人生のあまりの不運さに神を呪ったら天罰食らって触った者みな強制TSできるようになった ~ギャング未遂の大学生はまんざらでもないらしい~ 作:とんべえ
まじか、そんな馬鹿な。
恐れおののいていると、自分の頭を掻いている事に気づいた。
慌てて鏡を見ると何も変わっていない。
いつもの自分の顔が映っている。
だが、目を瞑り意識すると【スキルTS】と確かに見える。
ふと考えれば自分に触るとはあまり言わないな。
と言う訳で、実際にやってみる事にした。
何をって、強制TSに決まっている。
と、意気込んではみたものの。
それなりに人通りのある駅前だというのに、きっかけが必要なのか文字通りスルーして終わった。
目の前を通り過ぎるのは、夫婦や子連れの家族ばかりだ。
夫がTSしてしまったら、破綻まっしぐらだろう。
それは、さすがに引け目を感じてしまう。
代わりに、因縁付けしてきそうな連中を期待してみたが、気配すら無い。
ならば仕切り直しだ。
自宅に戻り新聞紙を広げると、押し入り強盗や恐喝事件が起きたと報じていた。
共通点はいずれも夜。
適当な言い訳をして夜の街を当てもなく歩く。
しばらくすると、全身黒ずくめの男二人と出くわした。
「おい。殴られたくなかったら金を出せ」
ギャングだ。
黒いズボンに黒いジャケット、帽子もマスクも黒色だ。
ニュースで聞いた通りの展開だった。
「そんなお金なんて持ってませんよ」
実際はと言うと数千円のはした金程度なら持っているが、おとなしく渡す理由はない。
その二人は目配せをするとにじり寄ってきた。
「痛い目に遭いたいようだな」
「馬鹿な奴だ」
胸ぐらを掴まれたので、腕を掴み返してみた。
逃げ道を防ぐためだろう、二人同時だった。
ご都合よく手袋と袖の間から肌が露出していた。
だもので。
【スキルTS】発動。
着ぶくれにも見える程に着込んでいた連中が、みるみるうちにだぼったい格好になった。
ずれ落ちたパンツはトランクスか。
さすがにジャケットがずれ落ちる事はないが、指先は袖の奥に引っ込んでいた。
二回り小さくなった頭に、その帽子は大き過ぎた。
傾いていた帽子は今にも落ちんばかりだ。
マスクで覆われていた顔もあらわ……
十六から十九歳だろうか、細身のロングヘアの少女に変わっていた。
夢は幻ではなかったと言うことだ。
「なんだこれ、なんだコレはよぅ!?」
二人目はショートカットだった。
半裸で体中をまさぐっていた。
一人目よりは肉付きがよかったせいか、女の体になっていると当の本人が気が付いた。
「テメェ! 一体何をしやがった!?」
再度胸ぐらを掴もうとしたが、すぐ気づいたようだ。
その小柄で華奢な体じゃ、恐喝なんて無理だわな。
軽く押し返したら、あっけなく尻もちをついた。
「やっぱりお前がやったんだな! すぐに戻せよ!」
「まだ何もしてねぇじゃねぇか! そんなに強く押さなくても!」
茫然自失とはこの事だろう。
ギャング二人は自分らが何をしていたのかすら忘れてしまったに違いない。
遠くでパトカーの音がする。
騒ぎを聞きつけた近所の住人が通報したのかもしれない。
「いったんづらかろう」
「チキショウ……」
ずり落ちそうになる衣類を抑えながら、そのギャング二人は逃げていった。
カナリアの様な声と口調のギャップに、軽いめまいを覚える。
あの二人のこれからどうなるのか、一瞬チラと思ったが、知った事ではないと俺もまた立ち去った。
一晩が経ち、テレビをつける。
昨夜の事はまるで夢であったかの様に、いつも通りだった。
新聞も同様だ。
ギャングの二人はおろか警察が来るやもとも思ったが、気配はない。
SNSと掲示板も同様だ。
フーム。
数時間で元に戻ったのかもしれない。
あるいは案外早々に受け入れ少女として生活を始めたのかも ――これ以上気にす事もないだろう。
昨日がそうであったように今日もまた、目を瞑り念じてみた。
【スキルTS】
【ポイント2】
なんだこの“ポイント2”というのは。
『ピンポーン♪』
宅配が来たらしい。
「――さんですか? ここに受領署名をお願いします」
ここで思いだにしない事が起こった。
「はいはいTS」
「はい?」
宅配屋の反応通り、俺はこんな語尾で話さない。
カチャリと頭の中で音がする。
「【ポイント1】になっているTS」
またガチャリと頭の中で音がした。
【ポイントクリア】
宅配屋は苦笑いだ。
「自分もそういうマンガ読んだことありますけどねぇ、程ほどがいいっスよ。ありがとうございました~」
つまりはそういうことか。
一人強制TSする度に語尾が一回分TSになると。
あははははははは。
クソにはクソ仕様か。
バカヤロウ。
◆
某大手掲示板のTSスレッド。
『夢見んなよ、涙拭けよ。魔法でトランスとかwww』
『突然殴りかかられたら女になったとか、その設定斬新すぎるわwww』
『その人紹介してくれwww』
『つか実は逆で、お前ら闇バイターだろ。行き詰ってザマァ』
日本のどこかにあるワンルームに二人の少女が居た。
一人はロングヘアの綺麗で華奢な方だ。
「だめだ。全然話にならネェ」
もう一人は、ショートカットで艶めかしいくびれを持っていた。
いつまでもSNSを使う友人に深いため息をついた。
「トシ、もう止めなよ。SNSでの情報集めなんて」
「そう言う訳にはいかネェ。一人暮らしで実家の方はしばらく誤魔化せるけれど、大学はそうはいかネェだろ!」
くしで髪をすく相方に、トシと呼ばれた少女は、あきれ顔だ。
「おまえ、ひょっとして良かったとか思ってねーだろうな」
「兄妹のふりして闇バイトから抜け出せたからね。トシだってそうじゃないか」
「そりゃ―そうだけどヨォ」
「そもそも見つけ出してどうするのさ」
「もう一回同じことをすれば元に戻るって、ゼッテェそうだ」
「なるほどね。考えられるかな♪」
ショートカットの少女は、ハミングを奏でながら髪をすき続けていた。
盛大な溜息を吐くのはトシである。
「ユウ。前からおかしいって思ってたけど、そういう毛があったろ」
「実はそう♪ だから僕はこのままでいいよ」
「俺一人だけでやる、あぁめんどくせえなァ……」
「さっきのスレッドは? トシだけにはさせられないからね。手伝うは手伝うよ」
「あ、もう落ちてる」
短編を書くのは久々でした。