四大企業 アトラース   作:スキル素材年中枯渇ニキ

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短編
サンドラの憂鬱


「鬼だあのクソジジイ!!!」

 

 この世界に転生してから8年。

 

 休憩室に入ってきたレイチェル達。レイチェルが開口一番に言い放ったのがそれだった。

 

「お疲れ様です、皆さん。訓練の方はどうでした?」

 

「訓練? 訓練だと!? 冗談が過ぎるぜ! 射撃訓練に連携訓練、ちょっとでもドジったらやり直し、散々やった後はすぐ地上で実戦だ! 地上で実戦自体はいつもやってる事だからそれはまだいい! 50体は戦わされたぞ!! ったく、ここまで長く地上で戦った事はねぇから生きた心地はしなかったぜ……」

 

「でもこうして帰って来れてるって事は……」

 

「ああ、まぁそこら辺は流石は元ベテラン指揮官って所だな。見ての通り全員無傷だよ」

 

 レイチェルの他に、ベアトリス、マルグリット、ハルカ、レアの5人がほぼ無傷の状態でぐったりとしている。この5人が手始めにギュンターからの軍事訓練を受けていた。

 

 ……筈だったんだが、早々に地上で実戦とは……確かに通用しそうなら地上で行うとは言っていたが……

 

 まぁとは言え実力は本物だったようで安心した。おそらく今後も預けておいても大丈夫だろう。

 

「それよりも丁度いいタイミングでしたね。全員席に付いてください」

 

「は? 今日なんかあったっけ?」

 

「テストを返却します」

 

「ゲェッ」

 

 レイチェルが若干汚い嗚咽を漏らし、ベアトリスもそれに続き、マルグリットが舌打ちをし、ハルカとレアは疲れた体に鞭打ち、全員が席に付く。

 

 今ここに私の作ったニケが1人を除いて全員集まっている。長テーブル一つにつき三人で座っている。

 

「それじゃあまず、ハンナ」

 

(国語86)(数学62)(理科67)(社会77)

 

 四枚の用紙にそれぞれ該当する点数が書かれているそれを、ハンナに手渡した。

 

「二次関数の問題で少し躓いたな。でも今まで苦手だった数学と理科に関しては改善傾向にあるから、この調子で頑張ろう」

 

「うーん……やっぱり数学はちょっとだけ難しいわね……」

 

 それでも60点台は十分偉かろう。論外な奴が何人かいるしな……。

 

「それでは次、疲れてる所だとは思いますが、レイチェル」

 

(国語39)(数学21)(理科24)(社会44)

 

「……うん、やる気を出してくれただけ進歩ですね」

 

「チッ、こんな事したって何になるってんだ……」

 

「意地の悪い事を言わないでくださいよ。いつかきっと、読み書き計算は役に立つ時が来ます。テストに向き合ってくれて、本当に嬉しいんですよ?」

 

「そーかよ」

 

 見てもらえば分かる通り、私は合間を縫ってニケの皆に勉強を教えている。この前テストを行ったので返却している所だ。

 

 やはり読み書き計算は出来た方がいいだろうという事で、ベアトリスをニケにした辺りで勉強会を始めてみた。レイチェルを始め、多数が到底乗り気ではなかったが、それでも私は根気よく学問の大切さを伝えた。ハンナの説得も大きかったのか、今ではマルグリットを除いて全員が勉強を頑張ってくれている。

 

 1人は私の夢に賛同してくれて絶対に必要になると信じてくれていたり、1人は単純に読み書き計算が仕事に使えると判断していたり、1人は何となく始めてみたり、様々な動機があれど、取り組んでくれるだけでもとても嬉しい。学問など役に立たないと絶望の毎日が、ほんの少しずつ否定され始めている。いい事だ。アウターリムに知見が広まる。これはきっと健全な社会の因子になる。私はそう信じている。

 

(ゲルトルート)(国語57)(数学65)(理科72)(社会80)
(リーゼロッテ)(国語92)(数学98)(理科93)(社会94)
(カルラ)(国語91)(数学69)(理科80)(社会82)
(ベアトリス)(国語70)(数学61)(理科49)(社会63)
(マルグリット)(国語0)(数学0)(理科0)(社会0)
(ロミー)(国語34)(数学19)(理科40)(社会36)

