四大企業 アトラース   作:スキル素材年中枯渇ニキ

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お待たせしました!

それと一つ謝罪を。プリンセス関連の匂わせ描写ですが……色々考えた結果削除する事にしました。子細はblablalinkに書きました。

一回お出しした物を消す形になって誠に申し訳ございません。どうかこれからもこの小説をよろしくお願いいたします。


14:初対面だが私は既に君の事が嫌いだ

 空気が凍り付いていた。

 

 1人の子供が3人のニケを引き連れて、その子供と相対するニケ、クロウが同じ部隊のニケであるバイパーとジャッカルを傍に待機させてテーブルに向かい合って座り合う。

 

 アドルフ。満を持して対面したクロウだったが、反吐が出る程のよそ者……というのが第一印象だった。

 

 やらない善よりやる偽善という言葉が好きそうで、見ず知らずの子供の死体を見る度に自分の事の様に悲しんで、下手をすればアークの連中よりもお人好し。

 

 小突けば死ぬような、それでいてアウトローにとってはある種の怒りを盛大に煽りかねない子供をクロウが撃ち殺さないのは、何も彼に付き従っているニケが居るからというだけではない。

 

 様々な疫病対策をE・Hと相談して実施。聞いた話では水を奇麗にしたり石鹸を作っているとも聞いている。

 

 彼曰く、自分達が人権を認めればいい等と酔狂な事を言っていたらしいが、もしも本当にそれが実現できる程に非市民の生活水準を引き上げる事が出来たら……

 

 それが実現するまで彼の理想を貫き通せたら、それもまた心理と、反吐が出る程に好感を覚えるのも事実であったのだ。

 

「チッ、ゲロ以下の匂いがプンプンしやがる……」

「珍しく意見があったわね。アレは生まれついての悪だわ」

 

 小さく悪態をつくレイチェルとリーゼロッテだったが、クロウは小声で聞き取れなかったが、これ以上ない程に侮蔑されているというのは目を見れば瞬時に理解できる。

 

 奴に付き従っているニケとは全員洗脳されているのか? クロウにとっては自分がやった事がそこまで嫌われるような事だったか、それともアドルフのニケ達が特別なのか、全く定かではない。

 

「初めましてだな。お前の噂はかねがね聞いていたから、あたしとしてはそんな気はしないが」

 

「私も同じですよ。アークでは相当勇敢な偉業を成し遂げられたとか」

 

 開口一番に皮肉とはクロウも恐れ入った。これから()()()()()()()()()()()()()()()にもこの対応とはある意味では子供らしいが、見た目の割には酷く大人びている。皮肉を理解し、実践できる9歳児が果たしてどれだけいるだろうか。

 

「褒めるな褒めるな。お前ほどじゃないさ」

 

「ご謙遜を。貴女のおかげで、エンターヘヴンはアーク市民の関心を引くという最大の成果を得られました」

 

 悪い意味で、と付け足したい欲望を、アドルフは必死に押しつぶした自分を褒めたい気分だった。

 

 それを口にしたら戦争だろうが、とは誰の言葉だったか。自分の言葉には細心の注意を払っていた。クロウとて察しはついていたが、口にしない以上は追及できなかった。

 

「まぁ兎も角、会えて本当に嬉しいよ。お前には興味が尽きないんだ。アウターリムには勿論、恐らくアークにだってお前のような人間はいなかった」

 

「すみませんね。私も私なりの仕事が立て込んでいまして、お会いするのが遅くなってしまいました」

 

「だろうな。石鹸の生産や浄水作業等の疫病対策、鉄くずの管理、咳してるガキの看病、ちゃんと寝れてるのか心配になる」

 

「ご心配、痛み入ります。ですが、エンターヘヴンの皆様に仕事を手伝って頂けている事が多くなりまして、おかげさまで状況はそこまで深刻という訳ではないんですよ」

 

「ほぉ? そうか。まぁアイツらもテロが趣味って訳じゃないからな。病気で苦しむガキを助けたいと思う程度の人情はあるわけだ」

 

「……ですが、こんな社会を変えたいと思う一方でその手段に関する方針で、致命的な対立が発生しているというのは、由々しき事態だとは思いませんか?」

 

