレンジ】
そしてブラッドオレンジロックシードを開錠すると、新たにクラックが発生し、ブドウアームズは消滅。
【ロック・オン ハイィ~ッ! ブラッドオレンジアームズ! 邪ノ道・オン・ステージ!】
上空から降ってきて覆いかぶさってから変形。鎧の形を成す。そして龍玄の手には切ったオレンジをイメージした刀である紅い大橙丸が出現する。その刀で拘束を叩き斬り、解放された龍玄が地上に落ちながら置き土産として数発魔女に斬撃を叩き込む。落ちる龍玄をマミが魔法のリボンで
「さて、呉島さんも準備ができたみたいだしそろそろ決着と行きましょう!」
マミの言葉を皮切りに、マミが外した弾痕から黄色い紐が出てきた。それは多方面から現れ高速で動き回る魔女を瞬時に縛り付け逆に拘束してしまう。鋏などを出して抵抗を試みるも、拘束は甘くなく、抵抗むなしく完全に縛り付けられることになってしまった。
好機と見た龍玄はカッティングブレードを一回倒し、エネルギーを紅い大橙丸に収束させる。
【ブラッドオレンジスカッシュ!】
マミも一気に決めようと考えたらしい。空高くジャンプして服に付いたリボンを取り外し、変形させ自身の何倍もの大きさの巨大なマスケット銃を形作った。そして――
「ティロフィナーレッ!」
技名を叫ぶと共にマミは巨大な引き金を引いた。その弾丸は眼にもとまらぬ速度で飛び、魔女を容易く貫いた。だが、撃破し切れていないのかまだ消滅していない。
「はあああああああああああっ!!」
追撃に龍玄は眼にもとまらぬ速度で魔女に飛び掛かり、必殺の斬撃『大橙一刀』を体に大穴が空いた魔女にオーバーキル気味の一撃を縦に真っ二つに割るように叩き込んだ。
これだけ受けては消えない筈が無かった。魔女は強大なエネルギーを叩き込まれ、風船の如く大きく膨らみ破裂するように爆散し、辺り一帯を覆う大きな土煙を起こした。
「やった……の?」
見ていたさやかが呟く。土煙の所為で見えないが、二人は大技を放ち、連続で叩き込んだのまでは見えた。先ほどの大爆発の爆心地が魔女からだったので恐らくは勝った筈。
その答えは魔女結界が消滅した事が総てであった。
「凄い……!」
まどかには、マミと光実がヒーローに見えた。人知れず悪さをする怪物と戦い、人々の日常を守るヒーローに。弟が見ている日曜朝にやっている特撮ものの主人公のように。
魔女結界が消滅すると、マミは魔女が居たであろう場所から黒いものを拾い上げた。既にマミは元の制服姿へと戻っている。光実もつられるように変身を解いた。
「これが、グリーフシード。魔女の卵よ。運がいいと魔女が持ち歩いている時が有るの」
マミが差し出したものは黒い玉に装飾をつけたかのようなものだった。
――これが、グリーフシード。
光実が思ったより小さなものだった。ソウルジェムより小さいかも知れない。魔女の卵というキーワードでまどかとさやかはギョッとするも、キュゥべえが掻い摘んで説明してくれたために、二人は落ち着きを取り戻した。
「わたしのソウルジェム。昨夜より少し色が濁っているでしょう?」
マミが差し出したものは確かに昨日は明るい色をしていた筈のソウルジェムだった。言われてみれば、濁っているように見える。
「でも、グリーフシードを使えば」
マミが両手に持ったそれぞれの物を近付けると、一瞬にしてソウルジェムから黒いものがグリーフシードに吸い取られてしまった。
「ほら、綺麗になったでしょ? これでわたしの消耗した魔力も回復して元通り。昨日言った魔女退治の見返りっていうのがコレ」
そう言い終えると、あらぬ方向にマミはグリーフシードを投げた。
「なっ」
光実たちが驚いて投げられた先を見る。そこは日の入らない暗がり。だが、落ちた音はしなかった。何故ならキャッチしたのだ。暗がりの奥に潜んでいた……暁美ほむらが。だが、あの黒いアーマードライダーとは一緒ではないらしく、一人だけだった。
「後は一度くらいは使える筈よ。アナタにあげるわ、暁美ほむらさん?」
マミの声色が厳しくなり、場の空気が張り詰められた。
黒いアーマードライダーについて問いただしたいが、彼女が答えてくれる可能性は多分無い。それに空気からして戦闘になるのではと考えた光実は外した戦極ドライバーを再度装着しようとするも、マミが手で制した。さやかもほむらに何か因縁があるらしく、ほむらを睨みつけている。もはや一触即発と言っていい状況である。
「それとも、人と分け合うんじゃ不服かしら?」
口調からして光実を制したマミも喧嘩腰だ。だが、ほむらは表情を変えずに言い放つ。
「貴女の獲物よ。貴女だけのものにすればいい」
そう言って、投げ渡されたグリーフシードをマミに投げ返した。
「そう……それがアナタの答えね」
マミに構わずこの場から去りゆくほむらを見送り、さやかは心底腹立たしそうに毒を吐いた。
「くぅぅぅっ! やっぱり感じ悪い奴ぅ!」
「でも……仲良く出来れば良いのに」
まどかの言い分は間違ってはいないと光実は思っているが、そう簡単に何とかなる程世の中は甘くない。人間関係もまた然り。
「お互いがそう思っていれば……だけどね」
光実は深く溜息を吐きながら言った後、曇った心を晴らす為に外の夕焼けを見つめた。それはオレンジのような色合いで、雲が疎らにある。そんな空だった。
/
「ケッ、随分と面白そうな連中が居やがるじゃねえか」
柄の悪い男が光実たちが居る場所から少し離れたビルの屋上で交戦的な笑みで超常的な視力を以て光実とマミを見ていた。暴れたくて仕方がない。潰したくて仕方がない。その男の頭には『戦い』それが総てだった。
――潰し甲斐のありそうな連中だだ。戦って楽しみたい。
男にとっては戦いこそ最大の娯楽であり、己の使命など知った事では無かった。光実たちの居る場所へ向かおうとしたその時、近くに居た女性が手で制した。
「あんだよ、文句あんのかメデューサよ」
メデューサと呼ばれた女は艶やかな笑みで、言い返す。
「今はその時ではない」
「それ何度目だ!? 俺は暴れたくて暴れたくて仕方がないんだよ!」
気炎を上げる男にメデューサは艶やかな笑みを止めず、「まぁ、いずれ必ず暴れさせてやる」といい、男は不承不承ぶつくさ文句を言いながらメデューサと共にこの場を後にした。
本作の設定上魔法なしライダーと魔女の相性は悪いです。多分魔法少女の力添えor味方ライダーが無かったら、現状の龍玄は敗北していたかもしれません。というかそもそも魔女を発見する事すら難しいです。
そうでもしないともう全部あいつ一人でいいんじゃないかな状態になってしまいますから……でも怪人相手では頑張って貰いたい所です。奴らも動き始めましたし。
ハイリスク・ハイリターンが魔法少女だとすれば、ローリスク・ローリターンが本作におけるアーマードライダーでしょうか。
さて、これから契約するであろう娘たちはどのような道を歩むのか……魔法少女になるか否か、それとも第三の選択肢を創り出すのか。