四大企業 アトラース 作:スキル素材年中枯渇ニキ
多分今回の話に出てきた問題っていうのはこの小説内では一生擦ると思います()
「――って訳。まぁこの話を要約するとね……」
黄色いライトに照らされた、一つの部屋。棚には当人の趣味なのかよく分からないデザインの置物、小道具箱が置いてある。壁に飾られている絵画も同様に常人の理解を苦しめた。
部屋全体で見れば灰色が多くを占めるが、壁に引かれた黄色いライン、黄色いライト、そのライトによって照らされてできた光沢で、特に強いカンデラでもない割には五月蠅い位に眩しく感じる。実際にその色が採用されている訳でもないのに、金色の部屋というイメージが先行してしまう程だった。
そんな部屋にある複数のソファに、まるで対面するかのように三人のニケが腰を据える。
清明会、牡丹会、ヘッドニア、この三つの組織の長がメンバーを務める部隊、アンダーワールドクイーン。滅多にとまでは行かずとも、彼女達の忙しさを考えれば早々集まるものではなかった。
それがこうして集まったのは、アンダーワールドクイーンにとって重大な問題に直面しているからに他ならない。
無論、ダークヴェールと呼ばれている男児の事である。
「ダークヴェールの手駒が唯一孤立するチャンスがあるから、そこであたし達でかっさらっちゃおうって事。アークまで持ち帰れたら後は簡単。ニケの生産記録と攫ったニケを照らし合わせて特定するだけ。そこから輸送ルートも芋づるで手間も省ける。三大企業にしか作れない以上どうしたって証拠は残るもんねぇ? 何か反論はある?」
ヘッドニアのボス、ロザンナは同じ部隊のメンバーに視線を移す。
牡丹会のボス、モランは当人としては真剣に話を聞いていた物の、その話に付いていくのがやっとといった有様で冷や汗を掻きながら眉をひそめていた。
「ありません。寧ろ、やるなら急いだ方がいいでしょう」
対して清明会のボス、サクラは即答した。アンダーワールドクイーンとして協力し合う事はままあっても、ヘッドニアと清明会は一蓮托生とは言い難い事を認識しているロザンナにとってこの反応は少し意外な物に映った。
「自分から言っておいてなんだけど、てっきり反対されるかと思ってた」
「すぐにアレをどうにかしなければならない理由ができました」
「そういや、エンターヘヴンのあれこれはあんたが担当みたいなもんだったね。んじゃ、次はあんたが歌う番って事で」
そう言うロザンナは解決の糸口を見つけたせいか幾らか気楽な態度でいたが、サクラはそんな態度とは対照的だった。
「……結論から言いましょう。エンターヘヴンはやり方を変えました。それも秩序を守る私達にとって、最も面倒な手で。
状況は私達が考えているよりもずっと深刻です」
「お薬にがーい!!!」
「よーしよし、よく頑張ったわねアイナ。いい子ねー!」
今にも崩れそうだったかつての孤児院が、アドルフの指導で申し訳程度に補強されて以来、倒壊するかもしれないという子供達の不安は徐々に薄れていった。
E・Hからの願いもあってアドルフは何度か孤児院の様子を見つつアークから仕入れたパーフェクトと医薬品を提供していた。
特に医薬品は重要な物資だった。前にも供述されたかもしれないが、アウターリムでの最大の死因は栄養失調ではない。病気である。
治療する為の設備もなければ金もない。そんな子供達の運命など火を見るよりも明らかであり、この孤児院も例外ではない。
アドルフが来るまでは。
ニケ戦力による地上での物資収集、その上で今はエンターヘヴンという膨大な労働力の再整理と再分配によって輪をかけて富が集まるようになった。資産の総数だけで言えば最早アドルフはアークのロイヤルにも引けを取らない。
