ぼっち・ざ・ろっくどるーむ・まーだーけーす   作:菱川あいず

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ぼっち探しinディズニーシー【中】

 伊地知虹夏と喜多郁代の二人は、比較的空いていた『カフェ・ポルトフィーノ』で作戦会議をすることにした。

 虹夏は『アイスカフェラテ』、喜多は『アイスティー』をそれぞれ注文し、景色の良い窓際の席に陣取る。

 

 そして、例のメモ用紙を広げる。

 

 

…………

 

 

3・2・オーオーオー

禁忌をおかしたアダムとイブは

高い空から堕ちていく

散らばった愛は光り輝く

大人になんかなりたくないよ

 

…………

 

 

 

 

「……なんだか厨二病っぽい歌詞だね」

 

「改めて読んでみると、そうですね。私、この歌、歌いたくないかもしれません……」

 

「この歌詞を歌ってる喜多ちゃんは想像できないなあ……それはさておき、解読しなきゃね!……でも、一行目から意味不明なんだけど」

 

「『3・2・オーオーオー』……掛け声ですかね?」

 

「多分そうなんだけど、どうして『3・2』で終わってるんだろう? 『1』はどこ行ったの?」

 

「たしかに、先輩の言うとおりですね」

 

 

 『3・2・1・オーオーオー』であれば、ダサいかダサくないかはさておき、ありそうな歌詞である。

 しかし、後藤ひとりが作った歌詞には、『1』が抜けている。このことに何か意味があるのだろうか――。

 

 

「1がない……ワンがない……ワンナイ……ワンナイト……虹夏先輩、もしかして、後藤さんは、ディズニーシーで出会った男性と〈ワンナイトラブ〉を経験したかったんじゃないですか!?」

 

「ないないないない。ぼっちちゃんはそういうウェイ系じゃないし、仮にそうだとしたら、リア充の囁き声でパリンって割れないし」

 

「それもそうですね」

 

 

 二人はしばらく考えてみたが、『3・2・オーオーオー』の意味は皆目分からなかった。

 二人は仕方なく、次の暗号である『禁忌を犯したアダムとイブは』の読解に試みる。ついでに、虹夏は『マンゴー&シュリンプ』、喜多は『生ハム&モッツァレラ』をそれぞれ注文し、配膳台まで取りに行く。

 

 

「分かった!」

 

「伊地知先輩、暗号の謎が解けたんですか!?」

 

「ううん。違う。私が分かったのは、この『禁忌を犯したアダムとイブは』というフレーズが厨二病感を醸し出してるんだってこと」

 

「たしかにそうですね。じゃあ、この部分をもっと明るく楽しい感じに変えましょう。『おねしょをしちゃったネコさんとタヌキさんは』とか」

 

「喜多ちゃん、〈うたのおねえさん〉になりたいの!?」

 

「ギターを鍵盤ハーモニカ、ベースを木琴、ドラムを太鼓にしたらもっと盛り上がりそうですね!」

 

「それ、全然ロックバンドじゃないから!」

 

 

 このあと、二人はもう少し真面目に考えてみたのだが、『禁忌を犯したアダムとイブ』というフレーズから連想される場所は何も思い当たらなかった。

 

 頭を働かせるには甘いものが必要です、という喜多の発案の下、二人は、ともにクリスマス限定メニューの『ストロベリーミルクムースケーキ』を摂取することにする。

 

 

 次に検討に取り掛かったフレーズは、『高い空から堕ちていく』である。

 

 

 甘いもの効果なのかは分からないが、虹夏は突然閃いた。

 

 

「喜多ちゃん、分かったよ!」

 

「何がですか?」

 

「『タワー・オブ・テラー』だ! 『高いところから堕ちていく』というフレーズは、文字どおり、高いところから落下するアトラクションである『タワー・オブ・テラー』を意味するんだ!」

 

「おおっ! さすが伊地知先輩、天才ですね!」

 

「そうと分かったら、喜多ちゃん、『タワー・オブ・テラー』に急ぐよ! 一刻も早くぼっちちゃんの身体を元に戻してあげないと、ぼっちちゃんがディズニーで遊ぶ時間が無くなっちゃう!」

 

「そうですね!……でも、先輩、待ってください」

 

「……え? 何?」

 

「『ストロベリーミルクムースケーキ』がまだ残ってます。これを食べてから行きましょう」

 

「そうだね。食べ物を粗末にするわけにはいかないもんね」

 

 

 

…………

 

 

 二人は『ストロベリーミルクムースケーキ』に舌鼓を打ったのち、走って、『タワー・オブ・テラー』のある『アメリカンウォーターフロントエリア』に向かった。

 

 

 上層が左右に出っ張った奇妙な建物の前には、長蛇の列ができていた。

 

 

「うわあ、すごい人だねえ」

 

「伊地知先輩、百六十分待ちですって」

 

「えぇ!?……ぼっちちゃん探すためには並ばなきゃいけないのかなあ?」

 

「そうかもしれません……いや、待ってください! 伊地知先輩、そこの柵に何か〈負のオーラ〉を持ったものが刺さってます!」

 

 喜多が指差した一帯だけ、どんよりとした空気が漂っており、人が全く寄り付いていなかった。そして、喜多の言うとおり、柵に〈何か〉が刺さっていた。

 

 

「これって、後藤さんの〈破片〉ですよね?」

 

「……多分」

 

「先輩、やりましたね! 今回収しますね!……あれ、力が……」

 

「喜多ちゃん、あんまり長く触らないで! 早くバッグに仕舞っちゃって!」

 

「あっ、はい!」

 

 二人は見事、ひとりの最初の〈破片〉を見つけた。

 

