「私の名前…!?なんで…!」
資料に書いてあった名前、それは朝潮のものだった。といっても艦娘は、絶対に一人では無い。ドッペルゲンガーのように、複数人いるものである。しかしそれをわかっていても朝潮は驚きを隠せなかった。
「駆逐艦朝潮、実験における第一段階完了のため、第二段階まで保存とする。」
提督が資料を読み上げる。すると第二実験室、というところの名前が出てくる。
「第二実験室、すぐそこだ。」
提督が指を指したその先にはプレートに第二実験室と書かれていた。
「近い…もうすぐ…。」
ここに来て、第二実験室に来るたび、朝潮か感じていた知っている感じ、がどんどん強くなっていくのを感じていた。
「何もなさそうだけど…」
第二実験室には、椅子と机が乱雑に並んでいた。その光景を見たジャーヴィスがそう呟くと、朝潮が話す。
「いえ、ここにあります。」
朝潮の自信。それは朝潮がこの地下に来てから感じている、「知っている感じ」が、この部屋で強く反応していたからだ。
「これが制御盤か。」
淡く光る大きな機械。それはこの部屋にある秘密に繋がっている。
提督はまるで知っていたかのように、制御盤の操作を始める。
制御盤から小さく警告音がなると、何の変哲もない壁が下がり、奥にある真実を曝け出した。そこには冷凍ポッドのようなものがあり、朝潮はその中を覗く。
「あ…私だ…」
朝潮は後退りしながら声を震わせる。冷凍ポッドの中に入っていたのは、あの資料に書いてあったもう一人の朝潮だった。まだ冷凍ポッドはかすかに動いており、触ってみると少し冷たく感じた。
「起こしてみよう。」
提督がそう言って、冷凍ポッドを解除して朝潮を起こそうとする。
「これは、もう死んでいるな…」
提督がそう呟くと、朝潮は地面にへたり込む。このポッドを見つけた時、朝潮が感じていた知っている感じが消えていた。
「こんな酷いことを、一体何をしようとしていたんだ。」
グラーフが提督に向けて話す。提督は古い椅子に座って、資料を広げる。
「艦娘と深海棲艦を融合させて、艦娘の強化を図っていたらしいな。」
提督は淡々と資料の内容を話す。
艦娘に深海棲艦の血を取り込ませれば、艦娘に何か特別な力に目覚めるかもしれない。そんな噂から始まった実験だった。
この地下で行われていたのは、噂を鵜呑みにした海軍が艦娘を使って実験を始めただけという、艦娘に対する酷い仕打ちの実験だった。
結局誰も、力に目覚めることはなく次々と処分され、朝潮だけが残されていた。しかしその朝潮も結局、冷凍睡眠をされたまま忘れ去られる結果になった。
「くそっ!噂だけで艦娘を処分したり、冷凍保存までしていたのか!」
グラーフが怒りを露わにして、壁を叩く。温厚なジャーヴィスも、その話を聞いて震えているのが分かった。
そして、提督が海軍に入る際に提督が手に入れたこの古い鎮守府。それはかつて海軍が鎮守府という名前を使って隠していた、実験施設だった。
「司令官、お願いがあります。実験に使われていた朝潮を弔わせてください。」
提督は頷き、冷凍保存を解除してポッドが開く。朝潮はポッドの中に入っていた自分を抱き抱える。
「あなたにも司令官がいて、大切にされてきたのね…」
そして朝潮達は、地下施設を後にする。
「よし、これでいいだろう。棚の後ろに隠しておこう。」
鎮守府の地下倉庫に戻ってきた四人。提督は倉庫にあった工具で鉄扉を開かないように溶接し、棚の後ろに隠した。これで地下は封印された。
外に出ると夕方になっていた。夕焼けが鎮守府と海を染める。そして水葬が行われた。
「これで自由。さようなら、私。」
しばらく四人は海を眺めていた。
深夜の事、提督は自分の執務室で、地下施設から持ってきた書類を眺めていた。机のランプだけが照らしている中、提督は書類を見てつぶやいた。
「親父…」