(ラウラ)(国語86)(数学88)(理科79)(社会91)
(ハルカ)(国語71)(数学73)(理科66)(社会78)
(レア)(国語17)(数学48)(理科58)(社会38)
(オルガ)(国語93)(数学85)(理科92)(社会91)
(クリスティーナ)(国語31)(数学40)(理科25)(社会33)

 

 その後もテストを返却した。

 

 やはりリーゼロッテとオルガ、次点でカルラとラウラが頭一つ抜けている。オルガ以外の三人はしっかり勉強していたりする。ラウラなんかは私にちょくちょく個別に指導を頼みに来るぐらいだ。

 

「zzzzz……」

 

 しかし肝心のオルガは……寝てる。コイツ勉強中も寝てるんだよなぁ……なんでこんな成績いいんだよ。本人は睡眠学習とかふざけた事ぬかしおるが、実績が実績なだけに質が悪い。

 

 クリスティーナは勉強を始めたばかりでまだ成長途中。ロミーとレアは、要改善だな。マルグリットは見事なまでに真っ白だった。名前すら書いてない。

 

「……そして最後に、ユッタ」

 

「は、はい」

 

 この子はE・Hにニケ製造所をお披露目したあの時に作った子だ。

 

(国語59)(数学61)(理科70)(社会68)

 

 勉強始めたてにしてはよくできてる。何れ高得点を狙えるかもしれない。

 

 ……よし、こんなもんか。

 

「皆、お疲れ様でした。解答用紙を置いておくので、後ほど共有して間違いを確認しておいてください。それじゃあ、ご飯にしましょうか」

 

「わぁい!! 今日は何? 何が出るの!?」

 

「培養肉で作ったハンバーグです。ベアトリスは好物でしたね」

 

「うほおおおおこれは熱い! ご主人分かってるぅ!」

 

 訓練をしてきた疲れが何処へ行ったのやら、ハンバーグという単語を前にガッツポーズをするベアトリス。

 

 テスト返却後、ハンナとリーゼロッテが料理を手伝い、他の皆は皿に料理を乗せて皆好きなタイミングで食べ始めている。

 

 ジュワアアアっと焼き上がる培養肉にソースを掛けて、私達が育てた野菜のプチトマト、ブロッコリー、にんじんを添えて出来上がり。ソースの匂いが食欲を刺激する。毎日ここまでいい物を食べられるわけではないが、それでも元現代人の口の中でより多く唾液を分泌させるには十分だった。私がアウターリムに長く身を置き過ぎただけかもしれないが。

 

 最後の皿に料理を盛り付けると、意図を察したハルカがこちらに来る。

 

「アドルフ様、持っていきますね」

 

「ああ、すみません。お願いします」

 

 ハルカが軽く会釈すると、冷めない内にと早歩きで皆の共同寝室に――

 

 

「ハルカ、そこで止まれ」

 

 

 ――ようとした所をマルグリットに止められる。

 

「ま、マルグリット……? どうかしましたか……?」

 

 ハルカがそう聞くが、マルグリットは眼中にない。私の方に視線を向けていた。それも大分ご機嫌斜めなようだ。

 

「旦那……この際だから聞くぞ。

 

 ……サンドラの馬鹿はいつまでああしておく気だ?」

 

 ハンバーグの食事を楽しんでいる皆が凍り付き、空気が止まった。

 

「ああしておく気……とはどういう事でしょうか?」

 

「惚けてんじゃねぇ。()()()がおっ()んでから3カ月、働きもしないでずっと布団の中じゃねぇか!」

 

 いけない、と思ったのか、ハンナがすぐにフォローに入って雰囲気を和ませようとする。

 

「そんな事はないと思うわよ? サンドラって農場の管理がとっても上手なのよ? 計算も早いし、私も助かっちゃ――」

 

「んなん働いた内に入るか! こちとら命懸けで地上に出向いてるってのに、アイツは何もしねぇで食っちゃ寝放題、付き合ってられるか!」

 

 ハンナでは抑えられないと瞬時に察したのか、それとも自分がやるべきだと思ったか、今度はリーゼロッテが身を乗り出した。

 

「止めなさい! 今一番辛いのはサンドラよ。あの子は今は時間が必要なの。最近じゃ食事も喉を通ってないのに……」

 

「リィ~ゼェ~……あんま冗談抜かすな。何考えてっか分かんねぇゲルトルートは兎も角、ロミーとハルカは? 辛い思いをしたのはコイツらも同じだろ? ハルカも時間かかったが立ち直っただろ? あの馬鹿もいい加減銃を突きつけてでも立ち直らせるべきじゃねぇか?」

