贖罪少年くれしま☆ミツザネェ!   作:ヌオー来訪者

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 もうきっと戻れない。


第九話 放たれた弾丸は

 戦闘が終わり、龍玄と影武が向き合う。両者の間に無言の緊張感が走る。

 

 何故、こちらを助けたのか。あのファントムという連中は何なのか。訊きたい事は沢山あったのだが、影武は喋ろうとする雰囲気を見せず、ただただ両者は向き合っているだけである。

 マミも龍玄の横に立って、影武を見据える。

 

 実際はそんなに長い間睨みあっては居ないのだろうが、光実にとってはその時間が10分くらい、長く感じられた。

 

「……アナタは!」

 

 マミがふと、声を上げる。龍玄は視線を影武の顔から少し横に逸らすと、そこには暁美ほむらが立っていた。彼女の姿はマミと同じ制服姿で、ほむらがマミ達と同じ学校の生徒であるという事を光実は、ふと思い出した。

 しかも、まどかとさやかに限っては同じクラスだ。

 

 さぞかし居心地悪かっただろうと、龍玄はまどかたちに同情していると、ほむらが影武より前に出た。

 

「……判っているの? 貴女は無関係な一般人を戦いに巻き込んでいるという事を」

 

 その問いにマミは顔色変えずに言い返す。

 

「あの二人はもうキュゥべえに選ばれたのよ。もう無関係じゃないわ」

 

 何故、暁美ほむらはまどか達をこの状況に置かれる事を良しとしていないのか。ただ単に取り分が減る事を危惧しているだけなのか。それとも……何か他に理由があるのか。光実の疑問はまだ胸の内に燻っているままである。

 

「貴女は二人を魔法少女に誘導している」

 

「それが面白くない訳?」

 

 マミの語調が強くなる。少し、敵意が籠っているように光実には感じられた。だが、マミの質問でそれなりにほむらの目的がはっきりする筈だ。龍玄は視線をほむらに向けて、返事を待った。

 間もなくして、ほむらは表情を変えずに吐き捨てるように言い放った。

 

「えぇ、迷惑よ。……特に鹿目まどか」

 

 それが何を意味しているのか。龍玄とマミはほぼ同じ結論に至っていた。

 

「へぇ、そう。アナタも気付いていたのね、あの娘の素質に」

 

――深読みした僕が馬鹿だったのか。

 

 軽い失望を覚えながら、最悪交戦となる事を用心して、龍玄は手持ちのキウイ撃輪を持つ手に少し力を込めた。

 

「鹿目まどか……彼女だけは、契約させない」

 

 ほむらは引き下がる気は無いらしい。彼女もまた、淡々とした語調に少し力が籠ったように感じられた。

 

「自分より強い相手は邪魔者って訳? 『いじめられっ子』の発想ね。それに男を連れてて随分なことね」

 

 挑発じみたマミの発言に、ほむらは細い眉を顰めた。まさに一触即発な空気を感じ取った影武は影松を、龍玄はキウイ撃輪を構えた。

 

 

「君は敵じゃないと言った。なら何故このような事をするんだ?」

 

 龍玄の問いに影武は黙ったまま。沈黙が続き、一陣の風の音がこの場を支配する。ほむらの闇に溶け込みそうな黒い髪が風に靡き、マミの縦ロールが僅かに揺れる。それ以外に動きは無く、お互い睨みあったまま。

 

 

 

 

 この沈黙とこう着状態を打ち破ったのは……影武だった。影武はほむらより2、3歩前に出てから、語り始める。

 

「……俺は鹿目まどかを、美樹さやかを魔法少女にさせない為に戦っている。まどか達を契約させる気がないのなら味方だ。逆なら、敵だ」

 

 彼は魔法少女では無い。ほむらと共闘しても何もメリットは無い。何故この男は戦う? 何故だ。影武とほむらの目的が一致して居なくて『魔法少女にさせない』という利害の一致で共闘しているのか。

 光実の疑問は減るばかりか増えるだけだった。

 

 

「どうする? 貴女とは、戦いたく無いのだけれども」

 

 武器を構え、睨みあう龍玄と影武を一瞥してから、己の黒髪を掻き上げながらほむらはそう言い放った。まるで勝利する余裕が有るかのように。

 だが、それにマミは気付いている様子は無かった。

 

