四大企業 アトラース   作:スキル素材年中枯渇ニキ

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投稿サボってる間に本編凄い情報出まくってる……


8:ニケを作ってる現場を見せてエリシオン・ハーパーを怖がらせましょう!

「……! アドルフ」

 

 アドルフ達のアジトの番をしていたレイチェル。そこにエリシオン・ハーパーがいるのを見るや顔をしかめた。

 

「アドルフ……結局コイツらと組むのかよ……?」

 

「まだそうと決まったわけではありませんが、私は前向きに考えています」

 

「チッ……おいエンターヘヴン」

 

 歓迎されてはいないというのを肌で感じたらしいエリシオン・ハーパーは身構える。

 

「何かしら?」

 

「アタシは……アタシ達はな、この中にある物を守る為ならファミリーだろうとテロリストだろうとアークだろうと全部ぶっ殺す覚悟でここに立ってる。だから……アンタが妙な事をしない事を祈ってるぞ」

 

 その言葉を最後に、レイチェルは拠点の家の扉の傍に寄りかかった。

 

 エリシオン・ハーパーの目には、その家は良くも悪くも普通のように見えた。風化した木材と割れたガラスは、家としてはとても頼りない。何かを隠すならそんな()()()()がとても丁度良い。奇跡的に儲けが出たからとしっかりした家を建てた日には、十分な数がいるなら兎も角、普通は空き巣を狙われる。強盗が日常茶飯事のアウターリムでは留守番の一人や二人も、いないのと変わらない。

 

 そんな家に、アドルフは慣れたようにドアを開けて入る。リーゼロッテ、マルグリット、ロミ―もそれに続いた。

 

「E・Hさん。入って、どうぞ」と許しを貰ったエリシオン・ハーパーも最後に入る。

 

 まず初めにエリシオン・ハーパーの目に入ったのはこれまた普通の居間だった。

 

 ボロボロで小さな丸テーブル、申し訳程度の椅子代わりの岩、他には何もない。

 

 生活感がない。本当にこんな所を拠点にしているのかと疑問に思ったエリシオン・ハーパーは、四人を注視する。

 

 その四人は居間より少し奥に進む。割れた窓からは見えない位置だった。

 

 小道具というよりはガラクタ……が乱雑に置かれた小部屋。その中心にボロ布が一枚。それをマルグリットが捲ると、そこから見えたのは取っ手のついた四角だった。

 

 マルグリットがその取っ手に手を掛けて引っ張った。その四角が開き、人ひとりなら入れそうな空洞が出てくる。地面を削って階段に加工されており、転倒しない為の手摺(てすり)が取り付けられていた。

 

 地下か。拠点の正体に納得がいったエリシオン・ハーパーだったが、マルグリットはその空洞に入らずに、エリシオン・ハーパーを手招きする。

 

「答えが気になるんだろ? 入りな」

 

 先頭を行かせて何時でも背中から撃てるようにする為か。その上地下に入るとなると閉じ込められる可能性を考えなければならなかったが、地下の先に何があるのかという興味がエリシオン・ハーパーを動かす。

 

 手摺は意外としっかりしている。多少力を込めてもびくともしない。途中所々でライトもある。階段には滑り止めのゴムも張り付けられている。真面な業者が作っていないにしてはしっかりしている。転倒せずには済みそうだった。

 

 何れ下り切った先、三つ扉が見えてきた。それぞれの扉には地下農場、休憩所兼寝室、ラボと書かれていた。その内ラボと書かれている扉にだけ鍵が備え付けられていた。

 

「まずは左に行ってみましょうか」

 

 エリシオン・ハーパーがどの扉を開ければいいか逡巡する間もなくアドルフにそう促された。

 

 アドルフの言葉通り、エリシオン・ハーパーは左の扉を開ける。その扉には地下農場と書かれていた。

 

 まさか……と思うエリシオン・ハーパーの目に飛び込んできたのは、棚に置かれ、光に照らされている野菜だった。

 

