四大企業 アトラース   作:スキル素材年中枯渇ニキ

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今日もお待たせしました……


15:エンターヘヴンなら、負けると分かっていても戦わねばならない時がある。

 エキゾチックと手を組んでから数日経つが、幸か不幸か早速効果が現れ始めていた。

 

 結論から言おう。手を組んで二日で過激派の幹部が軒並み死んだ。

 

 一体クロウはどんな工作を行ったのやら、私を暗殺する為の爆破計画の予定が二日()()()になったらしく、爆破予定となっていた当時の酒場に()()過激派の幹部が全員そろって話し合いをしていて、爆破工作員と過激派幹部の致命的な()()()()()の結果、幹部が居座っているタイミングで起爆してしまったのだ。

 

 過激派の頭脳達が粉微塵になった事で過激派は大混乱。そんな中でも犯人捜しは行われたが、爆弾設置と起爆役を一手に引き受けていた男は未だに()()()()()()()()

 

 勿論この件に関して穏健派は相当疑われたが、勿論E・H、ギュンター、そして私も爆破工作員とやり取りを行っていた証拠などないし、そんな事実はありはしないし、なんならその爆破工作員は誰が担当していたかすら私達は知らない。爆破計画に関する情報など持っていない穏健派にこの犯行は不可能だ。

 

 ……何て、そんな自己弁護をしても頭が吹っ飛んだ過激派には馬の耳に念仏だ。何ならこれから滅ぶ派閥に丁寧に説明してやるメリットもない。

 

 さて、これからの過激派だったが、最後の希望としてエキゾチックに頼り始める……が……

 

「お前らが報連相も満足にできない無能だとは思わなかった。それに恩を仇で返すような真似を恥ずかしげもなく出来るとはな……失せろ。もう面倒見切れない」

 

 と切り捨てたし、何ならもう穏健派に鞍替えした事を公言してしまっている。

 

 当てが外れに外れまくった過激派はてんやわんや。真面な組織行動すら覚覚束なくなった。

 

 そんな中でもまだ私を暗殺しようという試みはあったようだが、奴らは最早それどころではない。

 

 クロウの提供によってE・Hの手元にある私の暗殺計画書。それを突きつけて「組織活動を損ね、義理人情の欠片もない恥晒しを断じて許しはしない!」と粛清を宣言。過激派の内、心を入れ替え、一からやり直して働く事を申し出て誓った人間以外は全員飲み込まれていった。

 

 過激派と穏健派、前とは立場がひっくり返るのは時間の問題だろう。

 

 そんな粛清劇が起きたために、過激派が管理していたコレも私の手元に転がり込んできた訳だ。

 

 アルトアイゼン。

 

 NIKKE民にとってはお馴染みの最古参ボスの暴走機関車だ。ストーリーでは詳しい事は語られなかったが、エンターヘヴンが建造したが、ラプチャーに乗っ取られた結果タイラント級ラプチャーとして暴れまわる事になったという設定があった筈だ。

 

 見込み通り、そのアルトアイゼンはまだ未完成。ラプチャーに乗っ取られる前という訳だ。

 

 使い所がある為私は放棄されたアルトアイゼンを調査。設定通りならラプチャーの乗っ取り対策を施さなければならない為絶対に私の手で調整は加えたかった。

 

「……これではダメですね」

 

 なけなしの物資で努力してきた人達には悪いが、私の目から見ると乗っ取り対策に目を瞑ったとしても些か杜撰な設計だった。

 

「エンジンルームの排熱が甘いです。これではすぐにオーバーヒートするでしょう。エンジン廻りの部品が焼けてダメになります。それにこの誘導輪の形状もいけません。泥や砂が詰まる形をしています。アーク内で走らせるなら兎も角、地上で走らせたらすぐ動かなくなります。……そして一番まずいのが、CPUが剝き出しな事です。ハッキングに対してノーガードなのですぐに乗っ取られます」

 

 私はエンターヘヴンの中で技術者を志すメンバーに対して欠陥を説明した。現状彼らはやる気だけはあるという状態で、基礎知識すら身に付けていなかった。

 

 そんな彼らに逐一疑問点を解消させていた。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥という金言を兎に角徹底的に言い聞かせる。

 

「これはもういっその事一旦バラした方がいいですね。最悪一から作り直しです」

 