 そら来た、とクロウは思った。

 

「ごもっともだな。誰かさんがアークを頼らずに自分達だけで生きていこうなんて言い出さなければ、今頃狩りでも何でも出来る体制を整えられた筈なんだが……」

 

 アドルフは地味に追い込まれている。それは間違いない筈だ。だから散々避けていたのをついにこうして会う事に決めた訳だ。求めていた方自体はクロウとは言え、()()()をする方なのはアドルフだ。

 

「残念な話です。

 

 ――私の提案は、てっきり過激派にも喜ばれる物と思っていたのですが」

 

 クロウは心の中で首を傾げた。話が見えてこない。

 

「妙な事を言うじゃないか。あたしの記憶が正しければ、花火を打ち上げるのを止めにしようって言い出したのはお前だった筈だが?」

 

 アドルフにとっても百も承知の話だった。敢えてこういう言い方をしている……というのもクロウは察している。続きをさっさと聞かせろと言いたげなクロウに対して、アドルフは一々間を置いて喋るので少しばかり悠長と言えた。

 

「そもそもの大前提として、アウトローは皆多かれ少なかれアークに対して憎悪が燻っている所でしょう。……慢性的な食料不足と医療崩壊に喘いでいる中、アークは潤沢な資源で安全な生活を満喫している訳ですから」

 

「その上アークの市民様はその潤沢な資源を1gたりともアウターリムに恵んでくれやしない。恨まれて当然だな」

 

「仰る通り。しかし現状、過激派はあくまでもアークの関心を引く。穏健派は別の方法でそれを成し遂げる方法を模索している。どちらにしろ、()()()()()()()()()()()()状況なのです」

 

「……あたしが相手で良かったな。その言い方は、人によっちゃ顔をロブスターのように赤くするだろうよ」

 

 そういう当の本人も、あまり面白くなさそうな表情でアドルフを見つめ、当のアドルフも全く悪びれもしない様子でクロウの皴は輪を掛けて寄った。

 

 誰がテロをするような鬼畜共にに悪びれてやるもんか。そう言っている気がしての事だ。

 

「幸運な事に、私には優秀な護衛がいますから。……話を戻して、そんな彼らの尊厳を守りつつ、()()()な最終目標を達成できる方法を、既に私は提示している」

 

「それが、ここアウターリムに秩序を作ろうって話か……だが誤算があるな。お前は、人間が一途に目標を変えずに追いかけると思っていた。だからお前は、アウターリムの未来をより良くしようという話をすれば乗ってくると思っていた」

 

「ある程度は……その目的を達成できましたね」

 

「全部丸め込めなきゃ意味がないさ。E・Hと付き合いの長くなったお前さんなら知ってるだろ? 話がしたいと言ってきた中央政府の言葉を信じて、ゴキブリホイホイの上にノコノコ現れた穏健派の末路を」

 

 クロウは燃えて切らした煙草を灰皿の上に唾でも吐くように捨て、ポケットにある小さい箱からもう一本口に咥えてジャッカルに火を促す。

 

「その時さ。手段と目的がすげ変わった奴が現れ始めたのは。お前が言ったような不公平から来る憎悪にプラスしてこの仕打ちだ。アウターリムの未来よりも、アークへの復讐を優先する人間なんざ、珍しい話じゃないさ」

 

 そう、クロウの言う事は正しい。誰もが理性的に動けるわけではない。人間である以上感情に左右されるのは当然の話だった。

 

 そんな話を聞かされたアドルフは……ほんの少しだけ口角を上げ、笑みを浮かべる。

 

「……一体何時から、()()()()()()()()()()()()()()()()だと錯覚していたのでしょうか?」

 

「……何?」

 

「そう、貴女の仰る通りここは本当に誤算でした。ある程度の実績を積み上げた以上、説得に来るか、軌道修正にいく方が来ると思っていたんです。利用できる、と考えて頂ける方が一人もいないとは……真に残念な限りです」

 

「それはお前がテロを望んでいないから……いや、そもそもお前話を聞いていたのか? 提案を飲んで、過激派はどんな恩恵を授かれるってんだ? あたしは、もうより良い暮らしの兆しじゃ止まれねぇって話をしてたんだぜ?」

 

