人生のあまりの不運さに神を呪ったら天罰食らって触った者みな強制TSできるようになった ~ギャング未遂の大学生はまんざらでもないらしい~ 作:とんべえ
「そこを動いちゃだめよ! じっとしてなさい!」
子供がベランダから落ちる、ニュースで時々耳にする話だ。
先日の火災があったいつもの道を使うのをやめて、別のルートを使おうとしたらこの事件に遭遇した。
自宅からほどなく離れた住宅街、ありふれたマンションではなく、最上階のみ大きなベランダを持つ、金持ち向けのマンションだった。
遠目ではよく分からないが、八もしくは九、一桁台の歳の頃だろうと思われた。
子供が、最上階である六階で、柵を超えてしまったのである。
ベランダの内側に、はしご椅子が見えた。
つまりは自力で戻ることは難しい。
このままならば、歩道を歩いている俺の頭上に落下する。
多くはないが少なくもないギャラリー。
自然と俺も足を止めた。
否、止めざるを得なかった。
祟っているのか、あぁ祟っているのだろう、そう心底思った。
「最上階の人の子でしょ? さっき親御さんが自動車で出かけるところを見たわ」
「鍵が開けられないなら、内側から助けるのは無理だ」
「早くしないと、あの子がそのうち落ちちまうぞ」
「消防車はまだなの?!」
その子は既にうずくまり必死に柵を掴んでいるが、子供ゆえに体力が持つまい。
そう思った矢先のことだった。
誰かが“あ”と言った。
その子は強風にあおられ、宙に身を投げた。
街路樹にあたり、当たり続け、回転しながらアスファルトの歩道に落ちた。
ままよ、そう言ったのは身勝手な自分だろう。
誰よりも早く駆け付け、その手を取った。
一秒だったかもしれない。
一分だったかもしれない。
その子はゲホゲホとせき込む事ができた。
【スキルTS】発動
誰かの奇異の視線を感じるまえに脈を図る。
「脈はあります」
取り繕うように俺はそう言った。
「この高さで助かったのか。奇跡だな」
「街路樹がクッションになったんだわ」
「頭から落ちた様に見えたのは私だけ?」
もちろんそうだ。ただの怪我で済む高さではない。
即死の直前、死に至る前にスキルが発動したからこその話だ。
「ただの通りすがりです。貴方は?」
「近所に住んでいるものだけれど」
ならば早く保護者の方を呼んでください、そこまで親しくない、いったい何様、貴方こそお偉い様なら何とかしてくれ、馬鹿にしているのか、どっちがだ。
数度の押し問答をしていると、救急車の音がし始めた。
パトカーも到着した。
結局その子は救急車で運ばれ、俺を含めたギャラリーは事情聴取を受けた。
俺は、他者から見えたであろう、ありのまま、慌てて駆け寄り脈を図った、とだけ答えた。
落ちた子供が奇跡的に無傷だったので、素人がしてはいけないと叱られた程度で済んだ。
その時までは。
数日後、予定にない人物の来訪があった。
インターホンが鳴る。
「チィースTS ――やっぱりだめか」
「なんです?」
「なんでもありません。ご用件は?」
その人物は私立探偵と名乗った。
等々この時が来たと俺は天を仰いだ。
国家機関か、協会か、それとも病院か。
「奥様がお嬢様の件でお会いしたい、との事です」
「お嬢様?」
「先日、貴方が助けたご令嬢ですよ」
元々は男児だった、か。糾弾で済めば良いと覚悟を決めると事態は明後日の方に動き出した。
「まぁ♪! 良くおいでなさいましたわ!」
「はぁ、」
場所は落下事故のあったマンションの最上階である。
出迎えてくれた、この奥様は、実子である男児に女装をさせる趣味があったらしい。
「女装男子も悪くはないのですが、男性は年とともに汚くなりますから」
その子は、常々それに疑問を抱いていたが、実際に女になってしまったならまぁいいかと、家族団らん円満終了となった。
「恨みはないけど、忘れることは生涯ないと思うよ。おじさん」
今では十二歳の少女が随分怖いことを言う。
「本題はここからです。実は私どもも異能〈スキル〉を持っておりまして」
「私ども?」
なるほど。それならばこの対応に納得がいく。
お嬢さんは遠目〈テレスコープ〉、奥さんは多眼〈カレイドスコープ〉というスキルを持っている。遠目は裸眼のみで遠くが見える。多眼というのは同時に多方向が見える、とのこと。
大方、この子が落下したのは、遠目を使って見ていた物を掴めると錯覚してしまい、柵を乗り出したからだろう。
「なるほど。それで私のスキルに興味を持ったと」
「ご勘違いなきよう、それは私どもの仕事ではありません。あなた様は他者の異能持ちを知らない様子、だからですわ」
「と、いいますと?」
「駅前の商店街に夜中にだけ開く占い屋があります、とだけお伝えします」
行く行かないは自分で決めろという事らしい。
◆
《ご息女ではなくてご子息ではなかった?》
近所の追及が激しいので、母
やり手の弁護士に大枚をはたいて、諸々の問題を解決した。
聞かれる度に、女親は自身の子供時代の写真をみせた。
今や十二歳の少女と瓜二つだったのである。
加えて二人を並び立たせば、違和感のない程の風貌であった。
仮に親族がやってきても、疑問は持とうが疑いは持てない程だ。
決まりては遺伝子照合で ――合致―― その事実に異議を唱えられる者はいなかった。
そして今日もまた、娘に可憐な衣装を身につけさせ、その女親はカメラのシャッターを切る。
ファインダー越しに見える絵は、彼女をいたく満足させた。
「ねぇママ」
「もうお母様と呼ぶのよ」
「お母様。もう一度あのおじさんにスキルを使ってもらえば戻るんじゃ?」
「駄目よ。あのおじさんより年上になっちゃうかもしれないでしょ」
「あ、そうか」