贖罪少年くれしま☆ミツザネェ!   作:ヌオー来訪者

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 今回はウィザード側。


第六話 絶望の序章

 風見野駅から徒歩10分の住宅街に老舗の古本屋がぽつりと建っている。名前は『見影(みかげ)堂』

 小説は勿論、漫画も置いてあるのだが売り上げの殆どがネット通販で、態々やって来る人の4割がた冷やかし(立ち読み)である。その為ここの従業員であり、店長の一人娘である女子大生の見影麻弓は退屈そうにレジのカウンターにてぼんやりと手持ちの文庫本を読んでいた。

 

 陽は一番高い所まで上ったのだが、まだ客は独りも来ない。最近PCの普及に合わせて大分客が減ったので仕方ない話かもしれないが。

 

 暫く文庫本を読みながらぼんやりとしていると、からんからんと店の出入り口に付けられたベルの音が耳に入った。麻弓はきた、と急いで文庫本を仕舞い入り口の方へ向くと、そこにはカジュアルな服装の上に黒いコートを見に包んだ茶髪の青年が立っていた。それに麻弓は拍子抜けした顔で彼を迎え入れた。

 

「なんだハルト君か……」

 

 再び麻弓は文庫本を手に取り、そちらに意識を集中させた。

 

 彼の名は鍵真ハルト。見影家の居候の一人である。何故、居候の一人なのかと言うと、もう一人居候が居るからだ。もう一人の居候は外に出ているようで今日は麻弓の前に姿を見せていない。まぁこれはいつも通りなのであまり気にしては居ないが。

 

「あ、みたらし団子は二階で食べてよ?」

 

「まだ食べないって」

 

 ハルトの手に彼の大好物である見たら団子が入ったコンビニのレジ袋が下げられているのを確認した麻弓は念のために言っておく。売り物を汚されでもしたら困るのだ。

 

 本が心配でふとハルトを見てみる。売り買いの相談で使用されるソファに座り、アンティーク調の時計をぼんやりと見つめている姿が見えたが、みたらし団子は言った通り食べていないようだった。

 

「……ねえ。そういえばハルト君仕事外は基本何して……あ」

 

 麻弓の質問がハルトの耳に届く前に、突如ハルトは立ち上がり、何処かへと走り去ってしまった。

 

 

 ハルトは突然外に出る事が多い。もう一人の居候も外に出っ放しだ。正直、麻弓には彼が何をしているのか分からなかった。偶に仕事中に自分に仕事を押し付けていきなり飛び出す事だってある。けれども、店主である父親は何も言わない。咎める事も無い。訊いてもはぐらかされるだけだ。

 

「なんなの……?」

 

――お父さんといい、ハルトといい、あの子といい。

 

 自分だけ置いて行かれているような感覚に麻弓は腐らずには居られなかった。

 

 

 

 ハルトがバイクで向かった先は風見野駅前の駐車場だった。

 

 そこには、炎のような意匠の頭をした怪人(ファントム)のヘルハウンドがグールを率いて小さな少女を取り囲んでいる。それ以外の人間は囲まれている少女の近くで倒れている母親らしき女性しか見当たらない。

 ハルトはバイクでヘルハウンドらの居る場所に進みながら、【CONNECT】でソードガンを呼び出し、無造作にガンモードで彼らに向かって発砲した。

 

 弾丸は少女に当たらないように、そしてヘルハウンドやグールだけに当たるようにハルトの意志を受けて軌道を修正。そのまま、それぞれの目標に向かって全弾命中し、火花を上げた。

 

 何事だとファントムと怪人は弾丸の飛んできた方向、つまりハルトの方を向いて睨んだ。

 

「お前、最近暴れまわってる噂の死にぞこないの魔法使いか」

 

 ヘルハウンドの問いにハルトは顔色変えずに「まぁね」と返し、フレイムリングを中指に嵌めた手を【DRIVER ON】で発現したウィザードライバーに近付けた。

 

 呪文が詠唱された後に【FLAME】と英語で発音した後、ハルトがフレイムリングを前方に突き出すと紅い魔法陣が放たれる。その魔法陣を潜る事でハルトはウィザードへと変身し、即刻ソードガンの引き金を引いた。

 

「チッ」

 

 面倒だと舌打ちしながらヘルハウンドは手持ちの魔剣で弾き、一方で銃弾を防ぐ術を持たないグールは次々と倒れ、消え去ってゆく。グールが総て消滅しヘルハウンドだけになった瞬間、ウィザードは発砲をやめて、飛んできた総ての銃弾を魔剣で弾いたヘルハウンドのもとへ走り出した。

 

 ソードモードで斬りかかるウィザードにヘルハウンドはそれを魔剣で受け止め、鍔迫り合いの状態に移行する。

 

 