「はい、聞いていましたよ。逆にお聞きしますが……

 

 皆様は、ちんけな花火で中央政府を怒らせて、それで満足なのでしょうか?」

 

「……NOだと言ったら?」

 

 クロウの返答に関わらずか、アドルフは握り拳を上げてクロウに向けて軽く突き出される。パンチの形になるそれは、リーチの短さとクロウとの距離から、到底届くものではなかったそれを二回ほど繰り出される。

 

「えいえい! 怒った? ……と1、2回のちょっかいであれば中央政府も、怒ってないよ。とまぁ、目を瞑ってもらえるかもしれません。ですが3回目、4回目は? ……いや、そもそも1、2回目の時点で許してもらえる保証もありませんね」

 

「奴らの短気さたるやカバとどっこいだからな。だが、現状アウトローが出来る唯一の表現方法だ」

 

「問題なのは、その規模です。AFX爆破テロを経て、人的資源を狙い撃ちにするテロは徹底的に対策されるようになりました。奴らはもう同じ手を食らわない」

 

「……おい、ちょっと待て。さっきから聞いてれば、想像以上に物騒な事言うじゃないか。過激派だって、一応はアウターリムの未来っていう建前があるんだぜ?

 

 ……そろそろ核心の所を聞かせろ。お前、一体何を前提に話をしてるんだ?」

 

 じれったさが貧乏揺すりに表れているクロウを尻目に、アドルフはコーヒーをひと口。砂糖も疑似ミルクもアウターリムでは希少な物になるそれが多めに入れられたコーヒーは、クロウを二重の意味で虫唾を走らせる。

 

「戦争」

 

 散々待たされて、やっとアドルフの口から放たれたそれを、クロウは可能性から完全に省いていたわけではなかった。だが耳を疑う発言だったのには違いなかった。無意識の内にか、一瞬目を見開いた。

 

 元から碌に話を聞いていないジャッカルはいつも通りにしているが、バイパーはクロウと似たリアクションをしていた。

 

「アウトローの自由にアーク、及び中央政府が邪魔なのであれば、その大本を叩けばよろしい。エニックの破壊だとか、中央政府の行政施設の破壊だとか、そういう小手先の策じゃない。アークとアウターリム間での戦争による武力制圧。これで中央政府を徹底的に解体する」

 

 傍から見れば真面ではないだろう。中央政府の完全解体という話もそうだが、エニックの破壊を小手先の策と言い切るアドルフに一般人が聞けば戦慄せざるを得ない。

 

「お前……正気か?」

 

「元々アウターリムに社会秩序を作ろうという話自体シラフかどうか疑わしいでしょう? 今更過ぎる指摘です」

 

 クロウは人差し指で側頭をトントンと何度か叩いて考え込む。アウターリム、社会秩序、そして戦争。クロウはそれを一つに繋げる。

 

「……つまりこういう事か? アウターリムに自分達の政府を作り、自分達の元でアウトローを統率し、そして大勢のアウトローを率いてアークに殴り込みすると?」

 

「加えて言えば、アウターリム内で独自の経済圏を構築する事で、国力を高め、アークに対抗しうる軍隊を作り上げる。そういう構想も、或いは可能ではないかと」

 

「……」

 

 クロウは考え込んで、アドルフが言うような筋書きのifを想像してみる。

 

 憎悪に塗れたアウトローと、死にたくない一心で何でもやるであろうアーク。

 

 長い事人間の闇を見続けたクロウの経験をもとに考えて、それらが衝突する事で起こりえる未来……それは……

 

「…………っ」

 

 過激派でさえ戦慄する未来であり、クロウにとっては垂涎物の結末。……と、そこまで考えて心の中で首を横に振った。

 

 それはクロウにとってピンポイント過ぎる。そこが引っかかった。

 

 恐らく目の前の10歳超えてるかも怪しいように見える子供は、こちらが求めるニーズを1%のズレもなく理解している。

 

 こんなお人好しのガキに見破られた。E・Hにだって自分の本性を見破られたことはなかったというのに。その衝撃にプラスして提示された魅力的なifで、()()()な部分が頭から離れかけた。

 

(このガキ……意地でも話を利害の一致に持ってくつもりか)

 