 

「本当にやめて! そんな事したらあの子、本当に死にかねないわよ!」

 

「ならいっそ死なせろ! まだ生きてるのが辛いとかほざきやがったらお望み通りにしてやれ! こっちも物資の消費が減ってウィンウィンだ!」

 

 耐えられなくなったか、ベアトリスが涙ながらに叫ぶ。

 

「も、もうやめてよ! 折角おいしいハンバーグなのに、なんでそんな話するの!」

 

「そのおいしいハンバーグにタダでありついてる馬鹿がいる現状に憤ってるだけだが?」

 

「い、いいじゃん! 私許すよ! サンドラが苦しいって、痛い程分かるから……サンドラが立ち直るまでずっと待ってあげようよ! 物資だって切迫してる訳じゃないんでしょ!?」

 

「じゃあアタシも働かねぇよ! オラ、働かずに食べられるんだろ? メシ寄越せよ! アタシはラプチャーと戦わねぇが食っちゃ寝放題させてもらうぜ!」

 

「屁理屈だ! マルグリットが意地悪なのはいつもの事だけど、今日は本当に酷いよ!」

 

「うるせぇ! 旦那ァ、その辺どう考えてんだ。事の次第によっちゃあこっちも考えがあるぞ」

 

「考え……とは?」

 

 マルグリットは頭に人差し指を二回コツコツと軽く叩いた。

 

「お優しい旦那は、自分で考え、自分でどうするか決断するべきだって話したよなぁ? そのおかげで俺らは他のニケと違ってリミッターがねぇ。ならアタシも、アタシが最善だと思う選択をさせてもらうぜ――」

 

「――なら今ここでお前を撃ち殺しちまうっていう選択も自由だよな?」

 

 気付いた時には既にレイチェルがマルグリットに拳銃を向けていた。訓練で疲れていたレイチェルの顔が輪をかけて険しくなっていた。ただでさえ凍り付いていた空気は更にエスカレートする。何人かは冷や汗を掻いて2人を見つめていた。

 

「レイチェル……テメェもサンドラに対して思う所がない訳じゃねぇだろ?」

 

「メシ不味くしやがったお前ほどじゃねぇよ。マジでいっぺん死ぬかオイ」

 

「んだとゴラァ――」

 

 

「そこまでです!!」

 

 

 これ以上はいけないと判断した私は声を張り上げて二人の間に入った。

 

 また喧嘩が再開されないよう、間髪入れずに二言目を発する。

 

「マルグリット、確かに貴女の意見には一理あります」

 

「ちょっとアドルフ!」

 

 リーゼロッテは私が肯定するとは思っていなかったのか、声を張り上げるが私は手のひらを差し出して抑えた。

 

「……あと一ヵ月、時間をください。それ以降も彼女自身の結論が出ないようでしたら……サンドラには多少は覚悟をしてもらいます」

 

 私の言い放った覚悟という言葉をマルグリットはどう受け取ったかは分からないが、数秒考えこんだ後に静かに席に着いた。

 

「……ハルカ、一緒にご飯を届けましょうか」

 

「は、はい……」

 

 ハルカが一旦置いておいたハンバーグが乗った皿を持って食堂から出た。ハルカも、あの空気から逃げるようにこの場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、あの、カルラさん……サンドラって、いつも寝室の隅っこにいる子ですよね……? 何かあったんです?」

 

 ここに来て時間が経っていないユッタは、これまでの状況が分かっていない為に何故こんな険悪な空気になったか分からず、隣にいるカルラに事情をうかがった。

 

 当のカルラもあまりいい顔をしていなかったが、こんな事態になっては知らなくてもいい事だともいう訳にもいかず、説明せざるを得なかった。

 

「う~ん……そうですね~、ユッタはどれぐらいまで察しがついてます?」

 

「えっと……トラウマでも抱えてるんですかね? それで、働けなくなって……って感じです?」

 

「まぁ、概ねそうですね~。……今から三ヵ月前になりますね。エンマっていうニケがいたんです。いい子でしたよ~、優しくて明るくて、面倒見もよくて、サンドラともとっても仲が良かったんです。

 