「おかーさん……おかーさん……」

 

 

 そんな中、少女の声がした。倒れている母親を揺らして起こそうとするも反応は、無い。

 

「お前、何をした?」

 

 ウィザードにソードで押されながらヘルハウンドは愉快そうに答えた。

 

「子供は助けてって煩いんで黙らせてやった」

 

「……何?」

 

 ウィザードを鍔迫り合い状態から押し弾き、ヘルハウンドは少女のもとへ走り寄る。

 

――拙い。

 

 それが何を意味するのか、ハルトとヘルハウンド本人は知っていた。

 

「させるか!」

 

 これ以上近付ける訳には行かないとウィザードは左手のフレイムリングから緑色のリングへと取り換え、その手をベルトに近付けた。【HURRICANE】とベルトが発声し、魔力を受けた指輪から放たれた緑色の魔法陣を突っ切り赤が基調のウィザードの姿が、緑色へと変化。ハリケーンスタイルと呼ばれる姿へと変身した。そしてそのまま緑色の魔力風を受けてウィザードはヘルハウンドに向かって加速する。ハリケーンの持前はスピードだ。

 

 だが、無情にもヘルハウンドの思惑通りに事が動いた。火球を放ちウィザードの進行を妨害。それで出来た隙にヘルハウンドは無抵抗の少女に魔術で精神世界への扉を作り上げて、入り込んでいった。

 己の身に起こった出来事が信じられなかったのか、恐怖故か、それともどちらともなのか。少女は糸の切れた人形の如くばたりと倒れた。

 

「くっ……」

 

 ファントムは同族を増やすために、ゲートと呼ばれる魔力を秘めた人間を狙う。ゲートに秘められた魔力の集合体であるファントムを解き放ち同族を生み出させるのが目的なのだが、その為には、内側にある精神世界(アンダーワールド)と呼ばれる魔力の器とも言える世界に侵入して破壊する必要がある。

 

 そしてゲートの精神世界に侵入するには『絶望』させなければならない。絶望した人間から一時的に発生する『心の隙間』を利用し魔術を使用して入り込む事で内側から精神世界を破壊する事が出来る。

 

 それを阻止し、もし精神世界に侵入したなら体内に飼っているファントムも序でに破壊し二度とファントムに狙われないようにするのがハルトの、ウィザードの役割だ。

 ウィザードは魔法【ENTER】を使う事で、精神世界への扉である魔法陣を作りヘルハウンドを追って精神世界へと向う。

 

 

 これ以上、ファントムを増やさせない為に。

 

 

 

 そこは風見野の市民公園だった。人で賑わうその商店街で風船売りの着ぐるみを見て少女は母親に風船をねだる。精神世界はその主の心理によって様相を変え、あるものは悲しい記憶に、ある者は楽しい記憶から作られる。精神世界にあるものは総て紛い物だが、迂闊に破壊すればゲートが精神世界に飼っているファントムを外へ出してしまう可能性がある。

 無論、外部からやって来たヘルハウンドの役割は精神世界を破壊してファントムを外に出すのが目的である。

 

「ねぇ、おかーさん、風船欲しい」

 

「はいはい」

 

 風船の癖に少々値が張るのをちょっとぼやきながらも母親は売り子の着ぐるみ君にお金を渡し、着ぐるみ君は少女に風船を手渡す。――その瞬間、ヘルハウンドは手近にあったからなのか態となのか少女と母親を狙って魔剣を振り上げた。

 

 その時。

 

「オイオイ、邪魔しちゃダメでしょ。その娘の大切な思い出なんだから」

 

 ウィザードがソードで受け止めていた。邪魔されたヘルハウンドは忌々しげにウィザードを睨みつける。

 

「死にぞこないが、邪魔を……っ」

 

「してやる 」

 

 そんなヘルハウンドの怒りなどお構いなしに、魔力風を纏った蹴りを脇腹に叩き込んだ。更に追撃に回し蹴りを連続で叩き込む。

 

「邪魔するなって言われたら邪魔したくなるのが俺でね」

 

 逆手持ちに持ち替えたソードで魔力風を利用した加速で蹴りを食らってよろけたヘルハウンドに四方八方から通り抜けざまに斬撃を放つ。

 

「えぇい! ちょろちょろとッ!」

 

 ヘルハウンドは火球を放つも、ウィザードはそれをソードで弾くか自慢のスピードでそれを躱しまた一撃。ヒット&アウェイの戦法にヘルハウンドは対応できておらず完全に後手に回っていた。

 

――さて、終わらせよう。

 

 ソードのハンドオーサーに右手を当て、【SLASH STRIKE】を発動。風を纏ったソードをウィザードは木陰に逃げて少し離れたヘルハウンドに向けて力強く一振りした。

 