そんな彼が治療の実施とインフラ整備を少しずつ推し進めていく事によってアウターリムという劣悪な環境に起因する多様な疾病を対策する。その成果は孤児院内でも少しづつ現れていた。
当初はアドルフが子供達の診察を行っていたが、多忙な毎日が続く為、深刻な症状が新しく表れるまではハンナが専ら面倒を見る役割に徹していた。
「よし……じゃぁ次は――きゃああああああ!!!???」
「うおおお今日のハンナねぇちゃんのパンツは昨日と同じでピンクだぜ!! 賭けは俺の勝ちだ! 今日のリンゴ味パーフェクトは頂きだ!」
「クッソぉ……白に賭けてたのに……!」
ハンナの尻がひんやり冷たい空気に晒されるのを感じる。それがロングスカートを捲られたと瞬時に理解した。
「こ、こら! もう……ダメでしょ! こんな事したら!」
犯人と思しき男の子はもう1人の男の子と逃走し、もうハンナの手の届かない距離を稼いでいた。
「うおー逃げろー!!!」
「これだからパンツめくりはやめらんないぜ――あでっ!?」
「いった!?」
男の子2人の頭部に鋭い衝撃が走った。それがニケからのゲンコツと気づいた時にはそのニケにもう既に抱き抱えられていた。
「全く、何つークソガキだ……他人のパンツで賭けなんかしやがって」
偶然男の子2人の逃走ルート上に居合わせたレイチェルが、2人を抱き抱えて締め上げる。
「く、くそぉ! 放せー!」
「放せじゃねぇよこのクソガキ! パイセンに謝れ!」
「約束したんだ! 病気が治ったら、一緒にハンナねーちゃんのパンツが何色かご飯賭けようって!」
「そうだ! こんな所でくたばる訳にはいかないんだ!!」
「ふざけた約束しやがってゴラァ!」
レイチェルの腕が万が一の事が起こらない程度にその子供を締め上げた。これが少し前まで咳を繰り返して寝たきり状態だったのだからレイチェル自身も驚愕していた。
「はぁ……パイセンも苦労するっすね」
「レイチェル、ピアの様子はどうだったの?」
ハンナが容態を見るよう頼んでいた女の子の事だったが、レイチェルはその名前を聞いて顔を下に向けた。
「ああ、朝食ったプチトマトが最後の晩餐になったよ」
「っ……そう……」
ハンナも落ち込みこそすれ驚愕はしなかった。元より病状が深刻で時間の問題と思われていた。
男子2人もその話を聞いて同様のリアクションをする。大人しくなったのを確認すると、レイチェルは二人を下した。
「パイセン、毛布をくれ。包んで持っていく」
「分かったわ。ピアをお願い」
「ああ」
まだ取り返しがつくと考えていたからか、2人ともそこまで深刻な顔をしていなかった。実際その通りであり、死んだのが直前であればアドルフが何とかしてくれるだろうという信頼があった。
その後、墓に埋める為にピアという少女を、レイチェルはハンナから受け取った毛布で包んで運ぶ準備に入る。
「そんじゃ、あの若い院長にはよろしく言っておいてくれ」
「ええ。お墓を作っておくわね」
そうして孤児院を後にしたレイチェルは、同じく子供達の面倒を見ていたニケ3人と帰路につく。金目当てのコレクターから死体を強奪されないよういつでも拳銃を取り出せるようにして襲撃に備えていた。ニケなのだからここまで万全にしなくてもいいのではないかともレイチェルは思うが、アドルフはなるべく孤立しないよう言い渡していた。地上で活動していたニケが複数の野生のトラに拘束、制圧された事例があるという話を聞いて渋々従っている。
(今の所、死体を一旦持ち帰ってる事に関しては不信感を持たれてない……か……?)