 ……でも、そのエンマがトゥルーデ(ゲルトルート)とロミーとハルカとサンドラと一緒に地上に出て物資の回収に行っていた時です。運悪くタイラント級のラプチャーと遭遇しました。アドルフは、そのラプチャーの特徴を聞いて、ハーベスターっていうラプチャーだって確信してたけど……そのハーベスター相手にエンマが殿(しんがり)を務めて、他四人は命からがら逃げられた……っていうのが、事の発端でした。

 

 あの時は、アドルフが作ったニケが初めて死んで、かなりの騒ぎになりました。アドルフは何度か捜索したりして、そしたら誰が建てたのか、『エンマ ここに眠る』と書かれてる石が置かれれていたんです……ロミーとハルカは酷く落ち込んで、ゲルトルートも何とも思ってないように見えましたが、負い目を感じてたのか、一番捜索に積極的でした。

 

 ……エンマの分まで頑張らないととロミーが立ち直って、ハルカも時間はかかりましたけどそれに続いて……でもサンドラは、まだエンマの死に呪われたままなんです」

 

「……それは、なんというか……お気の毒にと言いますか……

 

 ……でも、マルグリットさんの言う事も一理あると思います。苦しいのは、サンドラさんだけじゃないんでしょう?」

 

「それはそうなんですけどね~……とりわけあの子は、酷く自分を責めちゃって……

 

 

 実際、あの子が途中で負傷しなければ、エンマも無事に帰ってこれたかもしれない……って考えると、ちょっとね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サンドラ、入りますよ」

 

 皆が使う共同寝室。私とハルカが入ると、その隅っこにいつも通り体育座りで顔をうずめている1人のニケがいた。

 

 栗色の髪は腰まで届く長さで、それに合わせるように前髪も長かった。その前髪が影を作って目元は闇に覆われている。しかし気のせいかその影は日を追うごとに濃くなっていっているようにも見える。

 

 彼女の傍には野菜のスープが入った皿が放置されている。朝ご飯として配った食事だ。スプーンが濡れていた為ひと口は食べてくれていたようだ。しかし量的に言えば最初に持って行った時と大して変わらないように見える。

 

 三ヵ月前からずっとこうだ。……いや、もっと悪化してるかもしれない。

 

 サンドラは、入ってきた私達を一瞥すると、直ぐに顎を膝に乗せて顔をうずめてしまった。

 

「食べないと思考転換を起こすかもしれませんよ? ニケだって食べなくても大丈夫という訳ではありません」

 

 そう忠告するのはこれで何度目になるだろうか。サンドラも流石に聞き飽きているかもしれない。

 

 彼女に必要なのは正論ではなく、自分が生きる理由だ。

 

 だが何と言えばいい? 私が臆病なばかりに、ありきたりな事しか言ってやれない。

 

 私は、後ほど彼女に渡すつもりだった紙を四枚、彼女の傍に置いておいた。

 

(サンドラ)(国語98)(数学99)(理科100)(社会100)

 

 マルグリットはサンドラを馬鹿だなんだと罵ったがとんでもない。私の配ったテスト用紙は一人一人内容が違う。勉強のし始めな人は小学生の内容を、そして段階を踏んで難しくしていっているのだが、サンドラに出したテスト用紙はアークの難関大学の過去問から拝借しており、彼女の成績は最早、下手をすればもう前世のT大にも通用しうる水準と考えられる。

 

 これ程の人材が、認識チップがないという理由で、私が勉強を教えるまで勉学に励めず、活躍の機会にも恵まれない。酷く嘆かわしい話だった。

 

 ……また、会社の起業を目指さなくてはならない理由が増えた。

 

「今日も素晴らしい結果でした。物を教えている私としても、とても誇らしく思いますよ」

 

 言葉に偽りはなかったが、少しでもメンタルを回復させようという、いつも通りのおべっかと思われただろうか。そういう魂胆もない訳ではなかったので、もしそう反論されてしまったら押し黙ってしまう所だ。

 

 私が思うに、彼女は戦闘などではなく、デスクワークの方が向いている気がする。余裕がないとは言え今更ながら彼女を戦闘員として運用していた事を軽く後悔していた。

 

 そんなサンドラの様子がいたたまれないからか、ハルカも声を掛けた。

 

「さ、サンドラさん! 今日はハンバーグなんです。とっても美味しいんですよ!」

 

 彼女の言葉も何処か空回りしているように感じた。自分の言葉も、客観視すれば五十歩百歩なのだろうが。

 