「じゃぁ、お互い会う事無いよう努力するしか無いわね。話し合いで事が済みそうなのはきっと今夜が最後だろうから。行きましょう、呉島さん」

 

 マミに連れられ、光実は変身を解除。この場から去るべく背を向ける。

 光実はほむらたちからもっと話を聞きたかったが空気とマミの心境がそれを許さない。不承不承ながら光実はマミと共にこの場から歩き去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ」

 

 去りゆく二人を見送りながらほむらはままならなさに苛立つように下唇を噛んだ。何故話を聞かない。何故こうも。この場に『イレギュラー』が二人居るというのに何故状況が変わらない。

 

「ありのままを言っても信じては……くれなさそうなんだよなぁアレ」

 

 先ほどまでと一転して、影武がおどけた態度で影松を肩に掛けて呆れたように溜息を吐く。

 

「えぇ、……無理よ。彼女はキュゥべえを信頼しきっている」

 

 諦めの混じったほむらの言葉に「何でそうはっきり言えるんだよ」とツッコミながら、視線を龍玄たちが立っていた場所に視線を向けた。

 

「あの緑のアーマードライダーも悪い奴では無いんだろうけど……敵になるとしたら骨が折れるぞ」

 

「そうね。まるでパワーが違うみたいだし、出力の暴力で貴方は押し負けるわ」

 

 ほむらの容赦のない一言に影武はガックリと項垂れた。

 

「……ただでさえ火力不足に困っているのに酷くね?」

 

「事実を言っただけだわ」

 

「少しは手加減して言ってくれよ!? 何? 最近の中学生は鬼なの!? 外道なの!?」

 

「黙ってなさい」

 

「あっはい……どうせ、俺なんか……」

 

 何言っても全然ぶれないほむらに影武は更にどんよりとした雰囲気を醸し出しながら、影松を杖にして力なく更に項垂れた。その動きの滑稽さにほむらがクスリと笑いかけて堪えたのだが、それを影武は知る事は無い。

 

 

 

 

 

 マミとほむらの対峙から翌日の事。

 

 

 光実がマミと手分けして魔女とヘルハウンド捜索を行っていたその時、ポケットに仕舞ったスマートホンが鳴り響いた。

 

 光実はスマートホンとポケットから出し、画面を見ると巴マミの携帯からの電話である事が分かった。……魔女でも見つけたのか。

 

「はい、呉島です」

 

 電話に出ると、走っているのか早口なマミの声が光実の耳に入った。

 

「呉島さん! 美樹さんが、見滝原病院前の駐輪場で孵化寸前のグリーフシードを発見して、キュゥべえと一緒にそこで見張っているって!」

 

――なんて危険な事を。

 

 クラックの前に居る以上に危険な行為ではないか。しかも丸腰だ。命の危機に晒されて契約でもされたら絶対さやかは後悔する。それに病院で呪いでもばら撒かれたら途端に大惨事だ。

 光実は焦って、ロックビークル『ローズアタッカー』起動させて大型化したバイクに跨ってアクセルを強く踏みつけた。

 

 法定速度など知った事では無い。兎に角、早くマミと合流しなければ手遅れになる。そんな危機感を覚えながらバイクを見滝原病院へと走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 現場に辿り着いたのはほぼ同時だった。

 

 どうやら、マミは携帯番号を交換していなかったのでまどかから直接知らされたらしい。マミはまどかと一緒に駐輪場へやって来ていた。

 現場には二つの鞄が置かれており、片方はきっとまどかのものであろう。

 

「呉島さん、バイク持ってたんだ」

 

 魔法少女組にとっては初見な装備品だったか。まどかは変わった形状をしたローズアタッカーを凝視する。それが一瞬にして手のひらサイズの錠前へと変形した時、まどかは「うぇっ!?」と変な声を思わず上げてしまった。

 

「まるで魔法みたいね……」

 

 流石にマミも驚かずには居られなかったらしい。

 魔術は結論で化学は過程である。昔、誰だったかそんなことを言っていたがあながち嘘ではないのかも知れない。

 

「さぁ、鹿目さん、呉島さん。行きましょう」

 