ならばと孤児院に対してはそう身構えるような事はしなかった。あの年若い院長がアドルフ達の事をどう思っているかはレイチェルの知る所ではない。ただ食料と生活必需品が転がり込んでくるから利用しようとしているのか、それとも善行を繰り返すアドルフを人として信じているのか、だから多少不審な点があっても目を瞑ったりしているのだろうか。
アドルフにとっては、死んだ女の子をニケに出来るというメリットがある訳だが、結局の所脳だけ切り取って死体は墓に埋めて埋葬するので傍から見たらメリットはない。
これで人道的評判を上げつつニケの素体を確保するという目的は果たした訳である。
(……なんて、アイツはそう言い訳するんだろうが、結局の所援助はアイツの感情的な理由なんだろうなぁ……)
レイチェルは考える。思い返してみれば、疾病や栄養失調で死んだ人間を見る度にアドルフは表情に多少の変化が見られる。
ただ普通の人間が思い浮かべるような悲しい感情……というよりは、責任、後悔が入り混じっているようだったというのが、レイチェルの印象だった。
そんなレイチェルに言わせてみれば、馬鹿げてるとしか言いようがない。何があったか知らないが、自分が神にでもなったつもりだろうか。一々些事に責任を感じるなど傲慢だ。
(……いや、ある意味神みたいなもんか。結局の所アイツがどういう人間なのか分からないままどいつもこいつもアドルフの恩恵に授かってる。アタシもだ)
利用するだけの関係に留めると誓っておきながらなんてザマだ。レイチェルは怒りに任せて歩を進める。行き場のない怒りは早歩きという形で地面に向けられた。
「おいお前ら、飯だぞ! 切りのいいところで終わらせてけ!」
人工太陽光を掃射されている土には、張り巡らされているかのようにジャガイモが点在していた。そこにエンターヘヴンの人間が農家を生業にして作業している。
エンターヘヴンのアジトで作られた地下農場は現時点ではいくつかある。今男が飯だと呼びかけたこの場所はジャガイモを育てている。
と言っても、一つの土地に一つの穀物や野菜を専門に収穫している……という訳ではない。連作障害を避ける為である。ましてやジャガイモは連作を起こしやすい野菜として有名である為、小麦や大豆といった別の作物で輪作して栽培するようアドルフから忠告されていた。
この手のノウハウが当然彼らにある筈がないので、暫くはアドルフの指導が付きっ切りで、自分達だけで農作業できるようになったのは最近の事だった。
そして、この地下農場が成果を分かりやすい形で出しているのを、エンターヘヴンの労働者に認識させたのも最近の事であった。
「食糧事情は本当に楽になったよな。一日二食だったやつを、一日三食たべられるようになった」
パンをかじりながらそんな雑談を挟む男の言葉を、誰も否定しなかった。当初E・Hが今後メンバーの食事は一日三食出すと発表した時は備蓄を心配されたものの、資金に関して明確な改善が見込まれ、パーフェクトの購入が容易になった。その上収穫した穀物も備蓄に回しており、散々恐れられていた消費量増加もいざ実施してみればそこまで負担になってはいなかった。
「最終的にこっちについて良かったろヴィリアム! アークの連中を許すなとは言わないが、物事には優先順位があるってもんだ」
ヴィリアムと呼ばれた男は元々過激派だったが、アドルフ暗殺計画の露呈を境に穏健派に鞍替えした人間だった。その時は裏切りに葛藤があったものの、今となってはその判断は正解だったと本人も確信していた。
「……なぁ、俺達はこれからどれだけ暮らしを良くできると思う?」
「そうさなぁ……誰かは笑うかもしれんが、実の所俺はアドルフがいれば本当にアークぐらいの贅沢は出来るんじゃねぇかと思ってるんだ」
そう返されてヴィリアムは乾いた笑いが出る。
「はははっ……全く、嘗ての同志達は馬鹿だ……アークの連中よりも良い暮らしをしてみせて、アークの連中を嘲笑うっていうある種の復讐方法もあったのにな……」