「そんな……まさか……!」

 

 ただの棚じゃない。農場という野菜を育てる場所であるならば当然というべきか、野菜の下に土がある。植えられているのだ。その上を電球が光を照らす。それが四段ビッシリと敷き詰められた棚が九台ある。

 

 そして扉を開けた瞬間から地下に似つかわしくない暖かい空気がエリシオン・ハーパーの体を包み込んだ。ゴウウウウという音はエアコンだろうか。

 

「あっ、アドルフ! 帰って――」

 

 そしてここの地下農場とやらを管理しているのか、この部屋にいた人が一人。黄緑色の長髪をポニーテールで纏めた女性だった。

 

 どんな反応をするものかと身構えたが、「ああ、もしかして貴女がアドルフの言っていたエンターヘヴンの人かしら?」という言葉で多少は気が抜けた。

 

(私がここに来ること自体想定していたという事か……)

 

 エリシオン・ハーパーが見る限り、アドルフがスマホ等の通信機で連絡を取っている素振りはなかった。

 

「どうでしょう? 私達が売り払っている農作物の答えです」

 

 アドルフが引き連れているニケというインパクトで忘れがちになるが、そのニケ以上に出所が分からなかった農作物。地下で農場を作って育てていたという事実には驚愕せざるを得なかった。

 

「あっ、アドルフ!」

 

「ハンナ、機材に異常はないか?」

 

「機材は大丈夫。でも、発電機の材料がまだ届かなくて……」

 

「あれ? 発電機の材料ってまだ備蓄があった気が……あっ、そうだ……! ベアトリスが新しくゲーム買うからって売っ払ったんだ……」

 

「どうしよう……今使ってるのでもう18時間。それが切れたら、ここの子たち全部枯らしちゃうかも……」

 

「参ったな……そうだ、そのベアトリス達に材料を取りに行かせてたんだ。まだ帰って来てないのか?」

 

トゥルーデ(ゲルトルート)も一緒だし、ベアトリスも強い子だから大丈夫だと思うけど――」

 

 アドルフが相談を持ち掛けられている途中、複数の足音が聞こえる。地下だからか音もよく反響して聞こえやすい。

 

「お、噂をすればかな?」

 

 その言葉通りかどうか、足音が段々近づき、入ってきたのは銃を持った五人の女性……いや、ニケだった。最初に出会った三人のニケも含めて、よく見かける量産型ニケの面影があるものの、髪型、髪の色、瞳の色等多かれ少なかれ皆多様性の富む容姿をしていた。

 

「おいっすー! 皆寂しくしてたかーー!? ってアレ? お客さん?」

 

「客……? ああ、レイチェルが言ってた奴か」

 

「皆さんお疲れ様です。一応点呼取りますよ。まず、ベアトリス」

 

 五人の中では比較的小柄で茶髪のニケが返事をする。

 

「はーい! アタシ頑張ったよ! ほら、ラプチャーのコア! これだけあれば暫くもつでしょうよ! ね? だから、分かるよね……?」

 

「頑張りましたね。分かりました。ゲーム禁止二ヵ月にする所を一ヵ月で勘弁しましょう」

 

「二週間!せめて二週間んんんんん!!!ファイクエやりたいいいいいい!!!!」

 

「えーでは次、ゲルトルート」

 

 何やらゲームに関する懇願を差し置いて、この中では最も身長の高い黒髪ロングのニケが返事をする。

 

「アドルフ、頼まれたものを持ってきた」

 

「ほれ」と掌に十分に収まる大きさの四角い物を複数個アドルフに手渡した。その四角はエリシオン・ハーパーも見た事がない物だった。

 

「……そのキューブについて分からなかったから、ロストセクターであるだけ持ってきた。スカウティングにも見つからずに出来た筈だ」

 

「素晴らしい成果です! もしもこれを解析出来たら、とても夢が広がりますよ……!」

 