「だ、だがそれじゃあ時間がかかりすぎるんじゃないか?」

 

「事故や故障の可能性の方がもっとマズいんですよ。ましてやこんなデカい物が時速120キロ以上の速さで走る想定の設計なのでしょう?こんな物が事故を起こせば、被害は10人や20人じゃ済みませんよ?」

 

「そ、それは……」

 

「それに、長く使うなら素材も厳選すべきです。例の鉱脈はもう自由に使えると考えていいんですよね?」

 

「そうだな。幹部達の合意が必要だと思うが、反対する理由はないだろう」

 

「でしたら、ここでふんだんに使ってしまうべきです。私も、鉱脈から手に入る鉱石を調べてから設計図を描く時間も欲しいですし、折角ですから徹底的に質を追求しましょう」

 

 ほぼほぼ一から作り直しというレベルの有様では本末転倒なのだが、それでも地上に走らせるなら一騎当千の戦闘力を持たせるべきだ。最低でも原作のアルトアイゼンレベルは強くするぞ。

 

 武装は現状タレットだけ。ここから対地、対空ミサイル、ビーム主砲を搭載。速度も240キロは出したい。となると履帯周りも改めて設計し直さないと……

 

「みんな頑張ってるし、私も頑張らないと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ、ハァッ」

 

 走る。走る。

 

 思考転換防止として一定以上激しい運動をすれば、鼓動が多少早まるようになっているという話は二人ともアドルフから聞かされていた。

 

 各々はこの息切れを煩わしいと多かれ少なかれ考えた事はあるだろうが、思考転換を甘く見るなとアドルフ、そして今自分達を指揮しているギュンターからも念を押されている。

 

 ならばもう少し猶予を持たせて走らせて欲しいとも愚痴りたくなるが、つまりこのような常態化した理不尽から身を守る術を身につけろという事だろう。

 

 もしも、アドルフがアウターリムで秩序を取り戻せば、自分達はおそらく軍人か、それに近い職務に従事する事になるのだろう。

 

 今の内に慣れておかなければ、とリーゼロッテは配置につく。ハルカもそれに続いた。

 

 場所はボロビルの3階の窓。多くの対象をドンピシャで狙撃できる位置だった。リーゼロッテはライフルを構え、ハルカは双眼鏡で観測に努める。

 

「ハルカ、距離は?」

 

「ろ、620mです! で、ですが、バリケードが邪魔で狙えません!」

 

「次の狙撃ポイントはここと決めたのは『指揮官』の判断よ。分かってて配置したなら、何かもう一声ある筈だけど……」

 

 噂をすればというやつか、ハルカのポケットが震える。アドルフがニケ全員に支給したスマホだ。

 

 

 

14:37

 

<指揮官

指揮官

目標地点に到達したか?

は、はい!

ですがバリケードが邪魔で狙撃できません!

指揮官

少し待て

ロケットランチャーを持ったレアがすぐに作戦区域に到達する

バリケードを破壊するまで待機せよ

り、了解です!

 

 BlaBlaメッセンジャーでそのようなやり取りが行われる。

 

 まさか自分達を指揮する指揮官がバリケード程度で作戦が狂うような知略をしていなかったという事実に安堵しつつ、ハルカは双眼鏡で目標に目を向けた。

 

 通常、狙撃手は観測手と行動を共にする。これは狙撃手がスコープに集中する事による視野狭窄をカバーする他、目標の発見と識別、弾着観測射撃、周囲警戒、狙撃条件の計算とやる事が非常に多い為である。リーゼロッテも人類全体で見てもかなり要領のいい人間ではあったが、それでも単独狙撃というのは余程状況が切迫していない限りはとてもではないが推奨されるものではなかった。

 

 だがハルカもリーゼロッテも、アウターリムという特殊な環境故そこまで重労働には感じていなかった。

 

 アウターリムには風がない。アウトローに鬱症状を引き起こすこの何一つ配慮のない環境は、しかし狙撃手に限って言えば大変都合の宜しい物であった。

 

 600m以上離れていれば、ただのそよ風一つで着弾地点は大きく左右される。だがアウターリムに限って言えば狙撃を妨害する最大の障害が存在しない。

 

 寧ろ、光源が少ないという問題の方が大きかった。

 