人並の生活。その可能性を嘲笑う人間は刻一刻と数を減らしていった。比率で言えばこの意見は未だに少数派、されど時間の問題でもあった。
「聞いたか? エンターヘヴンの奴ら、数ヵ月前から農業を始めたらしいぞ」
「何処の酔っ払いから聞いたんだ? それともジャンキーか?」
「いや、俺は見た事あるぞ! 辺り一面黄色い植物が生い茂ってる土地があったんだ!」
「麦の事か? アークで育てられたか?」
「奴ら最近羽振りがいいらしい。金よりも労働力に困ってるって話だ」
「ダークヴェールが奴らとつるみ始めてから全てが変わった気がするぞ」
「確かに、ニケを連れて巡回するようになって随分と治安が良くなった気がするよ。まぁそのせいでコレクターからは死ぬほど嫌われてるらしいがな」
「待てよ? 最近水が美味いと思ってたんだが、それもあいつらがやってんのか?」
「変わり始めているのかもしれない。俺達もいい加減、ダークヴェールやエンターヘヴンと付き合い方を考える必要があるかもしれないぞ……」
「約束通り金属探知機を支給してもらえた! 爆弾探しの一環で地区を掃除するって聞いた時は地雷原でも歩かされるのかとも思ったが、これなら話は別だ!」
「ああ、今日もパンが美味い! こんなにたらふく食えるようになったのは生まれて初めてだ!」
「もう地上に行かなくていいのか……? もう、金稼ぎに命を掛けなくてもいいのか……!?」
「エンターヘヴン万歳!!」
「アドルフ万歳!!!!」
「アウターリムに光を!!!!!!」
「……以上で、私の調査報告を終えます」
サクラの最後の言葉を吐き出す時には、光明が見えたと機嫌を良くしていたロザンナの表情は一転して影を落とす。事の深刻さを理解したのか目を細めてサクラを見つめる。
イライラを少しでも吐き出そうとテーブルを指でトントンと叩きつつ尋ねる。
「つまりエンターヘヴンは、地下で農業をしてて、栽培した穀物を売り払って稼いだ資金でインフラを整えて、そして仕事も提供している。ダークヴェールは手駒のニケでパトロールさせて治安維持。これらの活動がアウトローには大変受けがよろしい」
「一体種子など何処で手に入れてきたのか、あの手の物は大抵中央政府の管理下にある筈ですが……」
「ダークヴェールが用意したんだろうけど、正直ヤツに関しちゃ謎だらけで、考察したって碌に納得の行く説は浮かばないでしょ。反エニック派の役人が裏に居るとか、実はピルグリムが支援してましたとか適当な事言い出したら切りがないし。それより問題なのは……前までは評判が賛否両論という所まで落ち込んでいたエンターヘヴンが、ここへ来て善政を敷き始めて、それがアウトロー達に認められつつある……そういう事ね?」
「その通りです。本来ならこれは、元となる大量の資金が必要な戦略ですが、残念な事にダークヴェールがそれを解決してしまっています。逆に言えば、彼さえ何とかできれば後はエンターヘヴンが干上がるのを待つだけでいいのですが……」
「そのための話し合いで、だからあんたは早くしろよって言う訳ね」
そして考え込むロザンナとサクラ。今後のエンターヘヴン及びアドルフの狙いを予測する為算盤を弾いている所で、「な、なあ……」とモランが計算を遮った。
「善政……敷いてるんだよな? だったら別にいいんじゃないのか?」
「何処が?」
「何処がってお前、雇用が増えてもうアウターリムの奴らは地上に行かなくてもちゃんとした仕事に就けるんだろ? 良いことずくめじゃないか。一体何が問題なんだよ?」
「ええ、確かに良いことずくめね。だから問題なのよ。『アウターリムを管理するアンダーワールドクイーンにとっては』ね」
ロザンナの言葉に、やはりと言うべきかモランは理解が追いつかないと言わんばかりに首を傾げた。そんな様子を前に、ここまで言葉を引き出しても答えに辿り着けないモランの頭の回転の遅さにロザンナはイライラを隠すのに必死だった。彼女だけではなく、サクラも彼女ほどではないにしろ、アンダーワールドクイーンの一員として物を考えて欲しいと思わざるを得なかった。
「……あんたさぁ、何でアンダーワールドクイーンって部隊ができたか分かってる?」
