ぼっち・ざ・ろっくどるーむ・まーだーけーす   作:菱川あいず

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風吹けばリョウが儲かる

…………

 

【ニュース速報】

 東京都世田谷区××のコンビニにて強盗事件が発生。レジから多額の現金が盗まれる。犯人はその場から逃走。

 

…………

 

 

 後藤ひとりは、山田リョウからロインで呼び出された。

 送られてきたURLによると、待ち合わせ場所は、下北沢のオシャレな喫茶店だった。

 過去の経験から、ひとりは覚悟する。

 

 ――絶対に奢らされる。

 

 カモにされるのは決して本意ではないが、かといって、同じ結束バンドの仲間であり、かつ先輩であるリョウの誘いを無下にするわけにはいかなかった。

 ひとりは、財布を握りしめて、待ち合わせ場所の喫茶店に向かった。

 

 

…………

 

 

 

 地図アプリに誘われて到着した喫茶店の外装は、写真で見るよりも煌びやかで、敷居が高そうである。

 一杯のコーヒーで千円、いや、二千円は取られそうである。

 リョウのことだから、おそらく軽食も頼むだろう。もしかすると、デザートにケーキが食べたいとか言い出すかもしれない。

 ひとりは、怯えながら、喫茶店のドアを押す。

 

 ドアに付いた鐘がカランコロンという軽やかな音を立てる。

 

 

「ぼっち、ここだよ」

 

 すでに店内にいて、窓沿いのカウンター席に陣取っていたリョウが、ひとりを手招きする。

 テーブルの上にまだ何も料理が載っていないことに、ひとりは、内心安堵する。

 

 ひとりは、リョウに案内された席に座る。リョウの右隣の席である。

 

 席に座るやいなや、ひとりは、リョウを牽制することにする。

 

 

「リョウさん、実は私、今ファスティングダイエット中で、何も飲み食いできないんです……あ、別に、私のことは気にしないでリョウさんは普通に飲み食いしてもらっても良いんですけど、なんというか、ちょっとした気遣いがあると嬉しいかなって……」

 

「ぼっち、これ」

 

「……え?」

 

 リョウがひとりの胸元にスッ差し出したものに、ひとりは目を見張る。

 

 それは一万円札だった。

 

 

「……一万円がどうしたんですか?」

 

「これ、ぼっちにあげる。借りてたお金の返済」

 

 ひとりは何度も繰り返しまばたきをする。現実ではあり得ないことが起きている。

 

 

「ぼっち、受け取ってよ」

 

「あっ、いや、えっ……私、たしかにリョウさんに数千円は貸してたと思いますけど、一万円も貸してないと思います」

 

「そうだけど気にしないで。利子だと思って受け取って」

 

 あり得ない――。

 これはきっと――。

 

 ――ゴンっ!

 

 

「いてててて……」

 

「ぼっち、なんで今いきなり自らテーブルに頭を打ちつけたの?」

 

「夢を見ているに違いないと思いまして。……リョウさん、私にお金を返すだなんて、嘘ですよね?」

 

「嘘じゃないよ。借りた金を返すなんて、当たり前のことでしょ」

 

 ――ゴンっ! ――ゴンっ! ――ゴンっ!

 

 

「早く醒めろ! 早く醒めろ! 早く醒めろ!」

 

「ぼっちやめて! お店にも迷惑だから!」

 

 

 

…………

 

 

 夢じゃなかった――。

 その証拠に、おでこは腫れてジンジン痛むし、先ほど、店員にこっぴどく叱られた。

 

 ひとりは、リョウから受け取った一万円札を照明に当て、しっかり透かしが入っていることを確かめると、首を傾げながらも、それを財布に仕舞った。

 

 

「ぼっち、私のこと疑ってるの?」

 

「……いや、決してそういうわけじゃないんですけど、なんというか……」

 

「友だち同士の関係において嘘なんて存在しないから。ぼっち、私たち友だちだよね?」

 

「もちろん。そうです」

 

「だよね。今日は、日頃の感謝の意を込めて、ぼっちに奢ろうと思ってたんだけど」

 

「え!?」

 

「でも、ぼっち、今ファスティング中なんだよね。残念」

 

「あ、それは嘘です。リョウさんにたかられないように嘘吐きました」

 

「……ぼっち、私たちって友だちだよね?」

 

「も、もちろんです」

 

 ひとりは、喫茶店のメニュー表に手を伸ばす。リョウから奢ってもらえるなど、一生に一度あるかないかである。千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。

 

 

「リョウさん、この店、かなりお高い感じですけど、本当に良いんですよね?」

 

「私に二言はない」

 

 ひとりは、リョウの言葉には半信半疑ながらも、アップル紅茶と、かぼちゃのチーズケーキとを注文した。

 リョウも、マンデリンコーヒーとココナッツカレーを注文。

 

 注文した飲み物とフードが来るのを待ってから、ひとりは口を開く。

 

 

「それにしても、リョウさん、どうして急に羽振りが良くなったんですか? 宝くじでも当たったんですか?」

 

「違う。これにはちゃんとした理由があって」

 

「ちゃんとした理由?」

 

「ぼっち、一昨日、このあたりで銀行強盗があったでしょ」

 

「ブーっ」

 

 ひとりは、口に含んでいたアップル紅茶を盛大に吹いてしまった。

 