 マミの力によって拓かれた魔女の結界に通じる扉(最早穴だが)を3人が潜ると、薄暗い空間が広がっていた。無数の光実の背ぐらいある薄汚いと思えるぐらいのカラフルな巨大な注射器やメスなど医療器具が辺りに無秩序に地面に刺さっており、相も変わらず趣味の悪いオブジェだ。

 

 そんな空間をキュゥべえの念話による案内を受けたマミの引率でまどかと光実は奥へ奥へ進んでゆく。その先にあるものが、己にとって最大の分岐点となる事を3人は知る由も無く……

 

 

 進み続けると、プリンだのカステラだのチョコレートだのお菓子がオブジェの中に混じるようになって来ていた。医療器具とお菓子。一体どんな関係があるのか光実には想像が付かなかった。医療器具は場所的に納得出来るものだが。

 

 光実は前もって戦極ドライバーを腰に巻き、何処からでも使い魔や魔女が強襲してきても対処出来るように周囲に気を配る。

 

 ふと、光実が背後を見たその時、長髪の少女のシルエットが視界に入った。逆光で顔が見えないがそれが誰なのかは光実には分かっていた。

 光実が足を止め、それに違和感を感じたマミが光実の居る背後を向き光実が足を止めた原因を見るや否や、心底不快そうに口を開いた。

 

 

「言った筈よね? アナタには会いたくないって」

 

 

 長髪の少女……暁美ほむらはマミの嫌悪的な声に表情を変えなかった。まるで慣れているように。今日は影武と一緒では無いようだった。

 

「今回の獲物は私が狩る。貴女は手を引いて」

 

「そうは行かないわ。キュゥべえと美樹さんを迎えに行かないと」

 

「二人の安全は保障するわ」

 

「信用すると思って?」

 

 マミは左手をほむらに向けて突き出すと、ほむらの足元からリボンが現れ忽ちほむらを芋虫の如くぐるぐる巻きにしてして吊り上げてしまった。マミが得意とする拘束魔法だ。

 

 飽くまでマミは譲る気は無かった。まぁ、これまでの言動からして信じろというのが無茶な注文だ。昨日に続き一触即発の空気に、初見であるまどかは訳が分からず視線はマミ、ほむらへと交互に変わっている。

 説明しようにも長くなりそうなので光実は何も言わずに、そのままほむらを見据えた。

 

「馬鹿な事を……こんな事をやっている場合じゃ……」

 

 無表情で淡々としたほむらの口調に焦りが滲み出る。一体何に焦っているのか? 獲物が奪われるにしては尋常ではない様子に光実は少し違和感を覚えていた。

 

「勿論、怪我させるつもりは無いけれど、あまり暴れたら安全は保障しかねるわ」

 

「今回の魔女はこれまでと訳が違う……」

 

――『訳が違う』……ブラフか?

 

 先ほど生まれたばかりの魔女の実力を今結界に入った人間が知る訳が無い。マミはそれを妄言として切り捨てた。光実はかみ合わない彼女の言動に混乱、半ばパニックになりつつあったが、それを他所にマミとほむらの会話が続けられる。

 

「帰りにはちゃんと解放してあげる。行きましょう、二人とも」

 

「あ、はい……」

 

 まどかは背後の必死に脱出しようともがくほむらを一瞥しながら、マミについてゆく。だが、光実は……マミについて行こうとした足を止めて吊り上げられている暁美ほむらを見上げた。

 

「どうしたの? 呉島さん」

 

 光実が付いて行かない事にマミは後ろを向いて問いかけた。光実は背後のマミに視線を変え、口を開いた。

 

「ちょっと、ね。色々彼女に訊きたい事があるんだ」

 

 光実は湧き上がる疑問と違和感への答えが欲しかった。ちぐはぐ過ぎるほむらの行動パターンや、何故まどかたちに付きまとうのか。その答えを。

 

「聞いても答えてくれると思えないけれど?」

 

 マミの言う事は尤もだった。ほむらは現れては去り、言いたい事だけ言い放って肝心な事は何も言わない。言動からして素直に話を聞いてくれるとは到底思えなかった。

 だが、訊かない事よりはずっとマシだとも光実は思っていた。無論、喩え話を聞けたとしても、ほむらの話を鵜呑みにするつもりは無い。真偽を確かめる為の検証もするつもりである。

 