「…………ごめんなさい……今は、食欲なくて……」

 

 やっと返事が返ってきたかと思えば、その声は小さく、それでいて擦れていた。

 

「そうですか……くどいようですが、人間の生活スタイルから逸脱すると、常に思考転換のリスクが付きまといます。それには注意してください」

 

 それだけ言って私は残された野菜スープを回収。勿体ないのでこれは後で食べてしまうとして、私は食事を届ける為だけにここに来た訳ではない。先程マルグリットと行ったやり取り、それをサンドラに伝える。猶予は一ヵ月、それまでに答えを出せという事も伝えた。

 

 当のサンドラは、深刻に受け止めているというよりは諦めの境地にいるようだった。

 

 ……仕方ない。外部に頼るしかないな。

 

 今彼女の為に出来る事は何もない。私は野菜スープを持ってこの場を離れる。

 

「……あの、アドルフ様……サンドラさんはこのまま出て行ってしまうのでしょうか……」

 

「そんな事はさせません」

 

 私はそうキッパリ言ったが、ハルカはそれが根拠のない見栄に見えたらしい。

 

「で、でも! 猶予は一ヵ月って――」

 

「ハルカ、ニケを指揮する指揮官には、どのような仕事があると思いますか?」

 

 唐突な私の問いに困惑しつつも、ハルカは考え込んだ。

 

「え? えっと……それは、ニケの指揮でしょうか……?」

 

 50……いや、ある意味では30点以下の回答だ。原作における士官学校の教育内容を考えるに、おそらく指揮官は中央政府に指揮能力を期待されていない。どちらかと言えば、ニケの監視が主な仕事だ。

 

 そのニケの監視だが、その業務内容の中には思考転換を防ぐ、又は初期症状の確認の為の面談がある。

 

 ()()()()ともなれば、会話も巧みであると考えられる。

 

 そういう意味でも、結果論としてはエンターヘヴンと手を組んだのはいい判断だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……貴様がサンドラか。顔を合わせるのは初めてだな」

 

「は、はい……」

 

 エンターヘヴンのアジトの一室に連れてこられたサンドラは、ギュンターに見つめられる。

 

 普通にしていても鋭く見えるギュンターの眼光は、見つめられるだけでも睨みつけられているという印象を受ける。恐らく当の本人に怒りといった感情は持ち合わせていないと思われるが、そのせいかサンドラは酷く委縮していた。

 

「事情はアドルフから聞いている。災難だったようだな」

 

 サンドラの身に起きた悲劇は、とても災難という表現で片付くものでもなかったが、残念ながら簡単に命が奪われるアウターリム、及び地上という場所では特別同情されるような話でもない。

 

「……さて、ワシは貴様達に軍事訓練を施している訳だが、個人の事情に介入するつもりはない。だから、最終的にどうするかは貴様の選択だ。その上で聞く。貴様はこれからどうしたい? どう生きていくつもりだ?」

 

「っ………………」

 

 サンドラは自分の言葉が喉に詰まった。自分でも些か言い辛かったものであったからだ。

 

「…………死にたいです。」

 

「……成程な」

 

 やっと出てきた言葉に、事前に私から事情を聴いていたギュンターはさほど驚くような素振りも見せなかった。

 

「……これからワシが言うのは、唯の個人的な意見だ。それを踏まえて聞け。

 

 ……そのエンマとやらは、ある程度は無駄死にになる訳だな」

 

 ギュンターの言葉を聞いてサンドラが驚く番になった。そしてそれは怒りも入り混じり、力なく握られた拳が痛々しく見える程に握られる。

 

 無駄死に? 自分が犠牲になって四人を生還させたというのにか?

 

「命を賭して四人生還させた。称えられるべきだろな。立派だろう。ニケといえど土壇場でそれが出来る者は少ない。

 

 ……おかげで三人は今も活動できる。だが貴様はどうだ。命を救われた後で戦場で死ぬ分にはいいだろう。だが自ら進んで死を望んだら? 命を賭して救った命が率先して死ねば、それは無駄死に以外のなんだというのだ?」

 

 ギュンターの言わんとする事が分かりかけてきた。だがサンドラはとてもじゃないが承服しかねるといいたげに食ってかかる。

 

「……ゲルトルートさんも、ロミーもハルカもいます」

 

「だからある程度は、と言ったのだ。貴様があの世に逝って、エンマとやらはどう思う? 悲しむというのが一般的な感性であると思うのだがな」

 

「ッ……だったら!! 私があの時、死ねばよかった!!!」

 

 サンドラが声を荒げるのを、私はあの事件から3ヶ月面倒を見てきた中でも見たことはなかった。当の本人も胸を抑える姿が悲痛に映る。

 

「エンマは凄い人だった! 強くて、明るくて、いつも人を励ます蛍光灯のような人だった!!