 

 

…………

 

 

 二人は、次の作戦会議の場所を『マーメイド・ラグーン』内の『セバスチャンのカリプソキッチン』に決めた。

 デパートのフードコートのような形式のレストラン。二人は、すでに荷物を置いて陣取っていた机に、お盆に載せた食べ物を運ぶ。

 

 

「私、ここの『シーフードチャウダー』大好きなんですよ!」

 

「私も! 冬の季節に心も身体もあったまるよねえ」

 

「さっき後藤さんの〈欠片〉に触って以来、ずっと寒気がしてたんですけど、『シーフードチャウダー』を少し飲んだら収まった気がします」

 

「結構重症だったんだね……お疲れ様。ホッとしたところで、歌詞を解読しようかね」

 

 二人が次に検討したフレーズは『散らばった愛は光り輝く』である。

 

 

「なんだか抽象的なんですよね……」

 

「『散らばった愛』って、もしかして、〈恋人が別れる〉ことを意味するんじゃないかな?」

 

「おお! さすが先輩です! だとすると、〈恋人が乗ると別れる乗り物〉ですね! ディズニーシーってボートってありましたっけ?」

 

「うーん、少なくとも、乗客が自分で漕ぐ方式のボートはないと思う」

 

「でも、スタッフが漕いでくれる『ヴェネツィアン・ゴンドラ』はありますよね! あそこでゴンドラを漕いでくれるスタッフはイケメンで力持ちの方が多いので、彼女さんが見惚れて、別れの原因になるかも……」

 

「それは喜多ちゃんの個人的な見解ね」

 

 あ、と喜多が突然声を上げる。

 

 

「私、分かったかもしれません」

 

「本当!?」

 

「多分。歌詞は、一連のものとして読まなければいけないんです。『禁忌をおかしたアダムとイブは 高い空から堕ちていく 散らばった愛は光り輝く』っていう流れで読むと……」

 

「読むとどうなるの?」

 

「『禁忌を犯したアダムとイブ』というのは、〈イチャイチャしているウザいカップル〉を意味します。それが『高い空から堕ちていく』、つまり、〈『タワー・オブ・テラー』で高所から落下〉します。その結果、〈散らばった〉ということは……」

 

「え? もしかして、『タワー・オブ・テラー』で事故って、恋人が死んじゃうって意味?」

 

「そんな感じです! 要するに、後藤さんは〈リア充爆ぜろ〉の精神でこの歌詞を書いたんです。とすると、『散らばった愛』というのは、〈恋人たちの死体〉を意味するんです。それが『光り輝く』わけですから……」

 

「もしかして……『クリスタルスカル』?」

 

「そうです! 『インディ・ジョーンズ・アドベンチャー:クリスタルスカルの魔宮』です! 『シーフードチャウダー』を飲み切ったら、急いで行きましょう!」

 

 

 

…………

 

 

 

 『宮殿への橋(プエンテ・アル・テンプロ)』 と名付けられた細い橋を渡った先に、『ロストリバーデルタ』最大のアトラクションである『インディ・ジョーンズ・アドベンチャー:クリスタルスカルの魔宮』はあった。

 『タワー・オブ・テラー』同様、ディズニーシー屈指の人気アトラクションであり、案の定、待ち時間は百八十分となっていた。

 

 

「喜多ちゃん、ぼっちちゃんの〈破片〉はどこかな? 木とかにぶら下がってないかな?」

 

「パッと見だと見当たらないですね」

 

「だとすると、アトラクション内かあ。並ぶのしんどいなあ」

 

「伊地知先輩、そんなに並ばないで済むかもしれません」

 

「どうして?」

 

「心当たりがあるんです」

 

 そう言うと、喜多は、『百八十分待ち』の表示を臆することなく、列の最後尾についた。虹夏は、喜多が言う『心当たり』には全くピンと来なかったのだが、喜多の後に続く。

 

 待ち時間中、喜多はずっとスマホの画面に夢中だった。話し相手がいない虹夏も、仕方なくスマホゲームに没頭する。

 

 

 見つけました、と喜多が声を上げたのは、並び始めて一時間が経過しようというタイミングだった。

 喜多は、通路から身を乗り出し、下を見下ろしている。

 

 

「やっぱり思ったとおりの場所にありました」

 

「げげっ、怖っ」

 

 虹夏は後退りをする。

 ひとりの〈破片〉が落ちていたのは、複数の骸骨が転がっている地面の上だったのである。

 

 

「私、子どもの頃、『インディ・ジョーンズ』のアトラクションがすごく怖かったんですよね。コースターに乗ってる最中じゃなく、待ち時間が。特に、ここのセットの骸骨がトラウマで、並んでる時に目を瞑ってたんです」

 

「これがぼっちちゃんが爆発させたリア充たちの亡骸なんだねえ」

 

 散らばった骨々は、ひとりの〈破片〉が放つ青白いオーラに照らされて、おそらく普段の百倍くらい不気味に見えた。

 

 

「伊地知先輩、どうやって回収しましょうか?」

 

「手が届かないもんね。困ったなあ。通路外のセットに侵入したらスタッフに怒られるよね……」

 

「いや、先輩、案外大丈夫かもしれません。なぜかこのあたりだけ人が全然いませんし、誰も後藤さんの〈破片〉の方には見向きもしてません」

 

「たしかにそうだね。ぼっちちゃんの存在感のなさに感謝だね。ぼっちちゃんには申し訳ないけど」

 

 虹夏は、通路の柵を飛び越え、ひとりの〈破片〉の回収に向かった。

 

 

 

(【下】へ続く)

 

 

 

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