 

「汚れた金じゃないですか! そんなお金を使ってご馳走様されても迷惑です!」

 

「ぼっち、話を最後まで聞いて! 私は強盗犯じゃないから。そもそも、犯人は逮捕されてるし」

 

「……たしかにそうでした」

 

 

…………

 

 

【ニュース速報】

 東京都世田谷区××にて発生したコンビニ強盗事件で、同区内の路上にて犯人が逮捕。

 

 

…………

 

 

「……でも、リョウさん、先ほどの口ぶりだと、今リョウさんの財布がホクホクなことと、一昨日の銀行強盗事件とは関わりがあるんですよね?」

 

「うん」

 

 熱いコーヒーにフーフーと息を吹きかけながら、リョウは頷く。

 

 

「もしかして――リョウさん、逃走中の犯人が落とした現金を拾って、自らの財布に入れたんですね!」

 

「……違う。多分、それも何かの犯罪になる」

 

 『遺失物横領』とかいう犯罪があった気がする。

 

 

「じゃあ、リョウさんはどう関与してるんですか?」

 

「犯人がどうやって逮捕されたか思い出して」

 

 たしか――。

 

 

…………

 

【ニュース】

 東京都世田谷区××にて発生したコンビニ強盗事件で、犯人を私人逮捕したのは、ロックバンドのベーシストだった。

 

 

…………

 

 

「もしかして、あの事件の強盗犯を逮捕した『ベーシスト』ってリョウさんだったんですか!? それで被害店舗から謝礼金をたんまりもらったとか……」

 

「違う。私じゃない」

 

 違うんかい!

 狐につままれたような気分である。リョウが一昨日の強盗の話を持ち出したのは、偏にひとりを揶揄うためだけなのではないかと訝しくさえ思う。

 

 

「ぼっち、もっとニュースの細部を思い出してみて」

 

 細部? えーっと、たしか――。

 

 

…………

 

 

【ニュース】

 東京都世田谷区××にて発生したコンビニ強盗事件において、犯人を私人逮捕した△△さんの勇敢な行動が話題になっている。

 ロックバンドでベース担当の△△さんは、路上で不審な人物を発見。近所でコンビニ強盗があったというニュース速報を見ていたことから、その不審人物に話しかけた。

 そうしたところ、不審人物は包丁を取り出し、△△さんに襲い掛かってきた。△△さんは、咄嗟に背負っていたベースで反撃をし、不審人物を撃退。通り掛かりの人とともに取り押さえ、警察に通報した。

 

 

…………

 

 

「――という感じのニュースだったと思うんですけど、どこかにリョウさん出てきましたか?」

 

「その先に出てくる」

 

「その先?」

 

 ひとりがポカンと口を開けていると、リョウは、ひとりにスマホを差し出し、コンビニ強盗事件に関するネットニュースの記事を見せてくれた。

 

 最初からそうしてよ!

 

 

…………

 

 

【ネットニュース】

 東京都世田谷区××にて発生したコンビニ強盗事件において、犯人を私人逮捕した△△さんは、ペースギターを用いて犯人を撃退することに成功した。

 しかし、その代償として、大切にしていたベースギターが壊れてしまった。

 △△さんが愛用していたベースギターは、世界に数本しかないといわれている貴重なものだった。

 このことを知ったネット民は、△△さんの壊れてしまったベースギターを買い戻すためのクラウドファンディングを立ち上げた。

 クラウドファンディングには、わずか半日で五十万円を超えるお金が集まっている。

 

 

…………

 

 

「ようやく分かりました! リョウさんは、このクラウドファンディングを立ち上げた〈ネット民〉で、お金を集めるだけ集めたにもかかわらず、それを△△さんのベースを買い戻してあげるためには使わずに、私的に横領したということですね!」

 

「違う。ぼっち、それ完全に犯罪だから」

 

 それはそのとおりである。

 

 

「……じゃあ、やっぱり、どこにもリョウさんは出てこないじゃないですか」

 

「私がベースを売った」

 

「……え?」

 

 リョウは自慢げに説明する。

 

 

「△△さんが持っていた〈世界に数本しかない〉ベースを私がたまたま持ってた。クラファンを立ち上げた〈ネット民〉の人に連絡してそのことを伝えたら、入手した時の価格の十倍以上の値段で買ってくれた」

 

 完全な棚ぼたである――。

 クラファンでお金を集めた人は、市場価格にかかわらず、集まり過ぎてしまった分も含め、集まったお金をそっくりそのままリョウに支払ったはずだ。クラファンで集めたお金は、掲示した目的以外の用途では使えないのだから。

 

 なぜリョウはこんなにもドヤ顔なのか。ただ単に運が良かっただけなのに――。

 

 

「ぼっち、今日は好きなだけ食べて良いよ」

 

「なんか食欲無くなったんで、もう大丈夫です」

 

「本当に良いの? 私がお金を持ってるのも今のうちだよ。すぐに楽器にお金を溶かしちゃうよ」

 

「……別に良いです」

 

 実際にリョウの言うとおりになるのだろう。

 

 昔から言うように、〈悪銭身につかず〉なのだから。

 

 

(了)

 

 




 やっぱり自分は二次創作が分かっていないなと痛感したので、一旦一次創作に戻ります。お読みくださった方々ありがとうございました!
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