 

 あの時、タイラント級に奇襲されて、私は片足を吹っ飛ばされた。……その時、私が殿になるって言えればよかった。でも、恐怖もあって頭が動転して、竦んで、気が付いた頃にはエンマが殿になるって言い出して、ゲルトルートが私を背負って逃げ出してた……!

 

 ……私は、エンマの優しさに甘えて生きてるの。みっともないったらありゃしないわ……」

 

「だから死にたいと……確かにワシが指揮官をしていた頃、自分の能力の低さに打ちひしがれて貴様の様に自暴自棄になる者もいる。

 

 ……ただ、ワシに言わせれば、それは唯の自分勝手に過ぎん」

 

 自分勝手。そんな言葉が聞こえて耳を疑うサンドラはあっけにとられていた。

 

「何を驚く? エンマの犠牲の上で死を望んでいるのだ。贅沢な生き方ではないか。ワシの勝手な想像とは言え、自分の分まで生きて欲しいとエンマは願っただろう。それを無下にして罪悪感も抱く必要もない場所に逃げ込もうというのだ。見かけの割に中々どうして面の皮が厚――」

 

 そこでギュンターの言葉がさえぎられる。サンドラがギュンターの胸倉に掴みかかって――

 

 それからの展開は目で追えなかったが、激しい衝撃音がしたかと思えば気が付いた頃にはサンドラは地に臥してギュンターに腕を捩じられていた。

 

「あっ、ぐあっ……!」

 

「フン、死を望んでいる割には激情に駆られるのだな。……しかし貴様は本当に死を望んでいるのか?」

 

 止めに入るべきかとも考えたが、そうこうしている内にサンドラが何を思ったか力が段々抜けていき、ギュンターも捩じる腕を放した。

 

「……私だって、好きでこんなふうになってる訳じゃない! だけど、エンマが私に何を望んでいるって言うの!? 戦いは苦手ですぐ体が竦む。……死が償いにならないなら、一体何をすればいいの!?」

 

 もしかしたら、サンドラも心の何処かでそれを分かっていたから、戦いに行くとは言い出さなかったのかもしれない。

 

 返答に逡巡する問いだった。だがギュンターはそう間をおかずに口にした。

 

「訓練だ」

 

「……は?」

 

「本来このケースは言ってしまえば、憎むべきは作戦に参加した当人達の能力不足だ。もっと速く走れればラプチャーから逃げきれたのに、もっと射撃を精密に出来れば少ない物資で確実にラプチャーを仕留められたのに、そう後悔しない為の訓練だ。尤も、訓練などしても十分という事は絶対にないのだがな。

 

 ……兎も角、訓練を通して昨日の自分より強くなれれば、悲劇を繰り返す確率は減るだろう。それだけでなく、貴様と同じ状況に陥った人間を助けてやる事も可能だ」

 

「……理想論でしかありません」

 

「かもしれぬな。ワシ個人の意見だ。最終的にどうするかは自分で決めろ。考え抜いた結果であれば、死もまた一つの選択肢だろう。だが考えろ。自分がやりたい事、自分が出来る事、そして人から何を望まれているかを」

 

「…………」

 

 サンドラはふらつきながらも立ち上がる。

 

「ありがとう……ございました」

 

 面談に時間を割いた事に対する感謝か、それともサンドラの心の中で何か心境の変化があったか。いい意味で後者だと思いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後数回のやり取りの後面談を終え、自分の家に帰る途中、ふと私はサンドラの顔を見た。

 

 気のせいでなければ、顔色は幾分かマシになっている……ように見える。

 

「あの、アドルフ……」

 

 顔を見ていたのを気付かれていたか、唐突に声を掛けられる。

 

「……ごめんなさい。随分と迷惑かけてしまって……」

 

「いえ、……ギュンターはああ言いましたが、私は何も戦う事だけが全てではないと思います。物を作る人、掃除をする人、物を教える人、程度の差こそあれ全て重要な仕事だと思います」

