人生のあまりの不運さに神を呪ったら天罰食らって触った者みな強制TSできるようになった ~ギャング未遂の大学生はまんざらでもないらしい~ 作:とんべえ
『暫くの間外出に注意されたし』
届けられた会員広報にそう載っていた。
なんでも、嗅ぎまわっている奴がスキルを持っている可能性があるらしい。
俺の所属する【手相占いの会】その所在を狙っているのだろうか。
と言うよりも同じスキル持ちなら……そこまで考えて、必ずしも友好的である必要はないな。
そう考えた。
仕事帰りの道すがら、スーパーマーケットに立ち寄り、本日の晩御飯を調達だ。
適当に見繕っていると道連れの若い背広姿の人物に、声をかけられた。
「健康食品だけ食べてると不健康になるよ。あくまで補助食品なんだからさ」
この人物は【スキル紙使い〈ペーパー〉】と言って、手を使わずに折り紙をしたり、また切りつけたりをする。
幼いころ紙で手を切ったことを思い出し思わず身震いをした。
紙飛行機を木材程度ならば楽に突き立てる事もできるから、敵にはしたくないと言うのが本音である。
はっきり言っておこう。こいつは何だと聞かれれば男装の麗人だと俺は答える。
男にも女にも見えるが男装すりゃ男と思うのが素直な見方である。
ただこの間までは普通のイケメン、つまり男だった。
興味本位で俺に手を出したばっかりに、TSしてしまったのである。
本人曰く、《二回触れば元の性別に戻れると思った》だそうだ。
俺の“スキルTS”は、実際は一回こっきりだった。
俺も知らなかった。
なのでこうやって付きまとわれているのである。
「恨み節の矛先は君しかいないからね」
あんな綺麗な男の人がいるのか、絶対女だ、いや男だ、というか隣のあの中年は誰だ、二人は愛し合っているのよ、そんなばかな、凌辱よ、きっとおぞましい目に遭わされたのだわ ――等々、言いたい放題言われている。
「そこの貴方」
ほら、また、来た。
「こんな美しい若者の相手が汚いオヤジなんてアリエネェェェェェェェェェェェェ!!」
んだとコラァ。
こんな心労の積み重ねの挙句、痩せぼそりそうな日々がしばらく続いたころだった。
用心棒の人が一人の男を俺らの本拠地でもある【手相占いの館】に連れてきた。
新しい仲間だ、そう喜んだら違っていた。
「実は私こういうものでして」
探偵か文屋か。
名刺サイズの白紙に、墨汁を一滴たらしたら、幾何学的な模様を描いた後に、文字がらわれた。
会長であり【安全地域〈グリーンゾーン〉】スキルを持つ老婆は、差し出された名刺サイズの紙を手に取った。
「文屋かね」
「スキル【墨括り〈ペンシル〉】です。ノートを開かず文字をつづったり、入れ墨にも使ったりします。最近は消す方が多いかな。実は私、別の安全地域〈グリーンゾーン〉から来ました」
「名前は?」
「タロットカード占いやらさせてもろうてます」
「あぁ、あすこから来なすったね。うわさは聞いてるよ。で、用件は?」
「実は、石占いの一派が、政治権力と手を組みまして。あなた方はどうするのかと、聞きに来た次第ですわ」
「そいつは困ったねぇ。うちらは大ぴらにしない決まりで。お前さんらは同調するのかね?」
「うちらは半々ですわ。とばっちりは御免だ派と、機密保持契約を結ぶなら良い派と、決めるまでにはまだ掛かりそうです」
俺は何か事件か事故を起こしたのではないかと、横やりを入れた。
「なかなか鋭い方がいらっしゃる」
図星だったらしい。面を突き合わせた会員らがざわめきだした。
「流れのスキル持ちが、ビルを占拠?」
「一人でっていうなら、何のスキル持ちですか」
「迷宮〈メイズ〉だそうですわ」
「スキル迷宮〈Maze〉ってナニよ」
「建物や地下構造物が空間的に隔離されるって、俺らが言うのは何だけど、随分ファンタジーだな」
「その通りですわ。ビル内部は怪物がうろついてます。ここだけの話機動隊が突入したんですが、サッキュバスとインキュバスが厄介で、にっちもさっちもない状況です。連中は魅了〈チャーム〉を使いますから。そこで、」
「ユニークスキルか」
韻が短い程格が上がり、韻の長いスキルは効きにくくなるのだ。
紙使いにしかり、墨括りにしかり。
「私が所属するタロットカーズにも【スキル紐〈ロープ〉】というユニークスキル持ちがおりますが、数が多いと心強いんですわ。そんでうわさに聞く【スキルTS】さんをですな、」
皆が俺を見る。
「窮するとはこのことだな。あーもう」
◆
自由意志だというので、それならばと断った。
そうしたら、行って来いと満場一致で、強要された。
なら初めから聞かなきゃいいのに。
「そう思わんかね、紙使い〈ペーパー〉君」
ジャーと台所で野菜炒めを調理する音が聞こえる。
「これは僕らにとっての試練なんだよ」
僕らって言い方も気になったが、重要な試練について俺は聞いた。
「スキル持ちは予想以上に増えてるからね。遅かれ早かれ誰かの目につく。だったら僕らはイニシアチブをとるべきだよ」
「意外だ。マスコミに追い掛け回されるって考えないのか」
「まさか」
はいどうぞと夕飯を頂いた。
野菜炒め位自分でもできるが、この違和感はよそ様の味というやつだ。
「じゃぁ何故に」
「スキル持ちも一枚岩じゃない。見知らぬスキル持ちが事を起こしてからでは政治権力にウケが悪い、だったら先手を打って暗黙の了解という既成事実を作る」
「政治権力を共犯にするのか。涼しい顔して大胆だな」
「そう思ってくれるなら僕はうれしいよ。泊って行って良いよね?」
男同士ならいいよね、でもこいつ近寄ってくるぞ、待てそれは罠だ、体は女ならよくね、心は男だったはず、実は両刀使いじゃねぇのか、なら良くね ――心の準備が追い付かない。
「それ以上近寄るの禁止で。ベッドは使っていいから」
「ひっどーい。ここまでしてあげたのに」