【HURRICANE SLASH STRIKE】

 

 その瞬間、刀身から緑色の三日月状の魔力刃が放たれヘルハウンドを真っ二つに……

 

「っ!?」

 

……叩き切れなかった。突如、ヘルハウンドが消えたのだ。

 まるで地面がまるで水のようで、水の中に沈み込むように、消えた。目標を失った魔力刃は空を斬りそのまま力を失い消滅する。

 ウィザードは、加速魔法を止めてヘルハウンドの消えた跡に走り寄るが、そこには何もなかった。どうやら魔法でも使ったらしい。彼の魔力の気配がしない。

 

 

 正直、ファントムは逃がしてはならないのだが、奴の追撃より少女が宿しているファントムの方を撃破しなければならない。ゲートが宿しているファントムは精神世界という器の中に住んでいる。その為、見つけるのは容易だった。

 

 直ぐ近くに建っている雑居ビルの上に一つ目の緑の異形の巨人『サイクロプス』が金棒を持ってウィザードを上から見ている。――あれが少女の飼っているファントムか。

 

「さて、掃除を始めようか」

 

 ウィザードは右手のリングを別のものに取り換える。先ほどまで様々な魔法を使用してきたリングはコモンリングと呼ばれるもので、簡単な術式の魔法を発動できるものだ。魔法世界が健在だった頃は科学世界で言うおサイフケータイなるものに似た機能を持っていたが、それは今では役立たずである。

 

 取り換えたのは、『ドラゴライズリング』所有者が精神世界に飼っているファントムを疑似的に具現化させる魔法で、大型の敵に対抗する事が出来るのが利点……なのだが、精神世界でしか発動出来ないという欠点がある。

 

【DRAGORISE】

 

 ベルトの魔力を受けたドラゴライズリングからウィザードの真上に巨大な魔法陣が現れ、そこからウィザードの何倍もの大きさの翼竜(ワイバーン)が現れる。『ウィザードラゴン』それがウィザード(ハルト)の精神世界に宿しているファントムだ。ファントムの中でかなりの魔力を持つ大物でウィザードの強大な力はあの翼竜が源だ。

 

 ドラゴライズで出現させたものは飽くまで紛い物(イミテーション)であるが、強力な力を持っているのには違いない。右中指のリングをコモンに戻し【CONNECT】を発動。専用バイクであるマシンウィンガーを転送魔法陣から引っ張り出し、それに跨る。

 

 一方でドラゴンは屋上に居るサイクロプスを見た途端に火炎弾を放ちながら翼を羽ばたかせ飛び掛かった。

 サイクロプスはそれを金棒で打ち払い、地上に飛び降りてウィザードラゴンを上からのしかかり地面に叩き付けて金棒で力いっぱいに殴りつける。

 

 それにドラゴンも爪で切りつけて応戦するがパワーではサイクロプスに利があるようだ。上に乗られた重量でウィザードラゴンは必死にもがくも中々動かない。苦し紛れに火炎放射を放つ事で、サイクロプスは慌てて漸く電柱を圧し折りながらドラゴンから離れた。

 

――チャンスだ。

 

「ドラゴン! (おれ)に、従え!」

 

 ウィザードはドラゴンに向かってバイクを走らせ、ドラゴンの傍に至るとバイクを翼の形へと変形させて、ドラゴンの背中と合体した。

 ウィザードの専用バイクであるマシンウィンガーはドラゴンを操るハンドルにもなる。今やウィザードは紛い物ではあるがドラゴンを支配したに等しい状態だ。思いのままにドラゴンを動かす事が出来る。

 

 

 

 バイク以上の速度でサイクロプスに肉迫し、鋭い爪で掴み上げ近くのビルへ叩き付ける。磔のようにビルにめり込ませた直後に火炎放射を撃ち確実に、そして着々と追い詰めてゆく。

 

 どうにか磔状態から脱出し、地に足がついたサイクロプスであるが、ウィザードはドラゴンの攻撃の手を緩めず上空から火炎弾の雨を降らせる。サイクロプスは既に磔+火炎放射で弱っており、金棒を振るっても全然弾く事が出来ずにその巨体に火炎弾の雨を浴びた。

 

FINALE(終わり)だ」

 

 ウィザードはドラゴンの背から飛び降り、ソードのハンドオーサーを右手で触れる。

 

【HURRICANE SLASH STRIKE】

 

 発声後に刀身に纏った風を使い、緑色の魔力竜巻を発生させ地に膝をついたサイクロプスは竜巻の中心地に閉じ込められ、完全に拘束される。そしてじわじわと竜巻が起こす鎌鼬(かまいたち)で巨体に傷をつけてゆく。脱出しようと暴れても悪戯に傷をつけてゆくだけで弱ったサイクロプスの行為は焼け石に水であった。