 

「ありがとう……でも、私はもう逃げたくありません……! お願いです。戦闘でも構いませんから、何か仕事があれば任せてください……!」

 

「サンドラ……無理はしなくてもいいんですよ。マルグリットの事は何とか説得しますから――」

 

「ずっと、そう優しくしてくれましたよね。でも、これから迷惑をかけた分取り戻さないといけませんし……

 

 何より、こんな私にも救える命があるなら、エンマの犠牲も、無駄じゃない……って、思えるから」

 

「……」 

 

 ギュンターとの面談は劇薬だっただろうか。だが最早それでもいい。生きるという気力さえなければ元も子もない。

 

 後は、妙な事になってはいないか、面談を通して見張っていくしかない。どうせ私の……生者に出来る事なんてたかが知れているのだから。

 

「……死人にしか、当人の心を癒せないのは、些か質が悪いとは思いませんか?」

 

 私が放った言葉は、誰に向けていったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地上の、とある場所で、金髪の聖女がいた。

 

 彼女は言うなれば修道女のような恰好で、髪型は足首まで伸びた巨大とも表現できる一本の三つ編みが地面に触れる。そんな彼女は両手を合わせて握り、静かに祈っていた。

 

 目の前には墓に見立てた石がある。『エンマ ここに眠る』。それだけ石に刻んだだけの物だったが、このご時世この状況では、墓の下に眠るガッデシアムの塊にとってはある意味では贅沢な最期だった。

 

 何分、彼女はこうして祈りを捧げていただろうか。そしてやっと立ち上がる。

 

「……瀕死だったハーベスターは、貴女が戦ったんですね。安心してください。アレはもう眠らせました。貴女が追い詰めたおかげで、そう大した苦労はしませんでした。本当に……お疲れ様でした」

 

 聖女はポーチから手帳とペンを取り出す。エンマの()()から読み取れた情報を書き記していた。

 

「……残念ながら、貴女に関する記憶だけ特別扱いは出来ません。ですがせめて、この手帳には記しておこうと思います。貴女が残してきたシスター達は思いつめているかもしれませんし……それに、貴女の慕っているブラザーの事は、もしかしたら覚えておくべきかもしれませんから」

 

 手帳の上を走るペンを止めないまま、聖女は墓の前から立ち去った。

 

「……それにしても、アドルフのブラザーですか……一度お会いしてみたいですね。過酷な環境下で、それでも優しさを忘れずにいられる……何か、私達と通ずるものがあるかもしれません」

 

 彼女の通る道は、何故かラプチャーはその彼女に気付かない。絶世の美女とも表現すべき外見も相まって浮世離れした神秘性があるその姿は、絵本から飛び出してきたかのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ! 待ってください。シスターの記憶にあったアウターリム、悪徳蔓延るだけにそこで行われる目合い(まぐあい)も過激な物になる……そこでシスター達で囲い込むブラザーは、まさに酒池肉林の如き……! い、いけません! 子供の身にありながら卓越した知力を持つブラザー、そこから繰り出される技術(わざ)にシスター達は抗う術を持たず……! はぁ、はぁ……!」




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とある男の回想


「……えっ? 最推しですか? そうですね……最初NIKKEをやり始めたきっかけはエレグだったんですよ。アズ〇ンの影響でしょうか、日本中でデカぺぇが流行したじゃないですか。でもその中であのレベルのグラマラスなデザインはそこそこ勇気が必要だったんじゃないでしょうか。実際運営さんとしてもあのキャラがブレイクするのは予想外だったみたいですし。ですがまぁやり始めの指揮官だったのでジュエルも虹チケの備蓄もある訳ないので引けなかったんですよ。
……それから、初めて引いたSSRがヘルムだったんです。私は元々、海軍っていうコンテンツが好きで、艦〇れとかもやってましたし、Wo〇Sもそこそこやり込んでて、そのせいかイージス部隊自体が推しだったんです。こういうのを箱推しって言うんですかね? まぁビジュも相まって中でもヘルムが一番の最推しでした。最前線に連れていける性能ではありませんでしたが、それでも使ってましたね……
ですが……あのイベントを見てそう時間が経たない内に転生したせいか、OLD TALESがとても印象深くて、その時に推し変したんです。……あ、いえ、シンデレラじゃないんです。……はい、今の私の最推しは――」
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