「どんな夢だ?」

 

「事の次第によってはエターナルスカイも作れますよ」

 

「…………そうか」

 

「引率も含めてお疲れ様でした。次、ラウラ」

 

 何やらエリシオン・ハーパーにとってとんでもない話が飛び込んできた気がしたが、そんな気持ちも知らんとばかりに平均的な身長をした銀髪サイドテールのニケが返事をする。

 

「はい! 不肖ラウラ、無事戻りました! 戦果、セルフレス級9体、サーヴァント級6体、マスター級1体です!」

 

「大変結構ですね。お疲れ様です。それでは次、ハルカ」

 

「は、はい……」

 

 ハルカと呼ばれた栗色のセミロングのニケは、何やら気まずそうな表情だった。

 

「何かありましたか?」

 

「そ、その……ご、ごめんなさい! アドルフ様から頂いたライフル、壊してしまいました!」

 

「壊れたのですか……いえ、謝る事はありませんよ。戦場で壊れるようないい加減な整備をした私の責任です」

 

「そ、そんな! アドルフ様は迷惑かけてばっかりの私にも優しくしてもらって……」

 

「矢面に立つ以上、私としては当然の義務です。後で私の自室にライフルを置いておいてください。後で修理します」

 

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

「よし……では最後、クリスティーナ」

 

「は、はい!」

 

 胸まで伸ばした長い金髪のニケは、この中では比較的体格がガッチリしていた。

 

「仕事には慣れましたか?」

 

「そ、そうですね……ある程度は」

 

「そうですか……時期としては仕事に慣れた時が一番危険です。どうかくれぐれも警戒を怠らないようにしてください」

 

「わ、分かりました!」

 

 そんなアドルフ達のやり取りを、エリシオン・ハーパーはほんの少し奇妙に感じていた。

 

「……点呼、という形なのね。一目見れば皆無事なのは確認出来そうだけれど……」

 

「本人にとっては、とっても大事な事なのよ? 自分は此処にいる、あの子はちゃんとここにいる……って、それぞれ確認し合わないと、とっても不安になるの……」

 

 ハンナからそんな事を言われて、エリシオン・ハーパーは改めて考えた。

 

 ニケという戦力が居るアドルフの事を、特権階級的に考える人間は多い。かくいうエリシオン・ハーパーもそうだった。だが、ラプチャーと対等に戦えるという『権利』に目が行きがちで、ラプチャーに、恐怖に立ち向かう『勇気』に着目する人間は誰もいなかった。

 

 ニケがいるにしたって……いや、ニケがいるからこそ、彼女達の勇気には敬意を表さねばならない。ニケがいるのなら、()()()()()()()()()での物資収集をするのだから。

 

 そんなニケの消耗を許容できないというのはアドルフにとっては当然の心理……しかし当人の心底安心したような表情を見るに、合理性故に消耗の抑制を優先する思想にあるという説もこれまた疑問符が付く所だった。

 

「私達の考えとは相容れない訳ね……」

 

 多大な犠牲を許容してでも目的を果たすエンターヘヴンと、犠牲も摩耗も最小限に留めて目的を果たそうとするアドルフは相反すると言えた。

 

 エリシオン・ハーパーにとってはそれが酷く眩しく見える。

 

 その眩しさを前に、ハンナがエリシオン・ハーパーの腕を掴んで何かを掌に乗せた事には直ぐに反応できなかった。

 

「それでも、誰かの為に何かをしたい……って思うのは、お互い同じだと思うの。私の想像だけど、アドルフもそう思って貴女達と話をしてみたいって思ったんじゃないかしら?」

 

 エリシオン・ハーパーの掌に渡されたのは、一つのプチトマトだった。鮮度から考えてどう見ても取り立てだった。

 

「でもその疲れ切ったみたいな顔はダメね。食べてみて? 私の大好物で、元気が出るわよ」

 