「分かってるよ。花の誓い、忘れた事はねぇよ」
「分かってるならもう少し事の深刻さに気付いて欲しいんだけど……エンターヘヴンは、あんたが言った通り善政を敷いてる。それはつまり、味方が増えるって事。時間を掛ければそれはネズミ算式に増えて、アウトロー達はエンターヘヴンを統治者として認めるようになる。そこから先は必然的に他マフィアとの縄張りの奪い合いになるでしょうね」
「言われてみれば……そうなるのか」
「……いや、縄張りの奪い合いにすらならないね。アレとかち合ったら、縄張りを根こそぎ持ってかれるわ」
「……暴力で言うことを聞かせてきた私達と、富を差配して秩序をもたらそうとするエンターヘヴン、どちらがより惹かれるかは火を見るより明らかでしょうね」
「そういうやり方でアウターリムの掌握を狙われたら、アンダーワールドクイーンとしては打つ手がない。大義名分がないから、強引に潰しても折角作ったインフラを潰して回ったチンピラと揶揄され組織三つともアウターリムで信用を失う。そしてエンターヘヴンを放置しておくと、やがて約百万人のアウトローはエンターヘヴンをアウターリムの統治者として認め、アンダーワールドクイーンの手から完全に離れる」
ロザンナとサクラがそこまで語り合って、自分の中で結論が出たモランは、心底不快そうな表情を浮かべた。
「……ようやく読めてきたぜ。お前ら、いつからそんな見下げ果てた奴になったんだ?」
「「……」」
「そんなに縄張りが大事かよ!? 真っ当なやり方……っていうのも微妙だが、それでも農業で食料を作ってるのは立派だ。それに水も奇麗にして、病気に苦しむ子供の面倒を見て、ほんの少しでも飢えを減らそうと頑張ってる連中を、縄張りを奪われるかもしれないってだけで潰すのか? 冗談だろ!?」
やっぱりコイツ分かってない。そんな思いを込めた溜息が2人同時に放たれる。それを尻目にモランはテーブルに身を乗り出した。
「エリシオン・ハーパーに真意を聞こうぜ。話し合うんだ! 確かにアイツらは取り返しのつかない事をしてきた。でもそれを悔い改めて、またやり直したいって言うんなら、俺はアイツらにアウターリムを預けてもいいと思ってる!」
「それじゃ困るでしょ」
我慢ならずモランはロザンナの胸倉を掴んで睨みつける。
「おお、何が困るんだ? 言ってみろ! 今を生きている子供達が、飢餓と疾病でどれだけ死んでると思ってやがる――」
「じゃああんたは、自分の信じる仁義の為なら人類が絶滅しても構わないってのね? ああそう、大した侠客だわ! そんなに人類を滅ぼしたきゃ好きにしな!」
人類が絶滅。唐突に表れた別の意味での物騒な発言に、モランはあっけにとられる。
「……人類が絶滅? 何の話をしてるんだよ?」
モランがまた話が呑み込めず困惑している隙に、ロザンナは胸倉を掴む腕をうざったそうに振り払った。
「アウターリムを善政で掌握ねぇ……状況が許すならあたしだってアウターリムを手放したって構わないよ。ただ人類が絶滅するかもしれないリスクがあるから譲れないって話」
キッと鋭い瞳がモランに刺さる。ロザンナの目つきの悪さはモランも百も承知だったが、今日、今向けられているのは輪にかけて鋭く、モランといえどもたじろいだ。
「いい? エンターヘヴンが今やってるインフラの改善、際限なく100万人分の需要を満たそうと思ったら、倍々ゲームで規模が拡大していくでしょうね。それに伴って必要になってくる労働力も馬鹿にならない。その労働力を満たすだけの労働者を確保するとしたら、それは
……でさぁ、そのアウターリムにお住まいのアウトローはさ、生活が満たされれば大人しくしていると思う?」
モランは即答……しようとして出来なかった。アウトローもフォーマルもやる気があれば侠客になれると信じている。しかし今がそうであると確信するには、アウターリムが襲う不条理はあまりにも残酷すぎた。