 クロウは一旦頭を落ち着ける。アドルフがどういう方向性で話を進めようとしてるのかは分かった。それに合わせるだけ。何も難しい事はない。

 

「見え透いた芝居はもう止めな。お前がそれを望んでないのは分かってる」

 

「おや、そう見えますか?」

 

「お前、孤児院に通いつめてるだろ。そこでガキの病気を治療してる。戦争を望んでる人間がやる事か? どう考えたって戦争の準備の方を優先するべきだろう」

 

「長期的な戦争を見据えて、より多くの人的資源を活用する為の先行投資……という考え方も出来ますよ?」

 

「詭弁が過ぎるんじゃないか? 武器弾薬の調達と人間の治療、コストとリターンを比較してコストパフォーマンスが優れてるのはどちらか、火を見るよりも明らかだろう?」

 

 毛沢東曰く、人を保ち土地を失ったならば土地は再び取り返すことができる。土地を保ち人を失ったならば土地と人の両方を失うことになる。そんな名言を残しており、アドルフはそれを持ち出して言い返す事も出来たが、成程確かに詭弁じみていると本人も感じており、反論を切り上げた。

 

「まぁ、私が実際の所どう考えているかはさして重要ではないでしょう。問題は、私のマーケティングを貴女がどう思うかです」

 

 ニッコリと笑顔でそう宣うアドルフの顔には、ほんのりと陰りがあるようにクロウの目には見えた。

 

 クロウは考え込む。建築物の設計図や薬の制作、アドルフの実績の数々から一定の科学知識が備わっているのは最早疑いようがない。

 

 知識の出所はアークに違いない。だからこそクロウはアウターリムとアークを自由に行き来できる身分である自分だからこそアドルフの背後関係を洗う事が出来るだろうと踏んだ。

 

 所がどうだ。そんなアドバンテージがあってなお何一つ成果が出ないではないか。

 

 クロウですら知りえないような闇を通じてアドルフとアークは繋がっている。そう結論を出すまでに随分と時間を無駄にしてしまっていた。おかげでエンターヘヴンは取り返しがつかない所までアドルフの浸食が進んでしまった。

 

 クロウはアドルフの背後関係を掌握してコントロールを得るという欲張りな狙いを後悔した。アドルフは半数ほどのエンターヘヴン構成員から信頼されている以上今ここでエキゾチックとしての()()をすれば、穏健派と過激派との反目は決定的になり、エンターヘヴンは組織としてズタズタになるだろう。そうなれば自分の計画に重大な支障が出る。

 

 その上、アドルフはクロウに手を組むメリットを提示している。それはもう分かりやすい程に自分に向けられている。

 

 話を呑め話を呑めとアドルフが、そして状況がそれを何度も推奨している。

 

 クロウからすれば全くもって面白くない。結局の所相手の思惑通りに動いてしまっている。

 

「……まだ片付いてない問題がある」

 

「と言いますと?」

 

「戦争ねぇ。確かにそれは最上級のパフォーマンスになるだろう。戦力差がありすぎるという点に目を瞑ればな」

 

「戦力差ですか……」

 

「そもそもアークに勝てる前提で話をしてるのがおかしいんだ。アウターリムの10倍の人口による物資の生産力、アウターリムじゃ作れないものを作れる技術力、AZXによる戦場への物資輸送能力、そしてなにより戦争するなら絶対に負けちゃいけない分野で決定的に負けてる」

 

「ニケの数ですね……」

 

「そう。人類がラプチャーにボロ負けした理由を知らない訳じゃないだろう? 戦争となれば、それだけ数の差は勝敗を左右する。ハッキリ言うぞ。アウターリムは、アークと戦争しても万が一にも勝算はない。

 

 ……それでも戦争したいってんなら、お前はアウターリムの敵だ」

 

 アウターリムの敵……と言われて、ポーカーフェイスに徹していたアドルフも流石にコーヒーカップを持つ指に力が入り、血管が少し浮き出た。

 

『どの口が……』

 

 この場にいる全員に分からないよう日本語でそう呟いた。

 

 クロウの指摘は間違っていないのかもしれない。どれだけ正当化したって結局の所アドルフがしている事は、アークとの戦争の可能性を孕む。アウターリムを危険に晒しやがってという糾弾には何も反論できないだろう。