「プチトマト……? で、でもこんな高価な物…………いや、ありがとう。頂くわ」

 

 断ろうとして、そして浮かべられた悲しそうな表情を前に、エリシオン・ハーパーも些か要らないですとは言いにくかった。

 

 せめて味わって食べようと、勿体ぶりながらプチトマトを嚙み潰す。ピューッと溢れ出す新鮮な汁が口の中を潤した。常日頃から食事を適当に済ませてきた舌がこの酸っぱい味を前に興奮を抑えられなかった。

 

「……ありがとう。もうこんな味には、二度とありつけないと思っていた」

 

「どういたしまして」とニッコリした表情のハンナ。

 

 そんなハンナの事も、今とても眩しく見えていた。アウターリムも、助け合い自体はある。だがそれは大抵倒れられたら困るとか、貸しを作るため、利害の一致から来るものでしかない。このような無償の愛はありはしない。

 

「皆が皆、貴女の様に優しければいいのだけれどね……」

 

「そうかしら?」

 

「優しくない人間はプチトマトなんて無償であげたりしないわ」

 

「それは……まぁ……でも、私が人に優しくできてるとしたら、それは多分アドルフのおかげね」

 

「アドルフの?」

 

「ええ。あの子がいなかったら、農作物を育てることも出来なかったと思うわ」

 

 そう言いながらハンナは、5人が持ち帰った戦果、大小様々な16個のラプチャーコアをラウラから受け取った後、ある機械を慣れた手つきで操作し始めた。

 

 エリシオン・ハーパーにとって、言葉で表現するのが難しかった。何とも例えにくい形状をしているその機械は、ただ機械と表現するしかなかった。

 

「まずはここに流れる電気を遮断して……それから……」

 

 その機械についている透明な蓋の様なものを開けると、これまた大小様々な窪みがある。その中に一つだけラプチャーコアがはめ込まれていた。ハンナは開いている窪みにラプチャーコアを入れ始める。

 

「これは……もしかして発電機?」

 

「そう。あんまり詳しい事は分からないけど、ラプチャーコアの中にあるエネルギーを電気に変える……ってアドルフが言ってたわね」

 

「ラプチャーのコアから? ……アークの製品とは思えないわ。開発する意味がないもの」

 

「アドルフが作ったのよ。すごいでしょ?」

 

 耳を疑った。今この穏やかな表情をした少女は、アドルフが『作った』と言ったか。

 

「あの子は……アドルフは、エターナルライフの投与を受けた事が?」

 

「え? えっと……ごめんなさい。そのエターナルライフっていうのが何なのか分からないけど……アドルフは薬は使ってないと思うわよ? 見たこともないし」

 

「じゃあ……あの子は一体、何者なの? 子供とは思えない頭脳に見えるわ」

 

「ビックリするわよね。みーんなそれを聞くの。でもね、私にとっては、そこまで重要じゃないの」

 

「……」

 

「色んなものを作って、いっぱい儲けて、でもそれで豪遊したり威張り散らしたりとかはなかったわ。どころかニケ達の為にゲームなんか買ってあげたりしたわね。アドルフの事を優しいって言うとあの子は、働き手の人間の士気を保つのは長期的に大きなメリット~とかかっこつけちゃうけどね」

 

「それは……確かに優しいわね」

 

「でしょ? ……私が優しくなれてるとしたら、あの子が優しいから、写し鏡みたいにそうなったのかもしれないわね。実際、アドルフと時間を共にしてから性格が丸くなった子も多いわ。ラウラちゃん――ああ、あの銀髪の子ね。あの子なんて今はアドルフに懐いてるけど、出会ってから日がない時は凄くやんちゃで、アドルフの事を2回も殺しかけちゃったりもして……」

 

 殺しかけた。その上で仲間として受け入れたのか。エリシオン・ハーパーがその立場であれば流石に容赦なく始末する所だった。

 

「そうだ、私はハンナ。貴女の名前は?」

 

