人生のあまりの不運さに神を呪ったら天罰食らって触った者みな強制TSできるようになった ~ギャング未遂の大学生はまんざらでもないらしい~ 作:とんべえ
とある大きな病院の診察室である。
俺はその部屋の中で待機していた。
パーティッション越しに聞こえるのは、医師と患者の最終確認である。
なんでもこの国には、脳と体の性が一致しない病気と言うものが存在するらしい。
問診・検査・薬物療法エトセトラ、幾重にもの医療過程を経た患者さんである。
それを聞きつけた俺らスキル持ちで一番偉い奴、つまり長官がTSの指示をしたのだった。
その患者さんは置いてあるベッドに身を預けていた。
担当医師が指折り言う。
「一つ、性別は確実に反転します。二つ、容姿は確証を持てません。ただ、親族に近くなるという傾向はあります。三つ、若返ります。過去の事例では二〇歳を中心にバラつきがあります。四つ、二度目はありません。いいですね?」
「はい。お願いします」
患者は安定剤を服用し目隠しをされる。
俺は立ち上がるとその人の手首をつかんだ。
やることと言えば触れる事のみだが、ここに至るまでは随分もめた。
《こんなことは治療ではありません!》
《治療は治療だろう。医学でないと言われれば確かではあるが》
《治療に確立を持ち込むなんてあってはならない事です!》
《確かに博打は論外だ。だが君、難病を患っている人を無視する事こそ、医療に携わる者にとってあってはいかんことだ》
それは某省庁の長官とスキルに異議を唱える官僚のやり取りだ。
今でも異議を唱えるものはいる。
だが患者の苦しみとの引き換えと言われれば、強硬な態度をとり続けるのは困難だろう。
一つの仕事が終わり、帰路の道すがら河川敷に腰掛け、水の流れをボウとみる。
彼女となってしまった彼は、ありがとうと何度も繰り返していた。
俺から見ればここで終わりだ。
だか彼女はここから始まる。
人生への影響は計り知れない。
ふと自分の手をじっと見た。
思い出されるのは、一つの心残りだ。
「最近のお気に入りポイントはここかな?」
スキル紙使いだ。
オレンジ色の肩掛けかばんを持っていた。
TS前後のビジョンが歪み、視界がブレる。
言い難い事だが今ではだいぶん女っぽくなった。
「どうしてここが?」
「君の考えてることなら大抵わかるさ」
「なら当ててみろよ。さて俺は今何を考えているか?」
「最初にTSした子達のこと、どう?」
俺は降参の意味で両手を挙げた。
考えを見抜かれることはもう珍しくない。
「話によると性転換より大学を勝手にやめていた方を怒られたって」
「あぁ、闇バイトだっけか」
「それそれ。だからそんな目に遭うんだーって」
「んぁ? 一応未遂だったろ」
「一応はね。でも分かった上で応募して実行まではしてるから、警察の事情聴取も受けたって。それで一件落着だよ」
「そうか」
「他には……そうだなぁ。スキルは舞い込んだ幸運に過ぎないとか、感謝されるいわれは無いのにとか」
「勘弁してくれ。その通りだ」
彼女は柔らかい表情で俺の横に腰掛けた。
仕方のない人だ、そう言わんばかり。
「お前はどうやって折り合いをつけた?」
「誰かさんが陰鬱だから、それどころじゃないよ。そんなところ」
言ってくれる。
「それより聞いた? 【ユニークスキル迷宮】の人、脱獄してまたビルをの取ったって」
「なにぃ?!」
俺はガバリと起き上がる。
手渡されたのはゴシップ記事専門の大衆紙だ。
それにはでかでかとコメントまで載っていた。
『吾輩が現れたのは、科学技術文明が後退し始めたからだ! 故に吾輩こそ真の新人類なのである!! 挑むがよい旧人類諸君!! フハハハハ!』
微妙に的を得ているような気もする。
「あのおじさんも懲りないね。毎回魔王の選定で失敗してる」
「自分がその役をやると最終の間から出られないからな。セーフゾーンをウロチョロするしかない訳だ」
彼女はゆっくりと立ち上がり、そっと俺に手を差し出した。
「さ、辛気臭い話はここまでにして今度は僕を気遣ってよ」
「へ?」
「夕飯の買い物だよ。付き合ってくれるよね、もちろん」
こいつは俺にとって許しだったのかもしれない、そんなことを考えた。
そして、スキル持ちの増加が緩やかになった頃のことである。
捕まってもすぐ逃げる【ユニークスキル迷宮】持ちが、世情を騒がすようになった。
『怪盗メイズ氏またもや逃亡』
世界中の富豪が秘密裏に支援しているという話あるが、それはまた別の話。
おわり
ご愛読ありがとうございました。