 

 尤も、破滅主義者にだけは言われたくはなかっただろうが……

 

「戦争になるとしたら、まず中央政府が我々の存在を危険視して部隊を派遣して殲滅、我々はそれを迎撃する……アウターリムを戦場にした防衛戦になるでしょう。であれば地形で有利を取ってゲリラ戦を使えます」

 

「では肝心の戦力は? ニケは頭を撃ち抜かないと死なないのに対して、人間は銃弾一発で取り返しのつかない負傷を負う可能性を常に孕んでいる。ただでさえ人口で負けてんだ。消耗戦になったら勝ち目はない」

 

 ここだ。とアドルフは思った。

 

 恐らくここが交渉戦の分岐点。絶望の未来に至る為の希望を、クロウにアピールする必要がある。

 

 アドルフは今日ここに至るまでに、浄水場の建築を指導、孤児院で病気に苦しむ子供の治療、エンターヘヴンが運営する地下農場の運営指導と一定の技術が必要な難事をやってきたが、これはアドルフに一定の技術、科学知識を有しているというアピールという側面もあった。

 

 

 

「…………ニケの製造技術は、中央政府が必死になって隠す最高機密。ですが、それでも人間が作った技術に変わりません。

 

 ……不可能では、ない筈です!」

 

 

 

 だから、この言葉にもある程度の説得力を持たせられるという期待も出来るだろう。

 

 アドルフの言葉を聞いたクロウは、暫く考え込み、そして目を見開いた。

 

 今クロウはどのような事を考えている? どれ程碌でもない悪巧みをしている? そもそもアドルフの言葉を、どう受け止めているのか?

 

(今まで実績を積み重ねてきた。その上私の排除に、エンターヘヴンの弱体化という重大なデメリットを追加した。手応えはある筈だ。だが……)

 

 クロウは目を見開いた後、直ぐに表情を戻して考え込む。人差し指でこめかみをトン、トン、と軽く叩きながらアドルフを見つめる様子に、アドルフはただならぬ威圧感を前にポーカーフェイスが崩れていないか気が気ではなかった。

 

(コイツが私の示唆したifよりも、自分の進めているテロ計画を優先したら……

 

 その時は話は終わりだ。別室で待機しているギュンターの指揮の元、新しく作ったニケ15人と、エンターヘヴンが持っているなけなしのニケ戦力の中から穏健派に靡いたニケ7人を足した、合計36名のニケ戦力。

 

 エンターヘヴンが弱体化するのが望ましくないのはこちらも同じ。その上間違いなく中央政府はダークヴェールという名前を徹底的に調べ上げる。自宅の地下を爆破して証拠隠滅をした後、何処かへ雲隠れ、最悪地上でサバイバルをする必要性に迫られる。

 

 そこに目を瞑ってでもこの戦力でもって今ここでクロウをブッ殺すッ!! 邪魔になるならバイパーとジャッカルも諸共だ!!)

 

 叫びだしたくなるほどの痛々しい沈黙、いよいよアドルフの精神にも限界が近づいてきている。アドルフを守るニケ三人も、心の中で銃のトリガーに指を掛けた。

 

 どうなる……? とアドルフの護衛ニケ三名、そしてバイパーも、この場を見つめていた。

 

 重圧で押しつぶされそうになる程の重苦しい空気。その中先に言葉を口にしたのはクロウだった。

 

「……お前さんの要求は、過激派の粛清と、エキゾチックの立場から中央政府の目線をアウターリムから逸らす事……でいいんだな?」

 

「表現は正確に、ですよ。これは要求ではなく、我々がこれからやらなければならない仕事と言うべきでしょう」

 

「あくまでも、利害の一致……って訳だな」

 

 クロウが今吸っている煙草を灰皿に捨てて立ち上がった。

 

「話は分かった。いいだろう。エンターヘヴン、そしてアウターリムの為に、そしてお互いの為に出来る事をしよう」

 

 話が纏まった。そう判断して一息つくアドルフ――その瞬間だった。クロウの手がアドルフの胸倉に手を伸ばし、引き寄せる。手を伸ばした時点でアドルフを護衛する三人は銃を突きつけたが、クロウはその銃を全く恐れていなかった。