「……E・H。今はそう名乗ってるわ」

 

「うーん……じゃあいーちゃんって呼んでいい?」

 

「い、いーちゃん……? えっと、好きにすればいいんじゃないかしら……」

 

「ありがと。ねぇいーちゃん……出会って日が浅い人にこういう事を言うのもどうかって思うかもしれないけど……アドルフの事助けてあげられないかしら?」

 

「えっ?」

 

 些か格好の悪い話ではあったが、エリシオン・ハーパーはアドルフには助けられるつもりでいた。彼を助けられるとしたら、恩を売る事が出来るという打算もあって夢にもない話だったが、それと同時にエリシオン・ハーパー……というよりはアウトロー全体としてはアドルフが正体不明からくる不気味さが超人じみた偏見の様なものを持っていた。

 

 そんな彼を助けるという話に、一体何をされるのかとエリシオン・ハーパーは少し身構えた。

 

「あ、でも取引とか、そういう話じゃないの! ただ、ね……アドルフは、いつも追い詰められてるような顔をするの。私も皆も、頑張ってアドルフを支えてるけど……もっと、協力してくれる人が必要だと思うの」

 

 アドルフも、何かに追われているという事か。エリシオン・ハーパーの中でほんのちょっとずつだがアドルフに纏わりついていた黒いヴェールが外れていくように感じた。自分達と同じく何かに悩める人間なのかもしれない。

 

「……考えない事もない。でもそれは、彼の事を良く知ってからにしなければならないわ」

 

 

 

 


 

 

 

 

「すみません、E・Hさん。お待たせしました」

 

「構わないわ。少し……色々と衝撃的で、考える時間も欲しかったから丁度良かったわ」

 

「そう言っていただけると幸いです」

 

 そう言いながら地下農場を出て、また三つの扉がある場所まで戻る。そこでラボと書かれている扉の前で立つ。

 

 途中、エリシオン・ハーパーの頭の中に、地下農場や発電機の作成という常軌を逸した実績、出所の分からないニケ、情報の開示に非常に消極的なニケ達、その他諸々の情報を総合した結果、小さいながらも些か度し難い可能性に行き付いていた。

 

 頭の中で何度もあり得ないとしかしもし本当ならアドルフに関する最大の謎に説明がつくと何度も口論していた。ラボと書かれている扉にだけは鍵が備え付けられているあたり、自分に対して情報を開示しようとしているアドルフにとっても重要な物なのは間違いないだろう。

 

「E・Hさん……この先にある物は私達にとっても本当に大切な物です。これを貴女に開示しようと考えたのは、偏に貴女が貴女なりに命を尊び、人道に理解を示してくれる人間だと信じているからです。お互いの為にも、この先にある物は他言無用でお願いします」

 

 ガチャリ、と鍵が開き――その扉の先は、いかにもラボと呼ばれるべき機械の数々の部屋だった。

 

 これだけ見るとそれだけの部屋だった。だがこの部屋に入った瞬間からエリシオン・ハーパーの心臓の高鳴りが加速する。冷や汗も止まらない。

 

 この部屋に、とんでもない物がある。それだけは確かな確信を持っていた。

 

「……丁度、16人目が完成する予定だったんです」

 

「えっ?」

 

「良くも悪くも、3日後というのは絶妙なタイミングでしたね。こちらが、出所の分からないニケの正体です」

 

 この部屋の奥に更に鍵付きの扉がある。アドルフはその扉を開けて――

 

 

 

「………………そんな……まさか……」

 

 

 

 ――本当に。

 

 絶句せざるを得ない。目の前の光景を前に開いた口が塞がらず、当分の間は閉じることはないかもしれなかった。

 

 ここもまた機械の数々、そして培養槽が4つ並んでいる。その内3つは稼働していないようだったが、残り1つが問題だった。

 

 人……に酷似した何かが何本もののチューブが刺さっている状態で入っている。

 

 ここまで来たら、流石にこの小さな可能性を認めない訳にはいかなかった。道理でニケの出所が掴めない訳だった。道理で彼女達が情報の開示に難色を示す筈だった!