 

 ウィザードは自身の足元に小型の竜巻を発生させ、体をドリルの如く回転させながら己を弾丸のように【SLASH STRIKE】で強化されたソードでサイクロプスのどでっ腹に特攻した。

 

 ウィザードが竜巻に突っ込む寸前で拘束用の大型の竜巻を消滅させ、ガリガリと音と火花を散らしながら、ソードが突き刺さりそのままソードを持った手の力を込める事で綺麗に貫通。腹に風穴を開け、断末魔の悲鳴を上げながらサイクロプスは炎を上げて大爆発を起こし、消滅した。

 

「掃除完了っと」

 

 ウィザードは地面に着地し、ファントムの消滅を確認。ソードをくるくると回す。

 これで少女はファントムに付け狙われる事は無い。だが、ヘルハウンドが黙らせてやったという母親は大丈夫なのか。それがウィザードにとってとても気掛かりであった……

 

 

 

 

 精神世界から外に出て駐車場に戻ると、母親と少女が地面に横たわっている姿がまず、眼に入った。よく見ると、母親は背中に大きな切り傷を作って血を流していた。大方ヘルハウンドが魔剣で斬ったのだろう。……少女を絶望させ精神世界へと侵入するために。……だがまだ息はある。

 ウィザードは右手をベルトに近付け、魔法発動の準備に入った。本格的には出来ないが、怪我を多少はマシには出来る。

 

【TREAT】

 

 一種の治療魔法だが、ハルトは生憎攻撃型魔法に特化した術式の魔法以外はあまり得意では無いので魔力消費量は若干多い。だが、子供が小さい頃に肉親を失うなどというのはウィザードには耐えられる話では無かった。肉親を、友を失う悲しみは良く知っているこの身には。

 魔力を受けた指輪から放たれる魔法陣が母親の全身を通過し、消えてゆく。

 

 背中の傷は先ほどと比較して少し快復したのか、血は止まっていた。

 

――さて、どうしたものか。公衆電話で、救急車を呼んでからヘルハウンドを追うしか無いか。

 

 公衆電話でなければ怪しまれるし、電話番号を特定される可能性が高い。それは流石に今後のファントム狩りに響くので面倒だ。

 

 最寄りの公衆電話ボックスに向かってウィザードが歩きながら変身を解こうとしたその時だった。

 

 

 

 目の前に待ち構えている二人の男女を見てハルトは動きを止めた。その二人はウィザードにはとても見覚えがあり、それと同時に大切なもの()()()

 

「トウゴ、ミア……」

 

――覚悟は、していた。だが、実際に対峙するのとは違う。

 

 目の前に居るのは、ハルトの幼馴染の千鳥トウゴと蛇島ミア。二人とも『あの日』に死亡した筈の人間だった。それが何を意味するか……

 

「久しぶりね、ハルト?」

 

 ミアだった女の言葉にウィザード(ハルト)は魔法世界の日々に戻ったのではと一瞬思いかけるが、それはもう不可能だと我に返り、ソードガンをガンモードに切り替えて、銃口をミアに向けた。

 

「……ファントム、なんだろう?」

 

「だったら?」

 

 挑発的に微笑むミアだった女。ウィザードの持つガンの銃口が震え始める。

 

「……討つ!」

 

 覚悟は既にしていた。魔法を手に入れてから、ファントムと戦うと決めてから。今目の前に居るのは知り合いの形をした怪物(モンスター)だ。容赦するな、情けを掛けるな。

 そう何度も心の中で言い聞かせてはいるが、銃口は震えている。

 

 

「オイオイ、ビビってんのか?」

 

 トウゴだった男はヘラヘラと笑いながらウィザードに近寄り、眼前で座って下からウィザードを見る。――気に入らない。花が好きで虫も殺せないし喧嘩も弱かったけれども誰よりも人の痛みに敏感で人を思いやれる。そんな優しい奴がこんな馬鹿にしたような顔をするのは。

 

 許せなかった。人を殺めるような奴が人の姿を借りて……

 

――ここで、潰す。

 

「黙れ…………黙れッ」

 

 何時もの余裕は何処へ行ったのか。ウィザードは声を荒げて、トウゴだった男に向け、怒りに任せてガンの引き金を引いた。

 

 

 

『異世界から現れた魔法使いとは良い展開ととらえるべきか、悪い展開と取るべきか。しかしあの世界の技術は眼を見張るものがあるね。上手く利用出来れば……』

 

 その淵で見ている存在にウィザード達が気付く事も無いまま……

 

 




 取り敢えず、ハルトを追い詰める準備を一つ。ウィザードは原作からかなり設定を変更してるので質問があったら遠慮なくどうぞ。

 さて次回は、もう一人の居候さん登場です。誰かは大体想像がつくはずです。
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