 

 何時から、そんな表情をしていたのだろうか。口を横に広く、三日月の様に歪めて笑うクロウのその顔は、狂気の一言に尽きた。かっぴらく目から見える暗い緑の瞳は、真っ直ぐアドルフを見つめていた。

 

 そんなアドルフは、胸倉を掴まれてなお苦悶の表情を浮かべなかった。張り付けた笑顔は剥がれ、目を細めてクロウを睨みつける。

 

「いいかアドルフ……あたしがこの話を飲んだのは、()()()()()()()()()()()からじゃない。お前が面白いからだ。……頑張ろうな、アドルフ? お互いの為にも……」

 

 それだけ言い残してパッと手を放した。

 

 咳き込みつつも席に戻るアドルフを、護衛三人は庇うように手で塞ぐ。三人の鋭い眼光がクロウを睨みつける。

 

「ちょっとした冗談だ。銃を下してくれよ、おっかないな……そうだ、詫びって訳じゃないが、コイツを見せておこうか」

 

 ただし、ここだけの話にしてくれよ? コイツは後で使い道があるからな。と言って一つの資料をアドルフに向けてスライド。丁度目の前で止まった資料を、レイチェルは静止しようとしたがその前にアドルフが手に取る。

 

「ッ……おい、これ……!」

 

 アドルフが資料を読むのをレイチェルが覗き込むと、それにはアドルフを酒場に呼びつけ、爆弾で暗殺するという内容の計画書であった。しかも4日後に実行される予定だったらしい。

 

「テメェら……! あれだけ物を貰っといてよくも!」

 

「それだけ邪魔に思われてたってこったな……話に応じてくれて本当に感謝してるぜ? タイムリミットが迫ってたもんでな」

 

「……使い道と言いましたね。これを何に使うつもりですか?」

 

「それは些かあたしの口からは言いたくないな……漏れるとちょっと面倒だ。ただ、一週間時間をくれ。約束してやる。ハッキリ目に見える形で過激派を弱らせてやろう」

 

 話は済んだとばかりにこの場を後にしようとするクロウ、その後を付いていくジャッカルとバイパーはこの部屋から退室しようとする。その間にも護衛三人は銃を向けたままだった。

 

 ふと、クロウとリーゼロッテの目が合う。

 

「……お前、名前なんて言うんだ?」

 

 突然の事で少し面食らったが、リーゼロッテはすぐに平常心を取り戻す。

 

「……リーゼロッテ」

 

「リーゼロッテ……ねぇ。

 

 ――確かブラッドストリート地区で開かれてた人間オークションでそんな名前の女が売りに出されてたな」

 

 アドルフの動きが一瞬固まった。

 

「……いや、そいつは硫酸を掛けられていたのか顔に酷い火傷の跡があったな。……何でもない。名前がダブるなんてよくある話だな」

 

 その言葉を最後に、エキゾチックは部屋を出る。

 

 リーゼロッテは二重の意味で出ていくドアから目が離せず、アドルフは手で顔を押さえながらため息を一つ。

 

 やはり見抜かれるか。そう言いたげに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アドルフとの話し合いが、手を組むという方向性で纏まった。

 

 その後クロウは、点在するエンターヘヴンのアジトの一つに腰かけて体を休める。

 

 瞼を閉じると目に浮かぶのは、吐き気を催す程の善人。

 

 自分にとってもメリットがあると本人はある種の言い訳をするだろうが、ただ単純に人を助けたいと思ってああいう善行をしているというのは明らかだった。

 

 アークのよそ者とも違う。まるで、別の世界から来たように思えた。人間の醜さを分かっているようで分かっていない、アウターリムは勿論アークで学んできた倫理観とも思えない図抜けたお人好し。

 

 この世の物ではないかのようで気味の悪ささえ覚えていた。

 

 だが……

 

「…………ック、クッフッフ……」

 

 その気味の悪さが、今は逆に心地よかった。

 

「クッハッハッハッハ!!!!! ハハハハハハハハハ!!!!!!!」

 

 アレだ。まさに自分が探し求めていたのは。

 

 思想、能力、出自、全ての条件がドンピシャかもしれない。

 

