サオリは提督の執務室のソファに座り、目の前にはお茶が置かれている。提督はサオリの向かいに座り、隣には朝潮が座っている。そして偶然居合わせた望月、秋雲も話を聞くことになった。
「シルバーウルフが探している私たちの仲間、名前は秤 アツコ。私たちアリウススクワッドの仲間で、姫と呼んでいる。」
「姫?お姫様なんですか?」
「私たちの学校、アリウス分校のかつての生徒会長の血を引いている。」
「どこに行っても生徒会長さんは強いんだねー。」
秋雲がうんうんと頷きながら話す。
「シルバーウルフと呼ばれる奴らがなぜ姫を探しているのかはわからない。だがきっと、良くないことが起こるはずなんだ。」
「シルバーウルフは傭兵組織だ。だったらきっとそのアツコって子を探しているのも誰かが金を払って依頼したものなのかもしれない。だとすれば、シルバーウルフが捕まえて何もしない訳はない。」
執務室が一瞬静まる。そして望月が口を開く。
「何迷ってるのさ。助けるべきじゃ無いの?」
全員が、望月の方を向く。
「司令官言ってたじゃん。人を助けるのに理由なんていらないって。サオリさんって人にとって、そのアツコさんは大切な人なんでしょ。シルバーウルフに捕まったら殺されちゃうかもしれないんだよ。」
朝潮が立って、望月に問いかける。
「司令官のことを考えて言ってますか?私たちが問題を起こせば、司令官が困るんですよ。それに、私たちだって…」
「だったら朝潮は鎮守府で大人しくしてればいい。司令官、行くんでしょ。」
「まぁ、ここまで連れてきたなら、答えは決まってるだろ。提督なんて地位よりも、人としてどうするかだからな。」
朝潮はしばらくして、口を開く。
「わかりました。それならこの駆逐艦朝潮、地獄までお供します。」
「そうか。だがどこを探せばいいんだ…?」
サオリが携帯を見て、話し始める。
「私の仲間に会いに行こう。あなたのことも紹介しなければならないし、何か掴んでいるかもしれない。」
「よし、朝潮達は街に行って、兵士達の話に聞き耳を立ててくるんだ。何かいい情報があったら、それを後で話そう。」
提督がそう言うと朝潮達は頷き、執務室を出ていく。
「あなたのことは話してある。私についてきてくれ。」
そういってサオリは提督を連れ、仲間の元に向かった。
ー朝潮編ー
私服を来て、街にやってきた朝潮。市民の賑やかさとはまた別に、黒い軍服を着たシルバーウルフの兵士達が目を光らせている。
朝潮は買い物のついでに、何か情報を得ようとしていた。
「ん…あの二人…」
朝潮は兵士達が何かを話していることに気づく。店の前で品物を見ているフリをして、耳を澄ました。
「それにしても、本当にあのガキこんな街にいるのかよ。」
「分からないわ。でもカレン隊長が無意味にこんなところに私たちを置くかしら。」
「噂なんて信用なんねえよ。それに噂じゃ俺たちの探してるガキの仲間がいるって話じゃねぇか。それすらいやしねぇ。」
「少し移動しましょう。廃墟があれば入ってみるのよ。」
そう言って兵士達は、人混みの中に紛れていった。
「シルバーウルフはやっぱり、アツコさんって人を探しているのね。ガキって言ってたけど、子供、なの?」
ー秋雲編ー
秋雲は、買い物の途中で出会ったシルバーウルフの兵士に会っていた。
「お、さっきの嬢ちゃん、絵のことありがとな。」
「いやいや、気にしないでください。それより、役に立ちました?」
「おう、おかげでな。」
秋雲は気の緩んでいる兵士に色々と聞いてみることにした。
「そういえばあの時、名前を聞いてなかったんだけど…」
「俺らもはっきり聞かされてねーんだけどさ、アツコとか言ってたな。まだ子供らしいぜ。」
「アツコ…!」