 

「…………ニケ……なの……?」

 

 されど現実感が沸かない。思考も纏まらない。今自分は薬物でも投与していて、幻覚を見ているのかとさえ思えてきていた。驚愕を前に頭がクラクラし、足も千鳥足寸前だった。

 

 対してアドルフは、エリシオン・ハーパーのそんな反応など知らぬとばかりに機械を操作していた。

 

「……これまた丁度いいですね。もう()()()()ようです」

 

 何が……と聞くまでもなくニケが入っていると思わしき培養槽に視線を向けた。

 

 見れば確かにそのニケはうっすら目を開けていた。それを確認したアドルフは培養槽から培養液を抜く。

 

 徐々に培養槽から液が無くなり、中のニケは重力に従って床に足を付けて、四足で這いずる。

 

 完全に液が無くなり次第培養槽が開くと、アドルフはすかさずニケをタオルで拭く。

 

「大丈夫ですか? 意識はハッキリしていますか? 痛み等はありませんか?」

 

「あ……え…………貴方は……それに此処は……?」

 

「……そうですね、今はゆっくり休みましょうか。その後ゆっくり話し合いましょう。リーゼロッテ、この人の面倒を任せても?」

 

「……まぁ、私が適任ね。……ロミー、見張ってて

 

 状況が分からず困惑するニケに対しても、リーゼロッテは慣れた手つきで落ち着かせながら部屋から出る。

 

「……さて、E・Hさん。見ての通りです。私は此処で、アウターリムでニケを作っていました」

 

「…………そう……ね。えっと……ごめんなさい。ほんの少し、ほんの少しでいいから、考える時間を頂戴。色々と、衝撃的過ぎて……」

 

 一体アドルフは何者なのか。アークに協力者がいたとしても到底なしえないだろう。

 

 エリシオン・ハーパーの記憶に、アドルフと同じようにアウターリムでニケを作ろうと試みた人間がいるにはいた。だが大抵協力者が足りず、物資も資金も足りず、知識も足りないという理由から三日坊主になるか有名無実化しているのが現状だった。

 

 成し遂げた? この10歳にも満たないような子供が?

 

「…………もう一旦、貴方が何者なのかは問わない事にしたわ。そこで聞かせて。貴方は……アウターリムでニケを作って、何をしようとしているの? お金稼ぎが目的なら、もっとマシな方法がある中で、何故貴方はニケの製造という行動に出たの?」

 

「……諸事情でそうせざるを得なかったという面もあったのですが、そうですね……E・Hさんは私の、アウターリムは不条理で溢れているという言葉に同意していただけたと記憶しています」

 

「え、ええ……」

 

「ニケを作ったのは、初めはそういう理由ではありませんでした。ですが……私はアウターリムで長く時を過ごす内に、決意を固めました」

 

 確かな闘志を、その眼に宿して口にした。

 

「私は……その不条理と戦いたい」

 

「! ……アークと、ではないという認識でいいのね?」

 

「はい。とは言え、私の目標は事の次第によってはアークと戦争になる可能性も孕んでいますが……」

 

「その目標とは……いや待って、貴方は自分達で人権を保障すればいいと言っていた……!」

 

「その第一段階として、私は企業を作ろうと考えています。それも唯の企業じゃない。中央政府すら動かせる程の莫大な利益を生み出し、独自の軍事力の保有すら許される三大企業と肩を並べる……『四大企業』とでも言うべき規模の企業を、ここアウターリムで作ります!」

 

 エリシオン・ハーパーの瞳孔が開く。アドルフの言葉から一瞬たりとも目を離せないでいた。

 