「今の今まで散々アーク市民にゴミを見るような目で見られて、インフラも提供されず、碌な支援も貰えなかった。そしてエリシオンと中央政府は臭い物に蓋をするかの様に防壁をおっ建てた。数十年積もり積もった恨みが、カビみたいに繁殖して取り返しのつかない事になってる。
――戦争を望むには十分な理由じゃない?」
「……戦、争…………」
オウム返しのように繰り返すモランの声は震えていた。まさに花の誓いが行われた理由そのものだ。
そしてサクラはまだあると言わんばかりに容赦なく推測を叩きつける。
「……ただの戦争で済めばいいですが、積年の憎悪でいつでも死兵となれるアウトロー、そして権威と平和伝説を崩したくない中央政府、お互い手段を選ぶ理由はありません。『絶滅戦争』に発展する可能性は高いかと」
「絶滅、って、何だよそりゃ……?」
「そりゃ読んで字の如く、どっちかが絶滅するまで戦争すんのよ。アウトローが消えるまで殺し合いは止まらないよ? アークはブレイズアウトを出してアウターリム全土を
前代未聞の情報が津波の様に押し寄せて来るようでモランは頭を抱える。冷や汗と軽めの頭痛が襲い、少しでも体を休めようとソファにドカッと体を預けた。
「……ねぇ、もう一度聞くよ? 何でアンダーワールドクイーンって部隊ができたか分かってる?」
「……………………人類同士の内戦になるのを、止める為だ……」
「分かってんじゃない。これはもう善と悪どうこう以前の問題。人類同士の内戦を指を
「ッ…………」
アンダーワールドクイーン、そして人類が生き延びる為に、何を成すべきか。モランとて馬鹿だがアホではない。現実はしっかり認識している。理想と折り合いをつけて考えるだろう。
「……申し訳ございません」
そう判断したサクラは、今の今まで静観を決め込んでいた
「結局、貴方の危惧した通りになってしまいました。事態の深刻さに気付くのが遅すぎたのが悔やまれます」
黒と金色の市松模様で出来た全身タイツ、首元を覆うのは利便性度外視の巨大な襟、目が眩しくなる程の数々のライトが付いた装飾が翼の様に広がっている。
そんな愉快な見た目に反して……
「Queen達のTalkはジックリとListenさせていただきましTA。そして、今のOuter Rimが極めてDangerousな状況である事MO……」
サングラス越しに薄っすらと見える彼の目は、完全に笑っていなかった。
「此度の一件……Meの失態でもありMASU。何度も議題に上がっているTransportation Route……Meがそれを見つけられないまま事態はDeteriorationしている……」
男は三人に視線を移した。ロザンナとサクラはある種の覚悟を決めたような表情を、そしてモランも、仁義と人類の存続に天秤を掛けたジレンマに苦しみつつも、その細めた目つきは男を正確に捉えた。
「Queen達のTime的猶予はないというInferenceは全くもってExactlyなのDESU。今回の一件が中央政府に知られれば、彼らは間違いなくMilitaryを送り込むことでSHOW。事の深刻さを考えれば、Genocideに走る可能性は十分に考えられMASU。その前に決着を付けなければなりまSEN」
「「「……」」」
「中央政府のHate ControlはMeに任せてくだSAI。その間に、Queen達は何としても――
Dark Veilをこの舞台から引き摺り下ろしてくだSAI」
ハロー、アドルフです。
とりあえず仕事に一区切りついたので時間ができたらニケの研究です。
今まで三大企業の開発した量産型モデルを流用してニケを作ってきたが、資源的余裕も多少できたのでいい加減自分独自の設計したニケを作りたいものだ。
量産型の設計自体は前々からやっていたんだが、ついに納得のいく物が3つ完成した。後はこの設計図を元にニケを作るだけだ。
3つ全てに共通する方向性として、多少コストが重くなったとしても、高スペックを実現する事。ただし高コストは度が過ぎない範囲に収める事。
上記の理由から三大企業が作る量産型モデルと比べてやはりお高いが、素人質問で恐縮ですが〜から始まる酷評はこのスペックを見てから言ってもらおう!
