人生のあまりの不運さに神を呪ったら天罰食らって触った者みな強制TSできるようになった ~ギャング未遂の大学生はまんざらでもないらしい~ 作:とんべえ
時間が経つにつれ、不安が膨れ上がる。
【スキルTS】
時々このヴィジョンに不意を突かれると、多少とはいえ神経質になってしまう。
加害者被害者という言葉は使いたくないが、TSしたのは今のところ昨夜のギャングの二人のみだ。
少数のうちは、何処の目にも止まらないだろうが、多数になると怪しまれるに違いない。
他の奴も似たようなスキルを持っているのか。
それとも俺だけなのか、心配は尽きない。
エゴサーチと言う訳でもないが、TS事件というキーワードでSNS圏内を調べると、それと思しき情報があった。
やはりと言うか当然と言うか、あのギャング二人は俺を探しているようだ。
もう一度同じ状況を再現すればと、掲示板に在った。
今後は控える事にしよう。
手で触れればとは言うが、握手などまずしない。
記憶を遡れば小学生頃まで遡る行為だ。
なおかつ手以外の部分に触れるなど、それこそ無い。
普通に生活していれば大事には至らない筈だ。
普通に起床し、普通に仕事に出かけ ――普通に帰宅できる筈だった。
家が燃えていたのである。
正確には帰宅路の途中にある見ず知らずの集合住宅〈アパートメント〉だ。
遠くで消防車両のサイレンが聞こえるが、消火活動が行われるのにまだ時間が掛かるように思われた。
相応の距離があるのにもかかわらず、その場に居続ける事が躊躇われる程の熱気だ。
気の毒だが俺には関係がない、そう立ち去ろうとしたときである。
「中に人がいるぞ!」
「消防車はまだかよ!」
「誰か助けてあげて!」
火災による最後の火の壁を越えてきた人は、助けを求めたが力尽きその場でうずくまる。
その人の衣類に火が飛び移っていた。
俺は脱いだブルゾンジャケットで、その火を消そうと、何度も叩いた。
【スキルTS】発動
衣類に燃え移っていた炎が消えた頃、助けた人に気が付いた。
十四ないし十五歳の少女だった。
おかしい、俺は中年男性を助けた筈だ。
炎から距離を取ろうと、引き釣り出すように両脇を掴んでいた自分の手に気が付いた。
火を消そうと思うあまり、手でじかに触ってしまっていた。
元々はどうだか知らないが、その体は軽かった。
ならば、抱きかかえた方が合理的だろう。
熱気も適当なところまで離れた頃である。
誰かが言った。
「どさくさに紛れての痴漢行為はやめな」
焦げた衣類からは肌が見えていたのだ。
火傷がない事に気づいたが、不愉快さが勝り俺はこう言った。
「不愉快な野郎だ。そう思うならこの後はお前さんが受け持て」
消防車両が到着し、救急隊員もやってきた。
騒然とする火災現場。
警官の質疑にしどろもどろの見ず知らず。
俺は、これ幸いとその場から立ち去った。
『この火災で一人の少女が助け出されましたが、出火元と思われる住人と連絡が付いていないとの事です』
自室のテレビでは先の火災を報道していた。
【スキルTS】
【ポイント1】
意識に浮かぶメッセージも同じだ。
あの中年男性にTSを掛けてしまったのである。
言っているうちからこれだ。
ぐびと冷蔵庫から取り出したペットボトルの炭酸水を飲んだ。
分かっている。
問題はそこじゃない。
あの男性は重度の火傷を負っていた。
TS後は綺麗さっぱり治っていたのだ。
ただ、衣類が焦げていただけ。
このスキルには治癒〈ヒール〉効果が在ったのだ。
つい独り言ちる。
「スキルTSが治癒の一つとは、分かるような分からないようなTS」
【ポイントクリア】
部屋でゴロリと身を投げ出す。
「俺は――」
“選ばれた存在なんだ”と思わず思ってしまった。
馬鹿を言え。
増長するな。
いい気になるな。
「そんなに有名人になりたいのか、俺は」
不可抗力とはいえTSされた三人の事情も知らず。
なにより、露見すれば都合よく扱われるに決まっている。
スキルを持つ前がそうだったように。
◆
その中年男性だったその人物は、必死に訴えた。
自分は男なのだと。
気が付いたら女になっているのだと。
だが医療関係者や警察官は信じなかった。
それどころか、家出少女をかくまっていた罪状をも、その人物に容疑をかけた。
その人物にできる事は項垂れるだけだ。
「これから俺はどうなっちまうんだ」
その人物は、いやもう少女と言った方が適切だろう。
病棟内の洗面所、その鏡を見いった。
映るのは今はショートボブの十五歳の少女だ。
(こうなったのは原因があるはずだ。だけどさっぱりわからない)
ふと触った髪がさらりと流れた。
少女は鏡を見ながらピョンピョンと軽く飛んでみた。
ボクサーの真似をしてみた。
ラジオ体操は途中でやめた。
「歯がそろってる、肝臓も痛くない、腰痛も治ってる……体は軽い」
もはや元の人物は見つかるまい。
この少女の身元を保証する人物がいない以上、関連施設に送られるのは目に見えている。
(考えてみろ、人生のやり直しができるんじゃねぇのか。どうみても未成年の外見なのが辛いが)
もともと持っていた贅肉の代わりに、年齢不相応の胸が揺れる。
その人物は、苦笑いをするよりない。
(もう風俗もAVも不要だな)