 1、2個蛍光灯があるだけの状態、この頼りない光を頼りに、リーゼロッテはスコープを覗き、ハルカは双眼鏡で見張り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アウターリムの裏路地、どうしてこうなった。と、男の顔にそう書かれていた。

 

 決まっている。ダークヴェールがエンターヘヴンの元を訪れてからだ。それ以来エンターヘヴンは全て壊れた。

 

 ダークヴェールを殺す事が恥晒しだと、エンターヘヴンのリーダーは言う。だが過激派達にとっては大きな間違いであった。

 

 ダークヴェールはエンターヘヴンを我が物にしようと魔の手を伸ばし、結果見事に隅々に至るまで浸食された。ならば今血を流してでも浄化し、自分達の組織を取り戻すのは崇高な使命ではないか。いくつもの言い訳が男の頭をよぎる。

 

 だが全ては失敗に終わってしまっていた。何故爆破のタイミングが二日早まった? 何故よりにもよって幹部が揃っているタイミングで起爆された? そこに重大な陰謀が隠されているという確信があったが、今彼らは最早それ所ではない。

 

「隊長、来ます! 奴ら到頭(とうとう)総攻めに出る気だ!」

 

 過激派内でエンターヘヴンを預かっているという事になっている男がいる。目の前の紛い物を打ち倒し、真のエンターヘヴンを取り戻すという使命を帯びて一筋の希望に縋る。

 

「耐えるんだ、同志達! 射撃して応戦しつつバリケードで道を塞げ! テーブルでも木箱でも使えそうなら全部詰め込め!」

 

「駄目です! 奴らニケを前衛として押し出してきてる! 銃が効かない!」

 

「隊長! 対ニケ用銃を撃たせてください! このままじゃ突破は時間の問題です!」

 

「距離が遠い! 確実に頭かコアに命中する距離まで引き付けるんだ。待ち伏せは継続する!」

 

「クソッ、ダークヴェールめ! ニケがいなけりゃお前なんか!!」

 

 悲痛な現状が士気を蝕む。逃げるという勝ち筋さえ見いだせていなかった。

 

 生きてさえいれば、希望はある。そう信じての籠城だったが、当然粛清を決めたE・Hにとっては逃げられれば面倒というのは百も承知であり、そうは問屋が卸さなかった。だから彼らはこうして包囲下に置かれている。

 

 バアアアアアアンッ!!

 

 爆発音が鼓膜を震わせる。木材や鉄の破片が飛び散る音も同時に聞こえていた。

 

「何の爆発だ!?」

 

「ロケットランチャーです! バリケードを破壊されました!」

 

「ロケットランチャーだと……!? 奴らめ、かつての同志を殺す為にそんな物まで持ち出してきたのか!」

 

「不味いです! さっきの爆発で待ち伏せしていたヤツもやられました!」

 

「何だと!? 対ニケ用銃は数が少なかったのに――」

 

 悪い報告は続く。爆発がロケットランチャーだと警告した男の頭が、瞬きする間に弾け飛んだ。

 

 頭の肉片が飛び散り、何かの白い破片が頬を掠める。それが頭蓋骨の破片だと気づいた時には、危機を察知して物陰に隠れていた。

 

「頭を下げろ! 狙撃だ!」

 

 そう指示するも、間に合う人間と間に合わなかった人間が半々であった。恐怖で右往左往する内に狙撃の餌食になる、逃げだそうとして背中を見せて銃撃を受けた人間で死体が積み上げられる。

 

「……ッ、後退する! 最終防衛ラインまで後退しろ!」

 

 戦線を支えきれないと悟った暫定隊長の男は後退を決意。殿に守りを任せて裏路地の奥へ進む。

 

「……! 隊長」

 

 最終防衛ラインのバリケードを設営していた組員達が前線で戦っていた組員達を見た。

 

 良くも悪くも、酷い顔をしていた。これから死にに行く人間の目だ。ああいう目を見た事があった。アークで自爆テロを決意する人間の目だ。

 

「すまない……結局ここが死地になりそうだ」

 

「……いえ、まだここで終わらせません」

 

「しかし……」

 

「隊長、聞いてください! さっきロイドの奴が、一か所だけ包囲網の抜け穴を見つけました! ブラッドストリート地区方面の道に敵がいませんでした!」

 