『…………ニケの製造技術は、中央政府が必死になって隠す最高機密。ですが、それでも人間が作った技術に変わりません。

 

 ……不可能では、ない筈です!』

 

 あの言葉を聞いてから必死に喉から押さえつけていた狂気的感情が漏れ出る。

 

「アハハハハッハ!! ハァー…………なぁバイパー、聞いたか」

 

「うん、ばっちり」

 

「奴め……とんでもないタイミングで嘘付きやがったな!! アハハハハッハ!!」

 

 ドン! ドン!と拳がテーブルを叩き付ける。テーブルの上に置かれていたグラスはけたたましく鳴り、破砕音が鳴り響くがクロウは気にも留めない。

 

「あそこは、ニケを作るだけの技術を整える気はないという嘘とも考えられる。でも違うんだ! そうじゃない、そうじゃないんだよ!!」

 

 クロウやバイパー程闇を知ると、一般人が相手であれば嘘をついているかどうかは表情を見れば何となく分かる。その点アドルフはお世辞にもポーカーフェイスは上手とは言い難かった。

 

「もしももう一つの可能性がそうなら、ああ全く、パズルのデカいピースが一つハマった! 最大の謎だった調達ルートの答えがそれか! そんなもの最初からなかった訳だ!!」

 

 一杯食わされたという不快感は確かにある。だが最早クロウの情緒はそれどころではなかった。

 

「傑作だ! 中央政府がひた隠しにしてきた秘密の一つに、アウトローの身で行き付いた訳だ! アレは一体何なんだ!? 謎の多い奴だ! だがここまで分かれば十分だ!」

 

 狂気的な笑みを、バイパーに戻しもせずに向けた。

 

「なぁバイパー、地上時代にドクソ戦っていう戦いがあったのは知ってるか?」

 

「ん~? いや、地上時代の事はそこまで詳しくないから」

 

「理性が月の彼方までぶっ飛んだ二人の独裁者によるイカれた戦争さ。この一連の戦争だけで3000万が死んだらしい。

 

 ――人類には、もう一度それをやってもらう」

 

 仲間以外には聞かせられないだろう。3000万人が死ぬ程の大戦争。そんな事になれば今度こそ人類は終わりだ。万が一にも可能性すら残せまい。

 

「ああ、今から待ち遠しい! 自分のせいで『絶滅戦争』が起きてしまったと知った時、アイツは一体どんな顔を見せてくれるんだ!?」

 

 アークとアウターリム間での絶滅戦争。クロウはその未来に命を賭ける。

 

「大事に……大事に育てるぞ、バイパー……エンターヘヴンまで差し出してやるんだ。

 

 強くなってくれなきゃ困るさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……行きましたか?」

 

「そのようだ。アジトの一つに戻っていった」

 

「盗聴器の類は?」

 

「ずっと見張ってた。そんな物仕掛ける暇も仕草もなかった筈だ」

 

 アドルフが幾つか尋ねた後、すっと立ち上がる。だが三人からはアドルフの表情が影が掛かってよく見えない。

 

 アドルフが立ち上がって数歩歩いた後――

 

 

 

「畜生ッ!!!!」

 

 

 

 突然テーブルを一蹴り。乱暴に蹴り飛ばされたテーブルはバキリと嫌な音を鳴らし、と同時にテーブルの上にあったグラスは砕け、クロウが煙草の処理に使っていた灰皿から煙草が飛び散り、燃えカスが宙を舞う。

 

 三人はその怒号と暴力に驚愕したが、アドルフは必死に抑えた怒りでそれどころではなかった。

 

「クソッ!!クソ、クソ、クソッ!!! E・Hにその上でどうしてもって頼まれなきゃ、あんなドブカス、モルモットにしてやったのに!!」

 

 アドルフが激高するのは今回が初めてではないが、アドルフといつも時を共にする彼女達にとっては今回は輪にかけて酷い。倒れたテーブルにまるで死体蹴りをするかの如く八つ当たりした。

 

「……アドルフ」

 

「ええ、分かっています。分かっていますとも!! これから活動していくにあたって、どうしても中央政府のヘイトをある程度コントロール出来る人間が必要。エンターヘヴンを統一する意味でも、これからの活動に目を瞑ってもらう意味でも、ああ全く合理的だ! 質が悪い!」