秋雲はしばらくその兵士と雑談した後、その場を去っていった。
「また廃墟か。」
「ここくらいしか隠れられる場所がないんだ。」
提督とサオリは、ある廃墟の階段を昇る。そして部屋に入ると、そこには二人の少女がいた。もちろん彼女達にもヘイローがある。
「リーダーにヒヨリ、そして「大人」の人か…。」
奥にいた首に包帯を巻いている女の子が立ち上がる。
「前にもあったねこんなこと。リーダー、覚えてるよね。」
「…」
サオリはその言葉に俯く。提督は少し緊張しながらも、立ち尽くす。
「知ってる?大人の人、提督って人なんだよね。」
「それが?」
「あなたを始末すれば、姫は無事で帰ってくる。」
「…!!」
提督は後退りしサオリの方を向く。
「サオリ、最初からそのつもりか。」
「シルバーウルフの目的は分からない。しかし私たちにある取引をしてきた。あなたを始末すれば、姫を探し出しても危害を加えず私たちの元に帰すと。」
「そうか、あの時の武装船団か…。」
提督は過去に、深海棲艦とは別に武装船団が海軍の輸送船を襲おうとしているところを守れと、海軍から任務を受けていた。朝潮たちの活躍により武装船団の戦力を下げ、輸送船も無事に撤退した。その時の武装船団が、シルバーウルフだったのだ。
「俺は、騙されていたんじゃない。勘違いでもいい。サオリは、俺に本気で助けを求めていたんだ。」
提督はポケットから、サオリの爆弾のスイッチを取り出す。電源を入れ、赤くランプが光っている。
「…」
「俺を殺せば、アツコって子は助かる。それならなぜサオリはあの時、俺に跪き、自分の命を握らせるような事をしたのか。」
「だから、信用するの?後ろから撃たれるかもしれないのに、私たちを信用するの?」
「俺を殺したいなら好きにすればいい。」
提督はそう言って、起爆装置のスイッチを切ってポケットにしまう。
「…わかった。」
「気を取り直して、アリウススクワットの仲間だ。ヒヨリとミサキ。」
「リーダー、でもどうするの。シルバーウルフの奴らはきっと、武器を持ってるよ。」
すると突然、扉が開き銃を持った二人の兵士が入ってくる。
「全員動くな!!」
「ば、バレてたんですか…!」
提督はサオリの方を向いて、口パクで話す。
「俺に任せろ。」
サオリは小さく頷く。
提督がベルトにかけてある通信機のスイッチを二回押す。
「とりゃー!!」
兵士達が入ってきた入り口から望月が兵士に向かって飛び蹴りを喰らわせる。提督も油断した兵士の銃を蹴り飛ばして兵士を殴り飛ばした。
「まったく、司令官も派手なこと考えるねー。」
望月が落としたメガネを拾って掛け直す。
「サオリさんだっけ。さっきぶり〜」
「ありがとう、助けに来てくれたのか。」
「待機させてたんだ。ビルの名前を望月にメッセージで送って別の部屋に待機させてた。これを二回鳴らしたら助けがいる合図だってことも伝えた。」
気絶している敵兵士の無線から、声が聞こえる。ミサキが通信機を拾って耳に当てる。
「全員、あのガキの仲間は見つけ次第撃ち殺せ。油断するなよ!」
無線から男の声が聞こえる。
「リーダー、私たちも騙されてたみたいだね。私たちが用済みってことはきっと、姫は捕まったのかも。」
「それなら、また助けに行くだけだ。」
サオリはアサルトライフルを構える。
「分かった、また最後までお供するよ。」
提督は望月の手を取り、話しかける。
「ここからは俺の仕事だ。お前達は鎮守府に戻っていつも通り過ごせ。」
望月はしばらくして、頷く
「絶対、帰ってきてね。」
そう言って望月は廃墟の裏口方面に階段を降りていく。
提督は敵の兵士のライフルを手に取る。
「よし、行くぞ。アリウススクワッドだっけ。頼りにしてる。」
「任せてくれ。行くぞ!」