「インフラ整備、食品生産、独自に法の整備、そしてニケの製造。これらを企業の元行い、非市民達の人権を保障する。そして更に事業を拡大させ、アウターリム内で利益を循環させる。中央政府の目を掻い潜りながら企業を成長させ、中央政府にとって取り返しのつかない規模にまで成長させる事で、初めて中央政府を交渉のテーブルに引きずり込む事が出来る!」

 

「交渉……中央政府と融和を図るという事?」

 

「ベストですが、難しいでしょう。それが無理でも、アウターリムの自治と独立の正式な容認。これをなるべく我々が有利になるように交渉し、認めさせる。それでようやく人間同士での戦争は終止符を打ち、我々が勝利するんです!」

 

「っ……!」

 

「しかしそれを行うには、私に味方はあまりにも少ない。ダークヴェールなんて異名を付けられているぐらいですからね。だから私は、貴女達と話をする事にした。利益を上げる為の、利害の一致だけの関係を私は求めていない。苦しくても、それでもアウターリムの、アウトロー達の未来を諦められず、方法は兎も角、アウターリムをより良くしようという『信念』がある!」

 

 アドルフの小さな、しかし()()()見える手が前に差し出される。

 

「E・Hさん、どうすればいいのか分からず、テロに走らざるを得なかったと言うのであれば今すぐ止めて、どうかこの手を取ってください。私が貴女達に求めるものは、エンターヘヴンの解散、そして起業の支援です。私なら出来る。言ってくれれば何でも作れます。食べ物でも、建築技術でも、人権でも! 私は力が欲しい。人が欲しい。今のままでは到底成しえない。だから――

 

――協力しましょう。私達ならば希望を作れる」

 

 とんでもない人間に会ってしまったかもしれない。エリシオン・ハーパーは最早思考放棄に近い状態にあった。

 

「…………まず、エンターヘヴンの解散と起業の支援は、今の段階ではまだ無理だわ。貴方の言っている事は全て、段階を踏んで行われなければならない」

 

「……」

 

「でも、私個人としては、夢にもない話だと思ってる。だから……ここまで話して、私の信念を信じてくれた貴方への敬意に、私も一つ、貴方に情報を開示するわ」

 

「情報……ですか?」

 

「聞いて。私達は二週間ちょっと前に、中央政府も把握していない鉱脈を見つけたわ。それも有用な鉱石が多く、中でもガッデシアムが大量に採れる」

 

「ガッデシアム!?」

 

「ええ。ニケのボディを構成する上で欠かせない金属。アーク周辺ではもう取りつくされていると考えられていた金属が、まだあったの。私達もこの鉱脈の取り扱いに関して相当揉めてる。金に換えて軍資金にするか、この鉱脈を利用して中央政府と取引をするか。でも……ニケを作っている貴方なら、この鉱脈をよりよい形で使える。そう考えていいのね?」

 

「っ……はい! 規模にもよりますが、もしもその鉱脈を自由に使えるとしたら、独立の維持に必要な軍備に関しては大きく改善出来ます!」

 

「成程。今すぐという訳にはいかないけれど、決まりね」

 

 エリシオン・ハーパーは、差し出された手を取った。

 

「私は……いえ、私達は、貴方の様な人間をずっと待っていたのかもしれない」

 

 お互い固く手を握られる。四大企業の因子は、ここから始まった。




現在公開可能な情報

対ラプチャーコア電力変換発電機

地殻変動を利用した発電機では自分達の電力消費量を賄えなくなってくると悟った当時のアドルフが、ラプチャーコアに秘められているエネルギーを抽出して電力に変換する装置を開発。それがこの対ラプチャーコア電力変換発電機になる。

当時作られた物でも、当時アドルフ達が必要としていた電力をセルフレス級のコアで32時間賄う事が出来た。以後新しく発電機が開発されるまで、発電機としては主力として使われ続ける。

当時はサイズの問題からロード級、タイラント級のコアは使えなかったが、新しく改良された型はそれらのコアが使用可能となる。

アドルフは開発途中で、アークの動力の正体を確信する。
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