まず一つ目。『ノヴァタイプ
このモデルを説明する前に、皆様は
簡単に説明してしまえば、脳と機械を接続して思考だけで操作するという技術だ。
例えば、BMIの技術を使ってメガニケをプレイしたとする。コアに弾を命中させたいと考えれば、コアにエイムを合わせるし、全体ハイドしろと念じればニケ達は全員ハイドしてニヒリスターのブレスなんかをやり過ごせる。
この動作はスマホへのタッチ、PCのマウスやキーボードによる操作は一切介在していない。考える。それだけでニケの動きは思いのままだ。
この技術自体は特段目新しいものではない。1990年代にはもう既に現実的な研究が行われており、先程話した例は、元居た世界の技術力でもやろうと思えば出来てしまうだろう。
さて、この技術の話を先に振ったのは、この技術の発展版とでも言うべき機能がこのノヴァタイプ
ニケも人間だ。故に弾を外す事もあるだろう。そこにテコ入れをする事にした。
私が開発した一種のBMI、名付けて『フォルコメン・カンプ』。この機能を搭載されたニケは体の震えが消える。それこそ0.1ミリたりとも許しはしない。
何故こんな芸当が可能なのか? 簡単だ。機械は間違えないからだ。フォルコメン・カンプは脳波に応じてニケのボディを操作する。自分の望み通りの動きを完全再現するのだ。
この機能が最も活きるのは狙撃だ。手の震えがないから完璧な狙撃を実現できる。理論上は3キロ先を狙撃可能であると考えられる。
……まぁここまで高度な狙撃を行うならばハーモニーキューブによる情報演算が欲しい所だが、肝心のハーモニーキューブがまだ量産体制の構築すら出来ていないので想定されている改良型はまだ早い。
だがこのフォルコメン・カンプを開発するにあたって嬉しい誤算がある。
実は三大企業の設計したニケ、私の解析が間違っていなければ、コアがボディの隅々にまでエネルギーを行き渡らせる過程である程度のエネルギーロスが生じている事が分かった。これは恐らく殆どのニケ全般に言える。
伝導率とでも言うべきそれにも手を加えた。抵抗を加えた状態と、加えない状態では、どちらの電力が大きいかは言うまでもない。コアの出力は同じだが、発揮される身体能力はアークの量産型に大きく勝るだろう。そう設計した。今後この設計は私の開発したニケのボディには標準の物になるだろう。
アークもこの分野での研究に真剣になればこれぐらいは作れそうなものだが、コスト重視で碌に研究してこなかったと思われる。まぁそりゃそうか。ロスを減らす過程でそこそこ工程が多くなったからな……。アークからしてみれば量産型のコストが重くなっては本末転倒と言った所か。
更にロスを減らそうと思えばより質のいい資源が欲しい所だが、資源が困ってるのはお互い様。ない物ねだりしても仕方がないのでこれで一応の完成とする。
纏めると、ノヴァタイプ
次に二つ目。『ノヴァタイプ
これらを実現する為にはよりハイパワーな出力が必要な訳だ。1000馬力のP-47 サンダーボルトとか話にならん。しかしコアを弄るにはまだ早すぎる。
そこで代替案としてロス削減に加えて、コアの出力を、ボディの隅々にまで行きわたらせる時にエネルギーをブーストする補助装置を幾重にも搭載。強いニケと言える最低限のラインは超えたと頭の中の計算機ははじき出した。……なんか栄エンジンでやりくりしてたゼロ戦みたいで泣けてきた……
まぁ将来的にコアの研究を行っていくと思うので、コア自身の強化による改良型はまた後日。(コア強化できた日には量産型モデル全部一新だろうがなガハハ)
さて問題は、やっぱりコストだ。ロス削減に加えて補助装置をふんだんに詰め込む予定なのでまぁ贅沢な一品。重装甲、重耐久を実現する為にボディの素材まで吟味すると恐ろしいものになる。コストはある程度気にしなくていいという方針であるこちらでさえも鼻白む代物だ。アークでは確実に産廃扱いだろう。
だが顧みない! 私は強いニケが欲しい! そもそも現時点で人類の総人口を上回っているラプチャー相手に消耗戦で勝てると思うのが間違いだ。ましてやアウターリムは、今後総人口の一割だけで戦い抜かねばならない。そして事の次第によってはアークも同時に相手をしなければならない。どちらの陣営にも数で負けている。アウターリムは今後断じて消耗を許されない。一匹一匹が捨て身の覚悟で突撃する軍隊アリではなく、全てを無傷で轢き潰す戦象のような戦い方をしなければならない。
