人生のあまりの不運さに神を呪ったら天罰食らって触った者みな強制TSできるようになった ~ギャング未遂の大学生はまんざらでもないらしい~ 作:とんべえ
占い屋の会員になったので会費を納めなくてはならない。
なので仕事は続行だ。
ただ、予想だにしていないスキルの行使はさけたいという、意見の一致はある。
それならばと、アシストつまり支援がえられる事になった。
今日はバス、明日はタクシーで出社といった具合に、アクシデント遭遇を予期してもらえるのだ。
このままゆっくりとした日々が続けば良いと思っていた、そんな折である。
用心棒の人から依頼を受けた。
寝たきりの息子さんがいるので、叶うなら治したい、なのだそうだ。
不治の病、ね。
「できるとは思うのですが、ただ」
「分かっている。性転換が伴うのは覚悟の上だ」
「違うんです。治癒が伴うんです」
「分かっている」
今回のミッションで最大の難関なのが、その息子さんが病院に居るというところだ。
TSが後でも先でも構わないが、他者つまり病院関係者に知られることなく事を運ばねばならない。
そこで新たなスキル持ちの登場だ。
「と言う訳でよろしくお願いしまッス」
スキルを【指示〈クィーン〉】と言って、チェスのように人を動かせるらしい。
二十歳前後で耳ピアスをしているがどことなくスポーツマンの印象がある奴だ。
男なのは言うまでもない。
「お前が最強じゃないのか。そのスキル効果だと」
そう俺が言ったらそういつは屈託なしに笑って言った。
「そうでもないッス。暗示をかけるようなものッスから、酷くポリシーに背く指示は途中でスキル効果が切れたりして、クリティカルになったりするッス。昔こっぴどい目に遭って、オババさんに助けられたから、頭が上がらないッス」
大きな病院だった。
エントランスから堂々と面会の申請をする。
案の定、受付が難色を示したのだが。
「問題無いッス」
「え、いや、しかしですね。親族以外の方は――」
「問題は、無い、ッス」
「……はい。ありません」
なるほど。今の受付はチェスのポーンとなっているのだった。
同じくチェスのクィーンであるこのスキル使いに従わざるを得ない。
程なくして大きなエレベーターを見つけ、指定のフロアで降りて病室前で止まる。
名札も確認できた。
幸いにも個室だった。
「ここッスカ」
「ここ。用心棒の人によると話は通してあるらしい」
「ナンで来ないんですか。父親なのに」
「昔喧嘩して、まぁ互いに鬱憤が溜まっていたのだろうけれど、仲はあまり良くないらしい。帰りに落ちあうことになってる」
「なんで俺を産んだんだとか、なんで俺だけとか、ベタベタッすね」
「仲が良かろうか良くなかろうが親子は親子、って事だな」
ノックしたら、「どうぞ」聞こえたので部屋に入った。
そうしたらベッドに全てを預けている少年が待っていた。
日光もあまり浴びないのか、色白で瘦せていた。
「手相占いの者ッス」
「お父さんから聞いていると思うけれど、触るだけで済むから」
「性転換……副作用の話は聞きました」
病人が沈痛を浮かべて項垂れると、見て居る方もテンションが下がる。
「最後に聞くよ。本当にいいんだね?」
「はい」
俺は彼の手首に触れた。
【スキルTS】発動
年齢は殆ど変わっていないように思われたが、容貌ががらりと変わったのだった。
黒髪はプラチナブロンドに、肌は褐色に、瞳は琥珀色。
簡単に言うと外国人風になっていた。
彼、今では彼女となったその人物に、俺は手鏡を手渡した。
彼女はすんなりと動いた自身の左手に驚き、手鏡を見るという力の要る行為に驚き、自分の顔を見て更に驚いた。
「本当だ」
そういうや否や、ベッドからいとも簡単に降り立った。
「立ってる、歩いてる、この僕が」
彼女は嗚咽を漏らし始めた。
ただそれは、悲哀ではなく歓喜の涙だった。
どれだけ耐えてきたのか、思わず俺らも感極まった。
「続きは後にしましょ。誰かが来たら事でッス」
「そうだった。さ、早く着替えて。パジャマのままでは何かと目立つ」
「……」
「どうかした?」
「……向こうを向いていてください」
寝間着姿だった。
スラっとしていたが、出ているところは出ていて、引っ込むところはちゃんと引っ込むスタイルだった。
バツが悪いと背を向ける野郎二人。
背を向けたままクィーンスキル持ちが「とてもかわいいッス!」とテンション馬鹿高で言うので、彼女は「……どうも」とかろうじて答えた。
なので俺が「先走りすぎだろ」とくぎを刺したら、「おっさんには遅れとりませン!!」と失敬な事を言う。
誰がおっさんだ、誰が。
この後は少し大変だった。
【スキルクィーン】は、弱い順にポーン・ルーク・ナイト・ビショップの格を、任意の相手に、宛がい従えることができる。
退院を強行するのに、【スキルクィーン】はビショップまで使うことになった。
手の打ちようが無いの患者は厄介払いをしたいと言う証か、病院上層部の許可は簡単だったが、現場は職務に忠実な人が多かったようで、手間取った。
「すべての駒を使ったのは久しぶりッスね。冷や汗掻きました」
とは【クィーンスキル】使いの弁だ。
そのままタクシーを捕まえて、父親である用心棒と落ち合う予定の大型公園に、三人そろって向かう。
運転手にはもちろんスキルを使った。
意外なことにルークだった。
自分にだけ舞い込んだ幸運に、良心が痛むのであろう、彼女は最後まで病院を見ていた。
◆
場所は変わり雑居ビルのとある一室だ。
用心棒と呼ばれる男は、一時しのぎの場所を作るために、荷物を片付けていた。
その
「手伝うよ」
「体の弱いお前には……もう、無用の悩みになったんだな。そこの書類をすべて段ボールに入れてくれ」
「うん」
「ねぇ、お父さん。あっさりと受け入れているのが気になる」
「写真は残っていないが、お前の曾祖母に瓜二つだからな。妻の面影もある。それが理由だ」
「曾祖母、ひいおばちゃんって事か」
「そうだ」
「お前こそどうなんだ。やっていけそうか」
「だいぶ驚いてる。実は。でもちょっとづつ慣らしていくよ」
「そうか」
同時刻、その国のどこかで語尾にTSを付けたものがいるのだが、それはまた別の話。