「何!? それは本当か?」

 

「はい! 隊長、諦めるには早すぎます。何年掛かろうと、生きてさえいれば再起を図れます!」

 

「そう……そうだな。その通りだ……よし、同志たちよ、聞いたな!? 今回は負けた。エンターヘヴンはダークヴェールによって侵された。だが闘志は消えない! 我々がいる限り! どれだけ時間がかかろうと、必ずダークヴェールの魔の手からエンターヘヴンを取り戻す! それまで……耐えてくれ!」

 

 隊長格の男が包囲網の突破を指示。道を知っているというロイドという男を前に行かせて道案内をさせる。

 

 生きてさえいれば、確率の大小はあれど必ず希望は生まれる。ならば諦める理由などない。ダークヴェールからエンターヘヴンを取り戻し、アークに報復する。それが今まで散っていった同志に対する唯一の手向けであり、正義なのである。

 

 全員が、そういう共通認識を持っていた。ある種の歪な友情が男達を団結させていた。

 

 ……唯一の光明が、罠とも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官!」

 

 レイチェルがスマホで逐次に指示を出すギュンターに声を掛けた。

 

「あんたの想定通りに動いたぜ。連中は敢えて開けた一か所の抜け道にゾロゾロと入り込んでる。このまま行けば待ち伏せと衝突する」

 

「……勝負あったな。元から勝敗が決まっていた戦いではあったが」

 

 この戦いの行く末、予測される結末に対して目の前の老人は全く感情を表に出さなかった。レイチェルが覚えているのはいつも無表情か叱咤する時の厳つい表情。ギュンターが今回立てた作戦も、レイチェル自身疑問点があったが態々この堅物相手に進んで雑談しようとは思わなかった。

 

 上官の指揮に兵が疑義を呈するのはよし、反論もよし、されど逆らう事は断じて許されてはならない。目の前の老人からそう叩き込まれたのもある。

 

「……何故こんな回りくどい事をするのかとでも言いたげだな」

 

 態度に出ていただろうか。考えている事までドンピシャで当てられた事に驚愕しつつも丁度いいと話に乗った。

 

「まぁ……正直囲って殴る方が話も早いし分かりやすいって思うんだがな」

 

「フム……言ってしまえば、いたずらに被害を出さない為だ。お前達は貴重なニケという戦力……いや、それを抜きにしてもアドルフからの預かり物だ。万が一があってはならん」

 

「それはどうも。でもニケだぜ? 普通の銃なら痛いで済むし、ちと慎重過ぎるんじゃないか?」

 

「死兵を甘く見るなという話だ。完璧すぎる包囲というのは、実の所得策とは言えん。生還の道を絶たれたと考える故死に物狂いで戦う。追い詰められた鼠は猫をも噛む。敵を必要以上に絶望させてはならんのだ」

 

「そういうもんかね……あ、じゃあ兵糧攻めは? 食いもン無くなったら戦わずに死ぬだろアイツら」

 

「その場合は物資が尽きる前に一点突破にて包囲の脱出を試みるだろう。このように、包囲とは戦わずして敵に消耗を強いる事が出来る反面、常に敵に先手を渡す危険な策なのだ。逃げ道を用意せねば、敵は逆転の一手を試みようとしてしまう。勝てる戦いと分かっている兵は戦闘に消極的になり、逆に追い詰められた兵は死に物狂いで戦い、結果要らぬ被害を出してしまうのだ」

 

「包囲の一点突破ねぇ……やっこさんにそんな指揮能力があるとは思えねぇが」

 

 レイチェルの感覚は正しい。事実敵の隊長は暫定的に任されているだけで、過激派の首脳と言える幹部達は全員爆死している。暫定的に組織を任された人間がどれほど優れた指揮を行えるか甚だ疑問であるというのは、ギュンターも否定する所ではなかった。

 

「そう面倒がるものではない。万が一被害を受ける可能性を潰す為の策だ。

 

 奴も伊達にエリシオンで軍事訓練を受けてきてはおらん。E・Hなら上手くやるだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、本当に敵がいないぞ! よく見つけたな、ロイド!」

 

 ロイドと呼ばれていた男は嬉しそうに会釈した。

 