さて、そんなノヴァタイプ
……正直これは結構テキトーに作ってみたんだけどなぁ……さっきの二つもだが今はまだペーパープランだから実際に作ってみないと何とも言えないが、もしもカタログスペック通りなら、おそらくこれはアークの手に渡ったらマズい。我ながら芸術的とさえ言っていいこの
ノヴァタイプ
その結果できたノヴァタイプ
勿論ノヴァタイプ
ここまでソルジャーE.G.を圧倒するスペックに対して、予測される金銭的費用は……確かにノヴァタイプ
分かったろう。最後まで拘りぬいたスポーツカーではなく、P-51 ムスタングのような兵器としての完成形。それがこのノヴァタイプ
ノヴァタイプ
そして有事の際には、アークという数の暴力にも………………
コンコン
そうして区切りがついた所で、入り口をノックする音。
開けてみれば、13人目に作ったオルガが居た。眠たげにしていて目元を手で擦り、体もフラフラで今にも倒れそうだった。
というか、倒れた。私の体に寄りかかって今にも眠りそうだった。
「えっと……オルガ? どうかしましたか?」
「ごすじん……客……」
「客? 今日はE・Hからの訪問の予定はなかった筈ですが……一体誰でしょうか?」
「中央政府所属の軍人って言ってた。見た感じニケ」
その言葉を聞いて全身が冷える思いだった。一体誰だ? クロウが裏切ったか。それともアンダーワールドクイーンの差し金か。それとも単純に、中央政府が私達の存在に気付いたか?
「ッ……オルガ、その軍人というのは、どんな人でしたか?」
「んー……なんか、CA……って言うのかな……スーツ着てて、多分空軍……ぐぅ……」
「ちょ、ちょっと! 大事な事ですから、皆出払ってるし寝ないで!」
「あう……そう、ごすじんに話があって……頼み事もあるって……」
頼み事ねぇ……情報ばらすぞと脅して話を持ち掛けるのは頼み事とは言わないが……いや、そもそもその軍人とやらがどれだけ情報を握っているかすら未知数。
「どうするごすじん……上で待たせてるけど……――殺す?」
唐突に眼光が鋭くなった。何だかんだ言ってこの子もやる時はやる。それも、その時になったら人一倍冷酷だ。
「……いえ、会うだけ会いましょう。オルガはまず先に武器を持っているかチェックを」
「――……ん。分かった……」
そう言うとオルガはラボを出て銃を片手にテクテクと階段を上っていく。私もそれに続いた。
……しかし、オルガは空軍所属と言ったか? 確かにどこかのインタビューで、海軍のイージス部隊のように空軍所属の部隊もいると聞いたことがある。
そこが引っかかる。シージペリラスやスカウティングのような調査が得意な部隊が居る中で何故空軍が来る? オルガ曰くニケという話だが、私は原作で見た事がない。そんなニケに会うというのも、少し気が進まなかった。
私に話……そしてアウトローにするような頼み事……空軍所属…………一体、誰だ?
現在公開可能な情報
ノヴァタイプ
元々はテトラライン社製の量産型モデルであるI-DOLL・オーシャンをベースに再設計したアトラース社製のニケである。しかし様々な改良が重なり、現在は設計上の面影は殆どない。
特徴として、フォルコメン・カンプという
この機能は使用時、生物として持つ必然的な体の揺れも消える為、狙撃任務に極めて高い適性を持つ。後の改良型では、ハーモニーキューブが横風、気温、気圧、湿度等の狙撃に影響を与える要因を事前に演算してサポートを行う為より精密な狙撃が可能となった。
アトラース社がタイラント級を想定して新たに開発した大口径ライフル*1を当モデルに装備してアウトレンジでの一方的な狙撃戦法を期待されたが、予想を超えたライフルの重量と反動に当モデルのボディが衝撃を抑え込めないという問題が発生。標準の域は超えているものの比較的耐久面での問題が露呈し、当モデルには標準的重量ライフルの装備が推奨された。大口径ライフルの運用には、新たに開発された量産型モデルであるノヴァタイプ