 

 自分達がやった事はあくまでも目を瞑った方がメリットが大きいという可能性の提示でしかなく、この手を組む行為自体に何ら強制力が生じる訳でもない。

 

 それでもエキゾチックという最大の懸念点は、二重の意味でこれでヨシとするほかなかった。

 

 これ以上に手の打ちようがない。そしてアドルフはエキゾチックにばかりかかずらっている訳にも行かない。

 

 アンダーワールドクイーン、バッドドリーム、カルト教団、そして中央政府。自分達の敵はいくらでもいる。

 

(だが絶対にこれで終わりにはしないぞ……今回手を組むというE・Hの要望には、起業時点で諜報機関を創設、育成を約束するという交換条件とした。勿論この組織はエキゾチック……特にクロウを監視する為の機関となる。

 

 奴が動くとしたら……恐らく分水嶺は、中央政府と殴り合う直前()()()()。殴り合って以降の話だ。……殴り合いなんて未来はあまり考えたくはないがな。

 

 その前に必ず奴を殺す。事を起こす前に必ず殺す。必ず殺さねばならない!)

 

 

 

 

 

 

 

「楽しみにしていろ? アドルフ……」

 

「今に見ていろ、クロウ……!」

 

 

 

「「この物語は――」」

 

 

 

「バッドエンドで終幕だ……!」

 

「必ずハッピーエンドで終わらせるッ!!」




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遺失物

とある男の手記1
今日も今日とて死体探し。死体は高く売れるんだ。特に新鮮な物はな……女はニケに、男は何に使ってるのかは知らんが……兎に角中央政府は死体が入り用のようだ。だから昨日は殺しまでやって死体を売った。おかげでそれなりに餓えからは逃れられそうだ。いゃあ、中央政府様には頭が上がらねぇな。

とある男の手記2
ダークヴェールのクソガキが! ふざけやがって!! 死にかけのメスガキにトドメを刺して何が悪い!? 腐った目玉からウジが湧いてて手足は壊死してた! どうみても時間の問題だったじゃないか! 治療するから寄越せだと!? 政府からの金が欲しいから奪い取っただけだろうが!
……クソッ! 取り返そうにも何故か付き従ってるニケが邪魔だ。何か……何かヤツの弱みを握れないのか……?

とある男の手記3
状況は思っていたより深刻だ……ダークヴェールのヤツがエンターヘヴンの連中とつるむようになってから、死にかけてる人間を根こそぎ持っていきやがった……! 女は特にだ。アレが一番高く売れるってのに、こんな事されちゃ商売あがったりだ! 同業者はもう奴がいる地区からは離れたようだが、エンターヘヴンと手を組んだ以上奴の魔の手が全ての地区に伸びるのも時間の問題だ……何とかしないと、明日から食べていけないぞ……!

とある男の手記4
吉報だ! どうやらエンターヘヴンも一枚岩じゃないらしい。ダークヴェール派と反ダークヴェール派で分かれているようだ。今日その反ダークヴェール派とコンタクトを取れた。暗殺するから手を貸してくれと。願ってもない! 今日の俺は神に愛されている。ザマァないぜダークヴェールのクソガキめ! 営業妨害を抜きにしても気に入らなかったんだ! 善人ぶりやがって、ヤツのせいで何人餓え死んだと思ってやがる! 兎も角乾杯だ! 酒が美味いぞ!!

とある男の手記5
(血で汚れて全く読めない)
アドルフ様は神ですアドルフ様は全てをお救いくださいますアドルフ様は神です我々はアドルフ様のお慈悲によって生かされていますアドルフ様は神ですアークの魔の手から我らをお救いくださいますアドルフ様は神ですアドルフ様は神ですアドルフ様は神ですアドルフ様は神ですアドルフ様は神ですアドルフ様は神ですアドルフ様は神ですアドルフ様は神ですアドルフ様は神ですアドルフ様は神ですアドルフ様は神ですアドルフ様は神ですアドルフ様は神ですアドルフ様は神ですアドルフ様は神ですアドルフ様は神ですアドルフ様は神ですアドルフ様は神です
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