 アークに捨てられた粗大ゴミが乱立する広場。酷く足場が悪いが、障害物が多くあるこの場所なら隠れつつ逃げる事が出来るだろう。そこに数十人が押しかける様に走る。

 

 正義は必ず勝つとは誰の言葉だっただろうか。自分達は正義なのは間違いない。ならばこれは、神とかそんな類の存在が施したチャンスなのかもしれないと思った。

 

 ならば必ずそのチャンスを物にしなければと必死だった。走るのに夢中で周りを意識する集中力さえ無い。息が切れて肺に激痛が走るが、そんな事お構いなしに足を動かす。

 

「頑張れ、もうすぐでブラッドストリート地区だ! ここを出たら人混みに紛れて追跡を逃れる!」

 

 暫定隊長の激励に反応した組員の多くは、やっとこの包囲網という地獄から逃れられると思って半笑いだった。かくいう暫定隊長も心の中では笑みを浮かべずにはいられなかった。

 

 誰も、希望という名の気の高ぶりで周囲の警戒どころではなかった。

 

 

 だから、この障害物の多い広間に、大勢の人が隠れ潜んでいる事に気付けない。

 

 

 誰かの視界に、身を隠しながら銃口を向けるニケの姿が映った。それも一人ではない。複数の冷たい瞳がこちらに突き刺すような視線を向けている。

 

 それは、一瞬だった。その姿を視界に映した男が警告をする時間さえなかった。

 

「撃てッ!!!!!!」

 

 聞きなれた女の声。その瞬間乱舞する銃声音、マズルフラッシュ、爆発。過激派達の視界は赤か暗闇のどちらかに支配された。

 

 本当に、ほんの一瞬の事だった。この道を見つけたロイド、自分の事を常に支えてくれていた個人的な友人、我々を正義と信じて加入した新人、全てが鮮血と肉片をまき散らし、物言わぬ肉の塊と成り果てた。

 

 その射撃は徹底的だった。数十人いた過激派はこの一瞬だけで一桁に下回れど収まらず、ついには暫定隊長を残して全員が銃弾の餌食となる。戦慄すべきことに、人間の原形を留めている死体の方が少なかった。

 

「あっ……ガッ……」

 

 その暫定隊長にしても、左足に銃弾を食らって真面に立てない状態だった。

 

 計算され尽くされた殺人。分かっていた筈なのに。E・Hやギュンターがあちら側に付いた時点でこの分野では絶対に勝てない事など。

 

 やっと銃撃が収まる頃には、全てが終わっていた。暫定隊長の耳に未だに銃声がこびり付く中、暫定隊長に近づく者がいる。

 

 アウターリムでは全員が尊敬する女傑。本気でアウターリムの待遇改善を目指した善人にして狂人。それが憎悪に近い感情を持って拳銃を握り締めながら歩み寄る。

 

「E……Hッ……この、裏切り者め……!」

 

「裏切ったのは貴方達よ。ラッセル、本当に残念だわ。個人的に貴方の事は優秀な人材と評価していたから、それだけに自分達の行いを顧みる事すら出来ないなんて本当に残念」

 

「黙れッ! ッ……ダークヴェールに首を垂れるぐらいなら死んでやる!!」

 

「じゃあ死になさい。これからエンターヘヴンは忙しくなるわ。粛清なんかに時間を掛けてる場合じゃないの」

 

「……フッ……ハッ……ハッハッ……ハ……随分とご機嫌斜めだな……そんなにダークヴェールが大事か?」

 

「……命に優劣を付けるつもりはない。でもアドルフは、やっと訪れたチャンスなの。この命に代えても、絶対に失えない」

 

「そんなにダークヴェールが大事か! なら聞かせてくれ。お前、一体ヤツと何回()()んだ? そういえばブス専疑惑があったな。お眼鏡にかなったって事はつまりそういう事か!」

 

 E・Hは怒りに任せてラッセルの手を踏みつけた。指が醜い音を鳴らし、E・Hの足の周りに血が広がる。

 

「そのくだらないセクハラが貴方の辞世の句という事でいいのね?」

 

「後悔するぞE・H!! 今に見ていろ。裏切り者共全員、ダークヴェールに利用されているだけだ! こんな筈ではなかったと嘆く事だろう! 100万クレジット賭けてもいい!」

 