「答える様子が無かったら、直ぐに追いつくよ。だから、先に行ってて」

 

「そう……行きましょう、鹿目さん」

 

 少し、俯いたような気がするがマミは何時もの表情に戻りまどかの手を引いて奥へと歩いて行く。それを見えなくなるまで見送った後、背後の拘束されたほむらに視線を戻した。

 

「君には色々訊きたい事がある。君の本当の目的は何だ? 何を知っているんだ?」

 

 光実の発言にほむらは警戒の表情を見せる。それも当然か、男にこんな事言われては警戒しない訳が無い。

 

「ならばこの拘束を解いて欲しいものだけれど」

 

 ほむらの頼みに一瞬光実は顔を顰めた。その行為が何を意味するのか……一種のマミに対する裏切りである。拘束を解くか否かで躊躇している内にほむらが畳みかけるような一言を言い放った。

 

「あのまま放っておくと巴マミは『死ぬわ』。今回の魔女は巴マミの拘束魔法とは極めて相性が悪い。更に巴マミの精神状態から少々浮ついていて魔女の二段構えのトラップを見切れずに命を落とすわ」

 

「……ッ!?」

 

 マミが死ぬ。何を証拠にそんな事を言っているのか分からなかったが、ほむらの口調は淡々としていてそれでもって細かく言う物だから余計に説得力を持たせる。

 

「何を証拠にそんな事を……!」

 

「今は言えないわ。ただ、それ以外の事ならば大体は話せるわ。巴マミが知らないことを、キュゥべえの目的も……」

 

 ほむらの出す条件は非常に魅力的な物であった。巴マミの知らない事。光実が知りたい事の一つだったのだから。

 だが、それと同時にリスクも大きかった。マミとさやかは間違いなくほむらを解放することに難色を示すであろう。更にほむらが悪意込みでうごいているとしたらこちらにとってマイナスにしかならない。だが、キュゥべえの目的とやらが内容次第では状況が大きく変わる。ほぼノーリスクで叶う願いに裏があるのならば、知れば未然にまどかたちを救える可能性がある。

 

 普通ならば危ない橋は渡らないつもりだが、見返りは光実にとって大きなものだ。リスクを考慮しつつ解放してやるか、飽くまで暁美ほむらが嘘を吐いていると断じるか。取り出したブラッドオレンジロックシードを持った手が僅かに震える。

 

「早く決断しなさい……! このままではお互い困るどころか巴マミが死ぬわ!」

 

「くっ!」

 

 ほむらがこれまで以上に、感情を表に出し叫ぶ。その叫び声に光実は……

 

「変身!」

【ハイィ~ッ! ブラッドオレンジアームズ! 邪ノ道・オンステージ!】

 

 

 

 

 

 

 光実は、前者を選んだ。

 

 

「礼を言うわ。約束通り貴方の知りたい事は大体話すわ。信じるかどうかは貴方次第だけれども」

 

 龍玄は大橙丸を振るってリボンを切断し、拘束から解放されて地上に着地したほむらは約束通り、マミが知らなかった事をその口で淡々と、語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そんな馬鹿な事って」

 

 話は一通り聞いたが、信じがたい話だった。だが、ほむらの話は辻褄なら合う。そこから来る行動も納得できるものだった。それ故に『魔法少女に課せられた運命』を想像しては仮面の下で冷や汗が光実の頬を伝う。

 だからこそ、何を成し、何を信じれば良いのか。光実には分からなくなりつつあった。

 

「事実よ。一部は実証できるけれど、これは後でするわ。今は巴マミに加勢に向かいましょう」

 

「…………」

 

 ほむらに連れられて、龍玄はマミを追う。彼女に真実をどう説明すれば良いのか、どう動けば良いのか。分からない事ばかりだ。けれども少なくなからず、様々な意味で『もう戻れない』事ぐらいは分かっていた。

 




 以上、ミッチ真実を知る(?)でした。ミッチは焦ると冷静な判断が出来なくなるんじゃないでしょうか……と思った上でこの選択肢を選ばせました。情報なしの宙ぶらりんで少し焦っていたのでしょう……
 何かミッチの古傷抉ってばっかだなこれ(´・ω・`)


 勢力図が更にごちゃ付きそうです。次回のサブタイは多分『時の華』

 次回をお楽しみに。
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