人生のあまりの不運さに神を呪ったら天罰食らって触った者みな強制TSできるようになった ~ギャング未遂の大学生はまんざらでもないらしい~ 作:とんべえ
指定された占い屋は、駅を挟んだ反対側にある。
日中にぎわう商店街の中だが、真夜中ともなれば、不気味さを感じるほど静かな場所だ。
かろうじて営業している小さな飲み屋、酔いどれと暖簾〈のれん〉越しに目が合った。
雰囲気どうり、ガラの良くない輩もちらほらする。
視線を合わせないようにしてやり過ごそう。
酒に酔っているなら、なおさらだ。
「オィ。そこの兄さんよォ」
やり過ごせなかった。
数名の酔っている連中に絡まれた。
「俺は一体あといくつTSと語尾につければいいのだろう」
半ば自棄気味に悪態をついた。
手袋でもつければ問題ないのだが、何かと目立つうえに、こういう状況に対処できないのだ。
TS覚悟で、覚悟しなくてはならないのは酔っ払いどもだが、渋々両手のひらを連中に向けた。
非力な女にすればどうとでもなる ――やばい。追い詰められている、俺。
そうしたら凄みのある声がした。
「私の客人だ」
その凄みは俺ではなく酔っ払いどもに向けられていた。
背が高く、また背筋がピンと張っていた。
素人でも分かる程の達人だと知れた。
おそらく格闘術だろう。
だもので、やりすごせた。
酔っ払い達は舌打ちしながら消え去った。
「貴方が占い屋ですか?」
「しいて言うなら用心棒だ。付いて来ると良い」
先生みたいだな、この人。
少し進み、そうしたら左に曲がり、今度は暫く歩くと右に曲がった。
そうしたら、住居だか店舗だか分からない建物に行き着いた。
看板には“手相占い”とあった。
なんだろうか、この違和感。
そう立ち尽くしていると、「占い師の結界だ」とここまで連れて来てもらった用心棒の人から、答えをもらった。なので「心が読めるのか?」と聞いたら、「顔に出ていた」と彼は真顔で答えた。
馬鹿にされたのか、それとも自分の胆力が欠けているのか、どちらにせよ赤っ恥だ。
敷居をまたぎ、門をくぐる。
扉を開けた。
その人は客間で待っていた。
「意外と遅かったね」
俺を待っていたのは和服姿の老婆だった。
「なぜそう言うんです」
「随分派手にやらかしていると聞いていてね」
「一応言っておきますが、不可抗力です」
「異能〈スキル〉持ちは大抵そう言うよ、まぁ確信犯もおるがね」
「誰がです」
「ワシらさ。ヒヒヒ」
占い師と言うのは表の姿で、その実、この老婆もスキル持ちだ。
安全地域〈グリーンゾーン〉と言い、その効果は避難所の生成、スキルを持たないものはたどり着けないのだった。
「避難所、ですか」
「そう。色々な異能〈スキル〉持ちが逃げ落ちる場所でもある。今は七人ほどさ」
「なるほど。保護活動をしていると」
「組織の体は成していないけどね、まぁ時間の問題だろうと見とる」
この老婆によるとスキルにも程度があり、安全地域〈グリーンゾーン〉を持つのは、確認できているだけでも全県で四人はいるらしい。
それでスキル持ちらが出入りするので情報交換の場所となっている。
「数か月前からポツポツ出始め、最近はよく聞くねぇ。噂だけなら毎日さね」
長い歴史があるわけではないらしい。
「政府はまだ動いていないそうだが、末端はちょっと怪しいね。嗅ぎまわっている奴が居るのは確かさ」
「それで、遅いですか」
「あぁ、お前さんの事なら大体は把握している」
「それなら話が早い。他のスキル持ちの中に、スキルを弱めたり外したりできる人はいますか?」
「居ないねぇ」
「強奪スキルとかならありそうなものですが」
「確かにおるよ。だが所有物に限られる。そもそも――」
その老婆が言うには、このTSというスキルはユニークスキルと言って、他のスキルと異なり、地球上で一つのみ〈オンリーワン〉らしい。
それ故に強力。老婆いわく、「TS被害者を一人増やすだけ」とのこと。
「そんな殺生な」
「まぁ、しきたりと言い始めたのは最近じゃが、しきたりはしきたり。休んでいくとええ」
「良いんですか? ここまで聞いておいてなんですが、仲間になるとは一言も言っていません」
「ひとたび露見すれば虐げられる者同士、ならざるを得んからね」
喰えないばあさんだ。
俺はその夜、他のスキル持ちと面を突き合わせた後、久しぶりに熟睡をした。
◆
TSスキル持ちの男が帰宅の路に付いたその後である。
占い師の老婆は言った。
「【TransSexual】というフレーズではなくとも、TSと言うワードのみで発動するのかい。容姿変化〈トランスフォーム〉が一瞬の訳だ」
自らを用心棒と名乗った男は言った。
「韻が短いほど強力だからな。おそらく第一世代だろう。あの者を今後どのように扱うつもりだ。手袋で済むと言えば済むが、夏は人目を引く」
「幸いなことにポジティブスキルだからね、ナーバスにならなくても良しさね」
「確かにそういった者たちの治療には意味がある、な」
男はすっくと立ちあがった。老婆は言った。
「何をするつもりだね」
「早速有効活用させてもらおうとな。例え娘になろうとも、不治の病に縛られ続けられるよりはずっと良い」
「お前さんの子供か。年上にならんことを祈っておこうか」
「治癒〈ヒール〉効果の意味を考えれば、そう極端なことにはならないだろう」