 E・Hは拳銃のトリガーに指を掛ける。セクハラだったり暗殺計画だったり、憎悪が確かにある。だが……その中にも、確かな憐れみもあった。

 

 結局の所、アウトローとは現実という不条理に狂わされた被害者でしかないんだ。その考えが根本からあった。

 

「……最後に聞かせて。貴方、アドルフから何か希望を感じなかったの? エンターヘヴンに光を。それを本当に叶えてくれるかもしれないと、本当に思わなかったの?」

 

 E・Hは、ラッセル個人にではなく、過激派の代表としてこの問いを投げかけたつもりだった。その問いにラッセルはどのような考えに至ったかは推測するしかないが、当の本人は、数秒経った後に目から雫が零れる。

 

「……遅すぎたんだ。希望を抱くには、俺達は絶望に慣れ過ぎた」

 

「……そう。本当に残念。せめて来世では、幸せな人生だといいわね」

 

 パァン

 

 乾いた一発の銃声。後にギュンターの草刈りと呼ばれる粛清劇はこの銃声が終わりの合図となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……確認しました。見える範囲では、生存者はいない筈です」

 

「指揮官は何と言ってるの?」

 

「えっと、ちょっと待ってください……」

 

 過激派の末路を見届けたハルカは、リーゼロッテにそう言われて慌てる様にスマホを見る。BlaBlaのメッセージが来たのは丁度の所だった。

 

15:03

 

<指揮官

指揮官

作戦終了だ。狙撃手を連れて帰還せよ

は、はい!

 

「か、確認しました! 指揮官も作戦が完了したと判断したようです。帰還するようにと」

 

「分かったわ。お疲れ様。観測手って意外と大変だったでしょ?」

 

「は、はい。思っていたよりやる事が多くて――」

 

 リーゼロッテが狙撃銃を担いで帰り支度をする中、ハルカはふと窓をじっと眺めていた。

 

「……」

 

「ハルカ?」

 

「……あっ、いえ、ごめんなさい! 何でもありません!」

 

「……そう? ならいいけど……」

 

 本来、実の所観測手とはベテランが担当する事が多い。ハルカが感じていた様にやる事が非常に多い。その上長年戦いに身を置いてきた経験による勘も頼りになる。そんなポジションにリーゼロッテではなくハルカを置いた采配は、偏に経験を積ませる意味があった為に合理性に欠けるとは言い切れない。

 

 ただそれが、結果論として失態となってしまっただけなのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……見えたか?」

 

「はい、二人組。観測手は……かなりイメチェンが入ってるようですが、恐らくプロダクト08。狙撃手の方は……マイナーなタイプも全部含めて調べましたが、どの量産型の骨格とも一致しません。恐らく、特化型だと思われます」

 

「ダークヴェールは特化型も手に入れられるのか……時間を掛けるとまずいな」

 

「コンシリエーレ、作戦に変更はないので?」

 

「ああ。ターゲットの内1人が特化型ってのが不安要素だが、基本纏まって動くダークヴェールの手駒が唯一孤立するチャンスだ。狙撃中の二人組を、数で強襲して拘束し攫う」

 

「その為には数が必要ですね……」

 

「だから清明会、牡丹会も巻き込むんだよ。

 

 ……まぁ兎も角、今は報告が優先だな。どちらにしろボスの力が必要だ」




現在公開可能な情報

ギュンターの草刈り

二派に分かれたエンターヘヴンを統一する為行われた一連の内戦である。

事の発端は、当時エキゾチックという立場でエンターヘヴンに協力していたクロウより持ち込まれたアドルフの暗殺計画書であった。事を深刻に考えたE・Hは、この計画書をもって過激派は絶やさねばならない組織の癌であるとして粛清を決定。

 今までのアドルフの活動による貢献から、暗殺という動きに憤慨した穏健派に対して、過激派はギュンターの草刈りが行われる数日前に幹部が全員事故死するという事件が発生し、統率を失った過激派は互いに反目し合う事態になる。

 ギュンターの統率の元行われる粛清に対して、過激派はニケの戦力も搔き集めて応戦しようとするも、多数のニケ戦力を揃えていた穏健派には対して脅威にはならなかった。活動拠点が次々と破壊され、残った指導層も包囲殲滅されて粛清は完了したと見做される。粛清作戦が決行されてから僅か51時間の事であった。
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